将棋 この大トン死がすごい! 谷川浩司vs高橋道雄 第13期棋王戦 その2

2018年07月29日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 前回(→こちら)の続き。

 第13期棋王戦5番勝負第2局で、谷川浩司九段が、高橋道雄棋王相手に勝利を目前にしている。

 ……と見えたのは大錯覚で、実は先手の谷川に勝ちがない局面になっているのだが、そのことに気づいていたのは、まだ誰もいなかった。

 

 


 

 

 この局面、先手玉に受けはないが、よく見ると後手玉に詰みがありそうだ。

 ▲33銀と打ちこんで、豊富な持ち駒があるから、あとは自然に王手、王手と追いかけていけば、なんとでもなりそうなのだ。

 だが、ここに錯覚があった。

 ▲33銀に△同金寄、▲同桂成

 

 

  


 
 そこで△同金と、ふつうに対応すれば▲52飛とおろして簡単だが(本譜もそこで高橋投了)、上の図から△同金と取らずに、ひょいと△13玉とかわすと、なんとこれが典型的な「王手なし」の形で詰まない

 


 

          ▲33同桂成に△13玉とかわす

 

 

 いかにも迫られている後手玉は、これが絶対に詰まない、当時なら「」、今なら「ゼット」と呼ばれる形になっているのだ。

 ▲31角は△同金なら▲23成桂と捨てて、▲24を打って迫れるが、△22合駒をされて、▲同角成△同金で次の手がない。

 

 
 

 ▲24を打ってこじあけようにも、すべて△同銀で、やはり王手がかからない。

 羽生善治や藤井聡太が頭をひねろうが、ソフトにかけようが、どうにも手のほどこしようがないのだ。

 今でいえば「銀冠の小部屋」に似た手筋で、アマ有段者でも指すだろうが、なぜか皆発見できなかった。

 このしのぎに、唯一気づいたのが、谷川浩司だった。

 ハッキリと負けの局面に一直線に突き進んでしまったのは、谷川もまたこの局面を「詰みあり」と確信していたから。

 ところが、▲33同桂成に高橋が、△同金とするところで考えていたとき、自らの致命的な見落としを発見したのだ。

 このときのことを谷川は、



 「本当はそこで投了しようかとも思ったんですが……」



 少し考えたあと(盤側は、簡単な詰みなのに、なぜすぐ指さないのかいぶかしんだそうだ)「をしのんで」詰ましたが、のちに聞いてファンはホッとしたのではあるまいか。

 ふつうなら、勝ちの場面で「投げようかと思った」と言われても、



 「またまた、気取っちゃって」

 「そんなこと言っても、絶対投げないっしょ。タイトル戦だし」



 なんて茶々を入れたくなるところだが、ことこれが谷川浩司の話となると、ちょっとばかりリアルなのだ。

 「格調が高い」というのも、ときに困りものなのである。

 ここが人同士の戦いのアヤ。

 高橋が△13玉に気づかなかったのは、谷川もまた気づいてないがゆえに「勝ちましたよ」といった雰囲気で指していたからだ、ということは想像に難くない。

 でなければ先手が、こんな一直線の負けになる順など、選ぶはずがないからだ。

 そして、もし谷川が局面の煮詰まる(高橋が投了のため気持ちをととのえる)、もっと前にミスに気づいていたら、高橋もそれを察して△13玉を発見できたことだろう。

 詰みやポカに気づいた瞬間、相手も以心伝心で気がつくというのは、高度な世界での「将棋あるある」なのだ。

 そこをウッカリという「天然」なところが、逆に相手に疑いを持たせなかった。

 谷川は「読めていなかった」からこそ勝てたわけで、そのことを「恥ずかしい」とうなだれたが、ただこれもまた実は谷川の「実力」でもある。

 かつて大山康晴名人は、こんな言葉を残した。

 

 「棋士に必要なのは信用です」



 ここでいう「信用」とは人間性ではなく棋力に対してのことで、



 「周囲に強いと認識されていたら、それだけで勝負に有利

 

 今でいえば「羽生ブランド」(どんな手でも「羽生が指したのだから、いい手にちがいない」と周囲に思わせること)のことだといえば、わかりやすいか。

 この一番でも、もし相手が周囲から「弱い」「たいしたことない」と思われていたら、高橋も

 

 「投了しなければ、いつか間違えるだろう」

 「詰ますつもりかもしれないけど、どうせ読み抜けがあるにちがいないから、ねばってやれ」



 と思うだろうから、そこでもう一度読み直し、△13玉を発見して勝っただろう。

 相手が谷川だったものだから、



 「この人が、こんな自信満々に踏みこんでくるのだから、きっと負けにちがいない



 そう思いこんでしまったところに敗因があった。

 それもこれも、「光速の寄せ」によって「信用」を積み上げてきた賜物であり「強い者」だけが得ることのできる勝ち方。

 その意味での、これは高橋のトン死ではなく、谷川の「実力」ということなのだ。

 このシリーズは3勝2敗で谷川が奪取するのだから、結果的に見ても大きな勝利だった。

 このころから谷川は安定感がグッと増した印象があり、名人復位、竜王戦で羽生に完勝、そして四冠王と、着々とその地位を固めていくこととなるのだ。

 
 (森内俊之編に続く→こちら

 

 

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将棋 この大トン死がすごい! 谷川浩司vs高橋道雄 第13期棋王戦

2018年07月28日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 人の指す将棋のおもしろさは「悪手」や「フルえ」にこそある。
 
 前回(→こちら)の羽生善治竜王に続き、今回はそのライバルである谷川浩司九段に登場していただこう。

 谷川といえば

 

 「前進流」 

 「光速の寄せ」

 

  を売り物にし、将棋の終盤のスピード感を変え、世界に変革をもたらした男。

 その圧倒的かつ、クリエイティブ終盤力は、まさに「通常の3倍」の速さで敵の肺腑をえぐり取る。

 よく西部劇のガンマンや、凄腕の剣豪をあつかった映画や小説に、



 「気がついたら撃たれていた(斬られていた)」



 という表現があるが、谷川の寄せはまさに、そういった「見えないところから飛んでくる」おそろしさがあるのだ。

 だが反面、そういった「美しい攻め」を旗印にするものは、ときにその美学に裏切られることもある。

 いわば、



 「1-0で勝つよりも、3-4で負ける方が美しい」



 と言い放った、「トータル・フットボール」のヨハンクライフとオランダサッカーのように、その理想に殉じてしまい、勝率の面などでをすることがあるのだ。

 そんな谷川のポカは、当然攻める手にあらわれやすく、一番わかりやすいのは、



 「寄せあり、と思って手堅く行けば安全勝ちのところ、あえて踏みこんだら、なんと寄らなかった」



 というものだろうが、ここではもう一歩踏みこんで、



 「詰みと思って踏みこんだら、全然詰まなくて、呆然としてたらなぜか詰んでしまって、勝ったんだけどもう全力で納得いってない谷川浩司」



 という場面を紹介したい。

 事件が起こったのは、1988年に行われた、第13期棋王戦5番勝負。

 高橋道雄棋王との対戦でのことだ。

 私が将棋ファンになったのは、ちょうど羽生さんが四段プロデビューしたころで(あらためて思うと、すごい前だな……)、当時のトップといえば谷川浩司だった。
 
 特に名人戦での中原誠との激闘の印象が強く、藤井聡太七段からファンになった人にとって、「名人」といえば佐藤天彦だろうが、子供のころの私は「中原名人」と「谷川名人」のひびきがしっくりきたものだ。

 そんな「羽生前夜」の将棋界を席巻していた谷川だが、それに対抗していたのに高橋道雄南芳一がいた。

 中でも高橋はその腰の重い棋風で、棋王戦では谷川を破り、王位二冠を獲得するなど、

 

 「一番強いのは高橋では」

 

 という声もあったものだ。

 このふたりは今でいえば、豊島棋聖vs菅井王位くらいのイメージであろうか。

 そんな、次世代を担う谷川と高橋が相対したのが、またも棋王戦の舞台。

 このころの谷川は、前年の棋王戦敗退で無冠になり、ややスランプ気味だったが、心境の変化などから復調の気配を見せる。

 まず、痛い目にあわされた高橋から王位を奪い返し(奪取のドラマチックな一局は→こちら)、このシリーズも優位に展開する。

 オープニングマッチを制し、続く第2局も右玉から後手の猛攻をしのいで、谷川が勝ちの局面をむかえた。

 

 



 
  ……と誰もが思った。

 踏みこんでいった谷川はもとより、観戦していた面々も、対戦相手の高橋すらも。

 だがこの谷川勝勢に見えた局面が、どうあがいても先手が負けになっていたという事実から、ドラマの幕が開くのだ。



 (続く→こちら

 

 

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将棋 この大トン死がすごい! 羽生善治の竜王戦 大逆転負け2題 

2018年07月23日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 人の指す将棋のおもしろさは「悪手」や「フルえ」にこそある。

 前回(→こちら)は、


 「将棋の悪手は、なぜおもしろいのか」


 という理由について語ったが、われわれ素人からすればのごとき存在であるプロ棋士すら、その魔物に魅入られてしまうこともある。

 これまで多くのポカ見落としによって、将棋界の歴史がぬりかえられてきたが、今回まず登場するのが羽生善治竜王

 将棋史上最高にして最強の絶対王者である羽生善治だが、過去に犯した「やらかし」といえばこれだろう。


 「竜王戦の1手トン死



 これは有名な局面なので、何度も雑誌などで取り上げられているが、時は2001年、第14期竜王戦挑戦者決定三番勝負。

 羽生善治四冠と対するのは、当時若手売り出し中だった木村一基五段

 事件が起こったのは、第1局でのことだった。

 木村得意の横歩取りから、難解なねじり合いに突入。

 木村も持ち味である、ねばり強い指しまわしで力を見せたが、最後はさすがの羽生が抜け出した。

 最終盤、形勢はハッキリ羽生勝ち

 木村は投げ場を求めて、いわゆる「思い出王手」をかけるが、これがいわゆる「最後のお願い」といった僥倖ねらいでなく、望みのまったくないタイプの形作りラッシュ。

 


 


 △56銀の王手に、王様が動けるマスは5つ

 そのうち4つはどう考えても詰まず、その場で投了しかないが羽生が選んだのは、まさかの残りひとつだった。

 

 

 

 

 

 ▲64玉

 一見これで入玉確定のようだが、なんとこれが上手の手から水が漏る大錯覚


 


 

 △65飛と尻から飛車を打って、まさかの大トン死

 △72歩△62桂△44の銀、そして△65の飛車が絶妙の配置になって、先手玉は作ったように捕まっている。

 まるで良質の詰将棋のような仕上がりで、そこがまたドラマチックでもある。

 将棋の世界では、たった1手で負けにしてしまう大悪手を指すことを、

 「一手ばったり

 というが、これはもう、これ以上の説明を要しない1手でバッタリと倒れている様である。

 目の前にいた木村からすると、



 「それでも平然としていてすごい」



 と感じたらしいが、現場にいた勝又清和六段によると(改行引用者)、

 


 ▲64玉が指された瞬間の控室の悲鳴はまだ覚えています。

 対局室に行くと、羽生は両手で顔をおおい、天を仰いでいました。

 目が血走り、顔面は真っ青。羽生のあんな姿を見たのは初めてです。


 

 ただ、幸いなことに竜王戦の挑決は3番勝負だったので、羽生は残りの2局に苦戦しながらも連勝し、ミスを帳消しにしたのはさすがだ。

 羽生からすれば、こんなことで竜王戦という大舞台をフイにするのは、あまりにもバカバカしかったのだろう。

 だからこそ逆にあとの2局を「全力で勝ちにいった」のかもしれない。

 実は羽生による「竜王戦のトン死」というのは、もうひとつあって、これはずいぶんさかのぼるけど1991年のこと。

 南芳一王将との相矢倉から激戦の末、終盤は羽生勝ちに。

 


 

 


 図は南が▲39飛と引いて、詰めろをかけたところ。

 持駒も豊富で手番をもらった後手に勝ちがありそうだが、実際ここで△76角と打てば先手玉は即詰みがあった。

 入玉を果たしたとはいえ、▲19香からの詰みも受けがむずかしいとあっては、とりあえずは王手でもしそうなところ。

 だが、羽生の選んだ指し手は△27桂だった。

 

 

 

 

 ▲19香を防ぎながらの飛車取りで、さあ、この場面をどう見るでしょう。

 羽生本人によると、

 


 「自信満々だった」


 

 という桂打ちだが……。

 そう、この△19の地点を受けたはずの△27桂は、なんと羽生の信じられない大ポカ

 この桂は、まったくディフェンスの役に立っていないどころか、▲29銀と打たれて、後手玉が詰んでいる。

 



 

 以下、△19玉しかなく、▲28銀引3手詰
 
 大熱戦の末、ようやくたどり着いたはずの勝利の橋を、自ら踏み抜いて奈落の底。

 たしかに入玉形は、駒がゴチャゴチャして錯覚しやすいが、それにしても天下の羽生がである。

 観戦記者の鈴木宏彦さんが聞いたところによると、投了後の羽生は、

 


 「あほらしくなって、すぐ寝ちゃいました」


 

 昔、羽生竜王はなにかの取材で、

 「印象に残る一局」

 というのに、この対南戦のトン死を選んでいたが、最近の加藤一二三九段との対談では、対木村戦のトン死をあげておられた。

 私レベルだと、この程度のトン死なんて、よくあることだけど(トホホ……)、やはりトッププロが、ここまでシンプルなウッカリをしてしまうのは、印象に残るのだろう。

 評価値「+9999」から「-9999」へ。

 まさに「将棋は逆転のゲーム」なのだ。


 (谷川浩司編に続く→こちら

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将棋は悪手こそがおもしろい! 「将棋は逆転のゲーム」「1手1000点」の本質について 

2018年07月20日 | 将棋・雑談
 「将棋は逆転のゲームですから」
 
 というのは、プロ棋士や将棋ファンの間で、よく使われる言葉である。
 
 最近ではコンピューターソフトの「評価値」から取って、
 
 「1手1000点
 
 なんて言葉もあるが(1手の悪手で、ポイント数で+1000点もある有利さが一瞬で消し飛ぶこと)、まさに将棋の難しさ、おそろしさ、そしておもしろさを端的に表現したものだといえよう。
 
 ニコ生abemaで観戦している人ならわかっていただけると思うけど、ギャラリーが最も盛り上がるのが、
 
 「プロの放つ絶妙手」
 
 としたら、同じくらいに跳ねるのが、
 
 「やらかし
 
 で評価値が激変するとき。
 
 それまで、あざやかな指しまわしを見せ、
 
 
 「プロはすごいな」
 
 「さすがタイトル保持者」
 
 「まさに盤石の態勢だ」
 
 
 視聴者を感嘆させたところ、ポンと指されたなにげない1手によって、すべてがくつがえる。
 
 +2000くらいあって「もうすぐ現代」「反省タイム中」なんてキャッキャ遊んでいた評価値が「13」くらいまですべり落ち
 
 
 「やってもうた!」
 
 「ソフト激おこ」
 
 「え? なにが起こったの?」
 
 
 なんてコメントや実況が翻弄され、解説者
 
 
 「一気に互角だけど、なにが悪いのか、さっぱりわかりません」
 
 
 なんて頭をかかえるのを見ると、うんうんとうなずきながら、モニターの前ですわりなおすことになる。
 
 ここからが本番ですわ、と。
 
 そう、一時期コンピューター将棋の台頭で
 
 
 「棋士の存在価値が失われるのでは」
 
 
 という危機感のようなものが浮上したが、私をふくめ、「そうでもないのでは?」と思った方も多いのではないか。
 
 というのも、人はスポーツや勝負事に、技術もさることながら、圧倒的に「物語性」を見ているから。
 
 いわば、野球ファンが技術的に優れたメジャーリーグよりも、高校野球を楽しむのは、その「物語」の部分において「甲子園」という存在が圧倒的だからだ。
 
 それと同じで、今のところ人の指す将棋は
 
 「歴史
 
 「指す人や解説者のキャラ
 
 などが、機械のそれを上回っているので、そこに関しては、まだ大丈夫なのではあるまいかと。
 
 もっとも、これはあくまで「今のところは」で、これからどうなるかはわかりませんが。
 
 それともうひとつが、なんといっても将棋のおもしろさは、「悪手」「フルえ」にこそあること。
 
 というと、将棋を知らない人は首をかしげるかもしれないけど、技術やメンタル的に「稚拙」とされ、コンピュータに対して人が圧倒的に「弱点」としてかかえる、
 
 
 「ウッカリ」
 
 「体力や集中力維持の難しさ」
 
 「精神的プレッシャーによる乱れ」
 
 
 実はこれこそが、ミスの少ないコンピュータよりも、人の将棋の方が圧倒的に「興行としてすぐれている」ところなのだ。
 
 ここに断言してもいい。将棋(というか囲碁でもチェスでもサッカーでテニスでも、あらゆる「ゲーム」)のもっともおもしろい場面というのは、「悪い手」が形成されてしまうメカニズムにあると。
 
 理屈では説明できない、とんでもない見落としや、
 
 
 「勝てる」
 
 「負けたくない」
 
 
 意識した瞬間から気持ちが乱れ、「フルえて」しまい、プロなら考えられないような日和った手を指してしまう。
 
 藤井聡太が語られるべきところは、
 
 
 「29連勝」
 
 「朝日杯決勝の▲44桂」
 
 「対石田戦の寄せ△77同飛成」
 
 
 などと並んで、あの叡王戦大逆転負けだろう。
 
 物議をかもした「待った」騒動も、ライバル増田康宏のすごみが、彼をあそこまで精神的に追いこんだゆえのこと。
 
 叡王戦第3局、評価値4000点という、ソフト換算だと圧倒的優位に見えながら、ついに勝ちを確信できず、千日手にするしかなかった金井恒太が頭をかかえる場面。
 
 棋聖戦第2局で、勝勢を築きながら、簡単な「トン必至」が見えず、急転直下の負けになった豊島将之の青白い顔。
 
 2013年、第61期王座戦の挑戦者決定戦のこと。
 
 中村太地は強敵である郷田真隆を相手に、最後簡単な詰みがあるのをわかっていながら、あえてそれをスルーして1手必至をかけた。

 

王座戦挑決の最終盤。
▲22金から入って、△同銀、▲同銀成、△13玉に、▲12成銀と捨てるのが筋で、△同香は▲22銀まで。
▲12成銀に△同玉には、▲13歩、△同玉、▲22銀、△12玉に、▲14香と捨てるのが好手。
△同金に▲13歩、△同金、▲21銀不成まで15手詰め。
それほど難しくはないというか、プロレベルなら一目だが、中村はわかっていながら▲22金、△同銀に、▲同銀不成として必至をかけて勝った。

 
 
 
 これはもちろん、本来なら「フルえた」手であり、賛否両論あるところだが、本人も語っている通り、
 
 
 「あえてこの手順を選んだ心境」
 
 
 ここにこそ、人の指す将棋の持つ、のようなものを感じ取れるともいえる。
 
 単にビビったという単純な見方だけではすまない、のちにタイトルホルダーになるはずの男が覚悟を決めて、将棋の神様の意向に反する「最善ではない手」を選んだ。
 
 将棋の手の中で詰みだけが、数学的に100%正しい「正義の手」だ。
 
 それを中村太地ほどの棋士が指さなかったところに、なにやら文学的な空気さえ感じられる。
 
 そう、将棋を見ていると、おのずと伝わってくるが、歴史に残る好手や絶妙手もさることながら、本当のその醍醐味は人の不完全なところにこそあるのだということ。
 
 そこで今回から将棋の裏の華ともいえる、悪手ポカに焦点を当てみたい。
 
 それも、ふだんなら絶対に「ウッカリ」などしそうにもない一流棋士の、それも大舞台での。
 
 ともすれば将棋界の歴史を変えた、さらには「1手1000点」どころか「1手9999点」な極上のものをだ。
 
 ということで、次回はまず、あの将棋界の代名詞ともいえるスーパースターの「やらかし」から見ていくことにしたい。
 
 
 (続く→こちら
 
 
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ゲルショッカーのブラック将軍も藤井猛九段のファンになったようです。

2018年07月12日 | 将棋・雑談

 有名人が、将棋ファンであることをアピールしてくれるのはうれしい。

 昨今、藤井聡太七段の活躍や、羽生善治永世七冠誕生。

 また、高見泰地叡王をはじめ佐々木勇気六段永瀬拓矢七段といった個性派棋士の人気もあいまって、すっかり将棋ブームも定着した感がある。

 となると、当然のこと各所で

 

 「将棋はじめました」

 「実はファンでした」

 

 という人も増えるもので、棋士とも親交の深い元サッカー選手の波戸康広さん。

 NHKでおなじみの乃木坂46伊藤かりんさん、SKE48鎌田菜月さんなどなど、今をときめくアイドルなんかもいたりして、棋界を盛り上げてくれている。


 そんな綺羅星のごとき面々の中、先日に紹介したの組織「ゲルショッカー」で活躍するブラック将軍までもが、将棋をはじめたというのだからすごいもの。



 「藤井猛九段のファンなので、好きな戦法は四間飛車。ニコ生やAbemaの解説が楽しい」



 という将軍は、《hiru-kamereon》というハンドルネームで、ネット将棋を楽しんでいるという。






 
 昼食休憩に出題される詰将棋を考えるブラック将軍



 その耽溺ぶりは「命令に従わないものは殺す」など、きびしく非情なことで有名な「ゲルショッカーの掟」を将棋用に書き換えるほどで、その内容というのが、



1.飛車をふらないものはころす。

2.急戦をしてこないものは、ころす。

3.筋ちがい角にまけるものは、ころす。

4.王手ほうちした玉を取るものは、ころす。

5.大山将棋をならべないものは、ころす。

6.ファミレスの鰻を出すものは、ころす。

7.芸術的な逆転まけを期待するものは、ころす。

8.「だいたい詰み」の手順をきくものはころす。

9.連れションをするものは、ころす。



 アメトーーク!の「将棋たのしい芸人」にも出演し、

 

 「我が偉大なる首領に栄光あれ!」

 

 と爆死するギャグで、10代女子への人気を不動のものにした将軍の最近の悩みは、



 「わが組織には《敵に負けたものは殺す》という掟があるため、一緒に将棋を楽しんでくれる人が少ない」



 というものらしく、



 「ゲルショッカーでは、死んでも再生怪人としてよみがえることも可能なので、気軽に挑戦してみてください」



 そう『将棋世界』誌の中で語っている。


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手品で最強ドイツ軍を倒せ! デヴィッド・フィッシャー『スエズ運河を消せ』 その2

2018年07月07日 | 

 前回(→こちら)につづいて、デヴィッド・フィッシャー『スエズ運河を消せ』を読む。

 第二次世界大戦中、ドイツ軍に苦戦を強いられる祖国を助けようと、戦場へ志願した手品師ジャスパー

 使い道の今ひとつ見えない彼は、仲間たちと

 

 「カモフラージュ実験分隊」

 

 を組織するわけだが、その最初の任務というのが実にイカしていて、



 「部族の長老と手品で対決してこい!」



 手品で対決!

 敵はすぐそこまでせまっているのに、そんなTVチャンピオンみたいなことをやっていていいのかとコケそうになるが、これが一応はまじめな任務。

 なんでも砂漠の地上戦を戦うのに、撤退路にいる部族の長老(「自称」超能力者)が、

 ワシ、イギリス人嫌いなんや。よそから来た植民地野郎のくせに、デカい顔しよってからに。

 ウチの土地に入ってきたら、背後から一発カマしたるさかい覚悟しさらせよ!



 そう息巻いているからだが、そこを

 

 「手品で黙らせてこい!」

 

 というのだから、なんとも安気な話である。

 もちろん、英軍は必死なのではあるが。

 そんなシビれるようなワザのかけあい(もちろん、長老の使う「超能力」はすべてただの手品です)を制したジャスパーは見事、軍に貢献できたわけだが、実際ここから彼の部隊は主にカモフラージュを武器として快進撃を続けることになる。

 その内容は実際に本を読んでもらうとして、ここは勝手にサブタイトルをつけて、さわりだけでも紹介するなら、


 第一話「結成! 我ら最強の文化系軍団!」

 第二話「炎のマジックバトル! 砂漠の仙人のフェイクを暴け!」

 第三話「がらくた集めて大戦争! 4万リットルのペンキを探せ!」

 第四話「天翔る鷲を欺け! アレクサンドリア移動作戦」

 第五話「必殺鏡地獄! なに? スエズ運河が消えただと!」

 第六話「最終決戦! ロンメルも脱帽、やったぜダンボール戦車部隊の大勝利!」



 なぜかノリが特撮モノみたいになってしまったが、そう、この『スエズ運河を消せ!』はまさにこういった

 「少年冒険モノの王道」



 な展開が、大いなる読みどころであるのだ。

 物語の構成を整理してみると、


 1 ユニークな設定

 2 キャラの立った仲間たちと、その魅力的なエピソード

 3 思いもかけない大活躍

 4 挫折とあやまち

 5 苦悩とそれを乗りきる転換点、仲間との使命の重要性、そして再出発

 6 最後の決戦大団円


 
 教科書通りというか、そのまま少年マンガやジュブナイル小説の創作指導に使えそうなチャート表になる。

 そら、おもろいはずですわ、と。

 笑いあり、浪花節あり、痛快な勝利と傷ついた男の回復の物語でもある。

 徹夜で一気は必至。私のような「ジャンプ黄金時代」世代はぜひ読むべし!
 



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手品で最強ドイツ軍を倒せ! デヴィッド・フィッシャー『スエズ運河を消せ』

2018年07月06日 | 

 デヴィッド・フィッシャー『スエズ運河を消せ』を読む。

 第二次大戦イギリス軍をあつかった物語だが、皆さまは戦争ものの主人公といえば、どんな人物を思い浮かべるであろうか。

 ナポレオンのような英雄や、諸葛孔明のような天才軍師

 『レッドバロン』のような手練れの戦闘機乗りか、はたまた『硫黄島からの手紙』のような名も無き一兵卒とか。

 いやいや、この『スエズ運河を消せ』に出てくるのは、そんな軍人らしい軍人ではありません。

 これがまあ突飛も突飛で、なぜにてこんなもんが戦場にと首をひねるものなのだ。

 その正体は、なんとマジシャン

 クルセイダー戦車でもなく、スピットファイアでもなく、手品師が、そのあざやかなトリックでドイツ軍と戦うのだというのだから、なんとも驚きだ。

 こっちでいえば、マリックさんが日本海海戦で、バルチック艦隊をやっつけるようなものであろうか。

 ものが手品だけに大ハッタリというかケレン味たっぷりというか、あらすじ読んだときにはどう考えても創作の小説かと思ったものだが、これがノンフィクションというのだから恐れ入るではないか。

 主人公ジャスパーマスケリンは、イギリスで活躍する人気奇術師

 ドイツとの戦争が勃発すると、愛国心あふれる彼は「祖国のために、いざ!」と志願するが、兵役検査で、



 「手品師なんかが、戦場でなにすんねん」



 けんもほろろに、かつ実にまっとうな理由で、あしらわれてしまう。

 だが、打倒ドイツに燃えるジャスパーはさすがは芸人というか、口八丁手八丁で、



 「いかにマジックが、戦場でのカモフラージュ工作に役立つか」



 を熱心にプレゼンしまくり、ついには日参が実って入隊OKの返事をもらうことに成功するのだ。

 とはいえ、さすが百戦錬磨のイギリス軍も、熱意だけはあふれまくる

 

 手品のうまいオッチャン」

 

 これをどうあつかっていいかわからず、暫定的に



 「イギリス陸軍工兵隊カモフラージュ訓練開発部隊」



 なるものに放りこむことにする。

 この部隊、名前は大層であるが、実際には使い道の見つからない兵士の吹きだまりであり、そのメンツというのも、


 婦人服デザイナー
 画家
 彫刻家
 動物の擬態専門家
 サーカス団のマネージャー
 動物学者
 美術マニア
 舞台装置家
 宗教美術の修復士
 ステンドグラス職人
 電気技術士
 シュールレアリズムの詩人(!)



 などなど、兵隊というよりも大阪芸術大学OBみたいなのがズラリ。

 この連中がまたそろいもそろってスットコで、敬礼行進もロクにできず、上官からも匙を投げられるフルメタルジャケット状態。

 英軍は各地で、最強ドイツ軍に押されまくって大苦戦中なのに、ここだけ町のお祭りみたいなノリで、なんだかものすごく楽しそうなのだった。

 その中から、厳選して選ばれたジャスパーの仲間というのが、


 心優しき大学教授で、つっこみ役のフランク

 若くて血気盛んな、実行部隊マイケル

 大工仕事ならまかせろの職人ネイルズ

 カモフラージュに必要な絵を描く、陽気なマンガビル

 妻との不仲に悩む影のある男フィリップ色彩のエキスパート。

 規則を重んじながらも、いつしか「はみ出し部隊」になじんでいく軍曹のジャック



 こうして並べると、思わず

 

 「我ら九人の戦鬼!」

 

 とでも大見得を切りたくなるが、こういった「スペシャリスト」たちの集団というのが、実に少年マンガ的に燃えるシチュエーションではある。

 これ名づけて「カモフラージュ実験分隊」。

 ところが人生はわからないもので、この戦場ではお荷物必至の

 「ボンクラ帝国軍」

 が目を見張る大活躍を見せ、北アフリカ戦線をはじめとするイギリス軍の勝利になくてはならない存在となるのだ。


 (続く→こちら






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「夏休みの掟を守らない者は殺す」とゲルショッカーのブラック将軍は言った

2018年07月02日 | オタク・サブカル
 そろそろ夏休みがやってくる。
 
 夏といえば開放的な季節だが、学校がないからといって、ハメをはずしすぎないようにしたいもの。
 
 こういうときはやはり、偉い人の提言を聞いて、心身ともにを入れなおすべし。
 
 ということで、ルールモラルを守り、充実した休暇を過ごすため今回おススメしたいのがこれ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「殺す」とキッパリ言い切る、きっぷの良さにシビれます。
 
 脚韻を踏んでいるせいか、リズミカルで妙に頭に残るところも標語としてスグレモノ。
 
 ちなみに、高校生時代の私なら9連敗でとんでもないことに。
 
 ちなみに、本物というか元ネタはこちら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「敵に負けたら」とかはともかく、遅刻死刑はきびしすぎるのでは。
 
 「延着証明書」を持っていてもダメなのだろうか。ケガ病気もダメとなると、マイケルダグラス
 
 
 「セックス依存症で入院」
 
 
 でも粛清されてしまうのか、気になるところではある。
 
 それでは皆様も、を守って楽しい夏を。
 
 
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