おそるべし伊藤匠四段の「天才」感 第4回アべマトーナメント雑感

2021年04月28日 | 将棋・雑談

 「【天才感】を出して切り抜けろ!」

 

 少し前当ページで、こういう提言をした(→その詳細はこちら)。

 昔、友人キシベ君からから受けた、

 

 「そんなに親しい人がいない飲み会やパーティーで、手持無沙汰になり、黙りこんでしまう」

 

 という相談に、

 

 「【天才感】を演出すれば、《そういう人なんだ》と放っておいてもらえるぞ」

 

 そうアドバイスした私。

 これはダウンタウンの松本人志さんや、南海キャンディーズの山里亮太さんも実践した演出術で、ハッタリを駆使して、

 

 「ヤツは一味違うぞ」

 

 そう思われれば、多少の無愛想や奇行には、目をつぶってもらえるのだ。たぶん。

 それには関心半分、あきれる半分で納得してくれた友だが、彼が言うには、


 
 「でも、天才のフリせえ言うたかて、だれを見本にしてええか、わからんよねえ」

 

 たしかに。

 勉強やスポーツなんかは、身近にいる上級者のマネもできるけど、ふつうはなかなか「天才」に会えへんもんなあ。

 なんて頭をかいていたのだが、そこから長き年月が経ち、たまたま、その模範解答が見つかった。

 

 将棋のプロ棋士、伊藤匠四段

 

 これが正解です。

 伊藤匠。

 昨年度、三段リーグを抜けてデビューを果たした若手棋士

 今をときめく藤井聡太二冠と同学年で、奨励会時代から将来を嘱望された、現役の最年少棋士

 先日、アべマトーナメントNHK杯戦で、大舞台に初お目見えとなり、将棋の内容や、その独特の雰囲気で、大いに話題を呼んだスター候補生なのだ。

 これがねえ、メチャクチャ雰囲気が出ている。

 あの髪型風貌立ち振る舞い。すべてが、

 

 「これで、天才でなきゃおかしいね」

 

 

 

 

 白衣でも着せれば医者の卵。

 紙と鉛筆を持たせれば、数学科の優秀な学生みたいだし、絵描きやピアニストとしても通じそう。

 作家でいえば、森見登美彦さんなんかも、ヌボーっとしているように見えて、独特の「実はすごい」感があるが、それにも近いかも。

 庵野秀明カントクとか、テニスのダスティンブラウンとか、お笑いからは空気階段の水川かたまりさん、とか。

 そういや見た目、東京03の豊本さんに似てるなあ。

 なんて話を、こないだ将棋ファンの友人としていると。

 

 「わかるよ。シャロン君が好きそうな感じやもん」

 

 あ、そう? なんで、わかるの?

 

 「だって、伊藤君って、なんか《名探偵》っぽいやん」

 

 あーそこかあ。

 なるほど、私はミスヲタだから、伊藤四段からそこはかとなく感じる「名探偵」感に惹かれるんだ。

 そう言われると、妙に納得してしまった。

 金田一耕助役とか、やってくれへんやろか。

 もうちょっとキザならエラリークイーンとか。オーギュストデュパンでもいいなあ。

 なんにしろ、伊藤四段の「天才感」は、パーティーなどで手持ち無沙汰になるわれわれには、大いに参考にしたいところ。

 もちろん、彼は「本物の天才」だから、中身などマネできるはずもないが、そこはハッタリでカバーするのだ。

 街のオシャレさんといえば、「ジョニーデップ率」が異様に高かったりするが、われわれはこっちだな。

 あと、伊藤四段が活躍して話題を呼んだアべマトーナメントだが、そこにもうひとりの【正解】もいた。

 それこそが、船江恒平六段

 船江六段は明るいキャラクターで、楽しい関西弁を駆使し、どちらかといえばクールな稲葉陽八段や、久保利明九段を盛り上げる役割だった。

 どっこい、その一見して「三枚目」なキャラはフェイクであり、一皮むけば必殺の急戦矢倉で、敵のスーパーエースである藤井聡太二冠を破るという大殊勲。

 『第三の男』が、実は一番危険な刺客だった。

 なんてカッコええんや!

 マンガでも、よくあるでしょう。ひょうひょうとした、ゆかいなオジサンが、実はスゴ腕の使い手だった、みたいな。

 寒山拾得か! カンフー映画の「老師」とか、あこがれだよねえ。

 ただ、ひとつこの場合問題は、

 

 「結果を出さないといけない」


 
 というハードルがあること。

 それも「藤井聡太を倒す」という、とんでもない高さのそれだ。

 さすがに、そこは素人には無理なわけで、その意味では恒平も、まだまだわかってないな、というところであろうか(←どういう視点の意見なのか)。

 とまあ、長々と書いてきたが、なにが言いたいのかと問うならば、パーティーなどで気まずくなる人は、

 

 「名探偵のような、雰囲気とハッタリでカバーしろ」

 

 それともうひとつ、伊藤四段はきっと藤井聡太二冠に負けないスターになるから、みんな、アべマトーナメント見ようぜ!

 藤井聡太や伊藤匠だけではない、今大会も、まだまだ魅力的な若手棋士が爆発してくれるはずだから、もう断然目が離せないわけで、楽しみはつきない。

 だからオレ、団体戦はおもしろいって、昔からゆーてたやん!

 

 

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将棋 ポカやうっかりのメカニズム 羽生善治vs森下卓 1999年 第48期王将戦 第1局

2021年04月25日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 「ポカに理由はない」

 というのは将棋を見ていて、ときおり聞く言葉である。

 前回は「スーパーあつし君」こと宮田敦史七段の、驚異的な終盤術を紹介したが(→こちら)、今回はタイトルホルダーが見せたミスのお話。

 将棋というのは不思議なもので、われわれからすれば神のごとき存在であるトッププロすら、ときに信じられないウッカリが飛び出すことがある。

 そういうのを見ると、われわれ野次馬は、

 

 「不調なのかな?」

 「疲れてるんだろうな」

 「私生活に悩みがあるとか」

 

 なんて、ワチャワチャ推測してしまうが、当の本人や他の棋士の話などを聞くと、特にそういうことでもなく、やらかしたほうも、よくわかってないことも多いらしい。

 たしかに、以前あった菅井竜也八段の「角のワープ」など、理屈でははかれないウッカリ。

 

2018年の第77期B級1組順位戦。
橋本崇載八段と菅井竜也七段一戦だが、ここで先手の次の手が▲46角(!)。
もちろん、△68のと金がいるため反則なのだが、なんと橋本はこれに対して△55銀(!)。

 菅井のウッカリもすごいが、橋本も「いい手だな」と感じただけで気づかなかったというから(記録係が指摘したらしい)、その意味でも信じられないエアポケットである。

 

 ふつうに考えれば財布を落とそうが、恋人に捨てられようが、明日地球が終わろうが。

 どれほど動揺しようと、あんな手はありえないわけで、まあミスに理由なんてないことはよくわかる事例といえる。

 そこで今回は、そういった「たぶん理由なんてない」ウッカリについて。

 

 舞台は1999年、第48期王将戦

 羽生善治王将に、森下卓八段が挑戦したシリーズ。

 事件が起こったのは、第1局の序盤だった。

 

 

 先手の羽生が、▲37桂と跳ねたところ。

 相掛かりから、羽生が早々に横歩を取る積極策を見せ、高飛車にかまえる力戦形に。

 まだ駒組のなんてことない局面に見えるが、実はすでに羽生はやらかしている。

 ここからわずか3手で、ほとんど将棋は終わりなのだ。

 

 

 

 

 

 △88角成、▲同銀、△66歩で、升田幸三風に言えば「オワ」。

 角を換えて歩を突いただけで、なんとこれにて試合終了

 ▲同歩はもちろん、△34角飛車金両取りだ。

 かといって、放置して△67歩成と取られるのも、中住まいの急所中の急所を食い破られては、とても指す気にならない。

 結局、▲同歩と取るしかないが、やはり△34角が激痛。

 

 

 

 タダではないとはいえ、こんな形で飛車をめしあげられては、かなり苦しい。

 実際の形勢はともかく、気分的にはすでに先手が勝てないところだ。

 以下20手ほど指して、羽生は投げた

 不利とはいえ、ずいぶんとアッサリしたもので、△88角成に変な形だが▲同金と取れば、一応すぐには終わらなかった。
 
 また、ねばるなら、△66歩には▲同歩の代わりに、まだしも▲29飛だろう。
 
 しくじったとはいえ、これでまだ終わるまで時間がかかりそうに見えるが、あまりのバカバカしい見落としに、拍子抜けしてしまったのだろうか。

 なんにしろこの羽生のポカは、これはもう、どうにも理屈のつけようもないものであって、まさに「理由などない」の最たるではあるまいか。

 タイトル戦の初戦を、それも先手番をこんな形で落としてしまっては、さすがの羽生も苦戦をまぬがれないと思われたが、なんとこの後は、あぶなげなく4連勝して防衛

 この勝ちっぷりからして、羽生になにか原因があったとも考えにくい。

 やはりポカというのは理由がなくて、見ている方は首をひねるしかないのであった。

 

 (郷田真隆の大トン死編に続く→こちら

  

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サン・ジョルディさん、あなたに神のお恵みを

2021年04月22日 | 

 明日はサン・ジョルディの日なので、おめでとう。

 と言ったところで、地球人のほとんどが

 「はあ?」

 であろうから、ここに説明すると、明日4月23日はスペインのカタルーニャ地方で

 「サン・ジョルディの日」

 といい、大事な人に、あるプレゼントをあげる日なのである。

 お正月にはお年玉、バレンタインにはチョコレートのように、記念日といえばプレゼントがつきもの。

 では、このサン・ジョルディの日に、なにをあげればいいのかと問うならば、これが本なのである。

 本を贈る日。

 私のような、部屋の紙含有率が異様に高い読書野郎からすると、なんともありがたい日。

 同時に、だれかにおもしろい物語を教えてあげられるのも、文化系人間の大きなよろこびともいえる。

 そう考えると、なかなかステキな気もするが、問題なのは、このサン・ジョルディの日の知名度。

 お盆やクリスマスといった、一般になじみのあるイベントと比べると、どうにもインパクトが弱いのである。

 いや、弱いなんてもんじゃない。世間ではほとんどというか、まったく知られていない。

 ものの本には、

 「出版業界が広めようと努力しているが、いまひとつ成果があがらない」

 なんて書かれていたが、まったくその通り。

 あの日本人には、まったくなじみがないハロウィンですら、もはや原型をとどめていないとはいえ、今ではすっかり定着してしまった。

 なのに、サン・ジョルディの日ときたらサッパリ。

 まさに、

 【「サン・ジョルディの日」街頭アンケート採ったら、知名度ゼロを叩き出す説】

 とかで、ネタにされそうなほどではないか。

 まあ、それはしょうがないかなあとは思う。

 本を贈るというのは、なんとなく地味だし、どこかキザったらしいところがある。

 それに、ある程度好みが読めて、ダメならダメで横流しとか処理のしようのあるチョコなんかと違って、本は合わないものをもらったら目も当てられない。

 読むのに時間はかかるし、意外と捨てにくいし、置いておくとかさばる。

 つまりは、思っている以上に、贈るのにむずかしいシロモノなのだ。

 私も友人に「これ、めっちゃおもろいぞ」と中谷彰宏さんの

 『いい女だからワルを愛する』

 とか渡されて、「どないせえっちゅうねん」といいたくなったことがあった。

 自分自身でも10代のころ、好きだった女の子の誕生日に、文庫本をプレゼントして、困惑されたことがあったものだ。

 バースデー・プレゼントに本。

 もうこの時点で

「おまえ、ダメだよ」

 という話だが、そのとき渡した2冊が、ハヤカワSF文庫というのがまたアレである。

 ちなみに、タイトルはハインラインの『夏への扉』と、フレドリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』。

 恋した女の子へのプレゼントで、『火星人ゴーホーム』を選ぶ私のセンスは実にイカしていた。

 今考えると、『夏への扉』も、かなり問題の多い内容だしなあ。大反省だよ。

 そんなスットコプレーなのに、きっちりとプレゼント包装までして、相手に渡した私の若さと勢いを見よ。

 こういうのを、日本語では簡潔に「蛮勇」といいます。人のこと、言われへんなあ。

 受け取ったときの、女の子の困ったような表情は、今でも忘れられません。

 まあ、私のマヌケは別しても、

 「大切な人に本を贈る」

 というイベントは、考えてみれば、なんだか美しい気がしないでもない。

 それこそ、アメリカあたりの、気の利いた短編小説の1シーンみたいではないか。

 せっかくの絵になるイベントなので、ぜひとも日本でも定着してほしいのがサン・ジョルディの日。

 微力ながら、ここに宣伝しておきたいが、今だと電子書籍になるやもしれない。

 なら、amazonのギフト券とか、贈ることになるのか。

 それは、なんだか興ざめかもなあ。うれしいけどね。

 

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「スーパーあつし君」の詰将棋と終盤 宮田敦史vs北島忠雄 2006年 第64期C級1組順位戦 その2

2021年04月19日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)の続き。

 2006年の、第64期C級1組順位戦

 北島忠雄六段宮田敦史五段の一戦は、終盤の千日手模様を宮田が鋭手で打開し、超難解なバトルが続いている。

 

 

 

 

 ▲89桂なら千日手だが、ここで▲73金が控室の検討陣も悲鳴をあげた、すごい手で、△同玉、▲85桂打△同飛▲同歩

 前回書いたように、ここで△77桂成▲同飛に、△同角成は、最後に手順に開けておいた▲86の地点に逃げこんで詰まない。

 北島は△77桂成、▲同飛に、△67金打とへばりついていく。

 ここで▲65桂などと反撃したいが、後手玉は上部が厚く、なかなか詰ますのは大変。

 そこで、一回▲69桂と受ける。

 

 

 これがまた、あぶないようながら最善の受けで、先手玉に詰みはない。

 今度、後手玉は上部に逃げ出したとき、桂馬△57の地点を押さえられているため、ここでゆるむと一気に寄せられてしまうかもしれない。

 つまり、▲69桂はただ受けただけのように見えて、なんと攻防の一手だったのだ!

 かといって、△77金飛車を取っても、▲同桂がやはり、を渡しながら△65の地点を押さえられることになり、自分の首を絞めるだけ。

 △58飛のような王手には、▲78銀打と合駒するくらいで、なんでもない。

 必死の北島は△78金打と、こちらから強引に王手する。

 これがまた、メチャクチャに危険ラッシュで、▲同銀は、△同金、▲同玉、△77角成

 そこで▲同玉△67飛▲86玉で、▲69がいるから、△77銀が打てず不詰。

 

 △77同角成に▲同桂も、△86桂と打って、▲69玉と▲87玉は詰むから、▲88玉とよろける。

 △78飛には、▲87玉、△98銀、▲同香、△95桂、▲同歩、△98飛成、▲86玉、△95竜、▲87玉、△86香、▲78玉、△98竜▲69玉で、ギリギリ詰まない。

 

 

 とはいえ、とんでもなく怖い形で、なにか読み抜けがあったらお陀仏だ。

 そこで宮田は▲97玉とかわす。

 これなら、△88の地点にを打たせなければ絶対に詰まない

 

 「ななめゼット」

 

 という形で、「銀冠の小部屋」が最大限に働いた形だ。

 今度こそ決まったようだが、北島は△77角成と取る。

 ここを金で取らなかったのは、を除去して△55の地点を空け、あわよくばそこから、ヌルヌルと逃げだそうというわけだ。

 ▲同桂に、△同金引

 

 

 

 

 秒読みでこんなことをされては、またもあわてまくるところで、事実、ここで上手の手から水が漏れたようなのだ。

 本譜は△同金引に、▲86角と打つ。

 

 

 

 これがまた、いかにも妙手っぽい手で、△87金、▲同玉、△78銀、▲98玉に△86桂と打つ筋を消しながら、△64の逃げ道を封鎖する、見事な、

 

 「詰めろのがれの詰めろ」

 

 になっているのだ。

 この超難解な終盤でに追われながら、よくもまあ、こんな美技を次々と繰り出せるものだが、実はこれが宮田のミスだったようだから、わからないもの。

 ここでは▲83飛と打って、△同玉は▲84銀から。

 △64玉には、▲82角からピッタリ詰んでいたのだ

 さほどむずかしい手順でもなく、落ち着いて考えれば、アマ初段クラスでも見つけられそう。

 激ムズなやりとりが長く続いたせいか、このシンプルな詰み筋が、意外な盲点になったか。

 一方の北島のしぶとさも、さるもので、必殺の角打ちに△87金と取って、▲同玉に、△77飛とせまる。

 ▲同角と手順に詰めろをほどいて、△同金

 そこで▲同玉△66角で詰みだから、▲86玉と、やはりこの生命線となったスペースに逃げこむ。 

 

 

 

 さあ、ここである。

 首の皮一枚で助かった北島だが、ここでどう指すか、また難解すぎる局面。

 攻めるなら一目は△66金だが、▲82角と打って、△同玉に▲83飛から物量にモノを言わせて詰まされる。

 また、△64角の攻防手も、▲75桂とか、いろいろ切り返しがありそうとか、もうわけがわからない。

 北島は一縷の望みをたくして、△64玉から大脱走を試みるが、すかさず▲82角の王手。

 これには△73桂とでも合駒すれば、まだ激戦は続いていたが(もう勘弁してぇ!)、北島はここで力尽き、△65玉と逃げてしまう。

 

 

 

 ここで宮田の目が、キラリと光った。

 そう、今度こそ、後手玉の詰みが見えたのだ。

 まず、▲75金から入る。

 △同歩と取るが、そこで▲74銀が、詰将棋の名手らしい、カッコイイ手。

 

 

 

 △同銀▲64飛から。

 △同玉▲73飛から簡単だから、△66玉しかないが、▲65飛と打って、△57玉に▲59飛で詰み。

 

 


 最後は飛車の形がきれいで、カオスな終盤戦の締めくくりがこうなるのが、また将棋の不思議なところ。

 以下、△58金とでもするが、▲49桂、△48玉に、▲37角成がピッタリ。

 

 

 

 これまた、馬の利きで▲59飛車取れない形が、詰将棋っぽくて美しい。

 ここがおもしろいところで、さっきの簡単な詰みは逃しながら、この妙手が必要となる長手数の問題は、あざやかに解き切ってしまう。

 変な言い方だが、その矛盾が一回転して、逆にすごみを感じさせる。

 水面下で、信じられないくらい深く読んでるからこその、ウッカリなのだろうから。

 この終盤の戦いぶりは、▲73金から、その読みと踏みこみの良さにおいて、

 「宮田敦史おそるべし

 との評価を、確固たるものにした。

 これほどの男が、いまだタイトル戦にも出られず、Cクラスにいるのは、体調をくずしてしまった時期があったから。

 あの羽生善治九段も、インタビューで、

 

 「体が万全の状態なら、もっと上に行ける棋士のはず」

 

 といった内容のことをおっしゃって、太鼓判を押したほどなのだ。

 この超絶技巧。久しぶりに、思い出させていただきました。

 「スーパーあつし君」。まだまだ健在やないですか。

 

 (羽生が王将戦で見せた大ポカ編に続く→こちら

 

  

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「スーパーあつし君」の詰将棋と終盤 宮田敦史vs北島忠雄 2006年 第64期C級1組順位戦

2021年04月18日 | 将棋・名局

 「宮田敦史は、やっぱりモノがちがうな」

 モニターの前で、思わずうなったのは、あるYouTubeの動画見たときのことだった。

 前回はアベマトーナメント出場決定をお祝いして、藤森哲也五段の「攻めっ気120%」の将棋を見ていただいたが(→こちら)、今回はある棋士の驚異的な終盤術を。

 

 ことの発端は家でゴロゴロしながら、香川愛生女流四段のチャンネルを見ていたときのこと。

 ふだんやっている将棋ウォーズ実況と違って、渡辺和史四段と、谷合廣紀四段がゲストに登場していた回だ(→こちら)。

 なんでも2人は香川さんとおさななじみだそうで、トークに花が咲いたが、そこでもう一つ企画として、こういうものもやっていた。

 「フラッシュ詰将棋

 一瞬だけ画面に映った問題を暗記して、それを早解きするというものだ。

 まず、1秒で図面がおぼえられるというのがすごいが、それを暗算で即座に解けるのが、またワザである。

 詰将棋を「鑑賞」するのは好きだが(すぐれた詰将棋には「芸術性」というのが存在するのです)解くのは好きでない自分は、もうこれだけで圧倒される。

 ところが、世の中には上がいるもので、

 「3問同時に出題されて解けるのか」

 というチャレンジには、さすがの若手プロ3人も苦戦し(その模様は→こちら)、そこで思わずこぼれたのが、

 

 「宮田先生はすごかった」

 

 宮田先生って、宮田敦史七段か。そういや詰将棋といえば、この人だよなー。

 なんて、おさまってたところに、そこでガバッとベッドに起き上がる。 

 え? てことは、敦史君は、これをやったってこと?

 マジかぁ?

 その内容は、こちらから確認していただきたいが、これがホンマにマジでした。

 解いちゃうんだよ、この人は。

 その様は一言でいえば、

 「アンタ、人間じゃない!」(なんか誤解されそうな言い回しだな)

 これには、深く、ふかーく、うなずかされたもの。

 しばらく聞かなかなかったが、これこそが、

 「スーパーあつし君

 との異名を取った天才の驚異だ。

 藤井聡太二冠が出てくるまで、「詰将棋選手権」といえば、この人のものだったが、その力は、今でもまったくおとろえていない。

 すごすぎですわ。マジで腰が抜けた。

 ということで今回は、そんな宮田敦史の超絶的な終盤戦をご覧いただこう。

 


 2006年の第64期C級1組順位戦

 宮田敦史五段と、北島忠雄六段の一戦。

 後手の北島が、当時大流行していた「一手損角換わり」から右玉に組むと、宮田は銀冠にかまえる。

 むかえた、この局面。

 

  後手の△65桂は、次に△77桂成からの詰めろで、先手はなにか受けなければならない。

 宮田は▲89桂と打つ。△77桂成に、▲同桂。

 北島はもう一回、△65桂のおかわり。宮田は再度、▲89桂。

 △77桂成、▲同桂に、みたびの△65桂。

 同一局面がグルグルと回っているが、これで次に宮田が▲89桂と打てば、もうループは止まらず、千日手になったはず。

 北島はそのつもりであり、局面の切迫度と時間に追われていることを考えれば、ここは「もう一局」が無難であろう。

 だが、信じられないことに宮田は、ここから、すさまじい打開術を披露するのだ。

 

 

 

 

 

 

 ▲73金と打つのが、控室の検討陣もどよめいた一撃。

 金のタダ捨てだが、△同角は勇躍▲65桂と取って、△55角▲77桂と受けておく。

 

 

 これで先手玉は詰まず、後手玉は▲65桂馬の存在感が絶大で受けがないから、宮田勝ち。

 そこで北島は△同玉と取るが、▲85桂打の継ぎ桂。

 

 

 

 △62玉▲73角から詰み。

 △72玉は、▲73銀、△同角、▲同桂成、△同玉に▲65桂と取るのがピッタリで、先手勝ち。

 △83玉が一番ねばれるが、▲73金とか、▲84銀、△同玉、▲62角みたいな形があぶなすぎて、とても指しきれない。

 そこで▲85桂打には△同飛と取るが、▲同歩と取り返しておく。

 先手玉はメチャクチャにあぶないが、△77桂成、▲同飛、△同角成、▲同玉、△67飛のような手には、▲86玉(!)

 

 

 手順にドアを開けておいた屋根裏に逃げ出して、後手にななめ駒がないから、きわどく詰みはない。

 この蜘蛛の糸をたよりに、千日手を打開したというのだから、宮田の読みと踏みこみがすばらしい。

 むずかしい手順だが、これこそが将棋の終盤の醍醐味と、宮田敦史はうったえかけてくるのだ。

 

 (続く→こちら

 

 

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「天才感」(ハッタリ)で、気まずい会やパーティーを切り抜ける!

2021年04月15日 | 若気の至り

 「【天才感】を出して切り抜けろ!」

 

 というのが、ヤング諸君に伝えたいアドバイスである。

 まだ20代のころだったか、友人キシベ君から相談を受けたことがあった。

 友が言うには、自分はそもそも、そんなに愛想のいいタイプではない。

 まあ、友達や彼女は、それをわかってくれてるから、それはいいんだけど、困るのはパブリックな場。

 仕事や学校で、食事会や飲み会、パーティーみたいなものにも出ないといけないこともある。

 そういうところで身の置きようもなく、だれとしゃべっていいかわからないし、かといってボーっとしてると、

 

 「愛想がない」

 

 ムッとされたり、

 

 「退屈してるのでは」

 

 気を使われたりして、それが困りものだと。

 コミュ障というほどではないが、そういう場でのソツない会話や対応がむずかしく、手持無沙汰な空気を出しているのではと、気になって仕方がない、と。

 うーん、これは不肖この私も、同じようなところがあって、共感できる。

 基本おしゃべりのくせに、人や場所の距離感が微妙なところだと、どうふるまっていいのか、サッパリわからなくなるのだ。

 冠婚葬祭とか、町内会の会合とか、あまり知らない親戚の集まりとか諸々。

 これに関しては、

 

 「がんばって、明るいキャラを演出してみる」

 「ビジネスライクな、大人の対応を心掛ける」

 

 などなど、試行錯誤した上に出した結論のひとつが、冒頭のそれだ。

 

 「天才感を出す」

 

 結局のところ、人には得意不得意というものがあり、無理してキャラ変しても不自然になるし、ストレスもかかる。

 なら、

 

 「黙っていても、周囲がそれを認めてくれるキャラ」

 

 これで行けば、いいのではないか。逆転の発想である。

 そのひとつが「天才キャラ」であり、こういう一筋縄ではいかない男が、沈黙にふけっていても、だれもとがめないどころか、

 

 「やはり、雰囲気があるな」

 「きっと、なにかすごいことを考えているに違いない」

 

 勝手に想像してもらえるわけだ。

 実際のところ、そういうときに考えていることは、

 

 「はー、早く家に帰って、『じゃりン子チエ』の再放送見たいなあ」

 

 とかなんだけど(最近、朝の楽しみなのです)、そこは全身でハッタリを駆使し、

 

 「あいつは、ちょっと人と違うぞ」

 

 というイメージを、それをなるたけネガティブではないそれを、周囲にそれとなくアピールするのだ。

 成功例のひとつは、昔アルバイト先で、社員さんたちが海外のカジノに遊びに行く話をしていたとき。

 そこで、「どうせやるなら、勝ちたいなあ」とおっしゃるので、

 

 「なら、確率的には、ブラックジャックがいいらしいですよ」

 

 たまたま読んだ谷岡一郎先生など、「ギャンブルと確率」みたいな親書を参考に、

 

 「以外と悪くないのはパチンコ」

 「本当に勝ちたければ、長期戦より一発勝負」

 

 など、あれこれ(テキトーに)語ってみると、「へー」と感心され、それ以降、

 

 「あいつは頭がキレる男だ」

 

 というあつかいになり、これには大いに助かったもの。

 なんか変なこととか言っても、


 
 「オレたちとは、ちょっと違う角度からの意見なんだろうな」

 

 なんて、フォローしてもらえたわけなのだ。

 また、これもよく使ったのが、人がいるのに気づかないふりをして、難解な本に読みふける演技をする。

 デカルトカントの哲学書や、「フェルマーの定理」「オイラーの等式」のような数学の本もオススメ。

 もちろん、意味など一滴も理解できないが、

 

 「そんなん読んで、わかんの? よかったら、内容教えてよ」

 

 なんて質問には、


 
 「正直よくわかりません。でも、随所に刺激はもらえて、よりもっと、学びたいという熱が高まっていくんです」

 

 みたいな、これまた口から出まかせを言っておけば、

 

 「若いのに、たいした男じゃないか」

 

 これはやりすぎると、あざとくなるが、うまく決まれば一目置かれたりもするし、現にこれで仕事を取ったこともあるから、結構バカにできない。

 あと、旅行好きをアピールしたら、

 

 「若いころから世界に目を向けるなど、キミには期待できそうだ」

 

 なんて、ただの楽しい観光旅行なのに、妙に熱く語られたり、この

 

 「ちょっと違うかも感」

 

 これこそが、生命線になり、その後は楽しく《無愛想でも、それなりにゆるされる》ロードを、エンジョイしたのだった。

 というと、なんだそれは、ただのホラではないかと、あきれる向きもあるかもしれないが、ハマればハマるのは、経験則から言っても多少は保証できる。

 マジメな人ほど、いい方に取ってくれる傾向が、あるのはたしかなので、そこを「ねらい撃ち」するのが、いいかもしれない。

 実際、似たようなことを考える人というのはいるもので、ダウンタウンの松本人志さんは、ラジオの「ヤングタウン木曜日」で、

 

 「今度、入学することになった高校が不良ばかりで、いじめられないか心配です。どうやって身を守ればいいですか?」

 

 というハガキに、

 

 「【ヤバい奴】という空気感を出せ。どこを見ているかわからないうえに、会話が成立しないとか、狂気を演出しろ」

 

 また、南海キャンディーズの山里亮太さんは、モテるためのメソッドとして、

 

 「カバンの中に、さりげなく英字新聞を忍ばせておく」

 

 言っていることは、私と同じなわけで、コミュニケーションや自己プロデュースのプロフェッショナルたる芸能人が実践しているのだから、これは伊達や酔狂ではないのである。

 なんてことを伝えてみると、キシベ君は、

 

 「なるほどねえ。いろいろ考えるもんやなあ」

 

 「いろいろ」の後に続くのであろう「阿呆なことを」という言葉を、飲みこんで笑ってくれたが、

 

 「でもそれは、うまくいけばええやろうけど、失敗したら目も当てられんな」

 

 さすが友は、本質を一言で、つらぬいてくる。

 これはまったくその通りで、この「アマデウス作戦」は、成功すれば実りも大きいが、スベッた場合に待っているのは、

 

 「中2病」

 

 というワードの花吹雪である。

 そりゃもう、冷静に考えれば、どこからどう見ても「イタい」のは間違いないわけで、相当にリスキーであるのだ。

 なのでこれは、相当に演技力の自信のある人や、私のような口から先に生まれてきたようなホラ吹き以外には、すすめられないかもしれない。

 諸君の健闘を祈る。

 

 

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将棋放浪記と攻めっ気120% 藤森哲也vs高野智史 2017年 第89期棋聖戦

2021年04月12日 | 将棋・名局

 藤森哲也五段が、アべマトーナメントへの出場権を獲得した。

 先日放送された、第4回アべマトーナメントの出場枠を決めるエントリートーナメントは、関西ブロックから小林裕士七段が勝ち抜き。

 2枠ある関東ブロックからは、まず梶浦宏孝六段

 そしてもうひとり、藤森哲也五段が予選を勝ち抜いて、この3人が見事、最後の1チームとして本戦出場を決めたのであった。

 中でも注目なのが、藤森五段の戦いぶり。

 藤森の「てっちゃん」といえば、私の世代だとお母様の「なっちゃん」こと藤森奈津子女流四段(ステキな人なんだな、これが)の息子さんというイメージだが、今のファンには楽しい解説や、YouTubeの方が思い浮かぶかもしれない。

 そんなエンターテイナー藤森哲也だが、今回は本業でも魅せてくれました。

 もともと、てっちゃんといえば、勝負強いタイプで、三段リーグでは最終日7番手からの大逆転で昇段。

 デビュー後も新人王戦2回と、加古川清流戦でもファイナリストになっており、優勝こそ逃したものの、そのパンチ力をアピールした。

 本戦でも、頼れるチームメイトとともに、選抜されたエリート達に一泡も二泡も吹かせてほしいものだ。

 ということで、前回は昇級祝いで高崎一生七段の将棋を紹介したが(→こちら)、今回は藤森哲也五段の快勝譜を紹介したい。


 2017年の第89期棋聖戦一次予選。

 藤森哲也五段と、高野智史四段の一戦。

 相居飛車から、先手の藤森が現代風の雁木に組むと、高野は△33桂&△42銀とそなえ、専守防衛の姿勢で迎え撃つ。

 むかえた、この局面。

 

 

 藤森が4筋から歩をぶつけ、桂交換をしたところ。

 先手は、

 

 「攻めは飛角銀桂」

 「玉の守りは金銀3枚」

 

 という基本通りのフォーメーション。

 なんとも美しい形で、

 「将棋の王道

 という感じがするが、後手も金銀4枚の利きもくわえて、厳重にロックをかけ、待ち構えている。

 まさにサッカーでいうイタリアの「カテナチオ」だが、ここから藤森は華麗、かつ力強い進撃で、固い門のカギをこじ開けていく。

 

 

 

 

 ▲35歩、△同歩、▲45歩、△同歩、▲15歩、△同歩、▲45銀

 

「開戦は歩の突き捨てから」

 

 という、お手本通りの仕掛け。

 これはもう、相居飛車の将棋を楽しみたい方には、ぜひともマスターしてほしい呼吸。

 単に▲45歩は、△同歩、▲同銀に△44歩で追い返される。

 ここは景気づけで、3筋1筋をからめて行くのが、のちの攻撃のを大きく広げるのだ。

 今度△44歩は、本譜の▲34歩で攻めがつながっている。

 高野は△45歩と取るが、▲33歩成と取って、△同銀に▲37桂がまた、リズムの良い攻め。

 

 

 3筋の突き捨てがまたも生きて、▲45桂ジャンプから▲33歩が、の持駒と連動して絶品。

 

 「桂はひかえて打て」

 

 これまた格言通りの攻めだ。

 後手も△46歩、▲同飛、△44歩と、争点をずらす手筋を駆使し、しゃがんで受けるが、かまわず▲45歩と合わせる。

 △55桂と、角筋を遮断しながら反撃に移るも、▲44歩と取りこんで、△同角、▲45歩、△53角。

 そこで、われわれも大好きな▲44銀の打ちこみ。

 

 

 まさに、塚田泰明ゆずりの

 

 「攻めっ気120%」

 

 という大突貫。

 師匠のキャッチフレーズが「攻め100%」だから、その勢いは2割増しだぞ!

 △同銀、▲同歩、△同金に▲15香と走るのが、これまた居飛車党の必修科目ともいえる香捨て。

 これで貴重な一歩が補充できるうえに、香を上ずらせて、後手の守備力もけずっている。

 △15同香しかないが、そこでむしりとった一歩を使って、▲33歩が絶好打。

 


 「攻めの藤森」の持ち味が、これでもかと発揮されている。

 △22金に、俗に▲32銀と打ちこんで、ガリガリ攻めていく。

 まるで、『将棋放浪記』で紹介されている棋譜みたいだが、プロ相手に、それものちに新人王戦優勝することになる高野智史を、こんなサンドバッグあつかいできるのが、すさまじい。

 今、早めに△73銀△73桂とくり出す急戦が流行っているのは、相居飛車の後手番は、どうしてもこういう形になりやすいから。

 そりゃこんな目にあわされれば、その前に動こうと、必死になるわけである。

 そういや、羽生善治森内俊之矢倉戦とか、谷川浩司佐藤康光とか、丸山忠久郷田真隆角換わりとかって、いつもこんな感じだったなあ。

 クライマックスは、この場面。

 

 

 藤森の百烈拳が急所にヒットしまくりで、ここでは先手が勝勢

 ただ、駒の数が少なく、歩切れということもあって、足が止まると一瞬で指し切りになる恐れもある。

 後手玉が、左辺に逃げ出す前になんとかしたいが、次の手がまた「筋中の筋」という手で、勝負が決まった。

 

 

 

 


 ▲64歩と突くのが、これまたぜひとも指に、おぼえさせていただきたい好感覚。

 △同歩しかないが、▲55角と藤森流に言えばブッチして、△同歩に▲63桂がトドメの一撃。

 

 

 

 角取りだが、△62角頭金

 △53角▲32金打で、ピッタリ詰み。

 以下、数手指して高野が投了

 攻められっぱなしで一度もターンがまわってこない、典型的な「後手番ノーチャンス」という将棋だった。

 最後の▲63桂が、『将棋世界』で藤森が連載していた講座に、紹介されていた手。

 なので、これを見ていただこうと思ったのだが、今回あらためて並べ直して、あまりにもきれいな攻めが決まっていたので、ちょっとくわしめに取り上げてみた。

 てっちゃんはよく、『将棋放浪記』で、

 

 「勝つことも大事ですが、皆様が楽しんで上達できるように、できるだけ基本に忠実で、筋のいい、きれいな手をお見せしていきたいです」

 

 そう言ってるけど、これこそまさに、そんな将棋だった。

 連結のいい囲いから、の突き捨て、1筋の香捨て、▲44銀の俗筋から、最後は切れ味のいい寄せでフィニッシュ。

 ホント、この棋譜を何度も並べるだけで、アマ初段くらいにはなれるんじゃないだろうか。

 それくらい、お手本のような攻め筋なのだ。

 てっちゃん、強いぞ!

 

 (「スーパーあつし君」の終盤力編に続く→こちら

 

 

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戒厳令下 京都潜入記5 二条城の唐門とマヌケな卒業式編

2021年04月09日 | 海外旅行

 前回に続いての京都戦記。

 このご時世、なんの因果か京都を観光することになった、バンゲリング帝国よりの使者、エーリヒ・ハインツ・マリーア・フォン・リリエンシュターン武装親衛隊少尉(そういう設定なのです)。

 こないだは、京都が誇る観光地二条城を楽しんだが(その模様は→こちら)、この場所に少尉は、もうひとつ個人的な思い入れがある。

 それが、小学校の卒業式

 この行事と言えば、なぜか子供たちが6年間の思い出を、声を合わせながらダラダラと語るというイベントがあり、

 

 生徒A「○○小学校で学んだ6年間は」

 生徒B「本当に」

 生徒全員「楽しかった!」

 生徒C「お父さん、お母さん」

 生徒D「先生がた」

 全員で「本当に、ありがとうございました!」

 

 みたいな、ファシスト国家のごとき光景がくり広げられるのが、お約束となっている。

 陣内智則さんのコントでもネタにされていたが(→これですね)、あそこで私が受け持ったのが、まさに京都のシーンで、

 

 「二条城の唐門の」

 

 というセリフを担当した。

 それに続けて、女の子が、

 

 「その輝きの美しかったこと」

 

 このときの違和感を、今でも覚えている。

 

 陣内さんのネタでもある通り、ああいうとき子供たちはたいてい、べちゃッと間延びしたトーンでセリフを言うもの。

 上記の例でいえば、

 「○○小学校で学んだ6年間は」

 ではなく、

 

 「○○しょーがっこーでぇ~、まなんだろくねんかんわぁ~」


 
 その方程式に従って私も、

 

 「にじょーじょーのぉ~、からもんのぉ~」

 

 底抜けな発声をするわけだが、次が問題である。

 続く女の子というのが、堂々と、

 

 「その輝きの美しかったこと!」


 
 メチャメチャにビシッとした声で、こちらの後を受けるのだ。
 
 この並びが、えらいことなのである。

 こっちは先生方の

 「みなが一斉に声を合わせて、心がひとつになって感動」

 といった、ナスのヘタのごとき自己満足的ルールに従って、わざわざダルく読んでいるのに、そこを腹式呼吸もバリバリの伸びやかな声量。

 これでは、まるで私がやる気のないか、居眠りでもしている、スットコ生徒のようである。

 おいおい、学校という全体主義なファッショの世界では、もうちょっと空気を読むというか、周囲とトーンを合わせることが必要である。

 そこにガッツリ自己主張を入れてくるとは、どういう了見だ。

 しかもそれが、卒業式などという、どうでもいいイベントで発動とは、まったく自我の無駄遣い。

 ほかにもっと、大事なことはあるだろう。コンゴの怪獣モケーレ・ムベンベは本当にいるのかとか。

 そんな、こちらのつぶやきもなんとやらで、彼女は朗々と謳いあげる。まるでシェイクスピア女優か、オペラ歌手

 なんせミスヲタなもんで、思わずクレイグ・ライスの小説みたいに、

 「どうした、オフィーリアよ!」

 なんて、声をかけたくなっちまったよ。

 こういう場合は、どちらかが妥協して、相手に合わせないと、聞いてる親御さんも腰が抜けるであろう。

 とはいえ、卒業式を精一杯盛り上げようとがんばる、奇特……マジメな女子生徒に、

 「もっとマヌケでお願いします」

 なんて、とても頼めるものではない。

 かといって、こちらが合わせて、

 

 「二条城の、唐門の!(ビシッ!)」

 

 とかヒトラー・ユーゲントの優等生のごとく右手を挙げても、それはそれで恥ずかしいし、きっとクラスの仲間から、

 

 「おいおい、えらいイキッてんなあ」

 「女のプレッシャーに負けたな」

 「モテたいだけちゃうか」

 「どっちにしても、阿呆にしか見えへんけどな。アハハ!」

 

 などなど、バカにされまくるのは目に見えている。

 そしてなにより、

 

 「小学校における卒業生の言葉は、腰砕けでなくてはならない」

 

 という日本古来からの伝統文化を、ここで途切れさすわけにはいかない。

 それこそまさに、小学校生活の画竜点睛を欠くというものだ。

 決めた、私は我が道を行く。


 
 「二条城の、唐門の!(ビシッ!)」

 

 ではなく、

 

 「にじょーじょーのぉ~、からもんのぉ~」

 

 これこそが、真の日本の卒業式だ。

 子供ながら、なんという愛国精神であろうか。こんな男がいてくれれば、日本の未来はまさに盤石である。

 結局、12歳の少尉はおのれの信念をつらぬき、どこまでもマヌケに、「にじょーじょーのぉ~」と声を発した。

 これにはオフィーリア子ちゃんも、ひるむことなく「その美しさよ!」と応えた。

 その声はどこまでも軽やかに、場から浮いていたが、列席した大人はどう感じたのだろう。

 案外、ふつうに感動したりしてね。

 それはともかく、なんか、そんなことしか覚えていないってことは、私はよっぽど「学校」や「式典」というものに興味がないんだなあ。

 とか、今さら思ったり思わなかったり、したとさ。

 

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砂をつかんで立ち上がれ 高崎一生vs有吉道夫&村中秀史 2009年&2010年 C級2組順位戦

2021年04月06日 | 将棋・名局

 高崎一生七段が、B級2組に昇級した。

 高崎といえば、小学生名人戦で優勝という実績からスタートし、奨励会時代から、

 「平成のチャイルドブランド

 と呼ばれ、広瀬章人佐藤天彦とも並び称された実力者だった。

 そんな高崎だが、順位戦では苦労が多く、C級2組時代は昇級の一番を、大ベテランに止められたり。

 また、C1でも毎年好成績をあげながら、9勝1敗頭ハネで涙をのんだこともありと(9割勝ってむくわれないなんて、なんて制度だ!)、苦難の道を余儀なくされる。

 それが今回、ようやっと昇級することになった。実におめでたい。

 私はこういう力のある棋士を、10年以上もCクラスにおいておく意味なんて、ないと思っている。

 なので、「藤井フィーバー」で世間の注目が集まっている今こそ、こういった点をどんどん改善してほしいものだ。

 前回は西山朋佳女流三冠(奨励会は残念でしたが引き続き応援してます!)の強烈な投げ槍を紹介したが(→こちら)、今回は昇級のお祝いで、高崎七段の将棋を。


 2009年、第67期C級2組順位戦

 有吉道夫九段と、高崎一生四段の一戦。

 この一番は当時、将棋ファンのみならず、一般マスコミの注目も集める一戦となった。

 それはここまで7勝2敗の高崎が、勝てば昇級というだけでなく、有吉にとっても人生のかかった大勝負であったからだ。

 棋聖獲得の経験もあり、A級21期、棋戦優勝9回

 その激しい攻めは「火の玉流」と恐れられ、通算1000勝越えも達成している、まさに関西のレジェンド棋士である有吉道夫。

 だが、このときはすでに73歳(!)で、往年の力はなく、C級2組でも降級点2個と追いつめられていた。

 ここで3つ目を取ってしまえば、他者の結果も関係してややこしいが、強制引退となる可能性が高かったのだ。

 そして有吉は今期ここまで、まだ2勝

 これに敗れると、3つめのバツがついて、将棋界から去れなければならないかもしれない。

 ドラマチックなうえにも、ドラマチックな舞台が整った勝負は、後手の高崎がゴキゲン中飛車にかまえる。

 むかえた、この局面。

 

 形勢は、パッと見で高崎が指せそうか。

 自分だけを作っているし、先手の▲15歩という手が、あまり1手の価値がないように見える。

 つまりは先手が、指し手に困っている、ということではないか。

 なら、△42金とでも自陣を整備しておけば、自然に差が広がりそうなところだが、高崎は△28馬としてしまう。

 なにか錯覚があったのだろう、これには▲17角で馬が消されて、おもしろくない。

 

 

 △同馬、▲同桂に、再度△28角と打ち直すが、そこで▲23桂が意表の一手。

 

 △同金▲43飛成

 △同飛▲41角で困るから、かまわず△19角成とするが、▲11桂成、△同飛に▲25桂。

 

 

 ただ取られるだけの駒だったはずの桂馬が、きれいにさばけては、実際の形勢はともかく、先手の気持ちがいいのはたしかだろう。

 高崎も、もちろん有吉側の事情は知っていたわけで、このあたりでは、やりにくさを感じていたのかもしれない。

 ややギクシャクしている高崎に対して、有吉の方は元気いっぱい。

 負ければ、将棋を取り上げられるかもしれないプレッシャーを、まるで感じさせない勢いで、若手昇級候補を追いつめていく。

 一方の高崎も、負けるわけにはいかないのは同じで、からアヤをつけ、なんとか先手玉にせまっていく。

 むかえた最終盤。

 

 高崎が△87香と放りこんだところ。

 形勢は先手優勢だが、後手も決死の喰いつきで、玉に近いところなので慎重な対応が必要。

 ▲87同金△99飛成△97香成で怖いところもあるが、次の一手が決め手になった。

 

 

 

 

 

 ▲65角と打つのが、ほれぼれするような美しい手。

 受けては△87香△98飛に利かしながら、玉頭への殺到も見た、お手本通りの攻防の角。

 先手玉は、さえ渡さなければトン死筋はないため、条件がわかりやすく、これで勝ちのコースが見えた。

 手段に窮した高崎は、△99飛成から△88香成とするが、▲83香のカチコミから、▲32と、の左右挟撃でまいった。

 以下、有吉の正確な寄せに、高崎投了。

 有吉道夫、奇蹟の引退回避

 戦前の予想では、まあふつうに高崎が勝つのだろうと思っていたが、こんなことが起こるのも勝負の世界である。

 このとき高崎は、自分の背中越しにカメラのシャッター音が聞こえるという、将棋の敗者がさけられない屈辱を味わった。

 この敗戦はかなり応えたようで、のちのインタビューなどでも、あまり思い出したくないような反応を見せていたもの。

 だが、そこで屈しなかったのが、高崎一生の立派なところだった。

 翌年の順位戦でも白星を集め、8回戦を終えたところで7勝1敗。

 ラス前の9回戦に勝てば、昇級が決まるという一番を、またもむかえた。

 相手は今ではYouTubeでもおなじみの村中秀史五段

 この人もまた、実力のわりに順位戦で苦労を強いられている棋士の一人だが、この強敵相手に高崎はすばらしい将棋を披露する。

 

 相穴熊から、先に竜を作られているが、振り飛車側も成桂が敵陣に侵入し、穴熊流の接近戦の下ごしらえはできている。

 3筋に味もあり、どうせまるかというところだが、次の手が落ち着いた一着だった。

 

 

 

 

 ▲25歩と突くのが、この際の好手。

 ここでは▲34歩が目につくが、すぐにやると△24角が飛車取りでうるさい。

 そこで、じっと歩を突いてプレッシャーをかけておく。

 次こそ▲34歩で角が窒息するから、△45歩、▲同飛、△44銀とほぐしにかかるが、堂々▲46飛で問題ない。

 後手はそこで△35銀とできればいいが、それには▲42飛成(!)と抱きつかれて、先手の攻めが早い。

 

 

 次に▲32竜から▲43銀とか、からみついて、先手玉が鉄壁ということもあり、攻め合いで後手が勝てない。

 これでペースをつかんだ高崎は、その後は▲24歩、△同歩、▲23歩と、手筋を駆使して村中の穴熊を攻略。

 一度地獄を見たエリートが、すばらしいリカバリーを見せ、見事C1への切符を手にしたのだった。

 

 (藤森哲也の「攻めっ気120%」編に続く→こちら

 

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戒厳令下 京都潜入記4 唐門と、二条城の底冷えはハンパない編

2021年04月03日 | 海外旅行

 前回(→こちら)に続いての京都戦記。

 このご時世、なんの因果か京都を観光することになった、バンゲリング帝国よりの使者、エーリヒ・ハインツ・マリーア・フォン・リリエンシュターンSS少尉(そういう設定なのです)。

 方向音痴ゆえ、二条城に向かうはずが、間違って地下鉄をはさんだ対面にある京都御所に到着してしまう。

 幸いなことに、京都は碁盤の目状に作られているという、底の抜けた旅行者に優しい街なので、修正は容易。

 途中、京の都に徘徊するエイリアンに襲われたりしたが、巡回する検非違使と協力して、ドンドン穴に埋めていく。

 虫歯エイリアンにはやや苦戦するも、ここにワンダリング・モンスターを撃破し、ようやっと二条城に到着。

 混んでいるようなら、密を避けてすぐさま転進だが、チケット売り場で聞いてみると、やはり閑古鳥が鳴いているらしい。

 ならばと、二の丸御殿も見られる一般券1030円也(入城のみなら620円)を払って、中に入る。

 そして、まず見えるのが有名な唐門

 

二条城の唐門。通称「マベリック」。

ドローンの機能を内蔵しており、柱の部分で体をはさみこみ、壁を越えようとする巨人の進撃を無効化させる役割を持つ。

 

 どーんと、これがなかなか立派なもので、観光気分が大いに味わえる。

 あー、なんか、昔のころを思い出してきたかも。

 たしか、小学生のころ遠足で見たときは、

 「『帰ってきたウルトラマン』に出てきた怪獣バリケーンに似ているな」

 とかいう感想を抱いて、のちの作文にも書いた記憶があるが、今思い返すと、怪獣大好き少年だったころのことが脳裏に浮かんできて、なんともほほえましい気分になる。

 都の文化遺産と言っても、まあハナタレのガキにとっては、そんなもんであろう。

 大人にならないと、こういうものの良さはわからないのだ。

 だから、修学旅行で奈良や京都に行かされてピンとこなかった面々も、そんなに気にすることもない。

 少尉くらいの歳になると、本当にしみじみとその良さがわかるのだからと、今回あらためて味わってみた感想と言えば、

  「やっぱり、『帰ってきたウルトラマン』に出てきた怪獣バリケーンに似ている」

 変わっとらんがな。

 なるほど、これが「少年の心を忘れない」ということか。

 

 

台風怪獣バリケーン。プライベートでは藤田ニコルと仲がいい。

 

 つまり今回、30年ぶりくらいに見た二条城からわかることは、

 「少年の心とか言うてるヤツは、単に自分が大人になれないことを自己正当化しているにすぎない」

 という、大林宣彦監督が聞いたら、ブンむくれしそうな真理である。

 三つ子の魂百までといいますか、人って、そんな成長しないもんなんですねえ(←おまえだけだよ)。

 そんなコドモオトナ全開の少尉だが、「別にいいや」と開き直って、城内に入る。

 中はさすがに、ポツポツと人がいたが、密には程遠いので一安心。

 施設側も最大限の努力を払っており、各所にオレンジ色のダクトが設置されて、換気も万全だ。

 しかも、かなり本気で「」にしてあるため、

 「ここで大政奉還が行われ、日本の歴史が大きく動いたのだ……」

 感慨にふけっていると所に、空気を入れ替えるべくゴウンゴウンと鳴り響き、現実に戻されるというか、気分は幕末の動乱ではなく、昔やった工場のアルバイト(中に巨大な業務用扇風機が置いてあった)なのであった。

 

 

ダクトに擬態し、二条城に侵入しようとする触手型怪獣。

科学特捜隊亀岡支部との連携で、地底戦車オムライザーにより撃破に成功。

 

 あと、音も気になるが、それ以上に少尉の進軍をはばんだのが、「底冷え」。

 靴を脱いで入った瞬間から察知できたが、とにかく足がメチャクチャに冷たい

 一応、板張りの廊下にはカーペットが引いてあるのだが、そんなシールドなどものともせずに、冷たさが侵食してくる。

 冗談抜きで、スケートリンクの上を歩いているような気分。

 実際、前を歩くおばさまも、しきりに「冷たい、冷たい」とくり返していた。

 これぞまさに、冬型装備を用意しなかったことによって一敗地にまみれた、モスクワ攻略戦のような話であり、マジで防寒対策は気をつけたほうがいいっス。

 こうして、いくつかの障害はあったものの、二条城の中は見学していてすこぶる楽しかった。

 ずらりと並ぶ畳の間をめぐっていると、

 「あー、昔の人は、ホンマにここに住んではったんやなあ」

 なんてタイムスリップした気分を味わえる。

 自分ならここにベッドを置く、100均DIYで、あそこにワイヤーネットを吊るすと、いろいろ便利そうだなとか、理想の二条城暮らしスタイルを想像するのが楽しくてオススメ。

 なにより良かったのが、期間限定で展示されていた屏風絵

 これがスケールが大きく、見ているだけで飽きない。

 底冷えのせいで、あまり長く見るのはしんどかったが、それでも堪能した。

 家に持って帰って、お茶でも飲みながら、ゆっくり鑑賞したい。怪盗にでもなったろかしらん。

 こうして二条城を堪能した少尉は、大きな感動を胸に現代へと帰還することとなった。

 さっきは怪獣がどうとか、アホ気なことも言ったが、悠久の歴史にふれ、心揺さぶられたことも、また偽りなき事実でもある。

 古都に起った歴史のうねり、天皇家の歴史、そしてなにより将軍家の権勢が、この建築物の中に、これでもかとこめられている。

 過去に遊び、少尉はここでもやはり、この思いを新たにしたのである。

 「徳川埋蔵金は、存在する」と。

 

 (→こちら

 

 

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