クラウス・コルドン『ベルリン1919』『ベルリン1933』『ベルリン1945』を読む。
ドイツの作家であるクラウス・コルドンが、第一次大戦敗戦後の混乱期からヒトラーの台頭、そしてふたたびの敗戦による、その崩壊までを描いた『ベルリン三部作』と呼ばれる児童文学の大作である。
こないだ、ドイツのドラマ『バビロン・ベルリン』を紹介したので、その流れで読み返してみたのだが、まーこれがおもしろい。
舞台になるのはベルリンの貧民街ヴェディング地区。
主人公はそこに住む、ゲープハルト一家だ。
第1部の『1919』は第一次大戦後、ヴィルヘルム二世の「ドイツ帝国」が崩壊した時代。
カール・リープクネヒトとローザ・ルクセンブルクに率いられた「スパルタクス団」の興亡と、混乱期の大人たちのやり取りを見つめる少年ヘルムート(ヘレ)・ゲープハルトの物語。
第2部の『1933』は貧窮や絶望が支配するドイツでNSDAP(ナチスの正式名称)が着々と勢力を伸ばすころ、共産主義にシンパシーを抱くヘレと仲間たちが、その流れに対抗する。
だが彼らも一枚岩にはなれず、思想の違いから家族や友人との間に齟齬が起きつつあり、ついには全体主義が勝利する瞬間までを15歳のハンス・ゲープハルトが見つめる。
第3部『ベルリン1945』。敗戦が決定的になったドイツで、空襲におびえながら生きるベルリン市民たちが、道端や防空壕でそれぞれの「総括」をする。
ある者は「貧しさから逃げたかった」。
ある者は「総統こそが救世主と確信したから」。
ある者は「こうなるとわかってはいたが、勇気がなかった」。
大人たちの言葉を、12歳の少女エンネ・ゲープハルトはどう聞いたのだろうか。
この三部作のすばらしさは、とにかく当時のドイツを描写する作者の手腕にある。
物語自体もナチスと共産党の衝突や、ファシズムに対抗するヘレやハンスの戦い、またナチ政権下の人々の様々なドラマなど盛りだくさんだが、とにかく読んでいてその地に足のついたリアリティーに引きこまれる。
ゲープハルト一家が住む貧民地区の様子や、戦前のベルリンの雰囲気。
人々の思想やその変遷、食事や部屋の描写など、その絵がまさに映像作品のように浮かび上がる。
ミステリ作家アガサ・クリスティーの強みは、そのトリックや名探偵のあざやかな推理にくわえて、当時の英国の風土、文化、風習を巧みに描いた「マナーノベル」としての魅力にもあるが、クラウス・コルドンの『ベルリン三部作』もまさにそれ。
読んでいて本当に、20世紀初頭のベルリンにタイムスリップしたような気分に浸れる。
NHK『映像の世紀』みたいで世界史好きの方には、とにかくオススメ。
児童文学ということで、サクサク読めて長いのなんて全然気にならず、それでいて中身はギッシリと詰まってます。