グレゴリ青山『深ぼり京都さんぽ』 バックパッカーと、インターネットの今昔

2022年09月30日 | 海外旅行

 「オレはネットがなかったら、海外旅行とかそんなに行かへんかもなあ」
 
 先日、近所の焼肉屋で、そんなことを言ったのは友人ヤオ君であった。

 海外旅行にかぎらず、なにをするにもインターネットを利用というのは、現代では当たり前の話である。

 旅をするにも、宿の予約から安い航空券の情報。現地情報も検索すればいいから、重いガイドブックを持っていく必要がなくなった。

 果ては、グーグルマップのナビで迷子にならないとか、翻訳機能で言葉の壁まで飛び越えて、海外に対するハードルがものすごく低くなったのはたしかだ。

 私も旅行好きだが、若いころはネットこそもうあったものの、スマホなどはなく、インターネットカフェを利用する必要があった。

 ただそれも、日本語対応のパソコンがなかったり、予約なども英語や現地語でやらないといけなかったし、場所によってはそもそも店がなかったりして、そんなに実用的でもなかったのだった。

 それとくらべると、今はもう別世界かというほど便利になったというか、キミとかネットなしで、よう外国とか行ってたな、てなもんである。

 そんな、新旧旅行者比較文化論のような話題になったのは、グレゴリ青山さんの『深ぼり京都さんぽ』という、エッセイマンガを読んだのがきっかけ。

 その中で、グレゴリさんがバックパッカー仲間の友人と、こんな会話を交わすのだ。

 

 「若い子に、インターネットもない時代によくバックパッカーしてましたねって言われてん」

 

 同じことを言われている。

 私はグレゴリさんより歳はだけど、ネットのあるなしでいえば、どちらも体験しているわれわれ世代だと、ジャンル問わず、こう言われることが多いらしい。

 続けて、グレゴリさんたちはこうも話すのだ。

 

 「でもウチらが若いころインターネットがなくてよかったと思う」

 「うん、ネットのない時代に知らん国歩けてよかったよね」

 

 

 

 

 

 

 

 「未知」のおもしろさか「便利」の快適さか。

 まあ、好みや意見はあるだろうが、これは時代によって色々と変わってくるだろう。

 「なにに影響を受けて」旅に出たのかというところでも、個性が出るところで、たとえば旅本の古典である『深夜特急』の沢木耕太郎さんは、小田実さんの世界放浪記『何でも見てやろう』に押されてユーラシア横断に出かけている。

 グレゴリさんの世代はNHKシルクロード』からアジアにというパターンをよく聞くし、そのグレゴリさんの育ての親である『旅行人』編集長の蔵前仁一さんは、仕事からの逃避でインドに行ったら、そこで「インド病」(なんでもかんでも「インドではこうだった」とくらべてしまい、日本での日常生活に支障をきたしてしまう状態)になってしまい、そのままバックパッカー兼旅行作家になってしまった。

 このあたりの人は、時代的にネットなど、本当に影も形もない時代に飛び出したパターンなので、旅とはある程度「体当たり」なもので、それが魅力であるという考え方が強いと思われる。

 私なんかは、2000年代初頭くらいによく旅行していたけど、先も書いたようにネットはまだ不便で、どちらかといえば場当たり的な旅行になれている方ではある。

 ただちょっと違うのは、自分の場合そもそも、旅行に出るようになったきっかけというのが少々変則的で、

 

 テニスのグランドスラム大会を観戦するため」

 

 そこから、スポーツだけでなくの魅力に目覚めたわけだが、ことこれに関しては絶対に昔よりの方が良かった。

 なんといっても、チケットを取るのが大変で、オーストラリアンオープンなんかはセンターコートにこだわらなければ、結構当日券とか取れたけど、他の大会はそういうわけにはいかなかった。

 なんで、友達のパソコン借りて英語で(グーグル翻訳なんてない時代です)申込書を書いて印刷してファックスで送ったり。

 朝イチで当日券の列に並んだり、現地の日本語代理店で高い手数料を払ったり、ローランギャロスでは前売り券やキャンセル待ちの情報を会場(パリ郊外のブローニュの森にある)までわざわざ尋ねに言ったら、

 

 「英語で受け付けなんてしてないボン。ここはフランスなんやから、フランス語でしゃべれビヤン!」

 

 けんもほろろに追い返されたり(まあ、正論ではありますが)、メチャクチャ大変だったのだ。

 それが今では、ネットで申し込みとか、空き情報調べたり、にいながらキャンセル待ちをチェック出来たり、まー便利なことこの上ない。

 こういうのを見ると、タフに旅していた先輩方には申し訳ないが、やっぱ

 

 「ネットっていいね!」

 

 となってしまう。時代の変遷、おそるべしである。

 

 (続く

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「泥沼流」の顔面受け 米長邦雄vs谷川浩司 1984年前期 第44期棋聖戦 第2局

2022年09月27日 | 将棋・好手 妙手

 「助からないと思っても助かっている」


 
 というのは、大山康晴十五世名人の有名な語録である。
 
 将棋の終盤というのは混沌としており、「勝った」と思ったところから妙にねばられたり、逆に「やられた!」と覚悟を決めたら案外耐えていたりと、最後までわからないものなのだ。
 
 私のような素人レベルなら、ほとんどの場合「たまたま」助かっているだけだが、これが達人レベルになると、
 
 
 「助からないと思っても(読み筋だから余裕で)助かっている」
 
 
 というケースも多々あって、その強さに舌を巻くことになるのだ。
 
 
 1984年の前期、第44期棋聖戦米長邦雄棋聖(王将・棋王)に谷川浩司名人が挑戦した。
 
 「名人」と「三冠王」の対決ということで、注目を集めたこのシリーズは「前進流」谷川の攻めを「泥沼流」米長が受け止めるという展開になる。
 
 第1局は谷川が先攻するも、持ち歩の数を間違えるという誤算があって、米長が勝利。
 
 続く第2局でも、後手番ながら谷川が飛車を捨てて猛攻をかけ、主導権を握ろうとする。
 
 むかえたこの局面。


 
 
 
 
 
 
 △68銀と打って、谷川「光速の寄せ」がヒットしているように見える。
 
 自然な▲48玉△77とと引いて、▲75金直△同角▲同金△67とと寄って受けがむずかしい。
 

 
 
 
 
 

 かといって、▲68同飛は先手玉が薄すぎて、とても受け切れない。
 
 谷川はこれで勝ちを確信していたようだが、ここで米長が力強い受けを見せる。

 

 


 
 
 
 
 
 ▲58玉と上がるのが、「泥沼流」本領発揮の顔面受け
 
 この手の意味は△77とと引くと、▲75金直△同角▲同金△67とと寄ることができない。

 

  

 

 
 解説されれば、なるほどだが、あのと金に近づくような手は、どう見ても指しにくいではないか。
 
 谷川は△77と▲75金直△同角▲同金△同歩と取ったが、これが疑問だった。
 
 ここでは△67金と打つべきで、▲49玉△57銀成と取っておいて、難解な勝負だった。

 

 


 
 とはいえ、いかにも重い手で「光速の寄せ」にはふさわしくないし、そもそもと金で行けたところに持駒を投入するなど、バカバカしくて指す気にはなれないところだ。
 
 △75同歩▲26桂と打って、ついに攻守が逆転

 

 


 
 △33金右▲25歩と打って、そこで遅ればせながら△67金だが、これは「証文の出し遅れ」で、以下米長の鋭い寄せが決まった。
 
 これで2連勝となった米長は、第3局も谷川の切っ先をいなして3連勝防衛を決める。
 
 その後、中原誠から十段を奪取し四冠王となり、
 
 
 「世界一将棋の強い男」
 
 
 の呼び名をほしいままにするのだった。

 

 (米長の強すぎる見切りはこちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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施川ユウキ『ベルナルドゥス嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? その5

2022年09月24日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」

 との企画。以前にやった4巻に続いて、今回は5巻です。

 

 

 ★H・G・ウェルズ『透明人間』(未読)


 恥ずかしながら、ウェルズは読んだことがない。

 恥ずかしながら、透明人間はエロのイメージしかない。

 ということで、

 「人間が透明になってまずすることは女子更衣室をのぞくこと」

 という人類普遍の真理をあつかったポール・バーホーベンインビジブル』は文学的傑作といえよう。

 

 ★アイザック・アシモフ『聖者の行進』(未読)


 アシモフの小説は『われはロボット』と『鋼鉄都市』のみ。『銀河帝国興亡史』は電子書籍で持ってるけど積読。

 山本弘さんをはじめ、

 「アシモフは小説より、科学エッセイの方がおもしろい」
 
 という人も多いが、なんとなくわかるような。

 いや、小説もいいんだけど、なんかこう、「うまくまとまってる」感があって、ちょっと食い足りない。


 ★瀬名秀明『ロボット・オペラ』(未読)


 瀬名さんは、まったく読んだことがない。

 『パラサイト・イブ』が映画化されたとき、ラジオ『サイキック青年団』で北野誠さんと、竹内義和アニキが、

 「葉月里緒奈乳首が見えてないやんけ!」

 と怒りまくっていたことを、おぼえている。

 

 ★クレイグ・グレンディ『ギネス世界記録2019』(未読)


 ギネスって、「なんかすごい記録」ってイメージがあったけど、いつのまにか遠藤くんの言うよう、

 「十把一絡げのリア充参加者」

 の思い出作りなってるとは知らなんだ。

 大阪ではひらかたパークが「スイムキャップ一斉着用」で世界一になって、ギネスに載ったことがある。

 たしかブラックマヨネーズのお二人が出ていて(「ひらパー兄さん」だったから)、ニュースでやってるのを見た記憶があるけど、あれはなんだったんだろう。

 

 ★宇宙英雄ローダン』(未読)


 読んだことないが、アメリカではなくドイツのシリーズということにビックリした記憶がある。

 

 ★アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(未読)


 ご存じドラマ『シャーロック』の脚本家が書いたミステリ。電書で積読。

 ホロヴィッツは『絹の家』を読んだけど、そんなにな感じ。

 というか、パスティーシュものは、よっぽど出来がよくないかぎり、

 「これ、あえてホームズ(および他の元ネタでも)じゃなくてもよくね?」

 という気になって、そんなに乗れないんだよなあ。

 


 ★ドニー・アイカー『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ事件》の真相』(未読)


 アーネスト・シャクルトン『エンデュアランス号漂流記』とか、沢木耕太郎『』とか、遭難ものは苦手。

 だって、コワイじゃん!

 小川一水『漂った男』とか、アンディー・ウィアー『火星の人』みたいなSFだと好きなんだけどね。

 ただ、この本はすごくおもしろそう。高いけど。

 

 ★藤田祥平『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』(未読)

 中二病っぽいタイトルが、カッコいいよね。

 


 ★ロバート・フルガム『人生に必要なことはすべて幼稚園の砂場で学んだ』(未読)


 日本だと、モラルとかは結構「マンガ」で学んでるような気がするなあ。

 

 ★ダレン・シャン『ダレン・シャン1 奇妙なサーカス』(未読)

 
 ファンタジー物はあまり読まない。

 

 ☆J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』(未読)


 ハーマイオニーちゃんの実写が観られる映画版の方が上でしょう。

 


 ★ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(読了


 読書人生オールタイムベスト1大傑作。全人類必読

 でも、意外と他のガルシア=マルケスはそれほどでも。

 『予告された殺人の記録』とか『戒厳令下チリ潜入記』とか、ノンフィクションのほうが、おもしろいかも。

 

 ★ハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』『死の鳥』(未読)

 エリスンはまだ1冊も読んでない。

 友人がメチャクチャにすすめてくるが、彼は「天才」なので、こっちもハードルが上がって手に取りにくい。

 

ジョルジュ・バタイユ『眼球譚』(未読)


 タイトルからして、コワくて読めない。

 どうせ、谷崎潤一郎『春琴抄』みたいに、

 「うわわわわわ!!! 目が、目が!」

 とかいう気分になるんでしょ?

 

 ★劉慈欣『三体』(未読)

 買って、積読。読むのが楽しみ。

 

 ☆アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』(読了

 

 SFで「おもしろい!」と思ったのが『夏への扉

 「最高!」と小躍りしたのが『火星人ゴーホーム

 「すげえ」と茫然としたのが『神狩り』とこれ

 


 ★ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(読了

 SFミステリにして、ハッタリ大振りかぶりの大傑作。

 でも、ホーガンはこの1冊の「一発屋」との声もあって、他はなかなか食指が伸びない。

 


 ★オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』(読了

 

 「選ばれし者は、そうでないものに常に嫉妬され、攻撃される運命にある」

 という、どうしようもない人のサガをあつかった名作。

 作中の「いじめ」描写は、トラウマがある人にはしんどすぎるかもしれないが、

 「もし、自分が【エンダー】と出会ったら」

 と想像すると、単純に否定できるほど能天気ではない。

 


 ★J・G・バラード『ハイ・ライズ』(未読)

 ニューウェーブは苦手っぽい。

 

 ★ミシェル・ウェルベック『ある島の可能性』(未読)

 
 ウェルベックは『服従』が相当おもしろかったので、電書で買ってみた。まだ積読。

 


 ★グレッグ・イーガン『クロックワーク・ロケット』『エターナル・フレーム』『アロウズ・オブ・タイム』(未読)


 イーガン多いなあ。

 

 ★香月美夜『本好きの下克上~司書になるためには手段を選んではいられません~第一部「兵士の娘」』(未読)

 

 一時期、ネットをほとんどやってない時期があったんだけど、その間に「異世界もの」が洪水を起こしていてビックリしたことがあった。

 でも、さすがに「なろう」までは手が回らないなあ。

 

 ★レイ・ブラッドベリ『十月の旅人』(未読)


 私は好きだけど、レイのリリカルな面は苦手という人も多い。安田均ボスとか。

 

 ★ミランダ・ジェライ『最初の悪い男』トム・ハンクス『変わったタイプ』(未読)


 新潮クレストはゼーガースとか、すんごく惹かれるけど、高いんだよなあ。

 


 ★清涼院流水『コズミック』(未読)


 なんかもう、ミステリ界が大騒動になったのはおぼえている。

 

 『今年、1200個の密室で、1200人が殺される。誰にも止めることはできない』

 1994年が始まったまさにその瞬間、前代未聞の犯罪予告状が、「密室卿」を名のる正体不明の人物によって送りつけられる。

 

 このハッタリはすばらしく、読んでもいいけど、ド嬢と同じく分厚いのが苦手だ。

 

 ★池井戸潤『果つる底なき』『下町ロケット』(未読)


 超おもしろいとは聞くけど、読んだことがない。

 こういう、ビジネスとか中小企業をあつかったものって、仕事を思い出してイヤなんですよ。 


 ★野沢尚『破線のマリス』(読了


 江戸川乱歩賞受賞作。

 昔読んだけど、おぼえてないなあ。

 

 ★東野圭吾『放課後』(未読)


 東野圭吾はずいぶん読んだけど、これはどこかでネタバレされて、手が出なかった。

 なんか動機が、男の子には、いたたまれないものだったよね。

 

 ★高野和明『13階段』(未読)


 江戸川乱歩賞受賞作。

 この賞の受賞作をあまり読んだことがないのは、『このミス覆面座談会の影響だけど、実際彼らの言う通り、

 「優等生的にまとまってしまっている」

 と感じるのも事実。

 


 ★アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』(未読)


 クリスティーは死ぬほど読んだけど、これは未読。

 ポアロなら『ヘラクレスの冒険』。マープルおばさんはベタだけど『予告殺人』。あと、トミータペンスは大好き。

 ノンシリーズでは『謎のクィン氏』『パーカー・パインの冒険』もオススメ。

 

 ★トーベ・ヤンソン『新装版 ムーミン谷の十一月』(未読)


 ムーミン読んだことないなあ。

 

 ★E・М・シオラン『生誕の災厄』(未読)

 

 アフォリズムや名言集の類にあまり興味はないけど、寺山修司ポケットに名言を』はバイブル。


 ★テッド・チャン『息吹』『あなたの人生の物語』(読了


 『あなたの人生の』は読書人生オールタイムベスト候補。

 他のエントリーはクレイグ・ライス『スイートホーム殺人事件』。コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』など。

 


 ★宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(未読)


 全然ハマらない。

 「リリカルなボンクラ」は苦手かもしれない。アンデルセンとか。


 ★ビクトル・ユゴー『ああ無情』(未読)


 長いから敬遠。鹿島茂『レ・ミゼラブル百景』はすばらしい。

 そういや、昔は岩波文庫の棚に、ロマン・ローラン『ジャン・クリストフ』がかならずあったけど、アレ本当に読んだ人いるんでしょうか。

 

 (6巻に続く)

 

 

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「女性棋士」誕生の新しい風 里見香奈vs高崎一生 2019年 NHK杯戦

2022年09月21日 | 女流棋士

 「ホッとする瞬間」というのがステキだと思う。

 「女性のどんなところに、《いいな》となるか」

 というのは男同士での酔談に、よく出るテーマである。

 寝顔がカワイイという人もいれば、石鹸香水のにおいにポーっとなったり、眼鏡美人や、CAさんに看護師さんの制服など「装備」に惹かれるパターンもある。

 なんて、男子にはそれぞれこだわりがあるわけだが、これが私の場合はこないだも言った、

 「女の子が、安堵の表情を浮かべる瞬間」

 先日は、スランプを乗り越えた大坂なおみ選手が見せた

 

 「よかったぁ……」

 

 とホッとした姿にキュンときた話をしたが、他にも色々とあるもの。

 

 たとえば2019年NHK杯将棋トーナメント。高崎一生六段里見香奈女流五冠との一戦。

 相振り飛車から、むかえた中盤戦。

 

 

 

 

 高崎が、をからめて後手玉に殺到しようというところ。

 飛車に、まで目一杯使う、矢倉戦のような攻めだが、これがなかなかにウルサイ。

 単純な△83銀はいかにも薄くて、▲84銀で簡単にツブレ

 △83角のような受けでも、▲84銀(▲84飛もありそう)と出て、△65角▲同桂△53銀当たりで幸便と、端のアヤもあって、なんのかの手にされそう。

 こうなると、玉から離れた金銀が哀しいことになってしまうが、ここで里見は強手を見せて、見事にしのいでしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 △74角と打ち返すのが、里見の力を見せた強防。

 ▲同銀、△同歩に▲同角は、△83銀打とはじき返して崩れない。

 高崎は▲74同銀、△同歩に▲75歩と突くが、△95歩と取って、▲74歩△83香と空間を生めて、先手の攻めは切れてしまった。

 

 

 

 

 以下、リードを奪った里見が、丁寧な指しまわしでまとめて制勝

 スポーツの試合などと違って、将棋の世界ではこういうとき、歓声を上げたり、「よっしゃ!」とガッツポーズしたりする姿を見ることはない。

 激戦の熱も冷めやらないうえ、勝っても露骨には喜ばないのが、この業界の暗黙マナー

 だから、最初は緊張にこわばっていた里見だったが、少し感想戦のやり取りをしているうちに笑顔がこぼれてきた。

 これがまた、とってもステキだったものだ。

 男性棋士を、それも高崎六段のような実力者をNHK杯という大舞台で破るということは、やはり女流棋士にとって大きな仕事である。

 それゆえに闘志も並ではなかったろうが、そこを乗り越えたときに見せた、里見さんの安堵の表情にシビれた。

 なんか、いいなあ。ため息出ちゃうよ。

 現在、里見さんはプロ編入試験の真っ最中。

 彼女の実力実績をもってすれば、充分すぎるほど合格の可能性はあるが、相手もバリバリの新四段たちであるし、なによりプレッシャーはハンパないほど、かかっていることだろう。

 結果がどう出るかは神のみぞ知るで、私はただ彼女が力を出し切れること、そして、まだまだ閉鎖的な将棋界に新しい風を吹かせてくれるよう、静かに祈るのみである。

 

 

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素晴らしきヒコーキ野郎 羽生善治vs広瀬章人 2011年 第52期王位戦 第6局

2022年09月18日 | 将棋・名局

 が乱舞する将棋は楽しい。

 角という駒は、同じ大駒でも、わかりやすく攻撃力が高い飛車ほどには、使いやすくないところがある。

 だが、その分というわけでもないが、急所に設置すれば、その「位置エネルギー」によって、爆発的な威力を発揮し、一撃で相手陣を破壊できることもある。

 

 「飛車のタテの攻めは受けやすいが、角のナナメのラインは受けにくい」

 

 という格言もあるほどで、ある意味「腕の見せ所」が試される駒でもあるのだ。

 そこで今回は、そんな角が激しく舞う空中戦を見ていただきたい。

 

 2011年の第52期王位戦

 広瀬章人王位に、羽生善治王座棋聖が挑戦したシリーズは、広瀬の2連勝スタートから、3勝2敗と防衛に王手をかける。

 むかえた第6局も、序盤から広瀬が巧みな指しまわしを見せ、作戦勝ちに持っていくことに成功。

 

 

 

 図は羽生が△45銀と進出させたところだが、ここで広瀬が巧みな構想を披露する。

 

 

 

 

 

 

 ▲64歩と突いたのが、筋のよい好手。

 後手が進撃させてきたにねらいをつけた、見事なカウンターだ。

 羽生は△33桂とヒモをつけるが、▲65銀とこっちも繰り出していく。

 △64歩に、さらに▲74銀と出て、△73歩と打たせた形は、後手のがまったく使えなくなり、気持ちいいことこの上ない。

 そこから、数手進んで、この場面。

 

 

 

 

 △82がヒドイ形で、羽生がいかにも苦しそうだが、実は後手陣には、もうひとつ不備があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲78角と打つのが、あざやかな遠見の角。

 これで、後手は△23の地点を受ける術がない。△22飛には▲34歩が、きびしすぎるのだ。

 まるで、天野宗歩升田幸三という、見事な角使いで広瀬が才能を見せ、これには控室も、

 

 「早い終局もあるのでは」

 

 広瀬防衛が濃厚のような空気になったそうだが、なかなかどうして、羽生はそんなやわなタマではない。

 広瀬によると、一見妙手の角打ちは悪手で、ここからの羽生の構想に舌を巻くことになる。

 

 

 

 

 △94歩と、裏窓からのぞいていくのが、しぶとい手。

 以下、▲23角成に、△93角と活用し、▲79飛△66角とぶん回していく。

 ▲77桂△56歩と突いて、いやらしくカラんで、先手も気持ち悪い。

 

 

 

 

 あの眠っていたを、ここまで活用できる腕力はさすがの羽生。

 以下、▲56同歩△25桂と跳ねて、やや不利ながらも、これで後手も勝負形に持ちこむことができた。

 

 

 

 

 そこからも熱戦は続いて、この△37角とブチ込んだのもスゴイ手。

 この手が好手かどうかや、実際の形勢判断などまったくわからないが、羽生の「負けてたまるか」という、ド迫力な戦いぶりは伝わってくる。

 そこからも、ねじり合いを制して、羽生がタイスコアに押し戻す。

 最終局でも「振り穴王子」の穴熊を、木っ端みじんに吹き飛ばし、23歳で王位を獲得し、「神の子」と呼ばれた広瀬章人からタイトルを奪取するのだった。

 

 ■おまけ

 (「振り穴王子」と「広瀬王位」誕生まではこちら

 (その他の将棋記事はこちらから)

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大坂なおみ選手が、何かを乗り越えるとき

2022年09月15日 | テニス

 「ホッとする瞬間」というのがステキだと思う。

 「女性のどんなところに、《いいな》となるか」

 というのは男同士での酔談に、よく出るテーマである。

 ベタにお尻がいいという人もいれば、うなじにときめくという人もいる。

 中には友人トヤマ君が言うような、

 

 「ポッチャリ女子が好きだけど、それはただふっくらしているだけではなく、一度ダイエットをして、その後失敗してリバウンドをした肉のついたポッチャリがいい」 

 

 なんてマニアックな要望もあったりするが(それ、どう違うんだ?)、これが私の場合

 

 「女の子が、安堵の表情を浮かべる瞬間」

 

 2019年東レ・パン・パシフィックオープンで、日本の大坂なおみ選手が見事初優勝を果たした。

 大坂選手といえば、前年でUSオープンを制し、続いて年明けすぐのオーストラリアン・オープン優勝するなど大活躍で、日本人選手として初の世界ナンバーワンにも輝いたが、その後スランプに見まわれる。

 コーチとの契約解消や、ガラの悪いメディアへの対応、また女王となったことを意識しすぎるなどで本来の力を発揮できず、早期敗退をくり返しファンをヤキモキさせたが、ここへきて地元での栄冠を獲得し、続くチャイナ・オープンも制して一気の復活劇を遂げるのだった。

 このとき印象的だったのが、東レの決勝戦でのこと。

 マッチポイントを取って優勝を決めたなおみちゃん(本人公認の呼び名)は、感慨深げにをあおいだのだ。

 これまでのイメージだと、優勝を決めれば彼女は「やった! やった!」と無邪気に飛び跳ねていたようだが、ここではじっと、噛みしめるように味わっていた。

 そこにマンガのごとく、フキダシをつけるなら、そこに書かれるセリフはこうだったろう。

 

 「よかったぁ……」

 

 全豪優勝から半年以上、なおみちゃんにとって、この時期は非常に苦しいものだった。

 そのトンネルを抜けたとき、彼女は喜びよりも、むしろ安堵を感じたのではあるまいか。

 そのことが、これでもかと表情に出ていたものだった。

 勝ててよかった、ホッとした

 そして、様々な重圧から解放されるきっかけをひとつつかんだとき、ようやっと彼女のいつもの笑顔が花開いたのだ。

 ふだんのイノセントな彼女もいいが、この「なにかを乗り越えた」ときのホッとした姿も、またすこぶる魅力的だった。

 その後も大坂なおみ選手はテニスのプレーのみならず、様々なしがらみや軋轢にさらされ、今年のUSオープンでも初戦敗退を喫してしまうなど、苦戦を強いられることも多いよう。

 「ふつうの女の子」であることが、彼女の大きな魅力であり売りだったが、ビッグマネーや、世界中の魑魅魍魎がからむスポーツ界で戦っていくにおいては、それが通じないケースも増えてきて、いろいろとかみ合っていない印象を受けることもある。

 見ているこちらは、コートで戦う彼女を見守ることしかできないが、願わくば多くの笑顔に恵まれてほしいと、ファンとして心から思うのである。

 

 ■おまけ

 英会話学習のYouTubeをやっているサマー・レイン先生が、大坂なおみ選手のツイートを例文に英語を教えている動画。とても興味深いです。

 

 

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「勝率」よりも「勝負強さ」 鈴木大介vs羽生善治 2006年 棋聖戦挑戦者決定戦

2022年09月12日 | 将棋・名局

 


 「勝率が高い棋士よりも、勝負強い棋士になりたい」


 

 そんなことをいったのは、将棋のプロ棋士である鈴木大介九段であった。

 勝負の世界では、たくさん勝つというのが当然大事だが、それと同じくらい、いやむしろそれ以上に、

 「ここ一番で勝つ」

 ということが重要になってくる。

 もともとは島朗九段が言っていた言葉らしいが、年齢の違いはあれ、ポジション的にトップを走る「羽生世代」に挑む形の「追走集団」にいた棋士たちからすれば、特にその気持ちは強いだろう。

 実際、鈴木大介は、

 


 「僕が羽生さんと戦ったら、10番やって2、3番入るかどうか」


 

 そういうリアルな告白の後、こう続けたのだ。

 


 「でも、その勝ちを決勝戦とか挑戦者決定戦で当てることをイメージして戦っている」


 

 勝率では劣っても「いい位置」で勝てれば、その差は埋められるという鈴木流の勝負術であろう。

 今回は、その鈴木大介の思惑が、ピタリとハマった一番を紹介したい。

 

 2006年、第77期棋聖戦挑戦者決定戦

 相手は2年連続の挑戦をねらう羽生善治三冠

 鈴木のゴキゲン中飛車に、羽生は「丸山ワクチン」で対抗。

 角交換型の将棋によくある、おたがい仕掛けるのが難しい中盤戦だったが、鈴木が好機にを打ちこんで局面を動かす。

 を作られ、押さえこみの態勢に入られそうな羽生は、あれやこれやと手をつくして局面の打開を図るが、歩切れにも悩まされ、なかなか好転の兆しがない。

 

 

 

 この▲53金と打ったのもすごい手で、羽生の苦心のあとがうかがえる。

 △53同金なら、▲45に取られそうなを跳ね出して勝負ということだろうが、いかにも強引だ。

 鈴木は冷静に△27と、と取り、先手も▲52金△同金くらいでも攻めにならないから、▲62金、△同飛に▲53角成

 

 

 

 苦しいながらも懸命の食いつきで、玉の薄い後手も気持ち悪く見えるが、ここで鈴木大介は自分でも会心と認める一手を見せる。

 

 

 

 

 △44角とぶつけるのが、振り飛車党なら手がしなる、あざやかな駒さばき。

 ▲62馬△同角と取って、自陣の飛車と後手のとの交換の上に、働きの弱かった△33も使えて、後手大満足だ。

 それでは勝ち目がないと見て、羽生は▲44同馬として、△同歩に▲53金

 △72金の受けに、▲62金と飛車を取り、△同金に▲85歩と突いて、勝負勝負とせまるが、△59飛と打ちこんで後手がハッキリ優勢。

 

 

 

 以下、玉頭でもみ合って、羽生が▲82歩と打ったところ。

 

 

 

 ▲81歩成からの一手スキで、「最後のお願い」という手だが、鈴木大介はすでに読み切っていた。

 

 

 

 

 

 △72桂と打つのが、とどめの一着。

 詰めろを防ぎながら、次に先手がどうやっても、△84桂根本を払ってしまえば後続がない。

 ▲92角成のような手にも、△52金寄で受け切り。

 手がなくなった羽生は▲81歩成から、▲74角成として以下形を作り、最後は鈴木が先手玉を即詰みに討ち取った。

 これで鈴木は、1999年の第12期竜王戦以来のタイトル戦登場。

 序盤、中盤、終盤と振り飛車側がどれも圧倒した、すばらしい将棋だった。

 本人も、

 


 「今後、これ以上の将棋が指せるかなあ」


 

 そう漏らすほどの最高傑作。

 この内容を、羽生相手の挑戦者決定戦で発揮したのだから、まさに鈴木大介の勝負強さが、見事に結実した一局であった。

 

 


 ■おまけ

 (鈴木大介が竜王戦で藤井猛を翻弄

 (鈴木大介が順位戦で見せた渾身の勝負術

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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イントロクイズが苦手な私は、昭和・平成ブームに乗れない昭和・平成人

2022年09月09日 | 音楽

 イントロクイズの時間になると地獄である。

 人づきあいの中では、ちょいちょい「ゲーム」をする機会というのが出てくる。

 仕事関係の忘年会ならビンゴとか、合コンなら王様ゲームとか、そういった類だが、これが困りものである。

 もとより、あまりノリのよくないタイプから、こういう「イェーイ!」な場がダメなのだが、中でもマックス苦手なのが、音楽のイントロクイズ

 というと、同年代くらいのオジサ……もとい人生の古強者たちは、

 

 「わかるなあ。オレらもう、今の若い子の曲とか知らないもんね。クイズやるなら、ZARDとかWANDSとか持って来いよ」

 

 などという、われわれ世代が上司などから「宮史郎とぴんからトリオ」の話を聞かされたがごとき、ヤングにピンとこない、いにしえのボヤキを発するのだが、私の場合、症状はもっとひどい

 もちろん音楽くらいは聴くが、イントロクイズの題材にされるようなヒットソングにはあまり縁がないため、世代とか関係なしに、どんな曲を出されても、そもそもついていけないのだ。

 なので、わが同胞たちがヒップホップ米津玄師の新曲に苦戦する中、彼らの言う「ZARDとかWANDS」の他にも、ミスチルスピッツ長渕剛のような、時代を超えて聴かれているアーティストすらわからない始末なのだ。

 いや、そりゃ私だって邦楽だったらミッシェル・ガン・エレファントは大好きだし、ストレイテナーとかサンタラとかナンバーガールとか、GO!GO!7188とか筋肉少女帯とかも聴きますよ。

 でもこういうラインアップって、比較的メジャーだけど、絶妙にイントロクイズとかには出ないラインというか、少なくとも私はあまりテレビのクイズ番組などで、聴いたことがない。

 カラオケでも、あんまし盛り上がらない。やはりこういうのは、CMソングとかアニメの主題歌とか国民的アイドルとか「全員が知ってる」というのが大事なんだけど、なかなかそうはならないのだ。

 答えを聞いた瞬間、みなが「あー」「なるほどー」と共感を生み、「聴いたことはあったんやけどなー」と悔しがるリアクションが取れるような。

 どうも私の好みは、そこをはずしているらしい。

 こないだもサウナに行ったらテレビで、

 

 「今の若者に昭和・平成時代のアイドルやアーティストが大ブーム!」

 

 みたいな特集をやってたんだけど、そこで取り上げられるのは広瀬香美『ロマンスの神様』とかブラックビスケッツ『タイミング』とか、竹内まりやとか、小田和正とか、杏里とか、やはりサッパリである。

 おいおい谷山浩子とか、上々颱風とか、ブランキー・ジェット・シティとか、フェアチャイルドとか、オレが聴いてたような歌はブームにならへんのかい!

 うーん、別にマイナーってわけじゃないと思うんだけど、メディアの露出度とかの問題なのかなあ。タイアップとか。

 いや、これは音楽のみならず、人生のすべての面においてそうかもしれないが。オヨヨ悲しい。

 こうなるともう、ボヤくとしても同世代仲間のように「ZARDとかWANDS」ではなく、

 

 「今の若い子の曲とか知らないもんね。クイズやるなら、ブラームスとかコール・ポーターとかウード・リンデンベルクとかシルビィ・バルタンとか持って来いよ」

 

 などと、時代性もへったくれもない内容になってしまい、クイズには答えられないわ、同世代トークでも置いてけぼりだわ、まさに踏んだり蹴ったりなのであった。

 こないだ観た映画『ジュディ 虹の彼方に』(傑作です!)でクイズやってくれたら、全問正解できる自信あるんだけどなあ。

 劇中歌の『ゲット・ハッピー』だけじゃなく、『スワニー』とか『サンフランシスコ』とか『アレキサンダーズ・ラグタイムバンド』とか。

 だれか、対戦しませんか?

 

 

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自陣飛車35+自陣角15 佐藤康光vs谷川浩司 2002年 第61期A級順位戦

2022年09月06日 | 将棋・好手 妙手
 「自陣飛車」というのは上級者のワザっぽい。
 
 飛車という駒は攻撃力に優れるため、ふつうは敵陣に、できれば成ってにして暴れさせたいもの。
 
 そこをあえて、自陣で生飛車のまま活用するというのは難易度が高く、いかにも玄人という感じがするではないか。
 
 そこで今回はトップ棋士による、腰の入った大駒の使い方を見ていただこう
 
 
 2002年の第61期A級順位戦7回戦。
 
 佐藤康光棋聖と、谷川浩司王位の一戦。
 
 名人挑戦をかけて、2敗同士の直接対決は、後手の谷川が横歩取りに誘導。
 
 谷川が8筋からこじ開けにかかり、おたがいが大駒を持ち合う激しい展開に。
 
 むかえたこの局面。
 
 
 
 
 飛車の打ちこみに強い、後手の中原囲いにくらべて、先手陣は▲87がうわずって、左辺がいかにも寒い形。
 
 次、△79△89飛車を打たれたらひとたまりもないが、ここで意表の手が飛び出す。
 
 
 
 
 
 
 
 ▲79飛と、ここに打つのがすごい手。
 
 
 「敵の打ちたいところに打て」
 
 
 との意図はわかるが、思いついても、指すには相当の勇気がいりそうだ。
 
 森下卓九段の本によると、この局面は▲56角に、△79飛と打ちこんで後手優勢という結論だったそうだが、それをくつがえす新手となった。
 
 いかにも危なげな自陣飛車だが、これで意外と後手から攻めがないから、おどろき。
 
 谷川は△86歩と打って、▲88金に、△74歩と桂頭をねらう。
 
 次に、△75歩、▲同歩、△76角のようになれば成功だが、そこで▲67角がまたもや、おどろきの手。
 
 
 
 
 
 自陣飛車だけでなく、自陣角までとはサービス満点。
 
 これまた佐藤らしい、強情ともいえる指しまわし。
 
 いや、すごい形だけど、これで先手陣にスキがなく、ちゃんと受かっているのだから、おどろきだ。
 
 このあとも、なんとか暴れようとする後手に、的確に対処して快勝
 
 自陣飛車というのは、ただでさえ力強さを感じるが、佐藤康光が指すとそれ以上に「剛腕度」が上がる気がする。魅せますですなあ。
 
 ちなみに、対戦相手の谷川もまた、印象的な自陣飛車を指している。
 
 こちらは「光速の寄せ」らしく、攻めの自陣飛車だ。
 
 1986年の王将戦。谷川浩司九段と森安秀光八段の一戦。
 
 
 
 
 
 
 四間飛車と▲46銀型急戦からむかえた終盤戦。
 
 ここで、「次の一手」のような、カッコイイ決め手が出る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲97飛が、作ったような一手。
 
 △87香成、▲同玉、△75桂からの詰みを消しながら、次に▲95歩からのピストン砲に受けがない。
 
 森安は△85桂と飛車を責めるも、かまわず▲95歩の「端玉には端歩」で決まっている。
 
 これは私が子供のころ、谷川浩司棋王が講師をやっていたやっていた、NHK将棋講座「谷川流勝ち方教室 大局観が勝負を決める」で紹介されていたもの。
 
 私が将棋をはじめたばかりのころだけど、こんな手を見せられたら、そら今でも憶えてますわな。
 
 
 ■おまけ
 
 (自陣飛車といえば、この人というのが木村一基九段
 
 (羽生善治の見せた攻めの自陣飛車
 
 (佐藤康光と谷川浩司の名人戦での死闘
 
 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 
 
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施川ユウキ『ベルナルド嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? その4(続き)

2022年09月03日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」

 との企画。前回に続いて、今回も4巻の続きです。

 

 

 ■蟹工船』小林多喜二(未読)


 高校のとき使った、世界史資料集の「拷問後の惨殺死体写真」しか思い出せない。

 母校である大阪府立S高校は昔のころらしく、ゴリゴリ左寄りだったから、なぜか国語の先生が熱く語っていた記憶が。

 今考えると、ネタ的にはおもしろい学校だった。

 

 ■村上海賊の娘』和田竜(未読)


 雑食だけど、時代物はあまり読まないタイプ。関川夏央『おじさんはなぜ時代小説が好きか』は、すごいおもしろい。

 海賊と言えば、『ワンピース』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』なんかを連想する人が多いだろうけど、私はアニメの『宝島』と『グーニーズ』(テレビの吹き替え版)。

 


 ■深海のYrr』フランク・シェッツィング(未読)


 フランクの『黒のトイフェル』はおもしろかったけど、こっちは長いからなあ。怪獣ものだから、読みたいけど。

 どうでもいいけど、「Teufel」ってドイツ語で「悪魔」の意味なんだけど、なんで「トイフェル」のままなの?

 

 ■十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ(未読)


 子供のころ、読んだかもしれないけど憶えてない。

 たしか『ドラえもん』で、のび太くんが夢中になって読んだのがこの本だったよね。

 「未来を見せてやる」との交換条件で、出木杉くんを自力でトイレにも行けない朗読奴隷にする、非人道的なアイテム使って。

 

 ■海底牧場』アーサー・C・クラーク(未読)


 未読です。

 クラークと言えば映画『2001年宇宙の旅』が難解な映画のように見えて、ノベライズ版を読むとわりと簡単に理解できてしまうというのは有名なお話。

 ミュージシャンの大槻ケンヂさんが、

 「全然、むずかしくもなんともないじゃん!」

 つっこんでおられました。

 

 ■ムーミン・パパ海へ行く』トーベ・ヤンソン(未読)


 『ムーミン』はアニメも観てないや。

 


 ■破船』吉村昭(未読)


 未読です。

 

 ■人魚姫』アンデルセン(未読)


 この人、現代に生きてたら、

 「キラキラで超リア充人生を送るセレブ女子高生」

 といったフェイク日記で、すごいアクセス数稼いでるだろうなあ。

 


 ■浦島太郎』(未読)


 昔話って、意外とストーリーとか憶えてない。

 『金太郎』とか、なにも語れないぞ。本名「坂田金時」って、私の世代はそう聞くと『がんばれ!キッカーズ』を思い出してしまう。

 

 ■モモ』ミヒャエル・エンデ(未読)


 エンデは理屈っぽく説教くさいという噂なので、いまいち食指がのびない。

 


 ■はてしない物語』ミヒャエル・エンデ(未読)


 同上。


 ■魔法の世紀』落合陽一(未読)


 あの落合信彦の息子さんというのがすごい。

 

 ■死の鳥』ハーラン・エリスン(未読)


 エリスン、読んだことないなあ。


 ■『君たちはどう生きるか』吉野源三郎(未読)


 「読まない同盟」に私も参加します。

 現代版は、表紙のメガネがまた押しつけがましくて……。

 

 ■美しい椅子』島崎信(未読)


 こういう写真集は、一度見ると妙に楽しかったりする。

 ■人間椅子』江戸川乱歩(読了


 乱歩先生の耽美でオドロオドロしいところと、底抜けなところが両立した傑作。

 

 

 ■隅の老人の事件簿』バロネス・オルツィ(読了


 読んだことあるけど、なぜか全然覚えていない。昔は「本格」って苦手だったんだよな。

 エラリー様の『オランダ靴』を読んで感動し、今は大好きだけど。

 


 ■AIと人類は共存できるか』(未読)


 将棋ファンとしては興味あります。

 

 ■方船さくら丸』安部公房(未読)


 安部公房は読んだことない。

 

 ■縮みいく男』リチャード・マシスン(未読)


町山智浩さんによる「精神的インポテンツの話」という解説にはなるほど。

 


 ■蜘蛛の糸』芥川龍之介(読了


 カンダタはともかく、糸たらした仏がイヤな奴としか思えない。

 上から目線で人を試すなよ。ライバルのジーザスも、そういうのはアカンてゆうてたやん。助けてやれよ。

 

 ■走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹(未読)


 走ることというと、10代のころ体育で持久走が嫌だった記憶しかない。

 しかし、しゃらくさいタイトルだなあ。


 ■死のロングウォーク』スティーブン・キング(読了


 「デスゲーム」ものの元祖。今のマンガ文化にあたえた影響は計り知れない。

 

 ■バトルランナー』スティーブン・キング(未読)


 買って、たしか押し入れのどっかに入ってるはず。

 

 ■痩せゆく男』スティーブン・キング(読了)


 『月刊コンプティーク』の書評で紹介されて読んだ。

 以前、ある友人が「若いとき読んだ本を、大人になって読み返すと、昔とはまた違った解釈や気づきが生まれて、興味深いねんなー」

 と言うので、

 「わかるわー。オレも高校生のころリチャード・バックマン(キングの別名)『痩せゆく男』読んで、食べても食べても痩せていく描写にビビったけど、大人になったら食うても太らんなんて、メッチャうらやましいもん!」

 そう返したところ、友はクールに一言、

 「そういうん、ちゃうねん」

 


 ■闇の中へ』『しあわせの理由』グレッグ・イーガン(未読)


 イーガン大人気だなあ。『しあわせの理由』は買ったので、そのうち読みます。

 

 以上。結論としては、「なるほど、みんなこういうことをやるために、Twitterをやってるんやなあ」。

 ブログだと、だらだら長いよ。

 

 (続く

 

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