「マキ割り流」と「無敵四間飛車」 佐藤大五郎vs中原誠(&真部一男) 1969年 第24期B級1組順位戦

2020年05月31日 | 将棋・好手 妙手
 

 「局面は忘れても手順は憶えている。△85竜、▲同玉、△67角打である」

 
 
 そんな一文を書いたのは先崎学九段であった。
 
 昔『将棋世界』に連載されていたエッセイでのことだが、さらに続けて、
 
 

 「僕はこの将棋を観て、将棋の終盤にも美しいという感覚があることを知った」

 
 
 そこまでいわれると、指した人がだれか知りたくなるが、答えは佐藤大五郎九段
 
 前回は「不思議流」「受ける青春」と呼ばれた中村修九段のしのぎを紹介したが(→こちら)、今回は豪快な攻め将棋を見てみたい。
 
 
 佐藤大五郎といえば、A級2期と、王位挑戦の実績がある昭和の名棋士。
 
 その独特の力強さから「マキ割り流」と呼ばれ、ベストセラーにもなった著書のタイトルが『無敵四間飛車』と言うのだから、そのインパクトは充分である。
 
 今の洗練された、さわやかな若手棋士が活躍する将棋界になじみがある人からするとピンとこないかもしれないが、昭和の将棋界というのは、少しばかりアクが強かった。
 
 いわゆる博打にからんだ「豪傑」や、ピーター・シェーファー『アマデウス』のような
 
 「天才ゆえの幼児性
 
 といったエピソードも多い。
 
 「花の55年組」から「羽生世代」が活躍しはじめるまで、そういった「無頼派」「アウトロー」な雰囲気が、色濃く残っていた時代だったのだ。
 
 佐藤大五郎九段も、その御多分にもれずの「昭和の豪傑」。
 
 ダイヤモンドを散りばめたウン百万の腕時計をしていたり、ラーメンを食べるためだけに、フラッと羽田空港から北海道に飛んだりと、派手なエピソードには事欠かない。
 
 ただ、その金回りの良さについて回る成金趣味と(太めのパトロンがいたらしい)、周囲にイバリ散らしたりする態度から敬遠する人も多く、ときには嫌がらせを受けるようなことも多かったよう。
 
 特に順位戦で苦労したのは周囲の、
 
 
 「大五郎にだけは上がらせるな」
 
 
 という敵愾心によって、常にアウェーの環境で戦っていたからだ、といわれている。
 
 そんな、好き嫌いがわかれる佐藤大五郎九段だが、将棋のほうは個性的で、「棋士」というよりも「将棋指し」という言葉が似合うタイプだった。
 
 序盤はうまくなかったそうだが、不利になってからの「悪力」ともいえる指しまわしに定評があり、終盤はアッという筋で、見事な逆転を決めてしまう。
 
 そのドラマティックな棋風が、また人気の一因だったのだろう。
 
 
 1969年B級1組順位戦。佐藤大五郎七段と中原誠七段の一戦。
 
 佐藤の四間飛車に中原は急戦で挑み、を作って、さばきを牽制する。
 
 中原が指せそうに見えたが、そこから佐藤が力を見せて中原陣を突破。
 
 むかえた、この局面。
 
 
 
 
 
 飛車は取られたものの、6筋から8筋にかけての後手の駒が重くと金が大きくて、振り飛車さばけ形に見える。
 
 先手は▲34銀取りで、これが生きているうちに一仕事したいが、ここで作ったよう絶好の一手がある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲93馬と取るのが、「創作次の一手」のような手。
 
 これが「マキ割り流」の強烈なカラ竹割だ。
 
 △同香▲23銀成と飛びこんで、△同玉に▲35桂と打って詰み
 
 中原は△53馬と逃げながら、▲35桂の筋を消すが、ここでさらなる一撃がおそいかかる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲23銀成、△同玉、▲75馬の押し売りが、きびしすぎる追い討ち。
 
 △同馬はやはり▲35桂だから、取るに取れない魚屋の猫。
 
 並べるだけでも、胸のすくような順である。
 
 決まったようだが、中原も気持ちよく勝たせてなるものか、とばかりに△24銀とねばる。
 
 悲壮な頑張りだが、若手棋士はこれくらいの根性を見せなくてはいけない。
 
 もっとも、さすがにこの将棋は、ここまでクリティカルヒットを食らいすぎた。
 
 佐藤は当然▲53馬と取って、△同金に▲42角がとどめの一撃。
 
 
 
 
 このアックスボンバーには、さしもの「未来の名人」中原誠もたまらずダウン。
 
 以下数手で投了し、佐藤大五郎九段の会心譜が誕生した。
 
 いかがであろうか、このあざやかすぎる「マキ割り」の威力。
 
 先崎九段は佐藤将棋を「官能的」と表現したが、たしかにウットリする力強さだ。
 
 ちなみに、冒頭の手順は1984年の第42期昇降級リーグ1組(今の順位戦B級1組)、佐藤大五郎八段と真部一男七段の将棋。
 
 
 
 
 
 
 
 受けなしになった後手の佐藤大五郎が、王手ラッシュに入り、△89竜に、先手の真部が▲76玉と逃げたところ。
 
 右辺から上部が開けていて、後手の持駒もとぼしく、詰みがないように見えるが、ここから3手で終わる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 △85竜▲同玉△67角打で見事に捕まっている。
 
 ▲76銀△84香
 
 ▲67同金△同角成▲同竜△75金で、やはり詰み
 
 ▲76玉では▲88銀と引いて受けておけば、その後も王手は延々と続くが、なんと最後▲62の地点まで逃げて詰まなかった。
 
 手順だけ書けば、△89竜、▲88銀△98角、▲66玉、△76角成、▲57玉、△59竜、▲46玉、△56竜、▲35玉、△36竜、▲44玉、△34竜、▲53玉、△43竜▲62玉まで不詰。
 
 
 
 
 
 
 途中、竜のぐるぐる回しが綺麗に入るところや、△98角の王手が最後に利いて△43竜とできるところなど、流れ的には詰むところのようだが、△45にいる死角を縫うようにヌルヌル抜けて、つかまらない。
 
 真部は詰みなしと読んでいたから、これはトン死なんだけど、それにしても思いつかない筋だ。
 
 次の日の朝、真部はこの手を仲間に示しながら
 
 

 「いい手があるんだ」

 
 
 何度もくり返したそうだが、たしかに人に教えたくなる「美しい」終盤である。
 
 
 
 (谷川浩司の「21歳名人」編に続く→こちら
 
 
 
 
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コロナ日記 ギラススピンと大江戸コングで世界大洪水

2020年05月28日 | おもしろ映像

 いろいろ大変なときは「バカ映像」にかぎる。

 昨今のコロナ危機で、不便な思いを強いられているが、私のストレス解消法はマヌケな動画を観ること。

 前回オススメしたのが「奥崎謙三の政見放送」と、氏が主演のカルトドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』だが(→こちら)、今回はすぐれた破壊シーンを。

 
 「モノを壊す」というのは妙にカタルシスがあるもので、ゴジラやウルトラマンなど「特撮」が人気なのは、やはりこの破壊シーンにウットリできるから。

 こういうご時世だからこそ、むしろあえて世界が崩壊するような映像を見るのが、「逆療法」的いやしになるのではと考え、そういったものをあれこれ探してみることにする。

 まずは『ウルトラマンレオ』の第1話(→こちら)。

 レオの故郷であるL77星を滅亡させたマグマ星人、今度は地球にねらいをさだめ、凶悪な双子怪獣レッドギラスとブラックギラスを送りこんでくる。

 強烈な嵐を起こして、津波で日本を沈没させようとするのだが、この特撮がド迫力。

 当時はウルトラシリーズもマンネリ化し、オイルショックなどで予算的にも苦しい時期だったそうだが、それにしてもこれは出色の出来だ。

 ビルがバンバン飲みこまれていくところとか、本当に怖いくらい。マジすごいッス。イカも飛んでくるし。

 

 続けては海外から。時代はずいぶん下って、1933年の特撮(→こちら)。

 『Deluge』という映画。日本では『世界大洪水』というタイトルで公開されたそうな。

 戦前のそれと言えば、セットとかもショボショボなんでねえの? と思われるかもしれないが、さにあらず。

 ニューヨークが壊滅するシーンなんだけど、これがもうこれでもかという破壊でビビる。

 SF作家である山本弘さんの『あなたの知らないマイナー特撮の世界』という同人誌で紹介されてて、メイキングの写真とかも載ってたんだけど、今押し入れあさっても見つからないでやんの。

 たぶん、特撮ファンの友人に貸して、そのままになってるんだろう。そこで紹介されてた、『江戸に現れたキングコング』とか、すごく観たいぞ!

 

 

 

 

 山本先生のブログによると詳細は不明だそうだが、メチャおもしろそうやん!

 

 面白い映画

 怖ろしい映画

 話の種に是非一度は見て頂き度い映画!

 無敵全勝黄金篇

 

 という宣伝文句もすばらしい。 

 

 (プロレス&アイドル編に続く→こちら

 

 

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「不思議流」と「受ける青春」 中村修vs鈴木輝彦 1983年 第14期新人王戦 その2

2020年05月25日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)の続き。

 1983年新人王戦準決勝。

 中村修六段鈴木輝彦六段の一戦。

 鈴木の筋のよい攻めに、中村は受け一方に立たされる。

 

 

 

 からはと、と金が、タテからは飛車桂馬がせまっており、先手玉はいかにも危なく見える。

 なにか後手からいい手がありそうだが、その通り、この局面で鈴木は決め手を放つ。

 

 

 

 

 

 △79銀と打つのが、寄せのお手本のような手。

 △69銀△67銀打は「王手は追う手」の見本で、絶対やってはいけないが、この銀こそは、

 

 「玉はつつむように寄せよ」

 

 という見事な形。

 次、放置すれば△67銀成と飛びこんで、▲同玉は、△68銀成までの詰み。

 かといって、△67銀成▲87玉と逃げるようでは、△88銀成と金を取ってから△66成銀くらいで受けなし。

 △79銀▲同玉と取るのも、やはり△67銀成と入りこまれる。

 ▲78金くらいしかないが、△66成銀を取っておくくらいでも、次の△77歩が激痛で試合終了。

 鈴木輝彦も「間違いなく勝ち」と確信していたが、さもあろう。

 どう見たって、先手に受けがない。

 とりあえず▲75銀と出て、一回はしのぐが、これがいかにも力がない手というか、△67銀成からの詰みを、▲66に逃げられる形にして防いだだけ。

 策のない、ただの延命のように見える。鈴木は△67銀成と捨てて、▲同玉に△88銀成と取る。

 △57金の詰みを防いで、▲58飛と、と金を払うが、そこで△47歩成として、きれいな飛車角両取り。

 

 

 ▲88飛しかなく、△37と、とを取られて、これまたしょうがないと▲85金と桂をはずしてがんばる。

 

 

 

 この局面が、クライマックス。

 後手の鈴木が先行し、その間中村は、しょうがないしょうがないの連続で、ただただ受け続けただけだ。

 その間、鈴木にきらめくような妙手も飛び出し、中村はサンドバッグ状態。

 特に頑強な受けや、相手を惑わせる魔術めいた手もなかった。

 ところがなんと、この局面はすでに先手勝ちなのである。
 
 はえ? そんなことあるの?

 と信じられないところだが、これが本当に、中村勝ちは動かないのだ。

 後手からは、様々な攻め筋がある。

 本譜の△57金からはじまって、△56角△87歩△79角△66歩△56銀などなど。

 しかも、どれを選んでも勝てそうなのに、実際のところはどれを選んでも負け

 そう、中村は中盤から攻められまくって「しょうがない」という手を指さされていると見えたのは錯覚だった。

 それどころか、中村は

 

 「この攻めは受け切り勝ち」

 

 完全に見切っていたからこそ、あのサンドバッグ状態でも平気な顔をしていたのだ。

 とはいえ、それにしても、信じられないではないか。

 こんなもん寄らないはずはないと、控室ではあれこれ手をつくして攻めまくるが、すべてしのがれている。

 メンバーは当時、順位戦でノンストップ昇級を続けていた田中寅彦七段(この年A級にもあがる)や、あの佐藤康光九段にも大きな影響をあたえ、「控室の主」として君臨していた、室岡克彦四段など。

 今でいえば、近藤誠也青嶋未来のような、将来有望な若手ばかりだ。それがよってたかってつぶしにかかって、どうにもならない。

 みなムキになって、2時間以上つついたが、やはり先手がどうやっても勝つ。

 ついには、この将棋を取材していた河口俊彦八段が音をあげて、

 


 「将棋とはこんなにも受けが利くものかと、驚くより呆れてしまった」


 

 これには感嘆することしきり。

 これぞ、中村修将棋だ。

 「変な手をやってくる」

 と思っていたら、それが深い読みの入った手。

 「どう見ても寄ってる」

 という局面が、実はそうではない。

 では、どこが良くて、どこが悪かったのかといえば、これまたよくわからない

 でも、最後はちゃんと中村勝っている。

 なんという将棋の作りか。これこそが、「不思議流」「受ける青春」の真骨頂である。

 とはいえ、やっぱりこれは不思議な将棋である。

 攻められっぱなしの上、鈴木に悪手がないどころか、△79銀のような鋭手をくらい、反撃のターンすら一度も回ってこないのに、気がついたら必勝。

 中村と仲の良い先崎学九段は、中村将棋を
 
 

 「一度も攻めずにタイトルを取った男」

 

 と評したが、それも納得がいく。

 中村九段は「不思議流」というキャッチフレーズに、

 


 「思いついた普通の手を、指してるだけなんですけどねえ」


 

 納得いってないようだったが、なにかこういう将棋を見せられると、

 「問答無用で不思議」

 と言わざるを得ないではないか。

 

 

 (「マキ割り流」佐藤大五郎の悪力編に続く→こちら

 (中村修の喰らった大トン死編は→こちら

 

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「不思議流」と「受ける青春」 中村修vs鈴木輝彦 1983年 第14期新人王戦

2020年05月24日 | 将棋・名局

 中村修の強さは、まさに「不思議」である。

 前回は先崎学九段による居飛車穴熊の戦い方を見たが(→こちら)、今回は真逆の「薄い」将棋を。

 中村修九段といえば高橋道雄九段南芳一九段塚田泰明九段島朗九段など、タイトルホルダーやA級棋士を多く輩出した「花の55年組」の一員で、若かりしころは、

 

 「不思議流」

 「受ける青春」

 

 と呼ばれる、独特のディフェンシブな将棋で、王将のタイトルを獲得したこともある。

 私が将棋をおぼえたころ、ちょうど中村王将は中原誠名人との防衛戦を戦っているころで、そのさわやかな風貌と、それに似合わぬ曲線的な指しまわしに、一気にファンになってしまったのだ。

 ただ中村修の将棋は、その強さと個性にもかかわらず、妙に説明しにくいところがあった。

 受けが強く、終盤力に定評があったことは事実だが、じゃあ具体的にどうすごいのか。

 そういわれると、ハテと首をかしげるところがある。

 終盤は強いが、藤井聡太七段のような、切れ味鋭い寄せという感じでもない。

 受けといっても木村一基王位のように力強いわけでも、デビュー時の永瀬拓矢叡王王座のように「受けつぶし」をねらうわけでもない。

 全体的にフワッとしてて、なんだかよくわからない手を指し、そのままメッタ打ちを食らって負けそうに見えるとこから、気がついたら勝っていたりする。

 で、なぜそうなったかわからず、みなが「なんで?」と首をかしげる。

 そのつかみどころのなさが「不思議流」のルーツになったが、その相手に急所をつかませないところこそ、中村将棋の強みだった。

 その様子をわかってもらうには、この将棋がいいかもしれない。

 

 1983年新人王戦の準決勝という大きな一番。

 相手は実力者である鈴木輝彦六段

 

 

 

 

 矢倉模様の戦いから鈴木が仕掛け、中村は手にのって中央から盛り上がり反撃するが、ここで手筋がある。

 

 

 


 

 

 △88歩と打つのが、筋中の筋。

 居飛車党の攻め将棋なら、もう自然に指がここに行くというものだろう。

 ▲同角△46歩だから、▲同金だが、になって▲88への脱出路をふさいでいるうえに、▲67浮き駒になってしまった。

 さすが、筋のよさで鳴らす本格派の鈴木だ。

 以下、△46歩▲同角に、△44銀と進出。

 ▲64銀と角道を遮断するも、無視して△45銀

 ▲37角△46歩と押さえ、▲73銀成を取って、△同桂▲54歩と取りこんだところで、△56銀打と浴びせ倒し。

 

 

 

 先手陣はバラバラで、飛車も使えておらず、攻め合いにもならない。

 なにか、後手が好きなように指しているようだが、これが中村は涼しい顔をしているというのだから、よくわからない。

 ▲77金寄とよろけ、△57歩にはヒョイと▲78玉と早逃げ。

 △58歩成と、「マムシのと金」ができて、ますますピンチに見えるが、すっと▲86歩と逃げ道を開けて耐える。

 

 

 

 右から追うと、玉を▲87から▲98に収納してがんばれるという読み。

 こうなると、手筋の△88歩が、逆に先手玉を固める手になって、逆用できる、と。

 そうはさせじと、後手は△85歩として、今度は上部から手をつける。

 ▲同歩△同桂と桂馬もさばけて、ますます好調に見えるが、中村は平気の平左で▲86金とあがる。

 

 

 

 むかえた、この局面。

 先手は攻めこまれているようで、なんなりと手をつくして受けまくる。

 なんとか一手空けば、▲64角とか▲42歩の反撃もあるが、鈴木はここで必殺の一手を用意していた。

 

 (続く→こちら

 

 

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コロナ日記 奥崎謙三の政見放送と『ゆきゆきて、神軍』

2020年05月21日 | おもしろ映像

 いろいろ大変なときは「バカ映像」にかぎる。

 昨今のコロナ危機で、みな不便な思いを強いられているが、こういう不安やストレスの解消法は人それぞれ。

 「甘いものを食べる」

 「おしゃべりをする」

 「ネットで悪口を書く」

 などあるだろうが、私の場合はマヌケ動画を観ることである。

 まず、オススメしたのがコレで「奥崎謙三の政見放送」(→こちら)。

 これはガチな話、「最近、元気がない」「悩みがある」という人に、もれなくこの動画を勧めている。

 開口一番から、

 

 「殺人、暴行、猥褻図画頒布、前科三犯」

 「独房生活13年8か月」

 

 などなどパワーワードが連発。

 これを、NHKの優等生アナウンサーが、淡々と読み上げるのだからシビれる。

 政権演説開始後も、

 

 「落選確実のわたくしが」

 「政治家、国家、国法をなくすべく」

 「重症の気ちがいで、無知蒙昧な野蛮人」
 
 「天皇裕仁と田中角栄を殺したい」
 
 「ニューギニアから生きて帰れたのは、上官を多くなぐったから」

 

 地上波どころか、今のご時世YouTubeでもムリであろう、ハードパンチを連発。

 稀代の奇人である奥崎健三の強烈な「人間力」に圧倒され、悩みなど吹っ飛ばされること間違いなし。

 これで、「奥崎さん、クール!」と感じたアナタは、ぜひとも氏が主演を務めた『ゆきゆきて、神軍』も観ましょう(→こちら)。

 かつて後輩にオススメして、何の因果かそれを彼が恋人と見たら、それ以降しばらく口をきいてくれなくなったという、いわくつきの物件だ(その顛末とストーリーの概略は→こちら)。

 

 

奥崎さんの営むバッテリー工場。こんなのが近所にあったら、常連になるか引っ越すかの2択しかない。

 

 

 

 

奥崎さんの乗る文字通りの「痛車」。プラモかガレージキットで出ないかな。

 

 

 この後輩にかぎらず、まあ一般ウケはせんですわなというカルト作品。

 以前、週末に友人と食事をする約束があって、土曜の夜はリア充系の友たちと(女の子もたくさん)鍋パーティになった。

 会話の内容も、

 「『ショーシャンクの空に』観たよ。すごく感動しちゃった」

 みたいなもので、続く日曜日は別の友人たちと、安居酒屋の個室で『ゆきゆきて、神軍』の話で盛り上がって(もちろん女人禁制)、

 「これは、同じ地球の出来事なのか?」

 なんて不思議な気分になったものだ。日本なのに、なんだか「多民族国家」に住んでる気分。

 そんな、「ふつうではない」魅力を持つ奥崎謙三氏と『ゆきゆきて、神軍』。

 自粛のモヤモヤを吹っ飛ばすには、一番のパワーを持っていると思うのですが、いかがなものでしょうか。

 もし奥崎さんが今でも生きてたら、絶対YouTuberになってるだろうなあ。すぐbanされそうだけど。

 

 (大江戸コングと『世界大洪水』編に続く→こちら

 

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穴熊の暴力教室 先崎学vs依田有司 1990年 C級2組順位戦

2020年05月18日 | 将棋・好手 妙手

 「穴熊の暴力」という言葉がある。

 前回、「終盤の魔術師」こと森雞二九段の泥臭い逆転劇を紹介したが(→こちら)、今回はそんな森将棋にリスペクトをかくさない棋士について。

 穴熊という囲いはくずすのに時間がかかるため、通常ではゆるしてくれないような、無理攻めや細い攻めが通ったりする。

 特に居飛車穴熊でそれが顕著で、振り飛車側が序中盤で多少ポイントを稼いでも、囲いのアドバンテージを使って、力まかせにひっくり返されたりするのだ。

 とにかく、

 「トン死筋がない」

 「王手すらかからないから、終盤の競り合いで自陣を見なくていい」

 というのは、盤上のみならず、精神的にも安心でミスも減りやすい。

 好き嫌いはあるし、バランス重視の将棋が評価される最近では、以前ほどの脅威はないそうだが、それでもうまく使えば実戦的に「勝ちやすい」のは事実だろう。


 1990年C級2組順位戦の3回戦。

 先崎学五段依田有司五段の一戦。

 依田の三間飛車に、先崎はすかさず得意の穴熊にもぐり、華麗なさばき合いから、両者とも敵陣に飛車を打ち合って寄せ合いに突入。

 図は先手の依田が、▲44歩と筋よく突いたところ。


 

 △同歩なら、▲43歩と打って、△24角▲53角成

 歩の代わりに、直接▲43銀打とたたきこんでも相当だ。

 この筋に歩が立つようになれば、どこかで▲49歩底歩を使って、一手かせぐこともできるかもしれない。

 攻めのお手本のような歩突きで、先手の調子がよさそうだが、ここは先崎がねらっていた局面だった。

 △39竜と、ここでバッサリ切るのが、穴熊流のするどい大刀さばき。

 ▲同玉で、一見それ以上の攻めがないように見えるが、取った金を△51金と、ここに打ちつけるのが継続手。

 



 飛車せまい先手は▲63飛成と逃げるも、△62香田楽刺しを決めて、▲72竜に4筋の傷はかまわず、△64香を取る。

 

 

 手番をもらった先手は待望の▲43歩成だが、これには△同金(!)と取ってしまって、▲同銀成△46歩のタタキが、強烈極まりない一撃。


 

 この局面を見ていただきたい。

 後手はを一枚ボロっと取られたが、自陣に駒の数が多く、ほとんどダメージを受けていない。

 一方、先手陣は美濃囲いの要である▲49がいなくなり、と金△46歩の位置がに近すぎて風前の灯火。

 自玉を補強する手段もないし、攻め合うにも一手違いどころか、3手くらい遅れている印象。

 ▲42成銀を取っても、△同金右で、なにも起こらない。

 若手時代の先崎の切れ味と、穴熊の強みがこれでもかと発揮された展開だ。

 以下、▲46同金△57角と打って、後手だけが攻める展開で圧倒

 この一連の手順にはおどろかされるとともに、なんともいえない不条理も感じたものだ。

 というのも、先手が指した▲44歩というのが、非常に感触がいいというか、「将棋の本筋」ともいえる手だからだ。

 これが穴熊には通用しない。

 この、ふつうの将棋における文法なら、明らかにいい手のものが、「悪手」や「緩手」になってしまうところに、穴熊の持つ「不条理」がある。

 この一局は、居飛車の攻めがかなりスマートなため、あまり「暴力」感はないが、それでもこの▲44歩まったく通らないところなど、負かされた方は全力で納得がいかないだろう。

 たしか、ここでの最善は▲44歩のところで、▲81と、と補充しながら飛車にするところだったそう。

 とはいえ、あの堅陣を見れば、こんな堂々とした手は、さすがに指せない。

 後手からは△57桂のような、地味だが着実な攻めがあり、それなら、なんとか1枚でも、穴熊の装甲をけずりたいとなるのも人情だろう。

 それが通らないのだから、振り飛車側も困惑するしかない。

 いわば、華麗な剣舞を披露する騎士が、戦車マシンガンの前にはまったくの無力であるような無常感がある。

 振り飛車党の逆襲は、この5年後の「藤井システム」誕生まで待たなくてはならない。

 
 (中村修の「不思議」な受け将棋編に続く→こちら
 
 
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コロナ日記 「時間つぶしはゲームが最強」編

2020年05月15日 | 日記

 「ゲーム好きは、たしかにこの状況には強いかもしれへんねえ」。

 テレビ電話越しに、そんなことを言ったのは友人トネヤマ君であった。

 昨今、コロナの影響で外出が制限されており、家での過ごし方は人それぞれであるがトネヤマ君は、

 「オレはゲーム好きやからなあ。まあ、家出るなと言われても、そんなに困ることはないかもね」。

 『将棋世界』で連載を持っていたこともある編集者の山岸浩史さんは、かつて、

 「牢の中でネット将棋が指し放題なら、終身刑を宣告されてもかまわない」

 という名言(?)を残し、将棋関係者をあきれ……感動させたものだが、そういやトネヤマ君も昔、

 「24時間ゲームだけして、他のことせんと過ごせるんやったら、家から一生出られへん、死ぬまで誰とも会われへんって言われても平気やな」

 山岸さんと、ほとんど同じことを言っているわけで、デジタル・アナログ問わず、「ゲーム」というのはそれだけ人を惹きつけるのだろう。

 私自身、今ではほとんどやらないが周囲にゲーマーは多く、なかなかの「インシテミル」ぶり。

 友人ジョウナン君はRPGが好きすぎて『クロノ・トリガー』『グランディア』『ヴァルキリープロファイル』といったお気に入りのゲームを、ふつうにクリアするだけは物足りず、

 「主人公だけ操作してクリア」

 「魔法なしでクリア」

 など「縛りプレイ」をやりつくし、ついにはネタ切れになり、「目をつぶりながらクリア」などという神業に挑戦してた。

 友人ハタ君は一時期オンラインゲームに、ずっぱまりしたことが。

 『ウルティマオンライン』が楽しすぎて盆休みの一週間、近所のコンビニに食料を買いに行く以外ずーっと、それこそ寝るのもその姿勢だから、1日23時間半パソコンの前にすわっていたら、休みの最終日に鏡を見て卒倒しそうになったそう。

 その様は本人いわく「生ける屍」「遭難13日目」「クトゥルフ神話に出てくる邪神を見て発狂した人」というもので、どんだけやってたんや、と。

 そんな彼も、一歩外へ出れば結構優秀な技術者なんだから、人生とはわからんもんです。「ゲームはよくない」という大人はいまだに多いけど、まあみんな、そこそこ普通の社会人になってますよ。

 そんな話を、別口で後輩アサヒガオカ君にしてみると、

 「わかりますわあ。自分も、就職するまでは平日学校帰りに6時間、土日は11時間ゲームやってたッス」

 すごいもんだと言いたいけれど、まあゲームジャンキーでなくとも『ダービースタリオン』とかなら、ずーっとやってる人とかいたね。

 「自分、だいぶ前っスけど先輩からケン・グリムウッドの『リプレイ』って小説、借りたやないですか?」

 はいはい。主人公が人生を何回もやり直せるっていう「リプレイもの」の元祖になった大傑作ね。

 「あれ、メッチャおもろかったんスけど、やっぱ考えてまいますよね。自分やったら、どうするやろう、て」

 考えるねえ。あの本でも、人生やり直せてラッキーやけど、よかれと思ったことが裏目に出たり、子供とか慈しんだ存在がリセットされる切なさがあるんよね。

 「あれは泣くッス。で、自分ならどうするか真剣に考えて出た結論がですね」

 はいはい。気になるね。

 「わかりやすく5回《リプレイ》できるとしたら、3回目くらいの人生は、丸々『ポケモン』に使い切りますね」。

 そっかー、ポケモンはハマるらしいもんねえ……て、主人公が30年くらいゲームばっかやってる『リプレイ』じゃあ感動できないって!

 

 

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「終盤の魔術師」見参! 森雞二vs二上達也 1982年 第40期棋聖戦 第1局

2020年05月12日 | 将棋・名局

 将棋の世界には「クソねばり」という言葉がある。

 形勢が不利になると、逆転をねらって「ねばる」というのは、当たり前の行為だが、中には



 「もうムリっしょ」

 「早く投げろよ」



 という声が多勢をしめるような局面にもかかわらず、それでも根性(もしくは投げきれなくて)で指し続ける場合があって、こういうのを少々下品な言葉だが「クソねばり」というのだ。

 前回は若手時代の羽生善治が、名人戦で森内俊之に見せた、神業的読みの深さを紹介したが(→こちら)、今回は実戦的で、泥臭い将棋を見ていただきたい。

 

 1982年、第40期棋聖戦第1局

 二上達也棋聖と、森雞二八段との一戦。

 先手の森が向かい飛車にして、▲86歩飛車交換をせまる仕掛けを見せるが、これが少々無理気味だったよう。

 二上のあざやかなカウンターを食らい、形勢を損ねてしまう。

 

 

 

 △88歩が痛打で、先手がシビれている。

 ▲同金△67歩成が、金銀両取りで終了。

 本譜▲77桂にも、△89歩成として、次に△88と、▲同金に△68飛金取りと、△67歩成が同時に受からず負け。

 △89歩成に、森は▲69歩と打ってねばる。

 

 

 

 いかにも、つらい手だが森いわく、

 

 「この手が一番長持ちするでしょ」

 

 たしかにそうかもしれないが、ただ長引かせるだけでジリ貧になる可能性も高い手だ。

 そこからあれこれあって、この局面。

 

 

 


 駒得のうえに、が手厚い後手とくらべ、先手の陣形は駒をベタベタと打ちつけて、いかにも「クソねばり」な雰囲気を醸し出している。

 当時の観戦記でも、一時よりマシになったが、それでもまだ後手が、かなり有利と衆目が一致。

 先手は1筋から攻められると、左辺の金銀になって逃げられないし、そもそもここで次に指す手すら、まったく見えない状況だ。

 だが、森はあきらめていなかった。

 圧敗必至のこの場面で、ふたたび驚愕の一手を指すのだ。




 

 ▲83歩と打ったのが、すごい手。

 ねらいとしては、もちろん、次に歩を成るということはわかるんだけど、こんな王様と反対の真空地帯に、と金を作って一体どうしようというのか。

 そもそも、ここで1手パスして▲82歩成としても、後手からすれば、なんのこともないではないか。

 ところがこれが、ここまで精緻をきわめた、二上棋聖の思考を乱すのだから、勝負というのはわからないもの。

 よく解説を担当するプロが、

 

 「中盤で差がつきすぎると、かえって指す手がむずかしい」

 「どうやっても勝ちという場面ほど、迷ってしまって結構あぶない」



 なんて言うものだが、これは本当で、この後の展開がまさにそうだった。

 また観戦してた米長邦雄棋王芹沢博文九段が、

 


 「二上さんは怒っている」


 
 
 そろって言ったように、美学派に分類され、華麗で美しい将棋を追求していく「北海の美剣士」二上達也にとって、この森の泥臭い指しまわしは、受け入れがたかったか。
 
 そのノイズが、少しずつ二上の読みを侵食していく。
 
 後手はねらい通り、を攻撃するが、その間に森は▲82歩成として、次に一回▲91と、と香車を補充する。

 1筋こそ突破されたものの、森もそこからなんやかやとアヤをつけ、さらにはその間隙をぬって、と金右側に寄せていく。

 ▲83歩▲82歩成▲91と▲81と▲71と▲61と……。

 書き写しているだけでもイライラする亀の歩みだが、これが
 

 「マムシのと金」

 「と金のおそはや」

 

 意外なほど、後手にプレッシャーをかけているようだ。

 二上が攻めあぐんでいるうちに、先手はいつの間にか、後手の飛車を召し上げてしまう。

 さらには、と金▲51と、と後手の守りの要である「底香」をさらい、ついに▲41と、とまでうばってしまうのだ!





 

 先手はいいタイミングで、▲59玉早逃げしたのが好手で、ここにきて将棋は完全に逆転

 ここで先手に、カッコイイ決め手がある。





 

 ▲15香と打つのが、玉の逃げ道をふさぎながら、▲31飛から詰めろという妙手。

 △同馬▲12飛で、王手馬取りが決まる。

 二上は△41玉とするが、そこで▲81竜と、遊び駒だったを使うのが気持ちのいい手。

 以下、森が、あざやかな寄せを見せて勝ちきった。

 その独特の雰囲気を持った逆転術を武器とし、森は「終盤の魔術師」と恐れられたが、その見本のような勝ち方。

 森はこれで勢いにのり、3連勝棋聖獲得。

 二上は勝てば「永世棋聖」の称号を得られたが、それはかなわなかった。

 森といえば、対局中に控室にあらわれ、検討用のモニターに映る対戦相手の姿に



 「間違えろ!」

 「悪手を指せ!」



 そう叫んでいたというが、まさにこの▲83歩からも、それが聞こえるようだ。

 名局とは言えないかもしれないが、「おもしろい将棋」とはこういう一局のことをいうのであろう。

 
 (先崎学の「穴熊の暴力」編に続く→こちら

 

 

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コロナ日記 ボンクラ独身貴族のステイホーム編

2020年05月09日 | 日記

 コロナで世界が大変である。

 友人などに連絡を取ってみると、ため息をつく人もいれば、昨今流行りのZOOM飲み会をやっている人など様々。

 で、こういう話をしていると、かならずと言っていいほど

 「外に出えへんで、どうやって1日すごしてんの?」

 という話題というか情報交換になるので、今回も日記形式で自宅待機大型連休をレポートしてみたい。

 

 ■5月のある休日

 

 朝10時起床。起き抜けにポン・ジュースとインスタント・コーヒー。飲みながらスマホをいじる。

 天気予報とニュース。この状況がいつまで続くかわからないが、ケンカと薄汚ねえ火事場泥棒だけはやめてほしいなあと思う。

 クールジャパンのこととかね。

 朝食は紅茶、バナナ、クロワッサンにゆでたまご。BGMは古いフランスの曲。『巴里祭』『巴里の屋根の下』。

 午前中はDVDを観る。中古屋で買ったり、昔ダビングしたものが山ほどある。

 こういうのは「手元にあると、いつまでも観ない」という罠というか「あるある」があるので、いい機会だからあさってみる。

 当然、昔観たものが多くなる。今日はビリー・ワイルダーの『熱砂の秘密』。

 ドイツ軍のエルヴィン・ロンメル役をエーリヒ・フォン・シュトロハイムが演じてるんだけど、こんな似ても似つかない配役というのもめずらしい(笑)。

 ただやはり、シュトロハイムは雰囲気ありまくりの役者なんで、ある意味ハマり役でもある。

 手に持ってるハエたたきが、妙にキャラとマッチしている。いい映画。

 なんとなく本棚の整理をして、昼食。

 うどんをゆでて、卵、ネギ、ワカメ、コロッケ、豆腐など冷蔵庫のあまりものを全部つっこんで、ヒガシマルのダシと熱々の湯をそそぐ。

 雑すぎる鍋焼きうどんだが、「男のメシ」という感じもして悪くない。

 食べながら、BS世界のドキュメンタリー「ヒトラーユーゲント ナチス青少年団の全貌」を見る。

 「NSDAP(ナチスの正式名称)あるある」に、

 「当時のドイツ人の写真を見ると、ものすごく幸せそうな笑顔を見せているものが多い」

 というのがあるんだけど、大人もそうだろうけど「ヒトラーユーゲント」にハマる子供たちがいることも、なんとなしに理解はできる。

 そら、みんなでキャンプしてハイキングしてスポーツ大会やって、勉強は重視されず、しっかりしたタテ関係にカッケー制服。

 カリスマ的指導者もいて、そんなもん男子の役満そろってますもんね。

 少年マンガが描く、理想の運動部みたいな世界。文化系の私は絶対イヤですが。こいつら、本焼くし。

 食後は少し昼寝。寝つくまで、シーツにくるまりながらブログのネタを考える。

 私はこのページをバズらせようとか、フォロワーを増やそうとか、そういったことはほぼ考えていないので、内容は思いつきで本当に一貫性がない。

 SNSで人気のある友人からは、よく「テーマをしぼったほうがいいよ」とかアドバイスされるけど、それだと飽きるからなあ。

 最近、将棋ネタを多くしているが、そもそも、藤井聡太七段のフィーバーがすさまじく、それだったらちょっとと「羽生世代を中心としたトッププロの大ポカ集」を書いてみたら、少し反応があって、ならばと「絶妙手編」もやってみて、そこで終わるはずだった。

 それが、こんなに続くとは思わなかった。

 まあ、将棋ブームが終わるかネタが切れたらやめるだろうけど、発表するというよりは、これを機会に古い資料を読んだりするのが楽しいのかもしれない。

 こんなことなら古い『将棋世界』とか、『週刊将棋』のスクラップとか処分しなきゃよかった。

 こと文化系人間は「断捨離」ブームなんかに乗せられてはいけません。

 午後からはコーヒーを飲みながら、ひたすら読書。

 私は本さえあれば無限に時間をつぶせる人間なので、こういうときありがたい。

 今日は飯塚英一『旅行記作家マーク・トウェイン 知られざる旅と投機の日々』。

 『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』の作者であるトウェインは一般的には

 「ミシシッピ川を愛する、愉快で楽しいおじさん」

 というイメージだが、それはあくまでトウェインの一部にすぎず、すぐれた旅行記をものし、また「文学的名声より、一発当てて金持ちになりたい!」という、かなり俗っぽいアメリカン・ドリーマーでもある。そもそもミシシッピ川の近くには、若いころの数年しか住んでいない。

 また、なかなかアクの強い人だったようで、本の中で実在の人物をイジりまくったら激怒され、訴訟を起こされたり、死後に新聞の投書で反論されたり。

 変な発明品で一発当てることに血道をあげていたら、大失敗して破産しかけるとか、『自伝』は自慢話と罵詈雑言しか書いていないという「老害」丸出しな内容で、トムやハックを愛するマジメな研究者を困らせているとか、飯塚氏のすばらしくリーダビリティの高い文章もあって、メチャクチャにおもしろい!

 夕食。ご飯を炊いて、豚モヤシとキャベツのサラダ、卵豆腐。

 こういうとき、辺境作家の高野秀行さんをはじめ、「メシだけ炊いておけばいい」という人もいるが、たくさん炊くと「ラップして冷凍」という手間がめんどくさくて、やらなくなってしまうことも多い。

 そこで一時期「レンジでチン」のご飯を食べていたこともあって、最強なのは東海林さだおさんの本を参考に、

 「ご飯をチンして、かつおぶしと醤油をかけて食べる猫まんま」

 手間のコスパはすばらしいものがある。味つけノリをのせてもよし。おかずは納豆をパックのまま。

 そういえば『OL進化論』の秋月りす先生は、「パックご飯にスライスチーズとキムチをのせてチン」をおススメしていた。とにかく、なんでものせればいいのだな。

 食後はパソコンを開く。お茶しながら、YouTubeやラジオなど。古いテニスの動画。アンリ・ルコントの芸術的なプレーに、しばし酔いしれる。フェデラーとナルバンディアンのローラン・ギャロスでの打ち合いとか。

 寝る前に少し読書。SFが読みたくなって、ロバート・A・ハインライン『人形つかい』を読み返す。

 本好きやってると、よく「どんな本読んだら役に立つ?」とか訊かれるけど、SFはおもしろいうえに「相対的視点からの思考力と想像力」が鍛えられるから、強いんじゃないかなあとか、そんなことを考えながら眠りに落ちる。

 

 

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「史上最高」の戦い 羽生善治vs森内俊之 1996年 第54期名人戦 第5局

2020年05月06日 | 将棋・名局
 名人戦の黄金カードといえば様々である。
 
 大山康晴升田幸三中原誠米長邦雄谷川浩司の「21歳名人フィーバー」。
 
 など様々あるが、平成の名人戦といえば、やはり、羽生善治と森内俊之にとどめを刺す。
 
 前回は、2人の初顔合わせとなった名人戦の、第1局を紹介したが(→こちら)、今回も同じシリーズから。
 
 
 1996年、第54期名人戦は羽生善治名人が、挑戦者の森内俊之八段を相手に、3勝1敗とリードして第5局をむかえた。
 
 先手の羽生が相掛かりを選択し、押したり引いたりする難解な戦いに。
 
 両者、盤面全体をくまなく使った熱戦になったが、森内優勢の局面から羽生もアヤシイねばりで追いこんでいく。
 
 むかえたこの局面。
 
 森内が△69銀と打ったところ。
 
 
 
 
 
 ▲同玉△48成桂と引いて、簡単に詰み
 
 一方の後手玉に詰みはなく、▲53香成とでもすれば、△78銀成から、とても先手玉は助からない。
 
 藤井猛九段や、渡辺明三冠の口調を借りれば「考える気がしない」手順だ。
 
 控室の検討でも、「森内勝ち」ということ結論になっていたそうだが、ここで羽生が指した手が、目を疑う驚愕の一着だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 18分考えて、▲53香成と、自玉を放置して、後手玉に詰めろをかけたのだ。
 
 なんだ、これは?
 
 先手玉は詰まされそうなのに、それを無視とはどういう了見か。
 
 私も見ながら、「だから、詰まされるゆーてるやん!」と、思わずテレビにつっこんでしまった。
 
 なにがなんだかサッパリわからないが、ここで攻めるということは、可能性はふたつしかない。
 
 ひとつは、負けを悟っての「形作り」。
 
 もうひとつは、先手玉が詰まないから。
 
 まあ、詰まないはありえないから、羽生も首を差し出したのだろう。それ以外ない。
 
 あとはちゃちゃっと王手して、第6局か。激戦やなあ。
 
 なんて、すっかり打ち上げ気分だったが、なんだか対局場の雰囲気は、おかしなことになっている。
 
 先手玉は詰むはずだ。それも、わりと簡単に。だからこそ、森内は△69銀と打ったのだ。
 
 これが一手スキでないなら、そもそも森内はこの手を選ばないし、だいたい深く考えなくても、こんなもん、どう見ても詰みではないか。
 
 ところが、森内は次の手を、すぐには指さない。
 
 このあたりで、だんだんと、おそろしい想念にとらわれはじめる。
 
 「どう見ても詰み」を、すぐ詰まさない。
 
 てことは、これって、もしかして不詰?
 
 いやまさか、そんなことあるわけがない。
 
 先手玉は「玉のからを打て」の手筋で、受けがない形。
 
 △78銀成と取って、▲同玉に△48竜とか。
 
 △69銀とか△79金とか、カッコつけて△97角と退路封鎖の王手とか、せまる筋は無数にあるのだから。
 
 そこを、悠々と▲53香成
 
 ふつうは「形作り」だけど、これを詰まないと読んで選んだとしたら、とんでもないこと。
 
 結論をいえば、先手玉は詰まない
 
 なんと、森内の指した△69銀は、一手スキなっていなかった!
 
 具体的に言うと、△78銀成、▲同玉に△69銀と王手する。
 
 以下、▲88玉、△48竜、▲97玉、△86金、▲同歩、△87金、▲同玉、△78角。
 
 
 
 
 
 ここで▲97玉△96角成と捨てて、▲同玉△95香と打てば、▲同玉△94歩以下ピッタリ。
 
 というのが森内と検討陣の共通した読みだったが、この変化は△78角のとき▲98玉(!)と逃げるのが妙防。
 
 
 
 
 
 あえて△89角成と取らせてから▲97玉と逃げれば、△96角成がなくなるので不詰。
 
 手順を追うと、みなが錯覚したのは理解できる。
 
 ふつうは、の利きに入る▲98玉では、簡単に詰みそうだから盲点になる。
 
 それをただひとりだけ、「詰みなし」と読み切っていた男がいた。
 
 あの▲53香成は「形作り」どころか、堂々の勝利宣言だった。
 
 その他にも、後手からは数え切れないほど王手の筋があるものの、すべて不詰
 
 その手順は勝又清和七段の著書『つみのない話』にくわしいが、とにかく変化がありえないほど膨大。
 
 まるで円周率の終わりを探すような作業で、検討していると気が狂いそうになる。
 
 その全部が詰まないのだ。信じられない、全部だよ、どうやっても、この先手玉は詰まないのだ!
 
 その超難題を、すべてクリアしてのことだから、まさに神ががりだ。
 
 結果的には、むしろ必殺のはずだった△69銀こそが「形作り」になってしまったということか。
 
 この手では△97銀と捨てるのが退路封鎖の手筋で、▲同香△99銀で必至だった。
 
 
 
 
 
 
 これなら森内が勝ちだった。
 
 でも、こんな形が詰まないとか、判断を誤ったとしても責められないよ……。
 
 震えるようなすごい見切りで、羽生が名人防衛を確定させた。
 
 以下、△78銀成、▲同玉、△48竜に、▲68金△69銀、▲同玉、△58金、▲78玉、△68金▲88玉△67金▲68歩で、遠く馬の利きが強力で詰みはない。
 
 
 
 
 
 
 こんな将棋を勝ってしまうなど、羽生の名人位は盤石であり、また羽生と森内の「格付け」も一度は決着したかに思われた。
 
 まさかその後、森内が先に「十八世名人」になるとは予想もできず、その意味では「今の評価」なんて今後どうなるかとか、案外わからないもんだとも思わされたのである。
 
 
 (「終盤の魔術師」森雞二の逆転術編に続く→こちら
 
 
 
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コロナ日記 独身貴族のボンクラ自宅待機編

2020年05月03日 | 日記

 コロナで世界が大変である。

 友人などに連絡を取ってみると、やはり色々と混乱もあるが、落ちこんでてもしょうがないと開き直って、あえて呑気にやっている人など様々。

 もちろん私も不安だが、こういうとき独身貴族というのは比較的ではあるが気楽ともいえ、根がインドア派だし、お金を使わなくても楽しめるタイプだし、「出られないフラストレーション」は少ない方かもしれない。

 で、こういう話をしていると、かならずと言っていいほど

 「外に出えへんで、どうやって1日すごしてんの?」

 という話題というか情報交換になるので、今回は日記形式で自宅待機大型連休をレポートしてみたい。

 

 ■4月のある休日

 
 朝10時起床。シャワーを浴びて、とりあえず野菜ジュースを一杯とインスタントのコーヒー。寝起きは苦手。飲みながらスマホをチェック。

 見るのはニュースと天気予報。あとはテニスと将棋関係のを適当に。蔵前仁一さんのツイッターとか。
 
 将棋は名人戦叡王戦がストップして、とよぴーは大変だ。

 それとも、タイトなスケジュールから解放されて一息ついているのだろうか。藤井聡太七段の「史上最年少タイトル」がほとんど消えてしまったのも残念。

 朝食に紅茶、りんご4分の1、ミニくるみパン2個。テレビはすっかり見なくなったので、代わりに音楽をかける。

 今日は映画音楽をランダムで。ジョージガーシュインラプソディーインブルー』『巴里のアメリカ人』などなど。

 これだけ見ると優雅だが、実際は本だらけの部屋に万年床なので、絵面はしっかり男やもめである。死んでも、だれにも気づかれないな。

 午前中はDVDを観る。中古屋で買ったり、昔ダビングしたものが山ほどある。

 こういうのは「手元にあると、いつまでも観ない」という罠というか「あるある」があるので、いい機会だからあさってみる。

 当然、昔観たものが多くなる。今日は『シャレード』。オシャンティーな作品。

 なんとなく部屋の掃除をして、昼食。

 おそばをゆでて、納豆と、すった山芋とゆでたオクラに、生卵、ワサビ、きざみ海苔に冷たい出汁を投入。

 ぐりぐりかき回して、ずるずるすすりこむ。簡単で、美味いうえに栄養満点。

 BGM代わりに、NHK-BSでやっている『ヨーロッパ トラムの旅』。路面電車の車掌さん目線で、ひたすら都市をレールに乗ってぐるぐる回るだけの番組。

 メチャクチャ地味だが、これがまったりしてハマる。嗚呼、プラハとアムステルダムに行きたいぜ。

 食後は少し昼寝。私は寝つきが悪いくせに、一度寝ると意地汚く眠ってしまうので注意が必要。

 床の上とか、あえて寝心地の悪いところをチョイスして、1時間ほど。

 午後からはコーヒーを飲みながら、ひたすら読書。私は本さえあれば無限に時間をつぶせる人間なので、こういうときありがたい。

 せっかくヒマなので、多少ボリュームのある本を選ぶべしと、「南米文学強化週間」とする。ガブリエルガルシアマルケスわが悲しき娼婦たちの思い出』。マリオバルガスリョサなど『悪い娘の悪戯』など。

 『わが悲しき』は90歳になったおじいちゃんが、色々あったけど若い娘さんに出会ったら精力回復してワシ超ハッピーですわ!

 『悪い娘』は、したたかなクソ女に惚れて振り回されてヒドイ目にあったけど、結局、恋はそういう自分のもんにならん女を、死ぬまで追いかけ続けるのがええんですね! そういう内容。

 結論としては、地味なエリートと「歳とって、最近、元気ないわー」とボヤく老紳士は、キャバクラに行くか、清純キャラの内実ビッチなアイドルの追っかけをすればいいということ。ラテンアメリカの芸術はステキだ。

 南米文学は読みやすいけど、なぜかやたらとカロリーを使うので、『バーナード嬢曰く。』でときどき箸休めしながら、ひたすら読みふける。

 気がつけば夕方。散歩がてら、マスクをして近所のスーパーへ。

 この辺では買いだめ騒動などもなかったので平和。あまりにいい天気なせいか、この光景と人類社会の大混乱が、どうしても結びつかない。

 パパとママがレジで精算しているのを待つ子供たちを見て、「オレたち大人が、なんとかしなきゃな」などとガラにもないことを考える。

 暖かい日だったので、「アイスの実」を買う。マスカット味がうまくて、いくつか買いだめする。ダメな大人だ。
  
 夕食。ご飯を炊いて、大根をおろして、レバニラ炒めを作る。サイドにキムチ。

 こういうとき、カレーを大量に作っておくという人が多いが、ナベを洗うのがめんどくさいので、あまりやらない。ひとり身だが、カップ麺やお弁当もあまり食べない。袋めんは野菜や肉を大量に放りこんで、鍋感覚でいただく。

 食後はパソコンを開く。お茶しながら、YouTubeやラジオなど。

 『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』が激烈におもしろくて悶絶。流れで、ラップコントも久しぶりに見直しちゃったよ。

 高校時代「天才」と尊敬していた友人が、ビジュアルはいいのにアングラなセンスが爆発して女子から敬遠されてて、今思うと野田氏みたいな人だった。

 彼の書くコントやマンガはいつか世に出したいけど、もう音信不通なんだよなあ。

 寝る前に少し読書。猿谷要先生の『アトランタ』。読みやすく知的で、ともすれば軽視されがちなアメリカ南部の歴史や問題点がサクサク学べる、とってもステキな一冊。

 よく男が男の価値をはかるのに「ケンカが強い」とか「仕事ができる」とか「女にモテる」とか出てくるけど、私の場合は断然「知性教養」だよな。とか、そんなことを考えながら眠りに落ちる。

 

 

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