「さわやか流」の詰み 米長邦雄vs加藤一二三 1987年 A級順位戦

2023年11月25日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 「すごい詰み」を見ると、なんだか得したような気分になれる。

 将棋の終盤戦というのはそれだけでもエキサイティングだが、最後の場面で、

 

 「え? 本当にこれが詰むの?」

 

 といった皆が目をむくような収束を見せられると、その満足度も倍増。

 藤井聡太八冠が人気なのも単に強いだけでなく、そんな「えー!」な寄せ詰みを見せてくれる期待度があるからなのだ。

 そこで今回は、そんな「ホンマに?」な詰み筋を。

 

 1987年A級順位戦

 米長邦雄九段加藤一二三九段の一戦。

 両者らしい、がっぷり四つの矢倉戦になり、後手の加藤が仕掛けたところから米長も反撃をくり出す。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 

 米長が駒得だが、後手の攻めもが跳ねてきて、7筋も素通しで怖い形。

 先手は飛車の位置が中途半端で、一方の後手からは△76桂とか、△77歩△97桂成△75銀など山ほど攻撃手段がある。

 

 「矢倉は先に攻めたほうが有利」

 

 という法則によれば、後手ペースということになりそうだが、ここで米長がいい手を見せてくれる。

 

 

 

 

 

 ▲58銀と引くのが、落ち着いた受け。

 遊び駒になりかけているを、ジッと引きつけておくのが「大人の手」という感じ。

 後手からは△76桂というのがきびしい攻めだが、それには▲同金と取って、△同飛▲67銀と上がるのがピッタリの好感触。

 

 

 取り残されそうな銀を、さばかせるのはおもしろくないと、加藤は△77歩から入り、▲同桂△同桂成▲同金直

 そこで△85桂と攻めを継続するが、強く▲同銀と食いちぎって、△同歩▲45飛△44歩▲85飛と豪快に転換するのが米長流の力業。

 

 

 まるで振り飛車のさばきのような大駒使いで、一気に視界が開けた印象だ。

 以下、加藤も△96歩から攻撃を続行して、勝負は最終盤へ。

 

 

 図は加藤が△76銀と打って、一手スキをかけたところ。

 これで、先手玉はほぼ受けなし。一方の後手陣はまだ囲いが健在で、一見して先手が負けのようだが、米長はすでに読み切っていた。

 後手玉には、なんと詰みがあるのだ。

 腕自慢の方はチャレンジしてみてください。ポイントはあの駒の利きが絶大で……。

 

 

 

 

 

 

 ▲14桂、△同歩、▲13銀が豪快な寄せ筋。

 △同桂▲21飛と打って、△33玉▲24銀△同歩▲同角まで。

 △同香と取るしかないが、そこで▲33銀(!)と打ちこむのがカッコイイ決め手。

 

 

 「焦点の歩」ならぬ焦点ので、後手は5通りもの応手があるが、すべて詰んでいるのだからすごいものだ。

 △同桂はやはり▲21飛

 △同玉▲25桂△22玉▲13角成と切って、△同桂に▲21飛

 加藤は△同金寄と取ったが、ここは△同金直でも△同角でも同じで、▲13角成があり、ここで投了

 以下、△同玉▲14歩と取りこんで簡単。

 ▲68角の利きがすばらしく、意外なほど後手玉は狭かった

 見事な収束で、まさに「さわやか流」と呼ばれた米長らしい勝ち方であると言えよう。

 

 


 ■おまけ

 (米長の驚異的な終盤力はこちら

 (米長のすばらしい見切り

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

 

 

 

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この詰将棋小説がすごい! 団鬼六『駒くじ』

2021年10月30日 | 詰将棋・実戦詰将棋
 今日は「詰将棋小説」を紹介したい。
 
 このところ、江戸時代の名人である伊藤看寿の『将棋図巧』(→こちら)や、伊藤宗看の『将棋無双』(→こちら)に、現代では角建逸詰将棋探検隊』(→こちら)。
 
 などなど、詰将棋の奥の深さについて語っているが、おもしろいことに、世の中にはこれを題材にした、短編小説というものも存在する。
 
 それが、団鬼六さんの書いた『駒くじ』。
 
 時は明治元年に起こった土佐藩の悲劇、堺事件を題材にした作品となっている。
 
 幕末の動乱の中、鳥羽伏見戦争直後、堺に上陸したフランス水兵11人を、土佐藩歩兵隊が射殺するという事件があった。
 
 いちびりのフランス兵と、イジられてカッとなった日本側のケンカがエスカレートしたようなものだったが、ことが11人死亡となると国際問題である。
 
 あんな猿どもが生意気な! 激おこのフランス軍は、慰謝料と首謀者の厳罰を要求することとなった。
 
 日本側は、新政府をひいきしてくれるフランスを敵に回してはいかんと、即刻切腹を命じ、しかもその様を見物させろという、フランス側の要求も飲むことになる。
 
 そこで死を言い渡されたのが、主人公である常七であった。
 
 一介の職人で、妻と子供にも恵まれ幸せな日々を送っていた彼だったが、幼なじみの栄平に誘われて、一旗揚げようと民兵募集の誘いに乗ってしまう。
 
 そこで不運にも、この事件に巻きこまれてしまったのだ。
 
 もちろん、下っぱの常七には身におぼえのないことだが、そこは歴史のうねりに、ほんろうされた弱者の悲しさ。
 
 いわば、フランス側の求める死刑者数の「数合わせ」のために、切腹を命じられることになる。
 
 んなアホなとなげいても、命令はもはや、くつがえることはない。
 
 先輩たちが日本男児の意地を見せて、
 
 
 「死ね、この西洋ブタどもが!」
 
 
 怒号をあげ腹をかっさばき、それを見たフランス人も最初は
 
 
 「オー! ハラキリ!」
 
 
 よろこんでいたのが、あまりの凄惨さと日本側の怒りに、だんだん青くなっていき、ついには次々と気を失っていくのを見るにつけ、今さら、
 
 
 「あ、自分、武士じゃないんで、切腹とか無理ッス」
 
 
 とはいえるはずもない。
 
 嗚呼、げに悲しきは、雰囲気に流されやすい日本人である。
 
 急転直下の人生終了に、常七は平静ではいられない。
 
 妻も出来たばかりの子供もおいて、なぜ自分は理不尽に、この世をさらねばならないのか。
 
 あまりのことに、心静かにお経を唱える気にもならない。そんな彼の元に差し入れられたのが、一題の詰将棋であった。
 
 先輩の侍が、常七の将棋好きを知って渡してきたのだ。
 
 
 「死ぬまでに解けるかやってみよ」
 
 
 んなこといわれても、という話だが、これがいざやってみると、簡素な図式だが意外と難問である。
 
 盤上には四枚に(四桂《しけい》だ!)あとは飛車と、持駒はのみ。
 
 手も限られていてすぐに詰みそうだが、▲41飛成中合の手筋があって、のがれている。
 
 おなじみの、打ち歩詰めになるのだ。
 
 
 ▲41飛成、△31歩、▲同竜、△21歩……ああ、いかんぜよ……。
 
 
 そうこうしている内に、処刑の時間はせまってくる。
 
 ふだんは学校のテスト程度でも、答えがでてないときに「あと10分」なんていわれると心臓が止まりそうになるが、こちらは待っているのが本物の死なのだ。
 
 あせる常七。最初はどうでもいいと思っていた詰将棋だが、こうも詰まないと、死んでも死に切れないという気持ちになってくる。
 
 詰むはずだ、詰むはず。
 
 もしこれを解けないまま、首を切られたら……。もうすぐ解けそうなのだ、天よ、いましばらく自分に時間を与えてくれ……。
 
 果たして常七は、いまわの際に、最後の詰将棋を解くことが出来たのか。
 
 処刑の時刻が刻々と迫る中、必死に謎を解こうとする常七の姿は、まるで良質のサスペンス映画のよう、真に迫って胸を打つ。
 
 詰将棋を知らなくても、一級の心理小説としても読める。
 
 ポルノ作家で、将棋きちがいでもあった団鬼六先生の、野太い筆力が堪能できる一品。幻冬舎アウトロー文庫『果たし合いに収録。
 
 と、ここまで書くと、
 
 「その問題、自分も解いてみたいッス」
 
 という腕自慢の読者がいることだろうということで、ここに紹介するとこちら。
 
 
 
 
 
 パッと見、簡単に詰みそうだが、これがなかなかの難敵
 
 シンプルな作りなので、ひらめくか、ひらめかないかの勝負です。
 
 なれた人なら一目かもしれないが、ルールをおぼえたてくらいの人は、けっこうてこずるかも。解答は最後に。
 
 ただ、これを今見てさっと答えて、
 
 「できた、簡単じゃん」
 
 などとイバるというのは、ちょっとばかしフェアではない。
 
 それはそうである。あなたは今、でコーヒーでも飲みながら、パソコンかスマホで、ここを見ているはずだ。
 
 そんなリラックスした状態では、頭もなめらかに働こうというもの。
 
 一方の常七はあと1日、数時間、いや今まさに粗むしろの上に引っ立てられ、介錯の刀が背中で振りあげられている状態で、この問題に挑んだのだ。
 
 それと、家でコーヒーとを同じにしてはいけない。
 
 なので、真にこの問題と向き合うなら、まずは堺の街でフランス兵を撃ち殺す。
 
 そして、わけのわからないまま死刑判決を受けて、「えー、そんなー」と気持ちの整理もつかないままに放りこまれる。
 
 今にも吊されようとする、コーネルウールリッチ的タイムリミットサスペンスな状況を作ってから、おもむろに問題に取り組む。
 
 そこで見事、解けたら「正解」というのが本筋であろう。
 
 ぜひ、チャレンジしていただきたい。
 
 
 
 
 
 
 ★詰将棋の解答
 
 ▲12歩 △21玉 ▲41飛不成 △31歩 ▲11歩成 △同玉 ▲31飛不成 △21銀(角) ▲12歩 △22玉 ▲32桂成 △同銀(角) ▲11飛成
 
 
 までの13手詰め
 
 3手目の▲41飛不成が、意表の好手で、指将棋ではまず見ない「打ち歩詰回避」という詰将棋の基本手筋。
 
 △31歩の合駒に、▲11に成捨てての送りの手筋で、またも▲31に飛車を不成
 
 ここで、▲31同飛成(▲41飛成から▲31竜)は、△21合に▲12歩打ち歩詰。
 
 最後は▲32に桂馬を成り捨てての、今度こそ▲11に飛車を成ってきれいな収束。
 
 ▲12歩と▲11の竜の連携が、いかにも詰将棋らしくて、こういうのを「なるほど」と感じはじめると、だんだん、おもしろくなってきます。
 
 
 (おまけ 藤井聡太三冠が9歳(!)のときに作った詰将棋は→こちら
 
 (おまけ2 藤井聡太三冠がお気に入りの自作は→こちら
 
 
 
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「飛車不成」の詰みと受け 黒沢怜生vs富岡英作 2015年 棋王戦 清水上徹vs早咲誠和 2010年 朝日アマチュア名人戦

2021年10月24日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 大駒の「不成」には子供のころ感動したものだった。

 将棋において、桂馬香車は「不成」で使うのが好手になるケースも多いのは、格言にもなっているところ。

 だがこれが、飛車に関しては、成って損をするところがないのだから、「不成」にする意味はまったくない。

 ……と見せかけて、実は飛車や角が不成で好手になることもあり、それが詰将棋の「打ち歩詰」を回避する手筋。

 将棋は最後に、持駒の歩を打って詰ますのは反則で、それだけだと意味のよくわからないルール。

 なのだが、幸いにと言っては変だが、これがあるおかげで、ものすごく奥が深くなったのが詰将棋の世界で、先日紹介した古典詰将棋「将棋図巧」(→こちら)「将棋無双」(→こちら)でも頻出する手筋だ。

 この形を回避するため、詰将棋には飛車や、ときにはさえをあえて「不成」で使うという形が頻出して「おー」と歓声が上がる(その神業的な詰将棋は→こちら)。

 また、ここに超の上に、もうひとつがつくレアケースではあるが、実戦でも大駒の「不成」が出てくる、奇跡的な形というものもある。

 前回は実戦に出てきた、まさかの「角不成」を取り上げたが(→こちら)、今回も様々な大駒の不成を取り上げてみたい。

 

 2015年の棋王戦。富岡英作八段黒沢怜生四段の一戦。

 話題になったのは、最終盤のこの図。

 

 

 

 先手玉は一目詰みがありそうだが、パッと見える△59飛成▲49金と引いて、△38歩打ち歩詰で不可。

 だがここで、後手からすごい手があるのである。

 

 

 

 

 △59飛不成が、目の錯覚か誤植を疑う絶妙手

 ▲49金と引くのは、今度こそ△38歩が利く。

 

 

 

 

 ▲48玉(ここに逃げ道を作っておくのが不成の効果)に△57飛成でピッタリ詰み。

 △59飛不成▲49歩と合駒しても、やはり△38歩と打って、▲同金、△同銀成、▲同玉に△27金打、▲48玉、△57飛成、▲39玉。

 

 

 

 ここで△38歩はやはり打ち歩詰だが、△38金と捨てるのがうまく、▲同玉に△47竜、▲39玉、△38歩▲28玉(ここに逃げられる!)、△27竜(金)まで詰み。

 まさに、打ち歩詰めの局面は、なにか一工夫すれば手はあるという、

 

 「打ち歩に詰みあり」

 

 の格言通りの手順だった。

 あまりの劇的な幕切れに、黒沢も何度も何度も確認したそう。

 気持ちはわかります。まさかという形だし、万一不成で行って、逆に詰まなかったらギャフンですもんねえ。

 

 次はアマチュア同士の名局から。

 2010年朝日アマチュア名人戦決勝。

 清水上徹アマ名人と、早咲誠和挑戦者の決勝3番勝負第3局

 

 

 

 後手の早咲さんが△27銀と打ったところだが、将棋はほとんど終わりに見える。

 先手玉は蜘蛛の糸を渡るギリギリの綱渡りで、ほとんど必敗だが、かすかに最後の望みと言えるのは、まだ詰めろではないこと。

 そう、△16歩は、おなじみの打ち歩詰で反則負け。

 清水上さんは、ここで▲34飛と打つ。

 △14桂、▲同歩、△15歩必至を消した手だが、一瞬「え?」となるところ。

 後手から、打ち歩詰回避をねらって、△25桂と王手する筋があるからだ。

 

 

 

 

 ▲同飛成△16歩で、▲同竜、△28銀不成、▲18玉、△17歩、▲同竜、△19銀成という、端玉を追いつめる教科書のような詰みがある。

 投了しかない図に見えるが、ここでまさかという、しのぎがあった。

 

 

 

 

 

 

 なんと、▲25同飛不成(!)と取る手があった。

 これでやはり、△16歩打てず先手がギリギリでしのいでいる。

 「創作次の一手」だとしか思えない図だが、信じられないことに実戦だ。

 すごい将棋も、あったもんである。

 以下も、先手の懸命のねばりに、早咲さんが何度も寄せを逃してしまい逆転

 清水上さんが、初のアマ名人防衛を決めた。 

 将棋自体もすばらしいが、これが清水上徹と早咲誠和というアマチュア界の頂点をきわめた二人が、すべてを出し切って戦い、この局面にたどり着いたという事実が感動的だ。

 決勝戦での奇跡。

 なにかこう、「究極の将棋」という気にさせられるではないか。

 

 (「打ち歩詰」ではない、もうひとつの「飛不成」編に続く→こちら) 

 

 

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角建逸『詰将棋探検隊』 「詰将棋」=「ミステリ」+「SF」説について

2021年10月21日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 角建逸『詰将棋探検隊』を読む。

 こないだは、江戸時代名人によって創られた図式集、伊藤看寿の『将棋図巧』と伊藤宗看の『将棋無双』に大感動してしまった話を書いた(『図巧』については→こちらで、『無双』は→こちら)。

 その神業としか言いようのない出来のすばらしさのため、恥ずかしいことに、手順を追いながら(解けるだけの棋力はない)ボロボロと泣いてしまった。

 世間は一般に、恋人が死んだりする映画や、自分を信じてと歌う歌詞で泣いているという。

 そこを、江戸時代の将棋パズル号泣するって、我ながらどうなのと、冷静に一言つっこみを入れたいところではある。

 しかーし! この詰将棋というジャンルは深く知れば知るほど深淵で、かつ芸術的な側面があるのだ。

 たかが詰将棋で、芸術なんておこがましいというなかれ。

 駒の動かし方を知っていて、パズルや数学が好きな人は一度、詰将棋専門誌『詰将棋パラダイス』(略称詰パラ)を開いてみてほしい。

 私の興奮が、一発でわかるはずだ。

 それにしても不思議なのは、あんな神がかり的な作品が、山のように詰まっている江戸時代の詰将棋。

 これが、同時代のことについて書かれている本なんかでも、まったくといっていいほど紹介されていないこと。

 日本人には一部「江戸時代萌え」な層があって、その手の資料は数あるのだが、歌舞伎相撲などといったメジャーどころと比べて、将棋、ましてや詰将棋はほとんど無視である。
 
 こんなにすごいのに。

 冗談でもなんでもなく、国宝にでも申請するべきではなかろうか。

 「江戸しぐさ」なんていうバッタもんを教えるくらいなら、「詰むや詰まざるや」を教科書にのせんかい!

 そんなグチをぶつぶつともらしながらも、今日もすばらしい詰将棋を求めて『詰将棋探検隊』を手に取ったわけだが、これがまたあきれかえるくらいにハイレベルな一冊。

 詰将棋は単に相手の王様を詰ます(逃げ道のない状態に追いこむ)だけでなく、そこには様々な仕掛けが、ほどこされることがある。

 「打ち歩詰め打開」や「中合」といった基本的な手筋から、最長手数である1525手詰の作品「ミクロコスモス」 。

 「龍鋸」「馬鋸」といった、アクロバティックな仕掛け。

 果ては、盤上にすべての駒が配置されたところからスタートするにもかかわらず、それが1枚ずつ消えていって、最後には必要最小限の駒しか残さない「煙詰め」。

 他にも、詰めあがり(正解図)に文字が浮かぶ「あぶりだし」とか、まあ色んな趣向が凝らしてあったりするのだ。

 作家によっては若島正先生のように、そういったケレン味を嫌う人もいるが、私のような素人からすると、これら中国雑技団的な作品の方が、わかりやすいといえばわかりやすい。

 とりあえず、図面だけ見てわかるような作品としては、たとえば田島暁雄さん作の、こんなのとか。

 

 

 

  

      

             
 相馬康幸さん作の、こんなんとか。

 



                     



 伊藤正さん作の、こんなんとか。

 

 

 

 




 詰将棋の名手でもあった、内藤國雄九段が作った、こんなんとか、こんなんとか。

 

 


                     







 どうです。頭がおかしくなりそうな配置でしょう。

 しかも、まともに考えていたら詰みそうにないこれらの図が、しっかりと詰むだけでも驚きなのに、それがなんと正解が一通りしかなく、それ以外の手順では、絶対に詰まないというのだから恐ろしすぎる。

 どんな頭脳をしているのか。

 これはもう、あらゆる知的遊戯創作にまつわる人に共通するが、その人間離れした能力を、もっと社会貢献に流用できないものか。



 「その能力、もっと役に立つことに使えよ!」



 嗚呼、このつっこみこそが、芸術にたずさわるものにとっての、最高のほめ言葉かも知れないなあ。

 最高級のポテンシャルを、まったくにならないことや、世間で知られていないことにつぎこむ。

 あえてこの言葉を使うなら、才能の無駄使い

 これはもう世界で一番、贅沢優雅な生き方かも。

 貴族だよ、まさに精神貴族。カッコいいなあ。

 個人的に思う詰将棋の魅力というのは、本格ミステリSFのそれを、合わせ持っているということかも知れない。

 私は読書が好きで、本読みというのはそれがエンタメに関しては、ざっくりいえばミステリ派とSF派に分けられる。

 私はどっちも好きなハヤカワ創元育ちだが、ミステリの本質といえば、



 「惹きつけられる不可思議な謎の提示」

 「その論理的な解決」



 またSFはそこに「奇想」というか、

 

 「ようそんな発想、思いつきますなあ」



 と、あきれかえるようなアイデアにある。

 『ソード・ワールドRPG』をはじめとするTRPGや『モンコレ』など、幾多のボードゲームやカードゲームを世に送り出してきた、グループSNEのボス安田均さんは、



 「海外の特にドイツのボードゲームとかカードゲームで遊んでると、《どこからこんなん思いついたん?》っていいたなるような、すごいアイデアがごろごろ出てくるんです。そこには、昔のSF短編を読んだときと同じようなおどろきがあるんですよ」



 これは、詰将棋もまったく同じなのだ。

 魅力的なの提示と論理的解決。そこに「ようそんな」とあきれかえる奇想のスパイス。

 まさにミステリであり、SFではないですか。

 

 (団鬼六の詰将棋小説編に続く→こちら

 (伊藤正さんの詰将棋の解答は→こちら

 

 

 

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「角不成」のしのぎ 杉本昌隆vs渡辺明 2008年 第67期B級1組順位戦 上野裕和vs前田祐司 2004年 第63期C級2組順位戦

2021年10月15日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 大駒の「不成」には子供のころ感動したものだった。

 将棋において、桂馬香車は「不成で使うのが好手になるケースも多いのは、格言にもなっているところ。

 だがこれが、飛車に関しては、成って損をするところがないのだから、「不成」にする意味はまったくない

 ……と見せかけて、実は飛車や角が不成で好手になることもあり、それが詰将棋の「打ち歩詰め」を回避する手筋。

 将棋は最後に、持駒のを打って詰ますのは反則で、それだけだと意味のよくわからないルールなのだが、幸いにと言っては変だけど、これがあるおかげで、ものすごく奥が深くなったのが詰将棋の世界。

 この筋を回避するため、詰将棋には飛車や角をあえて「不成」で使うという形が出て「おー」と歓声が上がる。

 ここのところ、『将棋無双』(→こちら)や『図巧』(→こちら)など江戸時代の古典詰将棋を紹介してきたが、そこでも頻出し、あざやかなワザの数々には感嘆しかない。

 また、ここに超の上に、もうひとつ超がつくレアケースではあるが、実戦でも大駒の「不成」が出てくる、奇跡的な形というものもある。

 前回は先崎学九段が、若手時代に順位戦でやってしまった大ポカを紹介したが(→こちら)、今回は不成にまつわる絶妙手を。

 

 2008年の、第67期B級1組順位戦

 渡辺明竜王と、杉本昌隆七段の一戦。

 相穴熊の激戦から、むかえたこの場面。

 

 

 

 最終盤、△15香と「最後のお願い」の王手が飛んできたところ。

 これはすでに「形づくり」だが、われわれがただ見ただけでは、先手玉は詰んでいるように見える。

 ▲15同角成の一手に、△16歩▲同馬△同銀成から狭いところにいる杉本玉は、かなり危ない。

 しかし、ここで劇的な応手があったのだ。

 

 

 

 

 ▲15同角不成で詰みはない。

 △16歩打ち歩詰めで打てない。ここで渡辺は投了

 こんな手で敗れて、さぞやくやしいだろうに、ちゃんとここまで進めて投了した渡辺もえらい。

 私はあまり「形づくり」というものにこだわらないタイプで、特に若手棋士なんかは最後まであきらめず、食らいついて行く根性を見せてほしいものだが、こういう場面は例外でしょう。

 なんて、きれいな図。熱戦を戦った二人に拍手、拍手。

 正確には、ここは▲15同角成でも詰みはなかったようですが、まあそれは野暮ということで。

 

 続けて、もうひとつ。

 2004年の第63期C級2組順位戦

 前田祐司八段上野裕和四段の一戦。

 前田の急戦向かい飛車から、激しい玉頭戦に突入。

 

 

 

 

 △95香と走って、前田は勝ちを確信していた。

 ▲同角成の一手に、△96歩、▲同馬、△同銀成、▲同玉、△91飛から先手玉は詰んでいるからだ。

 しかし、ここで前田に読み抜けがあった。

 もう、正解はおわかりですよね。

 

 

 

 

 

 

 ▲95同角不成で、先手玉は助かっている。

 さっきの杉本が見せた▲15同角不成は、渡辺もおそらく知ってての「形づくり」だろうが、こっちは相手が見えてなかったから、純粋な絶妙手として炸裂。

 投了を待っていたはずの前田は、さぞや、おどろいたことだろう。

 以下、上野が逆転で勝ち。深夜のドラマだった。

 

 (実戦で出た「飛不成」編に続く→こちら

 

 

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論理の芸術 湯川博士&門脇芳雄 『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』 その4

2021年10月12日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 前回(→こちら)に続いて、『秘伝 将棋無双』(湯川博士著 門脇芳雄監修)について。

 以下ネタバレになるんで、『将棋無双』を自力で解いてみたい人(がんばってください)は、飛ばしてほしい。

 前回は「不成」それも2連発という、超弩級のトリッキーな手筋について語ったが、この感動をさらに上回るのが、最後に出された「神局」とも呼ばれる「第30番」。

 

 

 

 

 これがまた、驚天動地のすごいシロモノ。

 詰め手順は、まず▲23金と、金のタダ捨てから入り、△25玉に▲24金と、さらに捨てる。

 △同玉に▲34飛成と取って、△同玉に▲33飛

 △45玉、▲35飛成、△56玉、▲55竜

 

 

 ここまでは、特になんということもない手順だが、もう少し待っていただきたい。

 △67玉に、▲66竜と追って、△78玉、▲79香、△同玉、▲68銀、△88玉、▲77竜、△98玉、▲99歩、△同玉、▲97竜、△98銀成、▲66馬。 

 

 

 お待たせいたしました。

 ここからが、伊藤宗看渾身のスーパーイリュージョンが開始されます。

 盤面下で眠っていたが、ここから、おそるべき活躍を見せます。

 ▲66馬、△89玉に、▲56馬と王手。

 △99玉に、ひとつ上がって▲55馬と王手。

 △89玉に、ひとつ横にすべって▲45馬の王手。

 

 

 △99玉に、ひとつあがって▲44馬の王手。

 △89玉に、ひとつ横にすべって▲34馬の王手。

 ……と書き写してみると、ただを動かして王手してるだけで、後手は玉を△89△99と同じ手で逃げるだけ。

 なんのこっちゃというか、やる気あるんかと怒りたくなる、意味不明の手順に見えるが、これが盤に並べてみると、同じ手の繰り返しのようで、少しずつ違っているのがおわかりだろうか。

 そう、の位置が微妙にズレているのだが、そのことによって、これが▲66の地点から、一歩ずつ北東の方角に、上がっていってるのだ。

 この馬の動きは、まるでノコギリのようだから「馬鋸」と言われる高等テクニック。

 もちろん、ただおもしろいだけでなく、ふかーい意味がある。

 それは手順を追えばわかるもので、ここまでくれば次の手はおわかりでしょう。

 ▲34馬、△99玉に、▲33馬と、さらに一歩前進。

 △89玉に、▲23馬、△99玉に▲22馬

 △89玉に▲12馬

 

 

 これで、ようやっと、ねらいがわかった。

 でギコギコやりながら、先手がやりたかったのは、王手しながら遠くにある△12をいただくためだったのだ。

 この時点で、すでにため息だが、まだまだ、これは序章である。

 首尾よく歩をゲットした馬は、今度どうするか。

 ▲12馬、△99玉、▲22馬、△89玉、▲23馬、△99玉、▲33馬、△89玉、▲34馬。

 

 

 △99玉、▲44馬、△89玉、▲45馬、△99玉、▲55馬、△89玉、▲56馬、△99玉、▲66馬、△89玉、▲67馬、△99玉、▲77馬

 

 

 少し並べれば、あとは見なくてもわかるだろう。

 そう、今度はさっきの鋸道を後ろ歩きで、ギコギコと元の場所まで戻っていくのだ。

 で、この馬はここでお役御免と、△89玉に、▲78馬と捨ててしまう。

 ▲78馬、△同玉に、今度は▲77竜から追っていく。

 △69玉、▲79竜、△58玉、▲59竜

 

 

 

 

 

 今度は「高野山の決戦」を思い起こさせるような、ぐるぐる回し。

 △47玉、▲57竜、△38玉、▲37金、△28玉、▲27金、△38玉、▲28金、△39玉、▲48銀、△28玉、▲37竜、△18玉、▲19歩。 

 

 

 ここに来て、ようやっと馬鋸の真意がわかる。

 この▲19歩が打ちたいがための、大遠征だったのだ。

 これをやらずに、▲66馬の王手から、▲67馬と捨駒をすると、ここで歩が足りず不詰になってしまうのだ。

 エライ仕掛けがしてあるものだ。こんな、素人には見破れませんで!

 しかも、話はまだ、これでは終わらない。

 △19同玉に、▲17竜と王手したところで、背中のあたりから冷や汗がタラリと一筋、タレてくることとなる。

 ま、まさかこれって……。

 そう、そのまさか。

 この形は、さっき▲66馬の王手から、ギコギコと盤面をナナメに切り裂いていったのと、瓜二つではないか!

 △18銀成に、▲82角成と、ほとんど忘れられていたが、ここで成り返ってくる。

 

 

 

 となれば、もうこの後の手順は、お分かりであろう。

 詰め方は、さっきとのように、▲83、▲73、▲74、▲64、▲65と、テンポよく南下してくる。

 

 

 これには、並べていて腰が抜けそうになった。

 一回、が行って返って鋸引きをするだけでもすごいのに、今度はからもう一回ひええ!

 そして、▲46馬、△29玉に、やはり同じく、▲47馬▲37馬▲38馬と捨ててしまってお役御免。

 最後は、鋸引く馬の利きまで誘導する役割だった、いわばこの詰将棋のコンダクターだったが、またも風車のように、くるくる回りながら追っていく。

 △38同玉、▲37竜、△49玉、▲39竜

 長かった旅路も、ここで終わりだ。

 △58玉に、最後は▲59竜で、詰め上がり。

 

 

 

 この詰め上がり図が、なんとまったくの左右対称で終了するという、見事なウルトラC。

 大げさではなく、この図を見たときに、泡を吹いて倒れそうになりました。

 なんやこれは、こんな手順を人間が創るなんてありえるのか、奇跡だ、神だ、まさに神局

 もちろんのこと、それらのアクロバティックな技の数々は、すべて必然手であり、それ以外のもって行き方では、詰まないように設計されているのだ。

 なんという高度な作品なのか。もう泣きそう。

 いや、本当に泣いた。私はこの本を読んで、東洋文庫の本式の『詰むや詰まざるや』を実際に買って、ざっと読んでみた。

 そのあまりのすばらしさ、美しさに、ページを繰りながらボロボロとを流してしまった。

 将棋パズルの本を読みながら、おえおえ、えぐえぐ、と嗚咽している男というのは、実に滑稽というか意味不明だが、そんなことも気にならないまま私は泣き続けた。

 どうやったら、こんなすごいものが、作れるというのか。

 これは、詰将棋どころか、将棋自体を知らない人でも、ぜひとも一度は鑑賞していただきたい。
 
 今からでも遅くない、日本はこれを文化財に指定すべきだ。

 なんなら、ルーブルみたいな美術館博物館に展示してもよい。それくらいの価値はゆうにある。

 現役のプロ棋士の中には、この『将棋無双』と『図巧』に魅せられてこの道に進んだという人もいるそうだが、その気持ちのカケラくらいは、胸が痛くなるくらいにわかった。

 そして、詰将棋とは先人の残した偉大な遺産であり、そこには確実に「芸術」と賞されるだけの、がこめられているということも。

 こんなすばらしい日本の、いや人類の宝が、将棋ファンにしか、いや将棋ファンでさえも知らないというのが、もったいなくて仕方がない。

 すっかり『詰むや詰まざるや』にアテられてしまった私は、この本を歴史書、ミステリ、SF、そして「泣ける本」として、オールタイムベスト候補に推したい。

 

 (『詰将棋探検隊』編に続く→こちら

 (斎藤慎太郎八段が解説する「将棋無双 第二六番は→こちら

 

 

 

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論理の芸術 湯川博士&門脇芳雄 『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』 その3

2021年10月09日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 前回に続いて、『秘伝 将棋無双』(湯川博士著 門脇芳雄監修)について。

 江戸時代の名人である三代伊藤宗看の創った百題の詰将棋集『将棋無双』。

 先日は、「歩の不成」という、実戦ではまずあらわれることのない、おそろしい詰将棋の手筋を紹介したが(→こちら)、「将棋無双」にはもうひとつ、スゴイ問題もあったのだ。

 

 

 

 

 将棋無双の第11番

 初手▲83歩成と王手すると、△71玉、▲72銀、△62玉、▲63歩打ち歩詰め

 

 

 

 

 そこでまず、初手に▲83歩不成」とする。

 

 

 

 出ました、またも不成

 ここでまず悲鳴だが、こちらも前回の問題で、少々免疫もできている。

 「ま、伊藤チャンやったら、これくらいはナ」

 なんて、平静を装っているが、次の第2波で泡を吹くことになる。

 ▲83歩不成、△71玉、▲72銀、△同玉に▲82歩不成(!)。

 

 

 

 なんと、まさかの2連チャン。

 歩をと金にしないだけでも、常人の感覚では違和感ありまくりなのに、なんと、その成らずで突いた歩を、もう一度「▲82歩不成」として王手するのだ。

 連続歩の不成!

 もちろんのこと、この一見ありえない手順は、必然でこれ以外では絶対に王様は詰まないという、唯一無二の正解なのだ。

 えええええええ!!!!!!

 こんなこと、ありえるのお?

 いやこれが、ありえるんスッよ。

 歩の不成2連発が、これしかない、まさに正義の2手なのだ。

 なんちゅう手なのか、もう無茶苦茶だよ。

 以下、△62玉、▲63歩、△同玉、▲45角、△同桂、▲54銀、△62玉、▲63歩△71玉▲81歩成、△同玉、▲86香、△同飛、▲72金、△92玉、▲83銀、△同飛、▲同角成、△同玉、▲82飛、△94玉、▲95歩、△同玉、▲96金、△同玉、▲86飛成まで。

 

 

 

 さきの歩不成のところ、ふつうに▲82歩成にしてしまうと、正解と同じように追ったとき、▲63歩打ち歩詰になる。

 

 

 

 どっこい、ここを不成にしておけば、▲63歩△71玉と逃げる余地があって、そこで▲81歩成と、今度は成って行けば詰む仕掛け。

 

 

 


 これには頭はクラクラ。めまいがしそう。

 すごいなあ、ようそんな発想が出ますわ。

 あと、さりげないんですが、前回の

 「▲94竜、△同玉、▲84金

 とか、今回の

 「▲96金、△同玉、▲86竜

 なんて、収束の形も綺麗で、そこもほっこりする。 

 今さらながらであるが、これ江戸時代の作品なんです。すげえッスわ。

 

 (「神局」編に続く→こちら

 

 

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論理の芸術 湯川博士&門脇芳雄 『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』 その2

2021年10月06日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 前回(→こちら)に続いて、『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』(湯川博士著 門脇芳雄監修)について。

 江戸時代の名人である三代伊藤宗看の創った百題の図式集『将棋無双』。

 詰将棋ファンなら、だれしもが知っているが、一般には、いやさ市井の将棋ファンにも、その実態は知られていない。

 だが、この『秘伝 将棋無双』を読めば、その奥深さ、そして何百年も前に作られたとは思えないほどの、おそろしいほどのレベルの高さを、まざまざと見せつけられることとなる。

 以下ネタバレになるんで、『将棋無双』を自力で解いてみたい人(いるのかな?)は飛ばしてほしいが、各作品の手順がきれいなだけでなく、



 「打ち歩詰め回避」

 「中合い」

 「ならずもの」

 「馬鋸・竜鋸」


 なんていう、ハイレベルな詰将棋に出てくるトリッキーな筋が出てくるところからが、この作品集の本領。

 たとえば、こんな問題で、これは「将棋無双 第21番

 

 

 

 初手から、▲72銀、△同玉、▲52竜、△62歩、▲73歩成と自然に追うと、△81玉、▲91角成、△同玉、▲82銀、△92玉、▲93歩打ち歩詰。

 

 

 これでダメなんだけど、ここで詰将棋独特のトリックが出る。

 打ち歩詰め回避には、「あえて玉の逃げ道を作る不成」が手筋。

 ▲52竜、△62歩合に、▲73歩不成がある!

 

 

 

 実戦では、まず間違いなく出てこない形だが、なんとこれで詰みなのだ。

 以下、△81玉、▲91角成、△同玉、▲82銀、△92玉、▲93歩。

 

 

 

 ▲73にいるのが、と金でないため、ここで△82玉とできるのが、歩不成の効果。

 

 △82玉▲62竜、△93玉、▲94歩、△同玉、▲64竜、△93玉、▲94竜、△同玉、▲84金まで。

 

 

 

 

 これを見たとき、まさにのけぞりましたよ。

 「歩不成」なんて、どう見たってただの誤植にしか見えない。

 それが唯一無二の正解なんだから、ちょっと常軌を逸している。

 なんというか、あきれてものが言えません。すごい作品だ。

 

 (「歩不成2連発」編に続く→こちら



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論理の芸術 湯川博士&門脇芳雄『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』

2021年10月05日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 詰将棋に興味を持ったら、ぜひ『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』(湯川博士著 門脇芳雄監修)を読んでほしい。

 『将棋無双』とは、江戸時代の名人によって作られた図式集のこと。

 今でいう将棋(囲碁も)の「名人」と言う称号は、歴史的には江戸時代に作られたものだが、棋戦のシステムがしっかりと作られている今と違って、当時の棋士はその腕を振るうような大勝負の機会が、圧倒的に少なかった。

 有名な「御城将棋」などは、あらかじめ他所で指した対局を、将軍の前で披露するというイベント。

 真剣勝負というより、むしろ良質の棋譜を見せるという、多分に、エキシビション的な側面があったと言われている。

 今も残る「形づくり」という紳士協定というか、暗黙の了解的文化は、この時代の名残なのだろう。

 では時の名人は、どこでその「真剣勝負」な本領を発揮したのかといえば、これが幕府に献上する図式(詰将棋)。

 お上に納めるものということで、下手な作品が出せないのと同時に、名人上手といわれた人間の誇りもあいまって、ここで発表された詰将棋は今の目で見ても洗練された、非常にレベルの高い作品がそろっている。

 中でも三代・伊藤宗看の創った百題の『将棋無双』は、その難解さから「詰むや詰まざるや」と呼ばれたもの。

 一昔前は、米長邦雄永世棋聖をはじめ、

 

 「これをすべて解けば、間違いなくプロになれる」

 

 とまでいわれた、まさに時代を超えた名作として、知られているのだ。

 この『秘伝 将棋無双』は、宗看の作品の中から、比較的易しい作品を20題選んで紹介していくものだが、これが、すこぶるおもしろい。

 詰将棋というと、難解で取っつきにくいイメージがあり、かくいう私も苦手であるが、この本は手順の解説が非常に明快で、スラスラ読めるのがすばらしい。

 正解以外の早詰の手順や、一見しただけでは、置いてある意味の分からない駒についても、しっかりその役割をフォロー。

 おかげで、長編詰将棋と聞いただけで、ギルの笛みたいな頭痛がする私のようなパズル音痴にも、その魅力がぐいぐい伝わってくるのだ。

 なんといっても引きこまれるのが、宗看がをこめて創った詰将棋、その詰手順の見事なこと!

 将棋を知らない人には、将棋の詰み筋に「美しい」という感覚があることが、にわかにはピンとこないだろう。

 しかしだ、記号で形成された数式や、DNA細胞の並びなどにもという感覚があるように、上質の詰将棋にも、間違いなくフィギュアスケートのような「芸術点」というのが存在する。

 捨て駒による玉の誘導や退路封鎖、合駒限定の妙など、指将棋(詰将棋ファンは、ふつうの将棋をこう呼ぶ)の終盤戦でも見られるあざやかな手筋もあり、それだけでも爽快だが、この『将棋無双』の本領はそれだけではないのである。

 そこで今回から、先日の伊藤看寿の「将棋図巧」に続いて(図巧の傑作はこちら)、いくつかそのすごさを、実際に見ていただきたい。

 今回のテーマになるのは「成らず」の手筋。

 指将棋でも詰将棋でも、桂馬香車などは局面によっては、成って金になるよりも、そのまま使った方が有効となることも多い。

 ではこれが、他の駒だとどうだろう。

 金は成れないとして、飛車と、と、か……。

 一斉に「ない、ない!」との声あがることだろう。

 将棋において、銀などはともかく、飛車とか角とか歩の場合、成らずで使う方が有利という場面は、ほぼ100%といっていいほどありえないからだ。

 ところが、その「ありえない」ことが起こるのが、詰将棋の世界である。

 それはズバリ、こないだの「図巧 第一番」でも出てきた、

 

「打ち歩詰め回避」

 

 この場面なのだ(「図巧」の素晴らしすぎる傑作については→こちら)。

 を打って詰ますのがだめなら、あえて飛車や角の効きを弱いままにしておいて、歩を打っても王様が逃げられるように「不成」(ならず)にしておくということ。

 たとえば、1983年の王位リーグ、谷川浩司名人大山康晴十五世名人との一戦。

 「光速の寄せ」が炸裂して、将棋はすでに谷川勝ちが決定的。

 仕上げにかかった谷川が、王手王手と追いかけて、この局面。

 

 

 

 後手玉はすでに詰んでいるのだが、次の手が伝説的な絶妙手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲43角不成が、まさかの実戦で実現した、あまりにも有名な「大駒の不成

 ここを▲43角成としてしまうと、△54歩、▲66銀打、△同と、▲同歩、△55玉に▲56歩が「打ち歩詰め」になってしまう。

 

 

 

 どっこい、ここを角不成とすれば、最後の▲56歩△44玉と逃げる道があるため、▲45歩、△33玉、▲23角成、△同玉、▲34角成から詰む。

 なんて、すごい手順なんだ!

 この手筋を初めて見たときは、まさに蒙が開けるというか、ともかく感動したものだ。

 素人にとって、飛車や角は100、いや1万%成るもの」だと思いこんでいたのが、成らずこそが、絶対無二の一手になる局面が存在するとは!

 目からウロコどころか、落語『天災』風に言えば、魚が一匹ボタッと落ちる見事な「成らず」の手筋だが、驚くなかれ、この『将棋無双』には、もっとすごい不成の形が出てくる。


 そう、不成が登場するのだ。

 歩は敵陣に入って成れば、「と金」になって強力な駒になる。「成金」の語源になったほど、そのパワーアップぶりはあざやかなものなのだ。

 それを、せっかく金になれるものを、あえて不成」で歩のまま使う。

 そんな状況が、あり得るというのだ。

 

  

 

 

 (続く→こちら

 

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詰むや詰まざるや 伊藤看寿「図巧 第一番」 米長邦雄『逆転のテクニック』より

2021年09月25日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 詰将棋を「鑑賞」するのは楽しい。

 先日ここで、

 

 「詰将棋はムリして解かなくても、一応は有段者になれる」

 「苦手という人は、解くより【鑑賞】するという手もある」

 

 といったことを書いたが(→こちら)、では具体的に

 

 「詰将棋を鑑賞する」

 

 とは、どういうものなのか。

 そこで今回は、解けはしないが「見て楽しい」という図式を、具体的に見ていただきたい。

 それにはやはり、「古典詰将棋」がいいでしょう。

 ということで、その年、最高の創作詰将棋の問題にあたえられる「看寿賞」に名を残す、江戸時代の名人伊藤看寿の作品から。

 図式制作に、たぐいまれなる才能を発揮した看寿が、幕府に献上した「将棋図巧」は、兄である伊藤宗看の「将棋無双」と並んで、江戸時代の、いやさ将棋史上に残る大傑作。

 単に棋力向上だけでなく、内藤國雄九段をはじめ、多くの詰将棋作家に影響をあたえた、何百年単位でクリエイターのをゆさぶる、スーパーインフルエンサーなのだ。
 
 そこで今回は、有名な「図巧 第一番」を紹介したい。

 もちろん、私の棋力で解けるはずもないので、

 

 「【無双】と【図巧】の200番を解くだけで、最低でもプロ四段にはなれる」

 

 とのセリフで有名な、米長邦雄永世棋聖の『逆転のテクニック』という本を参照して、語ってみたい。

 


 「図巧 第一番」

 と言われても、ふつうはまあ、こんな反応であろう。

 

 

 詰将棋素人だと、そもそも初手から見えないが、とりあえず▲54銀から入るのが正解らしい。

 ちなみに、詰将棋では詰ます方を「攻方」(せめかた)、詰まされる方を「玉方」(ぎょくかた)「受方」(うけかた)とい言いますが、ここではわかりやすく「先手」「後手」で表記することにします。

 こまかい変化は、書いているとキリがないから、ポイント以外はサクサク飛ばすとして、▲54銀には△75玉と逃げる。

 ▲87桂と、と金をはずしながら王手で跳ね、△86玉

 そこで、▲95角成とすれば簡単に詰みそうだが、それには△76玉と逃げられ、▲77歩

 

 「打ち歩詰め」

 

 という反則になって不許可。

 

 ▲77歩で王様が動けないが、これは反則。

 意味不明ともいえるこのルールにより、詰将棋という文化は、とんでもない奥深さを獲得することになる。

 

 なんていう導入部からして、カンのいい方なら「あー」となるのではあるまいか。

 そう、この「第一番」は、玄人向け詰将棋の基本中の基本ともいえる、この

 

 「打ち歩詰め」

 

 によって仕掛けられた罠を、いかに回避するかがテーマになっているのだ。

 腕自慢の方は、「ほんなら」と腕まくりでもするところであろう。

 この図式を中学生のころ(!)解いたという、米長の解説では(改行引用者)、

 


 打ち歩詰めを打開するには2通りの手がある。

 まずは味方の駒の利きを弱めて打ち歩詰めにならないよう逃げ道を与えること。

 もう一つは、敵の駒を呼んで、歩を打ったとき、敵の駒で取れるようにして打ち歩詰めを避けるようにすることである


 

 
 ここでは後者の方法を使うのがよく、△86玉▲66竜と王手して、△同竜と取らせてから、▲95角成とする。

 そうすれば、△76玉のときに、▲77歩△同竜とできるようになるから、「打ち歩詰め」は回避できるというカラクリだ。

 

 取れる駒を呼び寄せておけば、歩を打っても詰みではない。

 上級クラスの詰将棋では、頻出するテクニック。

 

 

 にゃーるほどー、と感心することしきりだが、この程度は詰将棋力の高い人なら、まあ見破れるだろうところ。

 これくらいのワザは、この図式では口当たりのいいオードブルにすぎず、ここから重量級のメインディッシュが、用意されているのだ。

 ▲77歩、△同竜、▲同馬に、△85玉で、まず第1の関門は突破できたが、まだまだゴールは長い。

 

 

 事実、若き日の米長少年は、ここで動きが止まってしまう。

 次の手が、この図式随一の超難問だったからだ。
 
 一目の▲95馬は、△76玉と逃げられて、▲77馬△85玉は同一局面がループしてしまいアウト。

 米長の第一感は▲84飛

 

 

 だが、これには△同玉、▲95馬、△83玉、▲82金、△同歩、▲84歩、△92玉、▲81銀、△91玉、▲82と、△同玉、▲72金、△91玉に、▲92歩が、またしても「打ち歩詰め」。

 

 

 長手順になってしまったが、自然に追う形でむずかしくないので、ぜひ並べてみてほしい。

 なるほど、たしかにこれだと不詰で、またしてもである。

 

 「打ち歩に詰みあり」

 

 という格言もある通り、こういうところは一工夫すれば、結構詰むものというか、そもそも詰将棋なので、絶対になにかはあるんだけど、それが思い浮かばない。

 のちに、四冠王名人まで昇り詰めるほどの天才が、完全に固まってしまったのだから、これはよほどのことである。

 また、米長少年を悩ませたのが△16にポツンと置かれた

 これが、なんのためにあるのか。

 事情を知らないで見たら「誤植」とすら思えるような、おかしな駒。

 その意図がくみ取れず、そのこともまた、米長少年をして、頭をかかえさせたのであった。

 苦行すること、なんと1週間

 といっても、昼間は学校に行って、帰ってからも内弟子の雑用をやったりしていたから、丸々費やしたわけではないが、それにしたって大変なものだ。

 でもって、脳みそを七転八倒させながら、ついにたどりついた解が、またスゴイのであった。

 

 (続く→こちら

 

 

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読まずに勝てる(?)将棋必勝法 詰将棋やらずに初段になれるって本当ですか?

2021年09月16日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べネット将棋だけで二段になれた私。

 よくそんないい加減なことで、特に詰将棋を解かず、よく勝てるなとあきれる向きもあるかもしれないが、今回はまさにその「詰将棋」の話をしたい。

 私は詰将棋が苦手であり、これまで、ほとんどマジメに取り組んだことがない。

 その理由をズバリ答えるならば、

 

 「頭を使うのが、めんどくさい」

 

 そもそも将棋ファンに、不向きなんじゃないかという話だが、実のところ解けと言われれば、まあそこそこには、できたりする。

 ネット中継の休憩時間や、連盟ホームページにある「今日の詰将棋」みたいな問題なら、むずかしくないから、それこそサクッと解けるもの。

 棋力のおとろえた今試してみても、7手から11手詰くらいの問題なら、ウンウンうなって、がんばってやれば、一応大丈夫なようだ。

 これは別に「解けるぜ」という自慢とかではなく、オーソドックスな詰将棋というのは指し将棋(詰将棋ファンはいわゆる「将棋」のことをこう呼びます)の技量が上がれば、自然に解けるようになるものだから。

 つまり、ふつうは、

 

 「詰将棋を解く」→「上達する」

 

 というイメージだが、逆もまた真なりで、

 

 「上達する」→「詰将棋が解けるようになる」

 

 というパターンもあるわけだ。

 私は明らかにこっち

 なので、

 

 「詰将棋、やりたくない」

 「やっても解けないから、つまんない」

 

 という級位者の方がいれば、無理に取り組まなくてもいいと思うわけなのだ。

 実際、私はそれで初段以上になれたし、こないだも言ったように先崎学九段も、




 「詰将棋や詰碁をやらなくても、アマ三段くらいにはなれる」




 と本で書いている。希望にあふれている言葉だ。

 では、われわれのような詰将棋をやらない


 「終盤力がこんにゃく」


 というアマが、詰む詰まないの部分を、どう戦えばいいのか。

 ひとつは、テレビやネット中継の解説を参照する。

 将棋中継を見ていると、難解な局面ではたくさんの変化が出てきて、


 


 プロ「まあ、これは、だいたい詰みですよね」

 聞き手「だいたい、ですか(笑)」

 プロ「【約詰み】です。いや、それじゃダメですよね。じゃあ、いっちょ詰ましてみますか。あーやって、こーやって」

 聞き手「あれ? 意外と、むずかしいですね」

 プロ「【だいたい】で済ますと、これがあるんですよ(苦笑)。あ、待ってください! 詰みました。いやー最後が金じゃなく、先に桂でピッタリかあ」



 

 みたいな流れがよくある思うんですけど、この詰み筋をしっかりと見ておく。

 これなら、プロが考えてくれるし、目で追うだけでも結構勉強になります。

 あと、「投了図以下の解説」も学べます。

 実は将棋の詰みの場面というのは、その多くが「並べ詰み」。
 
 一時期、増田康宏六段

 

 「詰将棋は意味ない」

 

 と発言して話題を読んだが、もちろんまっすー本人が言うように、詰将棋自体が無駄というわけではない。

 疑問なのは、難解な詰将棋の持つ

 

 「絶対に実戦には出てこないマニアックな変化」

 

 これが不要と言っているだけで、むしろ実戦で出てくる「手筋」の類の詰み筋はマスターすべしと。
 
 具体的には、美濃囲いなら

 

 「▲71角、△92玉、▲93香、△同桂、▲82金

 

 矢倉なら、

 

 ▲23歩成、△同金、▲同飛成、△同玉、▲41角

 

 なんていう、実戦の頻出問題とか。

 

 

 

 教科書通りな「美濃くずし」からの詰み筋。

 ▲71角に△92玉は▲93香、△同桂、▲82金。

 また持駒が金だけだと、▲82金と打って、△93玉に▲72金と銀を取りながら王手して、△92玉には▲82角成。

 △84玉には▲75銀(▲85銀)で詰むが、舟囲いのように先手の歩が▲87にいると、▲75銀には△85玉と抜けて詰まない。

 などなど、こういう定番の形をたくさんおぼえておくと、終盤でとっても役に立ちまくりです。

 

 

 こういう

 

 「当たり前すぎて、詰将棋だと今さら出てこない形」

 

 こそが即戦力になるわけで、

 「投了図以下の解説」

 はそれこそ初心者にとって、の山と言っていい。

 こういうのをたくさん身につけると、逆算的に詰将棋も解けるようになります。これはマジで。

 詰将棋の役割は、

 

 「手を読む根気をやしなう」

 「脳内にある将棋盤を可視化する」

 

 というところにあるから、逆にある程度、将棋がわかってきてから、手を付けるというのはアリ。 

 あと、これは有段者になってから私もやったが、解くのがめんどいなら「鑑賞」という手もある。

 これはなかなか、ピンとこないかもしれないけど、詰将棋には「芸術」という面もあるのです。

 自分は湯川博士さんと門脇芳雄さんの

 

 『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』

 

 という本に大感動して、詰将棋の美しさに開眼したのだが、それを解くのでなく、ただ「鑑賞」する。

 これが存外、役に立ったような気がする。

 解くのが無理でも、問題を見て、解けなかったらすぐ解答ページを開き、その手順を頭の中でなんとなく再現してみる。

 これなら終盤力ヘボヘボでも、なんとかなるし、なんといっても美しい詰将棋を味わうというのは、至福の時間でもあるのだ。

 浦野真彦八段の『詰将棋ハンドブック』なんか、あれはまあ、解きやすく作ってくれてるけど、「鑑賞」するにもステキな作品ばかりで超オススメ。

 数学でも問題を解くには、ただ考えるだけでなく、様々な問題と解答をに触れて、パターンをたくさん身にしみこませるのがいいから、詰将棋もそうのはず。

 実際、詰将棋の上達メソッドとして、

 

 


「詰将棋の本は問題を見て解けなかったら、答えを見てもいい」



 

 とは、よく言うもの。

 もちろん解ければベストだけど、むずかしければ、すぐに答えを見て、ちゃちゃっとの問題にいく。

 で、最後の問題が終わったら(答えを見たら)、最初のページに戻って、またくり返し。

 それをサクサクやっていれば、4回目には、ほとんど解けるようになる。

 私はこれと同じやり方を、大学受験のときやって、旺文社の『英単語ターゲット1900』を3ヶ月ちょっとでクリアできたりしたから、きっと効果あり。

 要するに、詰将棋を使った「棋譜並べ」をやればいいのですね(棋譜並べのやり方については→こちら

 最後に、やっぱり一番大事なのは、ミもフタもないけど、

 

 「そもそも一手違いの終盤戦にしない」

 

 スプリント勝負にならないように手厚く勝つ。

 あるいは、詰ますんじゃなく、相手に寄せ損なわせる

 あとまあ、実戦では


 見切り発車で、王手してたら詰んだ(詰まされた)」


 なんてケースも多いので、もういっそ「くじ引き」みたいなものと割り切る。

 まあ、これでも案外勝てるしなあ。

 だって、おんなじくらいの棋力でこっちが詰ませられないんだったら、まあだいたい向こうも出来てません。

 テキトーだけど、実戦ではこれくらい図太い気持ちで戦うのも大事。

 なんだか、マジメな将棋の先生に怒られそうなことばかり書いてるけど、こんなもんでも初段になれるんですから、なかなか希望のあるハナシではありませんか。

 

 (江戸時代の詰将棋「将棋無双」編に続く→こちら

 

 

 

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