ある程度、食べ終えたカレーの容器を集めてから、ナンクルナイサーおじさんのところに向かった。
彼は独り背中を丸め、小さくなってカレーをゆっくりと食べていた。
「どう?ちゃんと食べれる?」
「うん、食べれるよ。」
「痩せちゃったから、よく食べてね。」
「うん、大丈夫だよ。オレ、簡単に死ねないもん。夢があるから、簡単には死ねないもん。
いつか沖縄に帰りたいんだ。
でも、簡単に帰れないんだよ・・・。{少し涙ぐみながら言葉を出した}
だから、簡単には死ねない・・・。」
「そうか、それじゃ簡単には死ねないね。ちゃんと生きよう。石垣島に帰りたいんね・・・。」
「うん、帰りたい・・・。
そうだ、この前、警察に止められていろいろと聞かれたんだ。」{心に詰まっていたものを吐き出すように話し始めた}
「近くで泥棒があったみたいで、オレのことを疑って、バックのなか全部見せろって言われたんだ。
そして、一人の警官にちゃんと見せたんだ。
そしたら、もう一人の警官がまた見せろって言うんだよ。
オレ、カチンと来てさ。」
「そうだよね、もう一度見せたんだもんね。」
「うん、そうなんだよ。そして、故郷のこととかも聞かれたんだ。そしたら、沖縄まで歩いて帰れって言うんだよ。
近くまで歩けるだろって・・・。
またオレ、カチンと来てさ。
だったら、お金貸してくださいって冗談で言ったんだ。」
「そうなんだ、嫌なことを言う警官だね。」
「うん、滅多に怒らないけど、カチンと来たよ。歩いて帰れって言うんだもん。」
彼はそのことがあってから、ずっとこの怒りが心のなかにあったのだろう。
誰かに胸のうちを話し、カタルシスを得ることなど出来ない日常を生きて来たのだろうか。
そのなかで痛み苦しみから逃れるために夢が生まれたのかもしれない。
帰りたいけど帰れない故郷石垣島に戻ると言う夢が生まれ、そして、それは死ねない、生きる、生き延びると言う希望に変えてきたのではないだろうか。
人からバカにされ、自尊心を傷付けられ、空腹も伴い、苦しめられようとも、彼は彼自身を救おうとしている健気な美しい人である。
夢に苦しめられることもあるだろうが、夢に救われることもあるだろう。
すべては誰かに見守られている。
そして、彼はその誰かに身も心も委ね、今日も生きているのだろう。
彼のうちにある夢、石垣島は天国のように美しいところであるのだろうと、自分は夢を見る。
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