カルカッタより愛を込めて・・・。

次のアピア40のライブは9月13日(金)です。また生配信があるので良かったら見てください。

その姿。

2009-07-06 13:20:43 | Weblog

 食べ終わったカレーの容器を集めるために、あの喋れないおじさんがいる公園に行った。

 久しぶりの陽射しに喜んでいるような青々した木々や花たちを見渡し、おじさんたちの様子を見ていた。

 公衆トイレの前には市の清掃局の車が止まっていて、係りの人たちのトイレの前を掃除していた。

 その掃除をあの喋れないおじさんが見ていた。
 彼が何を見ているのかを見ていると、掃除をして出てきたアルミ缶を拾っては少し離れた場所に持って行き、それを潰していた。

 その姿に心を奪われた。その姿はカルカッタでよく見たような光景の記憶を呼び起こした。ゴミのなかからリサイクル出来るものを拾い出す人たちと同じだった。

 カルカッタの貧しい人は大きなずたぶくろを持ち、早朝から街を歩き回り、お金と換えられるものを拾い、生活をしている。彼のその姿はそれとまったく同じだった。

 話すことの出来ぬ彼はただ待つしかない。しかし、少し経つの清掃員の人も少し離れたところにおじさんが拾いやすいようにアルミ缶を投げてくれた。

 おじさんに声を掛けた。
 「アルミ集めているんだ。」
 彼は頷きながら、悪くない方の右足のかかとでアルミを潰していた。アルミは悪臭がしていた。なかにゴミがあるものは公衆トイレの水道を使い、なかを洗い流していた。

 自分もゴミのなかから悪臭のするアルミ缶を何個か拾い、おじさんの足元に置いた。彼は表情を変えず、ただアルミを潰していた。

 手伝って欲しいなどと彼は語ってはいない。自分にそんなことをして欲しくもなかったのかもしれない。答えは分からなかったが、それでも、自分も何も言わずにアルミ缶を持っていった。

 「もうアルミはないですか?」

 「知っているの?」頭を丸め、下駄を履いた男がなぜ彼の手伝いをしているのかが不思議に思った清掃局のおばさんは聞いた。

 「知っていますよ。」微笑みながら答えた。

 「そこに置いとけば、取り来るよ。」おばさんも少し微笑んだ。

 「ありがとう。」

 おじさんはその間もひたすら缶を潰していた。自分は胸のポケットからタバコを一本出し、彼に差し出した。そして、火を点けて上げた。彼は少し頭を下げお辞儀をした。

 タバコを吸いながらも、彼は仕事を続けた。続けながらタバコを吹かすその姿は以前何らかしらの職人をしていた感じを受けた。様になっていた。

 自分もタバコを吸い始め、アルミがなくなるまで拾い集めた。そして、5本ぐらいしか残っていなかったが、タバコを彼の胸のポケットに入れた。

 彼はそれを受け容れてくれた。あまり無理はしないようにと伝え、最後に握手をして別れた。

 清掃局の人たちにも挨拶をして、その場を離れた。

 いつも5個ぐらしか持っていなかったアルミ缶だが、その日は30個ぐらいは集めただろう。彼の普段の生活は知りえることは出来ないが、彼はあのようにして生活していることを見た。健気な姿を見た。

 この今もそうしているのだろう。生きていくために不自由な身体を動かしているのだろう。

 もちろん、それは彼だけではない。彼だけではないが、誰もがかけがえないその命を繋ぐために今を生きている。

 記憶のなかにはその人たちの健気に生きるその姿がいろいろな瞬間に語り出す。それに答えるように今を自分は生きている。呼吸をし続けている。
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