高校卒業後、航空会社や貿易会社勤務を経て21歳で大学演劇科へ進んだが、演劇を「お仕事」ではなく「これまでにない作品世界と表現技法の開拓」をモットーにして長年活動してきた。今回の『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス 東京ミニオペラカンパニーの挑戦』刊行はその集積の一つと言えよう。全国主要書店にて発売中といっても、個人出版は商業的営利性が目的ではない。編著者として、この分野に関心のある方にぜひ読んでほしいという思いで献本や寄贈を続けている。日本演劇学会で知己となった大学教員を通じて、関東を中心に関西の大学にも「学術研究の対象」として郵送しているが、寄贈先から『学生にぜひ紹介したい』というメールや大学図書館から丁寧な礼状まで戴いている。母校の早稲田大学演劇博物館の蔵書となったことも有難い。
さて、2月の『雪女の恋』上演(東京文化会館小ホール)と並行する形で前掲書の企画出版を進め、刊行後も上記の広報活動に勤しんでいるので、気が付くと年の瀬が迫ってきている。慌ただしい日々を送る自分とは違って、世の大半の方々、定年まで勤め上げた高齢者は悠々自適の老後を送られ、中には日本の豊かな四季に身を置くため移住者の道を選ぶ御仁もおられるようだ。変わり者の私には考えられないことだ。私にとって「会社」は経済の基盤ではあっても「世界」ではなかったので、「転職は悪」とされていた半世紀前から<生活費確保・残業無し>を求めていくつかの職場を渡り歩いた。全てはライフワークとして「演劇」を選んだ結果であった。ドロップアウトした人間には退職金はもちろんのこと、年金はまさに雀の涙となる。ただ幸運なことに健康に恵まれ、塾講師の仕事にありついているので「現役」を続けられている。芸術に定年はない。したがって老後もない。この世にとどまっている間はライフワークに精魂を傾ける日々となる。
しかし、人間、休息や気分転換もおろそかにしてはならない。芸術創造に携わる者の場合、新たな作品を生み出すために日常から離れ、異空間に身を置く必要もある。先日、日本の名湯・草津温泉で一日を過ごした。旅先に選んだのは、羽田空港で肉体労働に従事していた19歳の頃(写真上)、社員旅行先だったことが記憶の底にあったからだった。帰京する早朝、大自然に囲まれた大露天風呂に浸かった。ゆったり立ち上る湯煙に射しこんでくる朝陽を見つめながら、生きていることの幸福を実感する時間となった。
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