Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

千田是也さんも登場する「九月、東京の路上で」

2018-08-01 | Weblog

「九月、東京の路上で」には、千田是也さんの逸話が登場する。

千田是也さんを演じるのは、ジャブジャブサーキットの、咲田とばこ(写真 下左 撮影・姫田蘭)。

狙い通り、ユーモアと、ふだんジャブジャブでも発揮している独自の非現実の現実感とでもいうべきセンスを見せてくれる。

 

震災の年、九月二日夜。十九歳の演劇青年、本名・伊藤国夫としての千田是也さん(咲田とばこ)は、軍が多摩川沿いに展開し、神奈川県方面から北上してきた「不逞鮮人」集団を迎え撃って激突しているという噂を耳にした。

戦場は遠からずこの千駄ヶ谷まで拡大してくるに違いないと思った彼は、二階の長持の底から先祖伝来の小刀を持ち出し、いつでも使えるように便所の小窓の下に隠しておいて、向かいの少年(田中結佳)とともに家の前で杖を握って「警備」についた。

だが、いつまでたっても何も始まらない。業を煮やした彼は、千駄ヶ谷駅近くの線路の土手に登って「敵情視察」を試みる。すると闇のなか、後ろの方から「鮮人だ、鮮人だ!」という叫び声が聞こえるではないか。さらに、こちらに向かっていくつもの提灯が近づいてくるのが見える。朝鮮人を追っているのだ。よし、はさみ撃ちにしてやろう。伊藤は提灯の方向にまっしぐらに走り出した。

伊藤国夫がそっちへ走って行くと、いきなり腰のあたりをガーンとやられた。

あわてて向きなおると、雲つくばかりの大男がステッキをふりかざして「イタア、イタア」と叫んでいる。「違うよ! 違いますったら!」といくら弁解しても相手は聞こうともせず、ステッキをめったやたらに振りまわしながら、「センジンダア、センジンダア!」とわめきつづける。そのうち提灯たちが集まって来て、ぐるりと私たちを取りまいた。見ると、わめいている大男は、千駄ヶ谷駅前に住む白系ロシア人の羅紗売り(猪熊恒和)だった。

そっちは朝鮮人でないことは一目でわかるのだが、伊藤国夫の方はそうはいかない。

その証拠に、棍棒だの木剣だの竹槍だの薪割だのをもった、「これも日本人だか朝鮮人だか見分けのつきにくい連中」(武山尚史・山村秀勝)が、「畜生、白状しろ」「ふてえ野郎だ、国籍をいえ」「うそをぬかすと、叩き殺すぞ」と、彼を小突き回した。

伊藤国夫は「いえ、日本人です。そのすぐ先に住んでいるイトウ・クニオです。この通り早稲田の学生です」と学生証を見せるが囲んだ連中は薪割りを相手の頭の上に振りかざしながら「「アイウエオ」を言ってみろ」「教育勅語」を暗誦しろ」と迫る。

伊藤国夫はまあ、この二つはどうやら及第したが、「歴代の天皇の名を言ってみろ」と言われ、「神武、綏靖、安寧、威徳、孝昭、孝安、孝霊、孝元、開化……」辺りで詰まったところを、自警団のなかにいた近所の人が彼に気づき、なんとか助かる。

千田さんがこの時殺されてたら、後の「俳優座」はなかったっということになるのかもしれない。

彼は運がよかったが、当時、朝鮮人に間違えられて殺された日本人や中国人は数多くいる。

千田是也氏のエピソードで見落としてはならないのは、彼はそもそも短刀や杖を武器に、倒すべき「不逞鮮人」を求めて走っていったということだ。たまたまぶつかったのがロシア人であったために笑い話に終わったが、本当に朝鮮人にぶつかっていたらどうなっただろうか。彼は純然たる被害者ではないのである、というのが原作者加藤直樹氏の指摘だ。

千田さん自身が、「あるいは私も加害者になっていたかも知れない。その自戒をこめて、センダ・コレヤ。つまり、千駄ヶ谷のコレヤンという芸名をつけたのである」と語っているとおりだ。

 

「九月、東京の路上で」今日のアフタートーク・ゲストは、やはり関東大震災虐殺直後の時代を描いた映画『菊とギロチン』(テアトル新宿他で上映中)の瀬々敬久監督。 

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「九月、東京の路上で」上演情報


7月21日(土)~ 8月5日(日) 下北沢ザ・スズナリ

原作◯加藤直樹

作・演出○坂手洋二

 

まだ前売もしています。

大幅増席しました。今のところどの日も当日券あります。

当日券は開演の45分前より販売する予定です。

詳しい情報は以下を御覧ください



http://rinkogun.com/Kugatsu_Tokyo.html

 
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