
中澤日菜子さま
あなたに「坂手さん、久しぶりにいかがすか?」と誘われ、大学劇研の後輩矢野陽一君と,そのまた後輩であるあなたと、某居酒屋で島根の肴と地酒を堪能したのは2020年の10月でした。しっかり呑んだのはあれが最後でしたね。
Facebookとは奇妙なもので、そうした過去の情報がネット上のどこかに保存されていたのです。
あなたがどうもどこかに行ってしまったというので、みんなおろおろしています。
あまりにも突然のことで茫然とするしかありません。
石垣島で亡くなったと聞きましたが、私もここ数日東京にいないので、よりいっそう現実感がないです。
劇作家協会の戯曲セミナーに最初に受講生として入ってくれて、その後、「研修課」という専攻過程がスタートしたとき、私の担当ゼミにも、最初に入ってくれました。嶽本あゆ美さんと、ずっと一緒でしたね。
あなたの戯曲の魅力は、どちらかというとあなたが志向していた幻想的な方向よりも、リアリズムの方向のほうが明確に表出される、ということを,確かに私は言いました。その幻想譚要素のある戯曲たちも濃密で、色彩と空間の捻れた動きが、読む物を吸引する腕力がありました。そう。「動いている感じがする」世界を書くことができる書き手でした、あなたは。
結果としてあなたは、リアリズムならむしろ小説でという判断に至り、散文、小説という場で受賞し、そこから大きく才能を開花されたのでしたね。
たしか阿佐ヶ谷の飲み屋で、「『お父さんと伊藤さん』で、「伊藤さん」のモデルは、ちょっと坂手さん入ってるんですよ」と言われ、「ふふふ、君は同じことを十人以上の男性に言っておるだろう」と返し、「なんでわかるんすか!」というおバカ会話をしたのが、昨日のことのようです。
『お父さんと伊藤さん』映画化で広く知られるようになり、小説単行本第二弾『おまめごとの島』で、幻想的な方向をリアルな小説に本気で偲ばせ始めたと思ったら、『PTAグランパ』のドラマ化で、また路線が拡がり、すっかり人気者になりましたね。その後、ちょっと悩みながら、これからどういう方向に進んでいくか、模索の時代が続く中で、ある方向性を見出したと思われた矢先にいなくなってしまわれたのでは、多くの読者もあなたをどこに追いかけていけばいいのかと、困ってしまいます。
私が芝居に使うために巨大な縫いぐるみ「くまきち」をもらったのは、4年前。届けてくれてありがとう。あいつはまだうちにいます。
ご自分もたいへんな時期に、こちらに何かありそうだと「大丈夫すか?」と連絡をくださっていたのにも、感謝です。
私たちは誕生日が同じ3月11日なので、今年も先月、お互いに誕生祝いのメッセージを交換したのが、最後のやり取りでした。
同じ時代に生きた、それだけで幸せで、あなたのことを大切に思う多くの人たちとともに、あなたと一緒にいることは変わりません。
とにかくゆっくりお休みください。
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