Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「ルールを固定したくない」が、守らなければならないことはある

2020-07-14 | Weblog
大学の同窓生からメールがあり、日本経済新聞夕刊に記事が出ていた、と聞いた。
コロナ禍下での演劇活動の再開について、十日以上前に取材は受けていたので、それが出たのだと思った。
で、演劇再始動にさいしてのいろいろな現場の取り組みが紹介されている中の一つ、と思っていたら、記事のタイトルになっている〈演劇再始動「ルール固定したくない」 新たな運営手探り〉の、「ルール固定したくない」は、どうやら自分の発言だった。

同記事がFacebook等ネット上で紹介されているときの見出しは「演劇再始動「観客半分では……」 手探りのコロナ対策」となっている。
「観客半分では……」というのも、「50%の入場率では「興行として成立しない」と、演劇関係者は口をそろえる」という地の文の記述の後に、私が、「日々の観客数を「はっきりとは決めない」とし、「観客数は満員時の半分」というルールの固定化を否定した発言が載っている。
そのまま引用すると以下の通りである。

そんな問題意識もあって、小劇場のザ・スズナリ(同・世田谷)で始まった燐光群(りんこうぐん)の公演「天神さまのほそみち」(19日まで)ではあえて、日々の観客数を「はっきりとは決めない」と演出の坂手洋二はいう。「観客数は満員時の半分」というルールが固定化されると「演劇だけでなくライブハウスや映画館などの活動も苦しくなる」からだ。ただし、換気や消毒、密集を避ける対策などは丁寧に行っているという。 

以上。

「演劇だけでなくライブハウスや映画館などの活動も苦しくなる」というのは、演劇・映画館・ライブハウスと超ジャンルでコロナ禍被害への援助を求める〈We Need Culture〉の仲間である皆さんとの共闘のつもりではある。場所ごとに条件が違い、客席形状も多様な中で、物理的に「半分のお客」と区切られてしまっては、ライブハウス等の運営は成り立たないからだ。

見出しにされたのは、それなりに、今の「常識」に対して疑う意見ととられているからだろう。「前後左右を空けた席配置」を守ろうとすると、自動的に客席数はおよそ半分になる。「観客数は満員時の半分にしさえすればいい」ということではなく、それぞれの環境に即した対応が必要だろう。ルールを固定したくないという言い方の先で、多くの人に考えていただく契機になれば、と思う。

ところが先週、新宿区の小劇場で、6月30日~7月5日に上演された舞台周辺で、多数の出演者や観客らが新型コロナウイルスに感染したことが明らかになり、クラスター(感染者集団)が発生した、と報じられた。
結果、マスコミ・世間の演劇に対する非難が高まり、ワイドショーやこれまでのネット記事では、かなり辛辣な対応が出てきているようだ。

先週から都内で「一日の新感染者数二百人越え」が始まったさい、「検査数が増えたのだから当たり前」と言っていた演劇関係者たちも、俄に、「今のままでいいのだろうか」と、浮き足立っている。

「ルールを固定する必要があるのか」という問題提起は大切だと、今も思うが、誤解のないように言っておけば、私の発言は、必ずしも現在多くの人に共有されている感染対策じたいを、否定するものではない。
守らなければならないことは、あるだろう。

前提として、私は、ウイルス学の専門家・宮沢孝幸京大准教授による、ウイルスの量を「マスク」と「こまめな手洗い」によって削減することで感染を「1/100」に防ぐことができるという提言には、説得力があると思っている。
宮沢准教授は、そもそも映画館はローリスクであり、来場者の皆さんにマスクをしていただくことが基本になっていれば、別に席数を限る必要すらないのではないか、というのだ。
劇場に限らず、家を一歩出れば、マスク着用、手洗い・消毒の徹底、顔を直接触らない、という基本が守られていれば、ということでは、ある。

「ソーシャルディスタンス」という考え方は、もともと人々がマスクをしない欧米の常識から生まれ、その前提で考えられてきたのだろうと思う。
そもそもこのウイルスが空気感染するのであれば、電車の中でも感染は爆発的に流行しているはずである。
私は外出のほぼ三分の二は自転車で移動しており、電車に乗ることが少ないことで、それが少しでも我が身への感染を予防することに繋がっているようにも思ってしまうのだが、身内には電車とバスを乗り継いで片道一時間半以上かけて通勤している者がおり、「電車でなく自転車だから安全」と思ったり口にしてしまうことが、そうした長距離通勤を余儀なくされている人たちの気持ちを苦しめるものだということも、知っている。
「劇場は満員電車よりもよほど安全ではないか」という言い方をすることについては、賛成するときもあるが、局面によっては、慎重にならざるを得ない。

先日、観に来てくださった映画関係者の皆様と、終演後、近くの店に行った。
来場された女優さんたちと監督一人、私は、基本的にはマスクをしていた。
しかし、写真に撮られてしまうと、ましてや求められてそのため一瞬だけでもマスクを外してしまうと、誤解される。勘違いされそうな写真のFacebook等への掲載は、控えていただくことにした。

昨今、打ち合わせ等でも、なるべく正面に向き合わないよう、少しずらして座るのが、基本である。失礼になったり違和感がないギリギリに、正面からそらすように顔を向けることを心掛ける。飲食を伴う場合でも、食べるとき以外はなるべくマスクをして、必ず取り分け用の箸を用いる等、ふだんとは違う「ルール」がある。だがそもそも、なるべくそういう機会を避けるに越したことはないのである。
「ルールを固定したくない」のも本音だが、これだけ演劇が敵視されかねない状況の中、ストイックに舞台に向き合っているスタッフ・キャストのことを思い、気を引き締めたいと思う。

「正しく恐れる」を主張する、国立感染症研究所や米疾病対策センター(CDC)などで研究してきたウイルス学者、西村秀一さんの意見は、頷ける。
推定死者数も含めると、ピーク時には1日で800人近くの死者が出ていたニューヨークでは、州内を10地域に分けガイドラインを作成、1日の6万件を超えるPCR検査や抗体検査の拡充を徹底して実施、検査は症状問わず、希望者全員が無料で受けることができる。7月11日にはついに、新型コロナによる死者数はゼロを記録。陽性率は2%程度に止まっているという。
日本もニューヨークやドイツ並みに、無料での徹底的な検査を施す必要があるのではないかと思う。地方の人達が東京に来ることも、東京の人間が訪問してくることへも拒否反応がある現実の下、「Go To キャンペーン」(本当にやるのか?!)以前に、東京でPCR検査や抗体検査を徹底して行い、現実をあからさまにすべきと思う。
そして、検査は、一度すればいい、というものではない。医療関係者、舞台芸術関係者、スポーツ関係者等も含め、人と人との接触が避けられない業種は(時としてマスクを外す必要のある業種はとくに)、費用をかけず定期的に検査が受けられるべきだと思う。


日本経済新聞の記事は以下で読めます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61381200Q0A710C2BE0P00/
(編集委員 瀬崎久見子、北村光両氏が担当)


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