大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・070『ニャンコの正体・1』

2019-09-25 11:16:11 | ノベル
せやさかい・070
『ニャンコの正体・1』 

 

 

 

 この子メインクーンだ!

 

 頼子さんの言葉に、あたしは男爵と並ぶジャガイモの種類を思い浮かべた。

「メインクーン?」

 メークインと発音せんかっただけ偉いねんけど、留美ちゃんもメインクーンは分かれへんみたい。

「一見トラ猫なんだけどね、胸の毛とかが違うの。アメリカのメイン州のネコでね、クーンって言うアライグマに似てるから付いた名前なんだよ」

「アライグマって言ったら、ちょっと大きいんじゃないですか?」

「うん、まだ子ネコだけど、大人になると10キロ近くなるわよ」

「「10キロ!」」

「ほら……こんな感じ」

 頼子さんはパソコン検索して写真を出してくれた。 「メインクーン」の画像検索結果

 

 これは、もう猫の範疇に入る生き物やない!

 あたしらが助けた子ネコは、ゲンコツ二つ分くらいの大きさしかない子で、ジャージのお腹の中でも余裕で入るサイズ。

 お目めがクリクリしてて、三角の耳がピンとかっこよく立ってる。もし、トラ猫の子どもを連れてきてコンテストをやったら、一等賞間違いなしいう感じ。

 あたしの横で留美ちゃんがしょぼくれてる。

 察するに、留美ちゃんは子ネコに一目ぼれしたんや。できたら自分とこで飼うつもりにさえなってた。そやけど、この写真を見たら二の足を踏むやろなあ。

 頼子さんは、頬杖付いて子ネコを見てるけど、やっぱしょぼくれてる。ネコ、嫌いなんかなあ?

「家族にネコアレルギーがいるからねえ……」

 そういう理由か。

「それに、たぶん飼い猫だよ。いくらするんだろう……」

 検索する頼子さん。子ネコをモフモフしながらパソコンの画面を見つめる留美ちゃん。

「アヒョーー」

 頼子さんがケッタイな声を出す。画面にはスゴイ値段が出てた。

 10万~20万…………アヒョー、あたしも言うてしもた。

「メインクーンの血が入った雑種かもしれませんねえ」

「うん、子ネコのうちは分からないし、きちんとしたことはブリーダーとかでなきゃ分からないでしょうねえ……にしても、学校で預かるわけにもいかないだろうし」

 あたしの気持ちは、ほとんど決まりかけてた。

「ちょっと、家に電話してみます!」

 それだけで、意味が分かったみたいで、留美ちゃんも頼子さんも、スマホを構えるあたしに注目。心なしか子ネコも縋りつくような目ぇで見てるやんか(^_^;)

「うん……うん……うんうん、そうします!」

「「どうだった!?」」

 電話にはテイ兄ちゃんが出て、檀家周りから帰って来た伯父さんに聞いてくれて、とりあえずのOKをもろた。

「お寺の前に『迷子ネコ』の張り紙して、飼い主が見つかるまでは預かってもええいうことのなりました!」

「「よかったあああ!」」

 

 とりあえず、子ネコは、うちに来ることになった(o^―^o)!

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真夏ダイアリー・20『ちょっと不思議なクリスマスパーティー』

2019-09-25 06:24:14 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・20  
『ちょっと不思議なクリスマスパーティー』      
 
 

 省吾の家には、シャレじゃないけど正午に集まることになっていた。
 
 正午前にいくと、もう四人が集まっていた。ホストの省吾、ゲストの玉男、柏木由香、春野うらら。
 
 由香とうららは緊張していた。無理もない、つい三日前にオトモダチになったばかり。
 わたしも付き合いは長いけど、省吾の家に来たのは初めてだ。玉男は何度か来たことがあるのだろうか、自分の家のようにリラックスし、なんとエプロン掛けながら省吾のお父さんのお手伝い。
 
「すまんなあ、玉男君。大したことは出来んが量だけは多いものでなあ」
 作務衣姿のお父さんが、玉男といっしょに料理を運んでいる。
「いいえ、いい勉強になります」
「玉男、ずっと手伝ってたの?」
「うん、蕎麦打ちと天ぷらだって聞いて、朝からお手伝い」
「言ってくれたら、わたしたちも手伝ったのに。ねえ」
 由香と、うららは、ちょっと困ったような笑顔で応えた。
「なんか、とっても本格的で、わたしたちなんかじゃ役に立ちそうにないんで……中村クンは、なんだか、もうプロって感じ」
 そう言って、食器なんかを並べる役に徹している。
「いや、玉男君が是非にって言うもんだから手伝ってもらったんだけどね、蕎麦打ちも、天ぷら揚げるのも、なかなか大した腕だよ」
 こんなイキイキした玉男を見るのは初めてだった。
「オレも、タマゲタよ。オヤジはお袋にも手伝わせないんだぜ」
「一目見て筋がいいのは分かったからね。渡りに船だったよ。蕎麦の打ち方は信州蕎麦だとわかったけど、なんで、こんなに上手いのか聞いても内緒だった」
「おじさんだって、内緒なんですもん。お互い職人は手の内は明かしませ~ん」
「はは、わたしのは、ただの趣味だから。まあ、クリスマスには似つかわしくないメニューだけど、ゆっくりやってくれたまえ。といっても蕎麦は、すぐに食べなきゃ、味も腰も落ちてしまうからね」
「じゃ、天蕎麦ってことで」
 
「「「「「いただきまーす!」」」」」
 
 五人の声が揃った。
 
 ズルズル~とお蕎麦。パリパリと江戸前の天ぷら。天ぷらは冷めないように、ヒーターの上に乗せられていた。その間に、蕎麦掻きや蕎麦寿司、茶碗蒸しなんかが運ばれてくる。
 で、一時間ほどでいただいちゃった。
 
「すまんね、わたしの趣味を押しつけたみたいで」
「いいえ、とってもおいしかったです」
 Xボックスのダンスレボリューションでもりあがり、カラオケで高揚し、GT5ではわたしの一人勝ち。
「やったー!」
 と、ガッツポーズしていると、なんだか静か……。
「あれ?」
 四人とも、座卓や、畳の上で寝てしまっていた。窓の外はいつのまにか雪になっている。
 
「そろそろいいかなあ」
 
 省吾のお父さんが入ってきた。
「真夏さん、あなたを見込んで頼みがある……」
 おじさんが、かしこまって正座した……ところで意識が飛んだ。
 
 グワー、ガッシャンガッシャンというクラッシュの音で目が覚めた。
 
「バカだなあ、真夏、運転しながら寝てらあ」
「あはは……」
 みんなに笑われた。
「お父さんは?」
「オヤジなら出かけたじゃんか」
「え……」
「それにしても、よく降るなあ……」
 
 雪だけは、さっきと同じように降り続けていた。
 
「なんだか、こうやって見てると、雪が降ってるんじゃなくて、この部屋がエレベーターみたいに上に昇っているような感じがするわ」
 うららが、そう言うと、なんだか妙な浮揚感がした。
「ほんとだ、なんだかディズニーランドのアトラクションみたい……」
 由香が続けた。
「じゃあ、このファンタジーなムードの中でプレゼントの交換やろうか」
 みんなが300円のプレゼントを出して、省吾が番号のシールを貼った。
「どうやって決めるの?」
「くじびき」
 省吾があっさりと言った。
「でも、それだったら自分のが当たっちゃうかもしれないじゃん」
「それは、それでいいじゃん。それも運のうち。どうしても気に入らなかったら、交換ということで」
 
 で、クジを引いた。四人は、それぞれ他の人のが当たったけど、わたしは自分のを引いてしまった。
 そう、あのラピスラズリのサイコロ(PSYCHOLOという微妙な発音はできなかった)
 
「なんだ、自分のが当たったの、替えたげようか?」
 玉男が縫いぐるみを撫でながら言った。
「ううん、これも運。これね、思った通りの目が出るんだよ」
「ほんと!?」
「好きな数字言って」
「じゃ、七」
「ばか、サイコロに七はないだろ」
 玉男がバカを言い省吾にポコンとされ、由香とうららが笑った。
「じゃ、六でいくね……」
 出た目は一だった。
「あれ……じゃ、もっかい。三ね」
 出た目は四だった。
「なんだ、普通のサイコロじゃないか」
「でも、買ったときは出たんだよ」
「真夏、これ、どこで買った?」
「渋谷のハチ公前」
「なんだ、路上販売か。そりゃイカサマだな」
「でも……いいよ。わたしが引いて当たったんだから」
 
 昨日から今日にかけての不思議を感じながら、とりあえず楽しいクリスマスパーティーは終わった……。
 
 
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宇宙戦艦三笠・11[ステルスアンカー・1]

2019-09-25 06:13:04 | 小説6
宇宙戦艦三笠・11
[ステルスアンカー・1] 


 
「え、あなたたち人間なの!?」

 テキサスジェーンは、妙なところで驚いた。
「あなたは違うの?」
 樟葉が、まっとうな質問をした。
「あたしはGGB、guardian god of a boat……日本語でなんて言うんだろう?」
「船霊よ」
 みかさんが、まるで、ずっとそこに居たかのように椅子に座っていた。
「あ、あなたが三笠のGGB?」
「そう、だけど日本の船霊というのは、ちょっと違うの。ジェーンは、テキサスが出来た時に生まれた精霊のようなもんでしょ?」
「そうよ。だから、今年で100歳。ミカサもそのくらいじゃないの?」
「日本の船霊は、船が出来た時に、縁のある神社から分祀されるの」
「ブンシ?」
「アルターエゴ(alter ego)って言葉が直訳だけど、ちょっと違う。コンピューターで言うダウンロードって感じが一番近い……かな?」
 みかさんはお下げのまま小首を傾げた。
「なるほど、ダウンロードしたら、どれも本物だもんね……で、ミカサはどこからダウンロードされてきたの?」
「ウフフ……」
 みかさんが笑って答えないもんだから、修一が代わって答えた。
「天照大神……らしいよ」
「アマテラス……それって、日本で一番のボスゴッドじゃないの!!」

 それにしては、可愛らしいナリだという顔を、ジェーンはしている。

「まあ、その場その相手に合うような姿になっちゃう。うちはみんな高校生だから、自然にこういうふうになるの」
「ちょっと、ジブリのキャラ風ね。アメリカでも人気よ。でもさ、どうして人間といっしょにやるわけ?」
 修一たちは、ちょっと隙を突かれたような気になった。
「あたしたち日本の神さまは、人間といっしょになって初めて十分な力が発揮できるの。GGBだけでやるアメリカとは……まあ、有り方の違いだと思ってちょうだい」
「でも、人間といっしょにやるっていいかも。航海中寂しくないもんね」
「まあ、一長一短でしょ」
「そうね、最近のアメリカじゃアメリカ人が血を流すのは嫌がるようになったしね……」
「え、これって、命に関わるような仕事なの!?」
 美奈穂とトシが声をそろえた。
「大丈夫、あたしが付いてる。経験値を積んでいけばクリアーできるわよ」
 みかさんはRPGのような気楽さで言う。

「さあ、そろそろ戻るわ。リペアーも終わったようだから」

 ジェーンは、隣の家に戻るような気楽さで帰ってしまった。その数分後だった。
 
―― ステルスアンカーをかまされて、動けないよおおおおおおおお! ――
 
 ジェーンの悲壮な声が届いてきた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・4『ミナミに行かれへんかった理由』

2019-09-25 06:06:34 | ライトノベルベスト
 音に聞く高師浜のあだ波は・4
『ミナミに行かれへんかった理由』   高師浜駅

 
 
 今日は三人で出かけよいうことになってた。

 姫乃が学校の行き返りの風景しか知らへんので、大阪の街に慣れさせよいう口実で羽を伸ばそうというわけ。
 高石あたりの高校生が羽を伸ばすいうたら、まあミナミですわ。
 難波から心斎橋あたりをウロウロするのが定番。元気やったらアメリカ村までくらいは足を延ばす。
 とうぜん交通費以外にもお金がかかるので、三人の懐具合が良くないとお神輿はあげられません。
「どないやろか?」
 提案すると、すみれも姫乃も「いくいく!」ということで、一昨日の放課後に決まってしもた。

 しかし、昨日になって、あたしの具合が悪なった。

 でも、悪なったいうようなネガティブなことは避けたいので悩んでたら、お祖母ちゃんが声を掛けてくれた。
「こんなんもろたから、行ってみいひんか?」
「え、なに?」
 お祖母ちゃんがくれたのは一枚の葉書やった。
「きっと美味しいと思うよ」
 それはご近所の西田さんが高師浜で出すイタリアンの開店記念ご招待やった。
「なんや食べ放題みたいやで、お腹は悪ないんやから、友だち誘て行っといでよ」
 よく読むと三名様ご招待、うってつけや!

 連絡をとり合い、すみれとあたしは、お祖母ちゃんの車で、姫乃は羽衣で高師浜線に乗り換えて電車でやってきた。

「やあ、駅にピッタリのファッションやんか!」
 改札を出てきた姫乃はホワイトのワンピにローウエストにベルトをルーズに締めて、なんだか、お祖母ちゃんが言っていたモダンガールの雰囲気。
「白いの着てこいって言うから、これしかなくって、変じゃない?」
「変じゃないよ、いや、ほんまに急に予定変更してごめんね」
「ううん、イタリアンの開店記念に招待されるって、めったにあることじゃないもん、ラッキーだよ」
「ね、写真撮ろうよ!」
「「撮ろう撮ろう!」」
 ということで、三人身を寄せ合い、姫乃の自撮り棒を使って写真を撮る。ちょっと窮屈。

 よかったら撮りましょか?

 後ろから声がかかった。振り返ると校長先生くらいの年配のオジサンがニコニコ顔で立っていた。
「あ、すみません」
「お願いできますか」
 駅舎をバックに七枚ほど撮ってもらった。
「よかったら、わたしのカメラでも撮っていいですか、あまりにも駅の雰囲気に合うてはるから」
「ええ、喜んで」
 姫乃の東京弁の返事が、また雰囲気。
 二十枚ほど撮ったところで、オジサンは、もう一つ提案をしてきた。
「わたしは、この春まで、この駅に勤務してたんですわ。どうですやろ、お三人の写真を駅に飾らしてもろたらあきませんか?」
 意外な申し出に、あたしらは目をパチクリさせた。

 ぼくからもお願いします。

 いつの間にか駅員さんが出てきてお願いされた。
「ええ、かまいませんよ。ね」
「「う、うん」」
 すみれも姫乃も了承して話が決まった。
 生まれて初めて人目に晒す写真を撮るので緊張したけど、オジサンと駅員さんがほぐしてくださり、数分でリラックスできた。

 西田さんのお店は角を曲がって直ぐの所だった。

 五十坪ほどの民家を改築したお店は外壁を塗り替えてテラスを拡張した以外に手は加えられてなかったけど、とても雰囲気やった。
 古い民家で、造りが高師浜駅に通じる昭和のモダニズムいう感じ。ホーホーと店の前で感動する三人。
「ドアとか窓とか、建具がみんなウッドだよ」
 姫乃の観察は、あたしよりも優れているようです。

 まあ、美保ちゃん、ようこそ!

 あたしらに気づいた西田さんのオバチャンが、すっかりイタリアンのシェフの出で立ちで出てきた。
「わー、注文通りの服着てきてくれたんやね!」
 西田さんに喜ばれて、あたしらは店の前でまた写真を撮ることになった。
 あたしは赤の、すみれは緑のワンピ。そして白ワンピの姫乃を挟むと、イタリア国旗のトリコロールになる。
 お祖母ちゃんのアイデアはなかなかのもんやと、改めて尊敬する。
 西田さんもえらい。
 ほら、姫乃に言うてた「大阪まで落ちてきました」いうて嘆いてた近所のオバチャンいうのは、この西田さん。
 いろいろあったんやろけど、なんとか、この街に根を生やそうと思てくれはったみたい。

 めでたしめでたし。

 ほんで、お腹いっぱいイタリアンをご馳走になっての帰り道。
「ホッチ、なにをモゾモゾしてるのん?」
「え、あ、そんなこと……」
「なんか変だよ」

 ミナミに行かれへんかった理由……いかに親友でも言えません。
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高安女子高生物語・98〔The Summer Vacation・1 〕

2019-09-25 05:54:25 | ノベル2
高安女子高生物語・98
〔The Summer Vacation・1 〕
         


 
 
 夏休み(The Summer Vacation)が始まった!

 なんの予定も目標も無くても、夏休みの初日は楽しいもんやと決まってる……いつもは。

 今年は、ちょっとちゃう。

 美枝の連れ子同士の、それも女子高生と大学生のデキチャッタ結婚も丸く収まった。アメリカの高校まで行く必要も無くなった。
 一昨日の晩、美枝の家でお父さん・お母さん・お兄さん兼ダンナ・美枝本人と2時間ケンケンガクガクの大論争。

 せやけど、うちがMNB47の研究生やいうことが分かったとたんに、コロッと話が片付いた。

 MNBの看板が水戸黄門の印籠になるとは思わへんかった。あとでじっくり考えた……お父さんもお母さんも、美枝の顔見てたら無理やいうのが分かってきた。しかし、話の勢いで簡単に引き下がるわけにはいかへん。そこで、うちのMNBの話に感心したふりして、矛先を収めた。

――しかし、MNBいうのは、天皇はんのご威光みたいに力があるんやなあ――

 正成のオッサンがうちの中で、一人感心しとおる。MNBが、たとえ口実に使われたとはいえ、評価されてんのは嬉しい。そやけど、うち自身の話やら理屈、MNBのメンバーとしての実力での評価やないのは、ちょっと複雑な気持ち。

 それに、あのアニキ兼ダンナいうニイチャンは、はっきり言うて、うちは好きになられへん。なんや自分の都合で……やめとこ。仮にも親友の美枝が好きになった人や。

 で、昨日スタジオにいくとびっくりした。

「君らのデビュー曲が決まった」市川ディレクターが直々に言わはった。
「ええ!?」「ウワー!」いうのが22人のメンバーの反応。
「正直デビューさせんのはまだ早い。未完成や。ただ、他の期の研究生と違って、えらくハッチャけた感じが、とても新鮮で面白い。この新鮮さは、上手くなるに従って失われていくと、ボクや笠松さん、夏木さんも感じてる。MNBは元々ファンの人たちに押されながら成長するのがコンセプトだった。ところが競合するグループの完成度が年々高くなるので、いつのまにか完成度が高くなりすぎて、高止まりのマンネリの傾向にある。そこで、君たちは、あえて未完成過ぎるくらいのところで出すことになりました」
 後を夏木さんが続けた。
「この方針は決まったばかりで、曲も振り付けも一からでは間に合わないので、逆手にとって、リメイクでいきます!」
 夏木さんが指を鳴らすと曲がかかった。

 V・A・C・A・T・I・O・N楽しいな🎶    

「コニー・フランシスの名曲。オールディーズの代表曲。これをひと夏やります。さ、みんな立って、振り付けいくわよ!」

 うちらの「バケーション」という名前の目標というよりは、戦いが、ここから始まった!
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小悪魔マユの魔法日記・44『フェアリーテール・18』

2019-09-25 05:47:46 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・44
『フェアリーテール・18』     


 
 
 背後に人の気配を感じた……。

 いつのまにか、入り口のところに、ベアおばちゃんが立っている。
「やっぱり、その子は魔女だっのね」
「ちがうわ」
「その子、たばこを消して、窓を魔法で閉めたでしょ。あんたたちみたいな子どもでなきゃ、サンチャゴの世話はできないけど、いつか、こんなことになるんじゃないかと心配もしていた。サンチャゴの夢を知りたがるんじゃないかって」
「ベアおばちゃん、やっぱりなにかあったのね。サンチャゴじいちゃんを起こしちゃいけないなにかが」
「ミファ、その子から離れるんだ。いま封じ込めてやるから!」

 ベアおばちゃんは一枚のカードをかざした。

「魔女封じの宝珠ね、そんなものでわたしは封じられないわよ」
「こ、これレアもののカードなのに……」
 マユが指を鳴らすと、カードに火が点いた。
「うわ、アチチ……!」
 ベアおばちゃんは、慌ててカードを手放した。カードは意思あるもののようにワンカートンのたばこの包みの上に落ちた。
「わたしは、魔女じゃなくて、悪魔なの。マユはあくまで小悪魔です!?~なーんちゃってね」
 たばこの包みがくすぶり始めた。
「サンチャゴじいちゃんには、すでにオンディーヌの呪いがかかっていて、目覚めることはないわ。その上ハバナたばこの煙……この煙を嗅ぐと仮死状態になって目の光りまで失ってしまうのよ」
「うそだよ、そんなこと。だったら、いっしょにいるミファたちも仮死状態になっちまうじゃないか」
「このたばこは、大人しか効き目がないのよ。だから子どもにだけ世話をさせてるんだわ」
 マユは、そう言うと、くすぶるたばこに息を吹きかけた。煙はベアおばちゃんの顔を包み込むようにわだかまり、おばちゃんは、あっけなくくずおれた。

「そんなにサンチャゴじいちゃんの夢って、怖いものなんだろうか」
 ミファが、ベアおばちゃんに毛布を掛けながら言った。
「怖いものじゃなくて、危ないものなのかもしれないわよ」
「……でも、一度、この目で確かめてみたい。この絞り込んだ瞳が見ているものを……でも、無理な相談ね。そのオンディーヌの呪いとかがかかっているようじゃ」
 ボーーーーーーーーーーーーーーー
 開け放たれた窓から汽笛が聞こえてきた。めずらしく大きな船が入港してきたようだ。
 汽笛は、間をおいて二回鳴った。鳴るたびに、サンチャゴじいちゃんの目の光りは強くなっていく。
 そして、偶然か、魔法か、坂道で吹き飛ばされたマユのストローハットが、窓から、フワリと小屋のテーブルの上に舞い降りてきた。

「じいちゃんを起こすことはできないけど、夢の中に入っていくことはできるわよ」
 マユは、ストローハットを手に取りながら言った。
「行ってみたい!」
「どんな夢だか分からない。場合によっちゃ夢に取り込まれて出てこれなくなるかもしれないわよ」
「でも、見てみなくちゃ始まらないよ……お願い」
 ボーーーーーーーーーーーーーーー
 三度目の汽笛が、とどめのように鳴り響いた。

「わかったわ。じゃ、わたしの目を見つめて……」
 そう言うと、マユはストローハットを逆さにした。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 呪文と共に、マユとミファの体はどんどん小さくなって、逆さになったストローハットの中に収まった。
 呪文は、さらに続いた。

 今度は、ストローハットそのものが小さくなり、浮き上がったかと思うと、サンチャゴじいちゃんの青い瞳の中に吸い込まれていった。

 それは、大海原の青い渦に巻き込まれていくボートのようであった……。


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魔法少女マヂカ・077『M資金・11 第七艦隊・3』

2019-09-24 14:41:23 | 小説

魔法少女マヂカ・077  

 
『M資金・11 第七艦隊・3』語り手:マヂカ 

 

 

 ウォルト・ディズニーのことはギャグだと思っていた。

 

 霊雁島の第七艦隊司令部の司令官は、レーガン大統領だと思っていた。じっさい、最初に司令官室で着任の挨拶を受けたのはレーガン大統領だった。ところが、話をしている間にコロコロと姿が変わる。ハルゼーだったりニミッツだったりパットンだったり、もうワンフレーズごとに姿が変わるので、アメリカアニメの総帥でありアミューズメントの神さまもいるだろうという、アメリカ人らしい皮肉的ギャグをブリンダがかましたんだろうと思っていた。

 あくる日、ブリンダと二人そろって呼び出された司令官室にいたのは、その総帥であり神さまであるウォルト・ディズニーその人であった。足も長いしハンサムだし、日本アニメの巨匠たちと比べると、にこやかで数段カッコいい。

「やあ、昨日は失礼した。いろいろ変わったけど、正体は、この通りウォルト・ディズニーなんだ」 「ウォルトディズ...」の画像検索結果

 

 デスクにお尻をよっかからせ、気さくに話をするのは、伝説通りのウォルト・ディズニーその人だ。でも、給湯室でお茶の用意をしているミニーとディジーが吹きだしたのを、わたしもブリンダも気づいている。ミニーとデイジーは、お茶を持ってくる前に、トレーに載せた三人分のボウルを運んできた。

「うちの司令官、朝ごはんがまだだから、付き合ってくださいね」「司令官は、こればっかりで」

 そう言って給仕してくれたのは、一見ハヤシライスのルーのよう。

 数秒かかって思い出した。これはチリコンカンというごった煮で、ウォルト・ディズニーの大好物だ。大戦中、マンハッタン計画の偵察にネバダに行った時、何度か職員食堂で見かけたことがある。

「こいつは、打合せとかやりながら食べるのにはもってこいなんだ」

 現代の感覚なら、カップラーメン食べながら打合せする感じだろう。

「実は、いまや亜世界は異世界に通じ始めていてね、敵は、世界中の財宝や秘密資金を、そういうところに集め始めてる。君たちが追っているM資金も、そこにある」

 どうも敵はバルチック魔法少女隊だけではないという口ぶりだ。

「特務師団は自衛隊だから、専守防衛の枠を超える作戦には参加できないが、うちなら出来る。ブリンダと二人で挑んでもらいたんだ」

「少女二人にですか?」「怖いですウ」

「ハハハ、『魔法』を省略しちゃいけない。それに、少女なのは見かけだけだ。君らの力は一人で一個師団に匹敵するよ。海軍なら一個打撃軍だね。これを見てくれたまえ」

 ウォルト・ディズニーが目配せすると、ミニーがスクリーンを下ろし、ディジーがモニターのスイッチを入れた。

 カラカラカラとクラシックな音がして、スクリーンに10が映し出され、9、8、7、6、5……と、フイルムカウントが続く。撮影済みのラッシュのように始まった映像は、一発で『不思議の国のアリス』であると知れた。

 青いワンピースに真っ白なピナフォー。「待ってえ、うさぎさーん」と追いかけるアリスは足首が細い割にはぶっといふくらはぎのディズニーアリスだ。

 やがて、お約束の巣穴にウサギを追いかけて、グルグルと落ちていく。

 ここから、アリスの不思議の国が始まるのだが、ちょっと展開がちがった。

 アニメのように、スカートがパラシュートのようになってフワフワ落ちるのではなかった。

 

 キャーーーーー!!

 

 悲鳴を残して、真っ逆さまに落ちて行ったアリスの姿は闇の底に消えていき、数秒後、嫌な音がした。

 グシャ!

 穴の底のズームになり、無残にも血みどろになったアリスの死体が転がっているのが映し出された……。

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真夏ダイアリー・19『ラピスラズリのPSYCHOLO』

2019-09-24 07:28:25 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・19
『ラピスラズリのPSYCHOLO』     
 
――25日、テレビに出てもらえないかなあ……。
 
 とても申し訳なさそうだった。
 
 潤は腹違いの姉妹。で、潤が知らないうち……ってか、潤の存在そのものをこないだ潤に間違われて大騒ぎになるまで気づかなかったんだけど。 潤は売り出し中のアイドルグル-プのAKR47のホープ。行きつけの美容院の大谷チーフが、気づいていて、髪をカットしにいったときに、潤そっくりなヘアースタイルにされ、しばらくは間違われっぱなしだった。 
 潤本人や事務所の会長さんの約束で、もう、わたしは潤とのゴタゴタには巻き込まれないことになっている。  
 ところが、潤の電話の声には、そのゴタゴタに巻き込まれそうな(つまり、「申し訳ない!」って気持ちが滲み出ている)気配。わたしは半ば覚悟を決めて聞いた。
 「どういうことか、まず説明してくれる?」
 ――ダブルブッキングになっちゃって。タムリの『つないでイイトモ』と『AKRING』の収録が重なって……。
 「まさか、そのどっちかに出ろっての……!?」 
――申し訳ない。『イイトモ』の方に……。 
「わたしと潤は似てるってだけで、中味はぜんぜんちがうんだよ。潤てことで出たらサギになっちゃうよ」 
――あ、真夏は、真夏でいいの。特別ゲストってことで、真夏に出てもらって、後半わたしが入るから。ね、お願い、一回ポッキリだから。ね、一生のお願い!
 
 わたしは人生初めてのテレビ出演をすることになってしまった。
 
 迷子になっちゃいけないというので、スタッフの吉岡さんが迎えにきてくれることになった……てか、わたしの気が変わって逃げ出さないための見張りだと思う。 交換条件にクリスマスプレゼントを頼もうかと思ったけど、なんか人の弱みにつけ込んでいるようで、やめた。
 
 お昼ご飯食べてから、気分転換を兼ねて、渋谷に出てみた。
 
 300均の店を一軒検索しておいたのだ。定期プラスちょっとで行ける。 
 渋谷の駅に着いてみると、ちょっと変な気がした。駅の東側に行くつもりが、西側のハチ公前にでてしまった。なんだか、とってもハチ公に会ってみたい気になった。 
 ハチ公は、待ち合わせの人たちや観光客の人たちになで回されてツルツル。特に前足はピカピカ。
 
 わたしもナニゲにハチ公の足に触ってみた。
 
 すると、銅像のハチ公にはっきり犬の気配がして、思わずその顔を見てしまった。
 
 ハチ公の目に瞳はないが、そのとき、しっかりハチ公の視線を感じた。その視線をたどって振り返ると、ベンチの横に、路上販売のオジサンが、畳半分ぐらいの黒い敷物の上にいろいろと品物を並べている。 
 昔は、こういうヒッピーってのか、路上販売の人ってけっこういたみたいだけど、わたしとしては昔話の世界。
「ヘー……」って、近づいていった。今時珍しいのに、道行く人たちは関心がないようで通り過ぎていく。アクセサリーやアンティークな小物が多くあった。手作りのイミテーションなんだろうけど良くできている。
 
「三百円のクリスマスプレゼントだね」
 
 オジサンは、わたしの顔も見ないで、言い当てた。これが、人通りが少ない所だったら逃げ出していたかもしれない。しかし、そこは渋谷。それも東京でも指折りの名所のハチ公前。わたしは、あっさり返事した。 
「はい」
「じゃ、これがいいよ……」 
 オジサンは、足もとのトランクから、三センチほどの青いさいころを出した。
「珍しいさいころ」 
「ニュアンスが違う。PSYCHOLOと呼んで欲しい」  
 なんだか怪しげな発音でオジサンが言った。 
「きれいな青ですね」 
「そりゃ、ラピスラズリのPSYCHOLOだからね」 
「ほう……」
「心で、数字を念じて振ってごらん。運が良ければ、念じた通りの数字が出るから」  
 わたしは5を念じて振ってみた……5が出た。
「ほらね」 
 わたしは、さらに三回、違う数字を念じて振ってみた。三回とも念じた目が出た。
「ホホホ……今日は、PSYCHOLOの機嫌ががいいようだ」
「三百円でいいんですか?」 
「いいよ。ただし、キミの財布の中の五百円玉で、お釣りにさせてくれないか」
「え……あ、あった」 
 わたしは、古びた五百円玉を出した。
「これこれ。この五百円玉を探していたんだよ。昭和56年。どうもありがとう」 
「いいえ、古いので申し訳ないですね」 
「いや、お釣りも古いから」  
 もらったお釣りは昭和41年。たしかに古い……。
「ほんのたまにだけど、願い事を聞いてくれることがあるよ」 
「ほんと?」
 「ああ、試してみたら?」 
 
 一瞬頭に、なにかがよぎった……すると道玄坂のほうから、ガラガラとお腹に響く音がしてきた。
 
 四号戦車D型……それもハッチのあちこちが開いて、セーラー服の女子高生の姿が見えた……これは『ガールズ&パンツァー』の世界だ……!
 周りの人たちも、白昼現れた戦車に呆然。あちこちでスマホを構えている。わたしも急いでスマホを出して画面を覗くが、戦車は写っていない。アングルを間違えたのかと、目の前の戦車と画面を見比べる。でも写らない。スマホを構えた他の人たちも同じ様子。
 「ええ……?」 
 思っているうちに、戦車は走り去ってしまった。 
「ねえ、オジサン……」 
 オジサンの姿は、広げた店ごと無くなっていた……。
 家に帰って、さらに驚いた。百円玉は昭和42年からで、41年のデザインのものは存在しない。  
 五百円玉も、昭和57年からで、56年のそれは存在しない。 
「え……思い違いかなあ?」 
 で、もう一度百円玉を見ようとしたが、帰りの切符を買うのに使ったんだろうか、財布の中にはなかった……。
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宇宙戦艦三笠・10[テキサスジェーン・1]

2019-09-24 07:15:46 | 小説6
宇宙戦艦三笠・10
[テキサスジェーン・1] 


 
 三笠は、修一、樟葉、美奈穂、トシ四人の思い出をエネルギーに最初のワープを行った。

『最初のワープだから、1パーセク(3・26光年)にしておくわね。樟葉さん舵輪へ。トシ君はエンジンテレグラフの前へ』
 三笠と同体化したみかさんが促す。樟葉とトシが配置につき、修一と樟葉はシートについた。
「じゃ、修一君。あとはよろしく……」
 修一は一瞬たじろいだが、マニュアルが頭に入っているようで、直ぐに指示が口をついて出てきた。
「面舵3度……切れたところで、前進強速、ワープレベルへ」
「面舵3度、ヨーソロ……」
「前進強速……ワープ!」

 ブリッジから見える星々は、シャワーのように後方へ流れて行った。
 
「ワープ完了。冥王星から1パーセク」
「対空警戒。レベル10」
「レベル10……左舷12度、20万キロ方向にグリンヘルドの編隊多数……23万キロで戦闘中の艦あり!」
「どこの船だ!?」
「アメリカのテキサス。苦戦中の模様。モニターに出すわ」
 砲術長の美奈穂が、落ち着いて言った。

 テキサスは、ちょうど100年前に竣工したアメリカの現存戦艦の中では最古参だ。第一次大戦と第二次大戦の両方を現役として戦い、今はヒューストン・シップ・チャネルに合衆国特定歴史建造物に指定保存されている。三笠程ではないが、クラシックな艦体を旋回させながら、全砲門を開いて寄せくるグリンヘルドの編隊と獅子奮迅の激闘中である。
 
「何発か食らってる。あの大編隊の2次攻撃に晒されたら持たないかもしれない。グリンヘルド二次攻撃隊に三式光子弾攻撃。取り舵20。右舷で攻撃する!」

 三笠は20度左に旋回、右舷の全砲門をグリンヘルドの編隊に向けた。

「照準完了!」
「テーッ!」
 
 主砲と右舷の砲門が一斉に火を噴き、光速を超える光子弾が連続射撃された。30秒余りでグリンヘルドの編隊を壊滅させると、三笠はテキサスの救援に向かった。
「テキサスがいるから、光子弾は使えない。フェザーで対応、あたし一人じゃ手におえないから、みんなも意識を集中して!」
 美奈穂が叫んだ。実際グリンヘルドの編隊の一部は三笠にも攻撃を仕掛けようと首をもたげた。
 三笠の機能は、普段は、それぞれ持ち場が決まっていたが、危機的な局面では全員が、その部署に意識を集中させ効率を上げる仕組みになっている。光子弾は長距離攻撃には絶大な威力を発揮するが、その威力の大きさから、味方が傍にいる場合は使えない。三笠は30分余りをかけて、グリンヘルドの編隊を撃破した。
「各部被害報告!」
 修一の呼びかけに「被害なし」の声が返ってきた。
「テキサスは!?」
「中破。オートでダメージコントロールに入った模様」
「テキサスから、だれか来るわ……艦長よ。乗艦許可を求めてる」
「乗艦を許可する。みんな、迎えに行こう」

 最上甲板の舷側に、カウボーイ姿の少女が現れた。ブルネットのポニーテールをぶん回すと、ブリッジのみんなと目が合った。

「助けてくれて、ありがとう。あたしがテキサス・ジェーン。よろしく」

 生き生きとした、ジェーンの姿に、修一たちは好感を持った。

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音に聞く高師浜のあだ波は・3『ブルータスおまえもか!?』

2019-09-24 07:05:45 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・3
『ブルータスおまえもか!?』        


 あれってイジメじゃないの?

 西日に目を細めながら姫乃が呟くように言う。
 
 学校に居てる間は差し障りがあると思てたようで、校門を出てランニングに出てきた野球部の一団が追い越していくのを待って切り出してきた。ちなみに、すみれは弓道部の部活に行ったんで、あたしと姫乃の二人連れ。
「あれって……ああ、マッタイラ?」
 思いついてから迷った、あほぼんのマッタイラのことか、マッタイラがあたしに言うたことか、どっちか分からへんから。
「えと、両方」
 姫乃は感度がええようで、あたしの間ぁの空き方で察してくれたみたい。
「男は、ああやって遊んどおるねん。ジャンケンして恥ずかしいことを聞く役を決めて、あたしのリアクションを楽しもういう腹や、しょーもない奴らでしょ。ま、いきなりあんなん見たら、なんかイジメっぽいと思うかもしれへんけど、子どものころから続いてきたオチョケの一種やね」
「そうなんだ……転校してきてから何日もたってないけど、わたしには、みんな優しくしてくれるから、ちょっとビックリした」
 わけを聞いて安心したというよりは、そんなあたしらの日常を聞かされてビビッてしもたかな?

 あたしらの高師浜高校は創立百年に近い府立高校。

 周りが大正時代から開発された住宅街いうこともあって、学校も生徒も見かけのお行儀はええ。偏差値は六十ちょっと、学力ではAランクに入るけど、偏差値区分ではSの下やから、まあ……まあまあいうとこ。
 どこかに泉州気質いうのんがあって、日ごろのあたしらは姫乃がイジメと勘違いするくらいには賑やかや。
 
「うちの近所にも東京から引っ越してきたオバチャンが居てんねんけどね。仲ようなってから話してたらね『東京から落ちてきましたけど、がんばるわ!』て言うてはった。悪気はないんやろけど、大阪は落ちてきてがんばるとこやねん」
「ああーーーー」と引っ張って、姫乃は口をつぐんだ。
「アハハ、言うてええねんよ『それ分かる!』って」
「え、いや、そんなことは」
「まあ、ちょっとバランス崩したらイジメに変わってしまいそうなとこはあるけどね、オチョケのTPOが分からんようになったら危ないやろね」
「TPO?]
「マッタイラが言うてきて、あたしが何にも言えんで俯いてしもたらイジメの始まりになるやろね。マッタイラの言い方がジメジメしてたらマッタイラがイジメられたっぽくなるし、ま、そのへんがTPO言うとこやね」
「そうなんだ……」
「姫乃の第一印象は『一歩前へ』いう感じやから」
「一歩前?」
「朝礼で初めて会うたとき。あれだけしっかり言えるやもん、洗礼受けるかもしれへんよ~」
「わ~~おっかない!」
「せやから、あたしらと付き合うて慣れとかなあかんよ」
 すると、姫乃の目ぇが急にイタズラっぽく回り始めた。この子のこういう表情はメッチャ可愛いのを発見!
「だったらさ~」
 目ぇをカマボコ形にしてすり寄ってきよった。
「オぺの時って……剃っちゃうの?」
 ブルータスおまえもか!? やったけど、答えてやった。
「剃ります、ナースが来て剃刀でソリソリと。なんともけったいな感じです~」
「ウウ、そーなんだぁ~!」
 嬉しそうな顔をしよる。
「専門用語で剃毛(ていもう)て言います」
「あ、それだと抵抗少ないかも。『剃るぞ!』て迫られたらこの世の終わりだよね」
「それだけとちゃうねんよ……あ、ちゃう!」
 アホな話をしてたら目的地の羽衣公園への道を過ぎて、高師浜駅に向かう道に入ってきてしもた。

「わー、可愛い駅!」

 うちの学校より、ちょびっと古い駅は小さいけども雰囲気が良く、たった今までアホな話をしてた二人を、一瞬で正統派の女子高生に変えてしまったのだ。
 
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高安女子高生物語・97〔人生出来たとこ勝負!〕

2019-09-24 06:56:28 | ノベル2
高安女子高生物語・97
〔人生出来たとこ勝負!〕         


 
「人生は、出来たとこ勝負やと思うんです!」

 そう大見栄を切ったのは、夕べ。MNBのレッスンが終わって、なんと夜中の10時に美枝の家のリビングで中尾一家を前に大演説。
 
「出たとこ勝負じゃないの?」
 元凶の美枝の兄貴が鼻先で言いよった。
「いいえ、出来たもんです。美枝のお腹の中の赤ちゃんが、まさにそうです!」
「そうか、言葉のあやで、来ようってか」
「美枝に赤ちゃんが出来て、二人で夫婦になる。この大前提は了解してもらえますね?」
「ああ、だから、こんな夜中にみんなに集まってもらってる」
 お父さんが鷹揚なんか嫌味なんか分からん言い方をする。

「それを了解してもらえたら、結論は一つです。美枝を大阪に置いといて、全うさせるんが正しいんです」
「だけど、美枝は、こう見えてプレッシャーには弱い子なんだ。学校や世間で噂になったら、美枝は耐えられないよ」
 
 うちはムカついた。
 
 耐えられんような現状にしたんはあんたやろ! 
 それに、いかにも秘密がバレるんはうちらからやろという上から目線!
「うちらがバラさんでも、体育の見学、体つきの変化なんかで、必ず分かってしまいます。確かに、アメリカに行ったら一時秘密は隠せます。そやけど、お兄さん……ダンナには分からへんでしょうけど、それは逃げたことと同じです」
「逃げて悪いのかい? 母親の心理はお腹の中の子供にも影響するんだ。プレッシャーの少ない環境で、出産させてやりたいと思うのが配偶者のつとめだろう?」
 どの口が言うとんねん。アメリカ行きの費用持つのはあんたの親やろが!
「逃げたという負い目は一生残ります。それこそ、赤ちゃんに悪い影響……場合によっては、流産、切迫早産の危険もあります」
「そんなことは……」
「あります。これ、厚労省の資料です。『高校生などの若年出産のリスク』という統計資料です。社会的な体面などを考えて妊婦の環境を変えた場合の問題点に、逃避的対応をとった場合の影響に出てます」
 お母さんが、興味を示してプリントを手に取った。美枝自身は俯いたまま。美枝はもともとは内弁慶な子や。親しい仲間や地域のなかでこそ大きな顔して『進んだ女子高生』ぶっとるけど、アメリカみたいに、まるで違う環境に行ってしもたら青菜に塩や。
「無事に出産できたとしても、美枝には逃げ癖がつくと思うんです。なにか困ったことがあったら、親が助けてくれる。逃がしてくれる。その方が本人のためにも生まれてくる子ぉにも悪い影響が出ます」

 それから、一時間近くも議論した。

「もう時間も遅い。日を改めて話そうじゃないか」
「無理言いますけど、結論出しましょ。延ばしたら美枝が苦しむだけです」
「もともとね、こんな平日の夜中に話そうってのが無茶なんだよ。土曜でも日曜日でも……」
「土曜は都合がつかへん。そうおっしゃったのはお父さんです。日曜はお兄……ダンナさんが都合が悪いって、伺いました」
「じゃあ、一週間延ばせばよかったじゃん」
「その一週間、美枝は苦しいままなんですよ!」
「でも、こう言うたらなんやけど、今日は私らは昼からスケジュールが空いていた。こんな時間に設定したんは、佐藤さん、あんたの都合やで……責めるような言い方で申し訳ないけど。あんたが、そこまで言うんやったら……なあ」
「すみません、それはうちの都合で……」

 雪隠づめの沈黙になってしもた。ヤバイ……。

「明日香は、MNBのレッスンがあるんや……」
 美枝が呟くように言うた。
「MNBって、あのMNB47のことか?」
「は、はい。なりたての研究生ですけど……」
「すごいよ、あれ2800人受けて20人ほどしか受からなかったんだろ!?」
 意外なとこで、美枝の家族が感動した。
「さぞかし、レッスンやらボイトレとか、普段から習っていたんだろう!?」
「いいえ、進路選択の一つで体験入学みたいなつもりで受けたら通ったんです。で……出来たとこ勝負でやってます」

 うちが、初めて出した弱み……せやけど、これが功を奏した。

「MNBに合格するような子なら、こちらも真剣に耳を傾けなきゃ!」

 で、美枝のアメリカ行きは沙汰やみになった。MNBの力はスゴイ……!
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小悪魔マユの魔法日記・43『フェアリーテール・17』

2019-09-24 06:41:11 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・43
『フェアリーテール・17』  


 サンチャゴじいちゃんの小屋は、近くで見ると意外に大きかった。
 岬の一軒家であるので、比較になる建物がないことや、作りがザックリしているので小さく見えてしまうのだ。ドアの前に立つと、自分が小さくなったのかと錯覚するほどに大きかった。

「お早う、じいちゃん」

 ミファのあいさつに応えははなかった。そんなことにかまわずに、ミファは中に進んでいく。
 教室ぐらいの部屋に、寝室や台所がついているだけのようなシンプルさ。漁具や海で拾ってきたガラクタがあちこちに散らばっていたが、足の踏み場もない……というわけではなかった。
「来るたびに片づけてるから、まあまあだけどね……ベッドにはいない……ということは」

 サンチャゴじいちゃんは、教室ぐらいの部屋の海側に面した大きな窓辺、そこのロッキングチェアで眠っていた。
 色あせた横しまのシャツにオーバーオール。骨太ではあるけど、しぼんだ風船のように体は萎えていた。漁師特有の赤茶けた顔には深いしわが刻まれ、頬から下は、ほとんど白髪の無精ひげ。
 戦い疲れて、行き場を失い、しばし休息している老兵のように感じられた。

「サンチャゴじいちゃんは、海の上が一番似合うんだ。さあ、潮風を入れようね。ちょっと手伝ってくれる」
 大人が二人両手を広げたぐらいの窓は、ごっつい樫の木でできていて、三十センチほどの格子にはめられたガラスは、厚さが一センチほどもあり、横引きのシャッターを開けるくらいの力がいる。一人で開けられないこともないけど、ちょうど良い間隔で窓を開けるのには女の子二人分の力が必要だ。

「うん、これくらいでいいよ」

 ミファがOKを出すと、潮風が海鳥の声や、波音といっしょに入ってきていることに気づいた。
「さあ、タバコに火をつけるよ」
 ミファが、タバコの用意をしている間、マユは、サンチャゴじいちゃんの薄く開いた目を見ていた。白目は黄ばんで歳相応に濁っていたけど、瞳は、海の色をそのまま写したように青かった。瞳は動くことはなかったけど、瞳孔は、なにかを見つめているように絞り込まれている。
 
 戦う男の瞳だと思った。

 黒歴史の授業で習った、プルターク英雄伝のサラミスの海戦、その中のデメトリオス一世の瞳と同じだと思った。
――退屈な授業を聞かせるより、こういう実物を見せた方がよっぽど分かりやすいのに。
 マユは、自分の不勉強を棚に上げて感心した。

 と……その青い瞳が死人のように力を失い、鋭く絞り込まれた瞳孔は、だらしなく緩んでしまった。

「ミファ、タバコを消して!」
「え……?」
「いいから早く!」

 マユは、ミファにタバコを消させ、魔法で窓を全開にした……!

「こんなことをしたら、じいちゃんの体に悪いよ」
「悪くなんかないよ。じいちゃんの瞳を見てごらん」
「……あ!」
「分かった……?」
「……うん」
「サンチャゴじいちゃんの瞳は、戦う男の瞳なんだよ。でもサンチャゴじいちゃんは起きることは無い……でしょ。瞳は絞り込まれているけど、体は緩んだまま」
「これって……」
「たぶん……オンディーヌの呪い」

 そのとき、二人は背後に人の気配を感じた……。


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せやさかい・069『危機一髪!』

2019-09-23 12:41:40 | ノベル
せやさかい・069
『危機一髪!』 

 

 

 動物を持ち込んだら怒られる!

 

 正門までを走りながら考えた。瀬田と田中が子犬を拾てきて先生に怒られとった。

 野良は病気やらばい菌を持ってたりするし、学校に居つかれても困るんやぞ。てなことを言われてた。

 けど、ほっとくわけにもいかへん!

 とりあえず、ジャージの中に押し込む。

 フニャー!

 ちょっとの間、辛抱してえ!

 グヮッシャーーーーーン!!

 ジャージの上からネコを押えたんがスイッチやったみたいに、後ろでごっつい音がした!

 振り返ると、たった今まで居ったフェンスにトラックが突っ込んでた!

 え? え? えええええ!?

 ほんの数秒遅れてたら、ネコもあたしもトラックとフェンスの間に挟まれて……!?

 膝が笑てしもて、腰が抜けそうになった。

 校舎の窓からは、生徒や先生やらが身を乗り出し始めてる。

 ご近所の人らも集まり始めて……い、いまのうちや!

 

 事故の混乱で、出会うた先生らにも咎められることもなく、部室にたどり着くことができた。

 

「さくら、服とカバン!」

 待機してた留美ちゃんが、子ネコと引き換えに渡してくれた制服に大急ぎで着替える。

「この子、震えてるわ」

「ごめんなあ」

 子ネコに謝る。フェンスから引っ張り出されたかと思たら、不可抗力とはいえ、放り上げられ、着地したらジャージの中に押し込まれるし、後ろでゴッツイ衝撃音はするし、もみくちゃにされるし。

「救急車来たよ!」

「救急車呼ぶほどじゃ……」

「ちがう、交通事故の方よ!」

 窓から見下ろすと、フエンスの内と外に人だかりがしてる。あらためて見ると、運転席がグチャグチャになったトラックが傾いてる。すぐに救急隊員とお巡りさんが閉じ込められてる運ちゃんを運び出すとこや。

「さくら、危ないとこだったねえ……」

「う、うん……」

 今度は、あたしが震えて、子ネコが不思議そうに見上げてくる。

「あ、頼子さん!?」

 留美ちゃんが、事故現場でキョロキョロしてる頼子さんを発見して指さした。

「なにをキョロキョロ……」

 アホな二人と一匹が窓ガラスに額をくっ付けてると、地上の頼子さんは目ざとく見つけてくれた。

「なにか言ってる」

 手をメガホンにして言うてはるねんけど、事故現場の喧騒で、ちょっとも聞こえへん。

 

「あーー、もう、てっきり桜が死んだかと思った!」

 部室に入るなり、頼子さんはわめいた。

「最初は、ネコと戯れてる二人が見えて、たぶん猫を連れてここに来るだろうって、お茶の用意しようとしてたら、グヮッシャーーーーーン!! でしょ! もう真っ青になって飛び出したんだからあああああ!!」

「す、すみません(^_^;)」

「でも、無事でよかったあああ!」

 頼子さんに、子ネコ共々抱きしめられてしまった。こんなグジャグジャな頼子さんは初めてや。

 フニャーーアアアアア!

「ああ、ネコが潰れます」

「あ、ご、ごめん。ん……この猫は!?」

 

 頼子さんの目が光った!

 

  

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真夏ダイアリー・18『潤からのTEL』

2019-09-23 06:38:18 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・18
『潤からのTEL』      


 
 
 いろいろありそうな……それでも、メデタイ冬休みが始まった!

 いつものように六時半には目が覚めてしまった。でも、今日から冬休みであることを思い出し、幸せな二度寝を決め込む。なんか枕許でお母さんが言うのが聞こえたけど。夢うつつの中で返事。ドアが閉まる気配がして、エリカが現れた。むろん夢の中。
 エリカは、十日ほど前に買ってきたジャノメエリカって花の精……だと思っている。なんせエリカは喋らない。花屋のオバサンが言っていた。
――花というのは、一方的に愛をくれるの。だから、受け取る側がカラカラの吸い取り紙みたいに愛がなければ、それだけ早く大量に愛をくれて、枯れるのが早い。

 エリカは、相変わらず満開の笑顔で、わたしを見つめてくれる。

「ありがとう……」

 そう言って目が覚めた。七時半……もう少し寝ていてもいいんだけども、エリカの笑顔に申し訳なくって起きてしまった。マンションとは名ばかりのアパートの朝の起動音がする。お隣の新婚さんのご主人が出かける気配。ガサゴソとかすかな音がして、ドアがしまるまで、少し長すぎるような間が空く。――新婚だから、ご主人の出勤前にキスでもしてんのかなあ……マセた想像をしてしまう。
――じゃあ。
――いってらっしゃい!
 廊下で聞こえる新婚さんの何気な挨拶に、その余韻を感じてしまう。想像力が豊かなのか、妄想なのか、自分でも判断がつきかねる。ただ、この名ばかりマンションが安普請であることはたしか。反対側のお隣さんの洗濯機が回る気配。一瞬ベランダのサッシがひらいたんだろう。ワイドショーの元気な声がこぼれた。表通りの通行人の気配もいつもとは違う。夏休みにも似たようなことだったと思うんだけど、年の瀬だと思うとやっぱり新鮮。夏休みは、まだ、お隣は空室で新婚さんはいなかったし……。

「オーシ!」

 朝のいろいろやったあと、少しはお母さんの役にたってあげようと、洗濯機のスイッチを入れてからベランダに出て、サッシのガラスを拭く。水を掛けて雑巾をかけるだけなんだけど、真っ黒になった。夏休みは、高校に入って初めてだったってこともあるけど、お母さんともギスギスしていて(今でも良くなった……とは言い難いけど)なんにもしなかった。気づくとベランダの手すりの間に蜘蛛の巣が張ってる。隅っこのほうには枯れ葉が詰まっていた。
 お母さんは、けして不精者じゃない。正式に離婚するまでは、忙しい仕事もこなしながら、家のこともちゃんとやっていた。やっぱ……お母さんもいっぱいいっぱいなんだ。
 すぐってわけにはいかないけれど、少しずつお母さんに寄り添っていこうと思う。

 スマホの着メロに降りむくと、省吾からだ。

――クリスマス、オレんちOK 十二時開始。会費は不要。ただし三百円のプレゼント持ってくること――

 わたしたち三人組に新メンバーの柏木由香と春野うららの二人を加えてクリスマスパーティーをやることになったのだ。
 ただ、五人の高校生が騒げる家はそんなにはない。うちなんか、床面積はもちろんのこと壁の薄さを考えれば、絶対不可。
 で、五人の中では一番セレブってことで、省吾の家が候補にあがった。で、その答えが今来たってこと。
「三百円か……」
 百均じゃしょぼいし、三百円ぐらいが適当と思ったんだろうけど、ちょっと選択に迷う金額……まあ、それも、オタノシミのうちと、パソコンを点けてみる。百均はよくあるけど、三百円は……あった。三百均ショップというのが、けっこうある。なるほど、こんなものまであるのか……と思っているうちに洗濯機が任務終了のサイン。
 ベランダで、洗濯物を干す。
 
 最後に靴下なんかの小物を干そうとしたところで、またもやスマホの着メロ。
 今度は、メ-ルではなくお電話の着メロ。
「はい、真夏」
――ごめん、朝から。
「あ、潤!?」
――ちょっと、お願いがあるの。
「え、なに?」
――二十五日、テレビに出てもらえないかなあ……。

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音に聞く高師浜のあだ波は・2『スミレヒメノホッチ』

2019-09-23 06:22:55 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・2
『スミレヒメノホッチ』
       


 

 この学校ってイジメとか多いの?

 臨時朝礼が終わって教室にもどる途中、阿田波(あだなみ)さんが声を潜めて訊ねた。
 朝礼の話がイジメやったせいや。
「う~ん、めったにないかなあ」
 思たとおりに答える。
「そうなんだ」
 教室に戻る生徒でごった返してるいうこともあるねんけど、阿田波さんは息がかかりそうな近さを歩いてる。
「けど、大阪の高校やから乱暴に感じるかもしれへんけどね」
 並んでるすみれが付け加える。
「って言うか、阿田波さんは東京のほう?」
 彼女の言葉から感じたままを聞く。
「うん、ま、東の方。急な転校だったんで、ま、仲良くしてやってください」
「ハハ、阿田波さんは、もう溶け込んでるんとちゃう?」
 いつの間にか阿田波さんを挟む位置に回ったすみれ。なんだか三人で仲良しな感じになってきた。
「よかったら苗字じゃなくって名前で呼んで、姫乃って」
「せやね、ほんなら、あたしはホッチ」
「ホッチ?」
「天生美保で、ミホがミホッチになって、も一つつづまってしもてホッチ」
「呼びやすいでしょ?」
 つづめた張本人が嬉しそうに言う。すみれはギャグの才能はないけど、ホッチという愛称はいけてると思う。
「そんじゃ、三人で『すひほ』いうことにしよう!」
「なに、それ?」
「『すみれ姫乃ホッチ』じゃ長すぎるでしょ?」
「ハハ、三回続けたら早口言葉みたい」
「「「スミレヒメノホッチ、スミレヒメノホッチ、スミレヒメノホッチ」」」
 三人同時に早口言葉になって、階段を上り切る間ずっと笑ってしまった。上がり切って教室の前に着いたときには仲良し三人娘ができあがっていた。

 教室に入ると、壁際の席から数人分の含み笑いが起こった。

 気分わる~、含み笑いは明らかにあたしに向けられてる。
 なんやねん!
 ジト目でガンを飛ばしとく。壁際の男子らが目を伏せよる。
「月曜に席替えしたから、ホッチの席こっちね」
 すみれが教えてくれる。
「わー、これて偶然!?」
「あたしらの運命よ」
 なんと、窓側の前からスミレヒメノホッチの順になってた。
 機嫌よく窓側に並んで座ると、壁際の男子の中からマッタイラ(正しくは松平)がノソノソやってきよった。

「手術のとき、あそこの毛ぇ剃ったんか!?」

 瞬間的に沸騰したあたしはパシーン!とマッタイラを張り倒したのだった。
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