大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・大阪の高校演劇・『B高演劇部・イノベーション!』

2012-10-16 12:24:00 | 小説
大阪の高校演劇
『B高演劇部・イノベーション!』


この小説はフィクションであり、実在のいかなる団体、個人とも関係はありません。

「エー、まだ書けてへんのん……!!」

 手にした、段ボール箱を放り投げて、由美子は叫んだ。
 段ボール箱の中の一杯のイチョウの葉っぱが派手に舞い上がり、ピロティーは、葉っぱだらけになった。
 言われたタケシは、その飛び散ったイチョウの葉っぱを見て、不覚にも「イケテル」と思った。舞台一面のイチョウの葉っぱ。その上に下手の前に制服姿の自分。上手奥に由美子。
「まだ、賭けていないの……!!」
「そんな簡単に人生賭けるものなんか見つからねえよ……」
「臆病者!」

 ドラマチックでイケテル幕開きや! 自称「劇作家のタマゴ」それが顔に出てしまった。
「ちょっと、タケシ、本気で書く気あんのん!?」
 由美子の剣幕に、後輩たちが……たちと複数形で言ってもショコタンとマユの二人きりであったが、二人でも複数、少しでも多く見えるように「後輩たち」と表現している。その後輩たちが震え上がるほど、由美子の一喝には迫力があった。

 B高校はちゃんとした名前があるのだが、その学校の偏差値や実力から、前世紀の終わり頃から、だれ言うこともなく、イニシャルをとってB高というようになった。むろん印象としてBクラスの学校という二流意識からである。
 一昔前は、少し違った。
 B高と言っても、生徒も先生達も「B級グルメ」のB意識(美意識)があった。
 大阪という街は、安くて美味い物にアイデンティティーがある。かつて、美味くて安くて早いをモットーに関東から、単品主義のファストフードチェ-ンが進出してきたが、半年で撤退を余儀なくされた。大阪は同程度の金額で、もっと美味い物が食べられるB級グルメの店が星の数ほどある。
 B高校という略称というか愛称には、そういう大阪特有の誇りがあった。
 しかし、今世紀になり、偏差値も50を割り込み、府教委の「特色ある学校づくり」という路線にも失敗。もっとも、この「特色ある学校づくり」で成功した高校は、ほとんどなかったが……。

 そのB高校の中でも、演劇部は極め付きのB級であった。

 部員が10名を超えたことは、一度もなかった。コンクールはたいてい予選落ちであるが、そこがB級の持ち味、前世紀に三度本選出場を果たし、近畿大会で優秀賞という名の二等賞をとったこともあった。
 その、自分たちが、まだ生まれる前の過去の栄光にすがって、演劇部は、細々とつづけられてきた。
 由美子とタケシは同じ2年生。3年生はいない。引退したのではなく、はなから居ない。二人が入部したときから、一つ上の部員はだれもいなかった。当時の3年生が二人いたが、その二人が卒業してからは、しばらく、由美子とタケシの二人になってしまった。
 危機感を持った由美子は必死で新入生の勧誘に走り回った。顧問の福田先生にも新入生の資料を調べてもらい、中学で、演劇部の出身者を探してもらったが、これが、なんと皆無であった。
 ネットで検索すると、大阪の中学演劇は、ほぼ壊滅状態であることが分かった。
 
 由美子は、百人近い新入生に声をかけた。そして、やっとショコタンとマヨの二人をゲット。この二人の獲得には、短編小説が二つ書けそうなくらいのエピソードがあるが、本題へ……。

 大阪は、創作劇でなくてはコンクールには絶対勝てない。B高演劇部の過去の栄光も全て創作劇である。
 夏の連盟の講習会でも、劇作のワークショップは人気があった。
 劇作など、そう簡単にできるものではない。しかし、ワークショップを受けると書けるような気になってしまう。講習会は8月の初旬に行われる。コンクールは11月の初旬。中間考査の時期を除けば、2か月半と言ったところ。
 ネットで劇作を検索していると、「本書きには最低3か月が必要」と、ある劇作家が書いていた、ちょびっと気になった。
「数ある文化部の中で、創作に偏重しているのは、演劇部だけ、吹奏楽の全て、軽音のほとんどが既成の曲をやっている」
 その下りで、由美子はポテチの袋をまさぐる手が止まったが、タケシのメールで、気を取り直した。

――すごい芝居が書けそう。ビートたけしの映画がヒント。『五人の部長』乞うご期待!――

 この、タケシのコピーにだまされた。
 タケシの名誉のために言っておくが、タケシにだますつもりなど、コレッパカシもなかった。
 タケシ本人は、書けるつもりでいた。実際、食堂できつねうどんをすすりながら、タケシは熱く語った。
「五人の演劇部の部長が、地区総会のあと、公園で高校演劇について熱く語るんや。ほんで、自分らのアイデアやら、部活のしんどさ、ウザイ学校やら、家のこと話してるうちに一本の本ができるんや。グチこぼして、気ぃついたらドラマができあがんねん。そんで、5校合同で、合同公演やろいう結末。で、おまけが着いてて、主人公の男女2人が、憎しみを超えて結ばれるいうサブストーリーもあんねん!」
 そう言い切ると、たけしは、うどんの最後の一本を小気味よく吸い上げた。

 この、糸の切れた凧の勢いに、うっかり乗ってしまった。

 登場人物が5人なので、1人足りない。
「足らんなあ……」
 そうため息をついていると、遅れて部室に来たショコタンが言った。
「うち、心当たりあります!」
 で、軽音から借りることになった。シゲチャンというボーカル。軽音は部員が100人もいる。文化祭でも全員が出られるわけではない。しかし、シゲチャンはやりたくてしかたがない。そこで、劇中1曲歌わせることで話がまとまった。ついでにショコタンが軽音と掛け持ちしていることも分かったが、シゲチャンを獲得したことで、帳消しになった。ショコタンはそこまで読んでご提案にいたったようである。ちなみに、ショコタンのお父さんはアパレルの営業だそうで、駆け引きの上手さはは親譲りのようだ。

 で、なぜ、由美子たちがイチョウの葉っぱを集めているかというと、軽音のお手伝いなのである。
 軽音は、人数も多く、演奏時間も長いので、講堂なんてミミッチイところでの演奏は、鼻から考えていなかった。グラウンドに特設のステージを八百屋飾りにして、照明や音響も大学の専門課程をやっている先輩たちが、ほとんど無料で協力してくれている。最低の費用も部員から一律1000円を集めて、さらにPTAからも10万円の協力金が出ている。なんと言っても、軽音は、この夏の軽音の全国大会「スニーカーエイジ」の予選に通り、12月の舞洲アリーナの出場がきまっている。ウワサでは、ロ-カル局ながらテレビも取材に来るらしい。
 そこで、八百屋飾りのステージを秋色に染めることになり、一面のイチョウの葉っぱを敷き詰めるこに……で、演劇部が、それを引き受けることになった。
 そして、文化祭1週間前の今日から、それにかかったわけである。それが……。
 
「エー、まだ書けてへんのん……!!」

 に、なったわけである。由美子が、段ボール箱一杯のイチョウの葉っぱをまきちらしたのも、ムベナルカナである。
「わかった。あとはウチがやる!」
「せんぱ~い……」
「ユーミン………」
 後輩と、タケシの声が同時にした。由美子は、タケシがてにしたプロット帖をふんだくった。
「明日の朝までには書き上げる。みんな文句言わんとってや!」
 由美子は、カバンをからげてさっさと校門を後にした。
 ショコタンとマユは、荒ぶる神を見送るように、由美子の後ろ姿と、「タヨリナ」を絵に描いたようなタケシ先輩を見比べ、タケシが大きなため息をついたので気落ちしたが、腐っても先輩。
「頑張りましょう……」
 と、声をかけた。こともあろうにタケシはオナラでもって、その激励に答えた。
「こら、あかんわ」と、思った後輩であった………。

――あの、演劇部にはいりたいんですけど……。
――なんやて……?(ハエの飛ぶ音)
――だから、演劇部に……。
――クラブやったら、向こうの……ほら、見本がきよった。
 そこに上手(かみて)から、シゲチャンがワイヤレスを持ってきてビーズの曲を、あらかじめ録音しておいた歌声と合わせて、松本・稲葉のユニットにして歌いだし、新入生はそれに聴き惚れ、軽音へ、そのあと、由美子とタケシのコントのような言い合いになり幕が下りる……。

 文化祭の演劇部の出し物は、この自虐的なコントになった。むろん由美子の一夜漬けの作品。ほとんど、日頃のウップンを吐き出すだけなので、リアリティーがあり、意外にも観客には受けた。

 しかし、とても、こんなんものをコンクールに出すわけにはいかない。タケシはギリギリまで粘ったが、コンクール予選の一週間前にダメになった。ショコタンとマユが稽古に来なくなった。二人とも軽音に流れてしまった。

「あれ、B高は出えへんの?」
 予選会場で、受付をやっている由美子に、馴染みのA高の顧問が話しかけてきた。
「はあ、いろいろありまして……」
 由美子は、あいまいに答えた。たとえ棄権してもコンクールには役割がある。
 B高は、午前の受付に当たっていた。タケシは拗ねてやってこないので、由美子が一人でやっている。
「まあ、この地区は御手鞠高校の指定席やからね」
 A高校の顧問は、そう言って、会場に入っていった。

――そうおっしゃる先生の地区も、欽漫高校の指定席でしたよね……。

 この話には、後日談がある。大阪の高校演劇連盟は、浪速高校演劇連盟というが、この度、大手エネルギーメーカーとの提携で、NANIWA高校演劇創作脚本賞を創設。
 で、タケシは、これに自分の作品を応募。目出度く最優秀にえらばれ、新聞の地方欄にも載った。
 その記事を読んで、由美子は、一生で一番長いため息をつき、退部届を書いた。ただネガティブな気持ちからではなかった。新しいことを始めようと思っている。

 由美子にとっては、イノベーションではあった……。

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