やくもあやかし物語・27
ここに在ったはずなんだけど……
もう二回目だ。
お爺ちゃんとお婆ちゃんといっしょに公衆電話を探している。
お爺ちゃんがSNSで黒電話で盛り上がって「それなら家にある!」と家探ししていたのをわたしが見つけてあげた。
そうすると「黒電話の掛け方」でオチョクラレて、そのノリのままに――やくもの公衆電話レッスン――というミッションが出来あがった。そして、ジジババの記憶の中の公衆電話を探して歩き出したんだけど、とうの昔に撤去されたらしくて見当たらない。
「駅前のスナックにピンク電話があった!」
「だめですよ、お酒飲むとこなんか」
お婆ちゃんのNGで、スナックをパスして駅の中へ進む。
「「「あった!」」」
売店の横っちょにヒッソリとあった。
「昔は、伝言板とかもあったなあ……」
お爺ちゃんがシミジミする。
「そうそう、あなたが初めて来た時に時間間違えて、伝言板に書きましたよね」
「そうだっけ?」
「え、なんて書いたの?」
「それがね『右に同じ 昭介』って」
「右って?」
「『大嫌い!』って書いてあった」
「なにそれ!? ヤバいよお爺ちゃん!」
「いや、俺が書いた時は『自分で探して行きます、昼までに見つからなかったらお電話します』ときれいに書いてあったんで、右に同じにしたんだ」
「もう、無精なんだから、あの時はほんとにビックリしたんですからね!」
「なんで、右のは書き換えられてたの?」
「ああ、一定の時間が来たら消されるんだよ、消された後に『大嫌い』と書いた人がいたんだ。でも、そのあと再会した婆さんは……」
「もう、その話は無しです。それよりもやっちゃんの実習!」
わたしは十円玉を投入して公衆電話の初体験!
ところが、投入した十円玉はコロコロと返却口に出てしまう。
「え? 故障?」
三度繰り返しても戻って来るのでアタフタ、しょうじきテンパる。
「先に受話器を取るんだよ」
最初に言って欲しい!
受話器を持って四回目に成功! ピポパと家の電話番号を押す。家には誰も居ないので、呼び出し音だけが続く。
五回呼び出し音を聞いて受話器を戻す。
ガチャリ コロコロ
「え、十円戻ってきた?」
「繋がらないと戻るのよ」
「そなの、なんか得した気分」
「じゃ、次はテレホンカード」
こんどは、ちゃんと受話器を持ってからカードを入れる。
考えてみるとさ、自販機とかって、まず最初にお金とかカードとか入れるじゃない。そういうのに馴染んでるから先に受話器を取るって、なんか違うのよ。
ピポパ プルルル プルルル
五回で切ろうと思ったら、ポシャ『はい もしもし小泉でございますが』。
ビックリした、電話にお母さんが出てきたのだ!
「あ、あ、あ、えと、えと……やくもだよ、お母さん」
――なによ、玄関入ったら電話が鳴っててさ、慌てちゃったわよ! ちょっと前はとる前に切れちゃうし――
前のが自分だとは言えなかった。
「で、なに、スマホの故障?」
「ううん、ちょっとね、お爺ちゃんお婆ちゃんといっしょに公衆電話のレッスンしてて……」
そのあと、お婆ちゃんが変わってくれてキチンと説明。お母さんが大笑いしてるのが聞こえて恥ずかしくなる。
お爺ちゃんの発案で、お母さんも呼び出して食事をすることになった。
考えたら、一家四人の外食は初めてだ。
黒電話のご利益なのかもしれない(^▽^)/。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生 図書部長の先生