やくもあやかし物語・59
あら!?
門を入って来るなり、「ただいま」も言わずに、お母さんが声をあげた。
「え!?」
あまりに素っ頓狂な声なので、家族としての礼儀である「おかえりなさい」の挨拶もできない。
「やくも、駅前にいなかった?」
「え、駅前?」
「え、あ……ごめん、お母さんの見間違いだ。あ、ショートケーキ買ってきたから、あとで食べよ(^▽^)」
ヒョイと持ち上げたパッケージは、駅前に開店したって噂ケーキ屋さんだ。
「嬉しい! 広告しか見てなかったから、食べたかったの(^▽^)!」
「今からじゃ、お夕飯が入らなくなっちゃう。デザートにね」
「あ、うん、もちろん!」
正直、ケーキの一つくらい入るよ。
でも、お爺ちゃんお婆ちゃんには夕飯前のケーキは重たい。母子そろって気配りをする。
お風呂掃除をしていると、リビングの話声が聞こえてくる。
いつもは聞こえたりしないんだけど、カビ取りをするので浴室のドアを開けッパににしているので、聞こえちゃう。
『え、お父さんもですか?』
『うん、オレは中央図書館でさ……いやあ、本を十冊くらい積んでさ、真剣な顔で読んでるんだ。だから、声かけにくくって……ほら、ジブリのアニメにあったじゃないか、女の子が、図書館でさ』
『ああ、「耳をすませば』の雫でしょ、あなたったら「陽子みたいだ」って喜んじゃって」
『いやだ、あそこまで情熱的じゃないわよ』
『て……陽子も?』
『ええ、駅前で。ロータリーに出たとこで……』
内緒話と言うのは、聞かなかったことにするのが礼儀なんだろうけど。こういうシチュエーションなら首を突っ込んだ方が家族円満のためにはいい。
「いったい、何を見たっていうんですかあ?」
手を拭きながらリビングに入る。
「あ、聞こえた?」
「うん、お母さんの声、おっきいもん」
「ハハ、いやね、駅前でやくもによく似た子を見かけたんで」
「あ、それで、さっき驚いたんだ」
「それで、陽子の見たのは、どんなやくもだったの?」
お婆ちゃんが身を乗り出す。
「ああ、なにか、待ち合わせしてたみたいで、ニコニコしながら駆けていくの。すぐに人ごみに紛れたんで、それ以上は分からなかったんだけど」
「え、そうなの?」
「あ、わかる。男の子と待ち合わせしたみたいなでしょ?」
「お婆ちゃん、お母さん、そんなこと言ってないよ(#´0`#)」
「ええ、言ってないわよ」
「でも、陽子は、そういう顔してましたわよ」
「え、そうか!?」
「ほら、陽子が高校の時の」
「ああ、あの時のなあ(^▽^)」
「あ、もう、お父さんまで(#´△`#)!」
「わ、わ、聞きたいなあ!」
「そうだ、ケーキ買ってきたから、お茶にしよ。きのう開店したばかりで、パティシエの人が市の文化教室でね……」
お母さんは、強引にケーキと文化教室の話に持って行って、デザートになるはずだったケーキでお茶になる。
久々に家族三人でケーキと文化教室の話で盛り上がる。
夕飯も、お爺ちゃんお婆ちゃんもしっかり食べてくれた。
明るく話して、モリモリご飯やケーキをいただいて、有意義だった。
でも、わたしのソックリさん。ちょっと気になる。
- やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石