大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋物語り2018・8『フライングゲット』

2018-07-27 06:19:43 | 小説4

秋物語り2018・8
『フライングゲット』
 
            

 主な人物:サトコ(水沢亜紀=わたし) シホ(杉井麗) サキ(高階美花=呉美花)


 ちょっと古いけど「フライングゲット」てフレーズがお店で流行り始めた。


 この時季ハズレは、なにを隠そう、サキなのだ。
 最初に、このガールズバーに慣れたのはシホで、八月の始めには水を得た魚って感じ。サキはどっちかっていうとブキッチョなほうで、シェイクするときに、眉がアニメキャラが困ったときのようにヘタレタ八の字になり、とてもケナゲで、お客さんに人気になったことぐらい。
 だけど、お馴染みさんがチラホラできはじめると、お決まりのオーダーを覚えてしまい、「あ、なになにさん、スクリュードライバーね!?」てな具合にオーダーを当てる。それをお客さんが「お、フライングゲット!」と言い始めたのが始まり。

 深夜にねぐらのワケありマンションに戻り、大阪に来て習慣になった二人でいっしょの入浴の時や、その後のおしゃべりで、サキのことがだいぶ分かってきた。いや、本名の高階美花(ほんとの本名は呉美花だけど、本人は通名の本名の方に愛着を持っている)のことが。
 美花とわたしのスマホには家からメールと電話の着信が何度かあった。その都度メグさんは「好きにしてええで」という。でも大阪での生活が楽しいので――北海道に居ます 新学期には帰ります 探さないで――とメールを打っておいた。
 わたしは、新学期には本当に戻るつもりでいたけど、美花は揺れている。学校に居るよりも、今の生活が楽しいんだ。でも、時々「雪月花」なんかで出会うサトコさんなんかは「テキトーなところで切り上げて、東京に戻った方がいい」と言う。
 あ、そうそう、八月に入ってバイトの子が来るようになった。トモちゃん、キクちゃん、カオルちゃんという。三人とも十八を過ぎた高校生。一見してパープリンだけど、メグさんのオメガネにかなった子達で、最初から、客あしらいは上手かった。
 バイトの三人が来てから、休みが取れたり、店に出ても休憩が取れるようになった。

 一度、美花と休みがいっしょになったので、有名なコリアタウンに行ってみた。

 暑かったんで、アーケードのあるところしか行かなかった。あちこち店を冷やかして、何軒目かの食材屋さんでキムチとチジミの試食をさせてもらった。見た目よりうんと美味しかったので、お隣の雨宮さんのお土産もかねて、250グラムずつ二個買った。店のオバアチャンが話し好きで、出身の済州島の話なんか楽しくしてくれ、わたしたちも仕事柄人の話を聞くのが上手くなり、一時間も過ごしてしまった。

「やっぱ、韓国って外国だな」
 と、美花が言った。
「あたしって、もう四世なんだ。一度東京戻って、ちゃんと十八になったら帰化しようかな……」
 自問自答のようだったので、わたし、あえて返事はしなかった。

 でも美花が、自分のことを前向きに考え始めたのは確かなようだ。

 帰ってから、雨宮さんにお土産のキムチを持っていった。
「うわー、ありがとう。ちょっと上がってよ」
「いいんですか。お仕事とか……」
「いいのいいの、仕事に熱が入るの夜だから。あたしって、仕事柄引きこもりみたいなもんでさ。生きてる人間とお話しするの嬉しくってさ」
「雨宮さんて、大阪の人じゃないんですか?」
「北海道。気分次第で日本中どこにでも越しちゃう。ここに来る前は、横浜に一年半、その前が東京の南千住。その前は仙台だったかな……?」
 そんなことを言いながら、雨宮さんは、キムチをウツワに入れ、好物のエビセンといっしょに出してくれた。
「エビセンとキムチって、意外に合いますね」
「そりゃ、コリアタウンでしょ。横浜にもあったけど、こっちが本場かな。でさ、あんたたち見てるとね、なんだか楽しげでさ。最初見たときは、家出娘みたく見えちゃったけど、ほんとは自由な現代(いま)の子なんだよね」
「ええ、いちおう……」
「この夏で連載一本終わっちゃうのよね。そいで次のネタ探してたんだけど、あんたたち、いいなあって思って。ガールズバーのラノベって、あんまし聞かないしさ。いわばフライングゲット!」
 意外にも、サキ(状況で使い分けてます)が、よく喋った。やっぱ、今の生活が楽しいようだ。

 次の日は、シホが休みで、わたしたちが出勤だった。

「ちょっと、シホちゃんのことで聞きたいんだけど」
 店に着くなり、メグさんに聞かれた。
「シホがなにか?」
「優子って子知ってる?」
「いいえ、サキは?」
「聞いたことないです」
「リョウに裕子ってのが居て、ひょっとして、そのあたりからの引き抜きかとも思ったんや。せやけど、あのタイプは、もっとええのんが、ゴロゴロ居るさかいな。うちやったら、狙うんやったらサキちゃんや」
「え、そうなんですか!」
 サキが、嬉しそうな顔をした。
「あんたみたいな、天然キャラは貴重や」
「ひょっとしたら、もっと別の引き抜きかもしれへんなあ」
 タキさんが、入って来るなり言った。
「ごめん、うちの声大きいよってに」
「スマホの履歴見てんな?」
「当たり……優子って子から頻繁にメールが来てんねん」
「ネカマのフライングゲットかもな。アチャー、フライングポテトが切れかけや」
「そら、フライドポテト」

 二人は、声を出して笑ったけど、目は笑っていなかった……。 


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