かの世界この世界:178
積もる話は山ほどあるんだけど、取りあえずはイザナギ・イザナミのこと。
海に潜ったヒルコとアハシマにも気持ちは残ったけど、三羽のカモメのように並んでオノコロジマに戻った。
「すごい大木!」
「ほんとうは、アメノミハシラという柱だ」
沖に出て戦っているうちにアメノミハシラの周囲はさらに緑が深くなっていて、わたしたちは、ミハシラの下の方が、程よい洞になっているところに落ち着いた。
「あちこち芽吹いて大木のようになっているけどね、この世界の生命の根源だ」
「この世界? えと……オーディンとかヴァルハラとかの世界じゃなくて」
「あちらからすると異世界だけど、わたしの世界の神話世界だと思う」
「というと、日本の?」
「そうよ、どんな力が働いているのか分からないけど、ここからやり直せということなんだと思う」
「や、やり直し……」
「わたしはワクワクしている。とりあえず、ここではラグナロク(最終戦争)は起こらずに済みそうだからな」
「ヒルデも、嫌だったの?」
「ロキ達を世界樹の女神に送った後は、真っ直ぐ父の主城ヴァルハラだ。そこで父は命ずる『ラグナロクの準備をしろ』とな……」
ヒルデは言いよどんでしまう。テルにしても、あそこまで付き合った旅だから、十分聞く資格はあると思うんだけど、いまは触れるべきじゃないと思う。
「予感がするよ」
ちょっと眉根にしわを寄せて返した。
「あ、今の表情可愛いぞ」
「よ、よしてよヒルデ(^_^;)」
冷やかされて思い出した、冴子に「それは反則だ」と言われたわたしの癖だ。
話がマジになり過ぎたり、話をここまでにしておきたいときに出てくる子供のころからの癖。
話を打ち止めにするだけじゃなくて、半ば無意識に自分の可愛さをアピールしてしまう。ちょっと、際どい卑しさがある。
「ここはさ、たぶん日本神話の世界。それも一番最初の国生み神話のころだと思う」
「ラグナロクにはならないの?」
「無いと思う。日本神話はキチンと習ったことが無いけど、そう言うのは無かったはずだ」
「えと……だったら、観てればいいだけ? 人のゲーム動画みたくにさ!?」
「それは、どうかな。ここに来て、いくらも経っていないけど、もう二回も戦っているぞ。一度は、ついさっきだ、テルもいっしょに戦っただろうが」
「あ、そうなんだ」
「今回はスマホが使えるようで、一応の流れは分かるんだけども、どこでどの程度干渉することになるか分からない」
「まあ、気楽に行こうではないか。テルも戻ってきたし、このまま進んで行けば、他のメンバーも戻って来るような気がするぞ」
「そうね、取りあえず、あの二人を見守らなくっちゃ……」
ゴソゴソゴソ
三人並んで、斥候のような気分になって洞の淵に茂っている草をかき分ける。
男女神は生まれたままの姿で、背を向けてミハシラを周っている。
二人とも、さっきの失敗を取り戻す意気込みと、互いへの興味で、この高さから見てもハッキリわかるくらいに赤くなって、再びの出会いに期待を膨らませている。
一種の吊り橋効果だな。
「膨らんでいるのは期待だけかぁ?」
「なんか、いやらしいっす」
「なにがイヤラシイ、わたしは胸の事を言ったんだ、期待に胸を膨らませって言うだろうが」
「あ、なんかごまかした」
「い、いやらしいって言う方がいやらしいんだぞ」
「ヒルデ、なんか息、荒くないっすか?」
「そ、そんなことは無いぞ、そういうケイトの方が赤いぞ」
「ち、違うっす(#'0'#)」
「二人とも静かに」
「テルは落ち着いてるっすね」
「こいつは、ムッツリなだけなんだろ(#'∀'#)」
「う、うるさい、ほら、二人がまた出会うわよ!」
イザナギ・イザナミの二神は、学校の円形校舎ほどの太さになったミハシラを周って、二度目の出会いを果たそうというところだった……。
☆ 主な登場人物
―― この世界 ――
- 寺井光子 二年生 この長い物語の主人公
- 二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
- 中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
- 志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
―― かの世界 ――
- テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
- ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
- ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
- タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
- タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
- ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
- ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
- ペギー 荒れ地の万屋
- イザナギ 始まりの男神
- イザナミ 始まりの女神