漆黒のブリュンヒルデQ
お~れが居たんじゃお嫁にゃいけぬ 分かっちゃいるんだ妹よ~♪
今日もぉ~涙の 今日も~涙の 日が落ちる 日が~落ち~る♪
『あなた、同じフレーズばっかり』
『え、あ、ほんとだ(^_^;)』
『『アハハハ』』
「「フフフフフ(* ´艸`)」」
「二人ともほんなこて楽しそうやなあ(^^)」
「ほんとだね」
孫と姪(設定だけど)としても、階下のリビングで祖父母が楽しそうにしていると嬉しい。
ついつい、テスト勉強の手も停まってしまう。
「しかし、なんでお祖父ちゃん『男はつらいよ』ばっかり歌ってるんだろうね?」
「え、ひょっとして自覚なかとか?」
「え、わたし!?」
「そうじゃ、ひるで、昨日から何度も寅次郎って呟いとっ」
「あ……ああ……」
世田谷城址公園で出会って、ちょっと気になっている。
吉田寅次郎……吉田松陰。
わたしにとっては隣のテリトリーになる、吉田神社の御祭神だ。
わたしは、迷える霊や妖には、名前を付けて本来の場所に戻してやるんだけども、松陰は違う。
迷える霊にゆっくり時間をかけて思い出させているんだ。
思い出すまでは、自分の松陰神社に通わせて、いろいろ教えているらしい。
松本という男と、三遊亭円突という落語家の警防団に出会ったが、二人とも充実した目をしていた。
気になったわたしは、何度も――吉田寅次郎――と呟いていたらしい。
「でも、なんでそれが『男はつらいよ』になるんだ?」
「だって、主役ん寅さんな車寅次郎じゃらせんか」
「え……あ、トラさんも下の名前は寅次郎だったか!?」
「そうじゃ、お祖おやっどんは、寅さんの映画好いちょっでね、ネトフリでよう観ちょっじゃ」
「松陰の方の寅次郎は、鹿児島でも有名とか人気だったりするの?」
「ああ、吉之助どんたちは好いちょったみて。明治維新ん元になった人物じゃっで」
「そうか、でも、安政の大獄で処刑されるんだよね」
「うん、黒船がやってきたとき、アメリカに密航しようとして失敗したんじゃ」
「あの時、ペリーは日本と条約結ぶことが第一で、密航者をかくまって連れていってくれるはずないんだけどね。日本史で習ったよ。松陰ほどの学者なら分からないはずはないんだけど」
「そうやなあ、喋るったぁ片言んオランダ語で、言葉も通じん」
「なんだか、その辺が、抜けてるようで……戦略的な観点からみると……」
「みると?」
「その……一種のバカに見える」
「あはは、そうじゃ、あん時ん松陰はバカやった。小船をおっとって黒船に漕ぎよせっとどん、途中で露ベソが壊れて櫂が使えんくなっせぇ、ふんどしで応急修理してん。松陰は黒船に上がったときはフルチンやった!」
「プ、ほんとか( ´艸`)!?」
「ああ、こんエピソードは西郷どんたち、かごんまん者はわっぜ好いちょっ」
「間抜けにしか思えないんだけど(^_^;)」
「ひっではブァルキリアん姫騎士じゃっでね、物事を戦略的、戦術的にしか見ちょらんとじゃ。人間には、そげん可愛らしさも大事じゃち思う」
「そうか……で、その『ひっで』というのは何よ?」
「ああ、ごめんなせ。薩摩弁でひるでは発音しにくうて『ひっで』になってしまうんじゃ」
「ん……なんかひっでぇ」
「「アハハハハハ」」
結局のところ、ふたりで馬鹿笑いしておしまいになりそうになって、下からお祖母ちゃんの呼ぶ声がした。
『ひるでぇ、お友だちがいらっしゃったわよぉ!』
え、ともだち?
わたしはブァルキリアの姫騎士、百戦錬磨の戦乙女、我が家に近づく者は子ネコ一匹でも事前に察知できる。
気が付かなかったのは、その『ともだち』が、相当の怪しの者か、玉代とのバカ話に興じすぎていたか……「はーい」と返事して下りる階段の窓から見える向かいの窓、ねね子が興味津々の顔でこっちを見ていた。
☆彡 主な登場人物
- 武笠ひるで(高校二年生) こっちの世界のブリュンヒルデ
- 福田芳子(高校一年生) ひるでの後輩 生徒会役員
- 福田るり子 福田芳子の妹
- 小栗結衣(高校二年生) ひるでの同輩 生徒会長
- 猫田ねね子 怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
- 門脇 啓介 引きこもりの幼なじみ
- おきながさん 気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
- スクネ老人 武内宿禰 気長足姫のじい
- 玉代(玉依姫) ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
- お祖父ちゃん
- お祖母ちゃん 武笠民子
- レイア(ニンフ) ブリュンヒルデの侍女
- 主神オーディン ブァルハラに住むブリュンヒルデの父