コッペリア・37
瀬楽さんは、それからずっとセラとして生きてきた。
割り切れはしなかったけど、真央の幸せのためには、これもいいと思った。
一年後、セラさんは海外まで行って本当の女になった。セラさんはローゼン、そしてメイゼンも掛け持ちし、両方の店の看板になった。
かなり……と言っていい稼ぎがあったが、このボロアパートに住んでいる。
男を捨てたことに、一人っ子として両親への呵責があったのだ。
瀬楽の家を身代限りにした詫びに、毎月かなりの仕送りを送っている。また、将来若さを失った時のためにお金も貯めていた。マスコミからの引きも当然あった。なんせ若いころのはるな愛を超えるぐらいの美しさと明るさ。そして時折見せる陰。それが魅力になり、望めばセラの生活はさらに豊かになったはずである。
うまく説明はできないが、セラは、それを望まなかった。
「夕べ、お店がはねてから、ママの知り合いのクラブに行ったの。店のオーナーの喜寿のお祝いにね……」
言葉で語りもしないのに、栞にはちゃんと伝わっている。それを不思議にも思わないでセラは続けた。
「偶然だけど、田神俊一が来ていた……普通のクラブだったから、女の子と間違えたのよね……話のはずみで田神はスマホを出してマチウケを見せてくれた『家内と娘なんだ』それは……真央じゃなかった。あたしカマをかけてやったの『田神さんて、初婚じゃないでしょ』 あっさり認めた。性格の不一致で最初の嫁さんとは一年で別れたって……」
「そんな……」
「え、どういうことよ!? って思った。むろんおくびにも出さずにニコニコしてたけどね。でもアパートに帰って一人になったら最悪で、このザマ」
「真央さんのことは……」
「今日お店に行く前に調べておこうと思って。むろんあたしがするんじゃないわよ。探偵さんに頼むつもり……なんだけどね」
「……怖いんですね」
「お見通しね……ね、背中に一発ドンとかましてくれない。栞ちゃんから勢いもらったら前に進めるかもしれない」
栞は、後ろ向きになったセラさんの背中を両の掌でドンとした。
学校は、結局昼から行った。というか、気づいたら学校に居た。
セラさんのことを考え、自分の至らなさを実感した。セラさんの苦悩どころか、セラさんがニューハーフであることも気づかなかった。
栞は人の心が読めると思っていたが、本人が心の奥にしまい込んでいることは分からないことを実感した。
「え、どういうことよ!」
六時間目のホームルームで、思わず叫んでしまった。
ミッチャン(担任)が、とんでもないことを言ったからだ。
「明日から、二年生は一クラス増えます。そのために二年生はクラス編成をやり直します。明日下足室に新しい学級編成表貼っておくから、新しい教室にいくこと」
「え、なんで!?」
「みんなのためです。学校の教員配当が一人増えたんで、より少ない人数でクラスができるようになりました。机の中のものは出しておくようにね!」
ミッチャンは分かりやすい人だ。
四月の下旬にクラス替えをやるなんて、なんのプラスにならないことを分かっていた。
分かって、それでも言っている……。