大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第70話《紀伊国坂》

2024-02-03 06:48:21 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第70話《紀伊国坂》さくら 






――事務所においでよ――


 鈴奈さんからのメール。


 わたしは鈴奈さんに長いメールを打った。

 どうして学校を辞めたのか、なんでわたしには言ってくれなかったのか。内容はこの二つだけど、学校でのショックがあったので長いメールをなった。その返事が、たった八文字の返事。
 よほど思い悩む事情があったのか、とんでもなくアッケラカンなのか、どちらともとれる八文字だ。


「おひさ~(^▽^)/、ちょうど打ち合わせ終わったところだから、そこで」


 鈴奈さんは、相変わらずの様子で空いてる小会議室を指した。

「まず、あんたの話から聞いたほうがいいって顔だね。飲み物とってくるから、考えまとめときな」

 そう言って鈴奈さんは部屋を出て行った。あたしは鈴奈さんのことが聞きたかったので「あんたの話から」と言われて面食らった。
 で、当然ながら自分のことについては考えがまとまらないまま、鈴奈さんがコーヒーを持って戻ってきた。

「ごめん、ドア閉めて」

「あ、ハイ」

「どっちが変わったか、分からないんでしょ?」

「え……あ……うん」

 核心をついていた。鈴奈さんと話をしようと思ったのは、表面的には鈴奈さんの退学についてだったけど、その動機の根本は、学校にもどったときのみんなのよそよそしい反応。
 その原因が自分にあるのか、学校のみんなにあるのか計りかねていたからだ。 

 で、鈴奈さんの退学が同じようなことからなのか……ようは、自分のことが知りたくて連絡をとったことを分かりながら、鈴奈さんはフランクに対応してくれた。

「それって意味ないわよ。変わったのは両方。さくらも、この世界の人間ぽくなっちゃったから、どうしても出ちゃう。仕事の中で歩き方から言葉の使い方まで仕込まれたでしょ。どうしても出ちゃう。だから普通どおりのポニーテールしてても、違った目で見られる。まあ、帝都だから面と向かっては言わないだろうけど、トイレの洗面あたりじゃやっかみで言う子もいるだろうね」

「すごい。鈴奈さん、トイレの話なんかそのままですよ」

「ハハ、あたしも同じ目にあったから。すぐに慣れるわよ、あんたもみんなも」

「じゃ、鈴奈さんは……」

「続きは晩ご飯食べながら話そうか。おいしいお店知ってるから」



 それから、鈴奈さんとタクシーで、赤坂見附まで行った。



「ここから、ホテルオオタニにかけてが紀伊国坂。知ってるよね、小泉八雲の話?」

 タクシーを降りると、いきなり小泉八雲になった。

「ああ、ムジナの話ですね。出てくるの、みんなムジナが化けたノッペラボー」

「そう……あたし、そのノッペラボーにはなりたくなくってね……」

 鈴奈さんの話は始まっていた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 

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