大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・18『「し」んだいしゃ・4』

2019-02-05 16:19:27 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・18
『「し」んだいしゃ・4』
        

 

 

 十二両目の後ろはパノラマ展望台になっていて、鉄路の夕景が流れて夕闇に溶けていって、鉄道ファンなら丸一日見ていても飽きないロケーションだ。

 むろんフェイクだ。

 じっさいには十三両目が連結されていて、その中では想像するだにおぞましい光景が繰り広げられているに違いない。

 

 最後の一節を唱え終わると、十三両目が現れた。

 

 ほかの連結部とは違ってストレッチャーが楽に通れるほどの幅があって、その向こうは虚無が広がっている。

 例えて言うと、本のページをめくったら何も印刷されていないページに出くわしたような。テレビのチャンネルを変えたら何も映っていない画面だったような。ゲームのオープンワールドを突き進んで、設定されていない先に広がるブルーあるいは真っ黒な世界に踏み込んだような。前を歩いている人が振り返ったらノッペラボウだったような。見ない方がいい世界が続いている。

 構わずに進むと、病院の地下廊下のような通路が伸びている。

 清潔で十分な照明に照らされてはいるが窓がない。窓のない扉が左右に規則的に続いていて、少し行くと左右に分岐があって、左右のその先にも同じ廊下が伸びている。微かに振動していることで列車内であることを感じさせている。

 なるほど、ラビリンスというわけね。

「この先に進んだら戻れません」

 いつのまにか車掌に化けそこなった看護婦が本来の姿で背後に現れた。

「あなたこそ囚われているわ看護婦さん」

「看護師です」

「いいわ、これが済んだら、あなたも解放してあげる。堕天使にラビリンスは無効よ……」

 そう言うと、マヤはゆっくりと振り返った。

 まだそこにいた看護婦が狼狽えた。

「なんで振り返るの……ラビリンスは……十三号車はそっちのほう」

「あなたは、隠したいものの側に立っているのよね。分かりやすいわ」

 マヤは、看護婦の横三十センチほどのところに手を掛けた。何もない空間に思えたそこに確かな手ごたえを感じた。

 

 ガラガラガラ

 アレーー! 看護婦が目を白黒させる。

 

 右にスライドさせると、看護婦のいる空間ごと見えないドアは見えない戸袋に収まったのだ。

「見ーつけた」

 聴診器を構えたそいつが豆鉄砲を喰らったような顔で突っ立ていた……

 

 

 

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『学校の神さま・4』

2019-02-05 07:20:22 | ライトノベルベスト

ライトノベルセレクト№40
『学校の神さま・4』
            


 フィッティングルームから出ると、園子は見違えるようなアゲアゲの女の子になっていた。髪は、こだわりのお下げだけど、キチンとメイクしてるんで、それはそれで意味ありげなお嬢系ファッションになっている。
「メイちゃんだって」
 園子は、姿見を出してくれた。フィッテイングルームの制限時間は五分だったから、ろくにチェックもできなかった。
「そうだ、マニュキュアとペディキュアもね……」
 園子が言うと、CGみたいに足と手の爪の様子が変わった。イチゴ模様までいって、巻き戻し、グロスピンクに右手の人差し指にシルバーのハート。左足の人差し指にはゴールドのハート。園子は、その逆。で決まった。そして、ワンピとおそろえのトートバッグを肩に掛けて出撃した。

 これなら、青山や六本木でもいけそうだったけど、あたしの心が自由になれるのは、やっぱ渋谷。足を伸ばして新宿あたり。でも新宿は、あんまり分からない。
「やっぱり、テリトリーは渋谷でしょう」
 見透かしたように園子が言って、お店のショ-ウインドウを指差した。
「あら、カワユイくまさん」
「じゃなくって、ウインドウに映ってるお・と・こ・の・こ」
「え……!」
「だめよ、直接見ちゃ。なんだか物欲しげに見えるでしょ」
「だよね……でも、なんだか背中がくすぐったいよ」
「くすぶっていたんだから、くすぐったいぐらいがいいわ」

 そうやって、一時間近くオトコの視線をひきつけて遊んでいた。

「メイちゃんって、直裁的だから男の子しか目に映ってないけど、女の子がしっかり見てるわよ」
「え……!」
「見ちゃダメ。さりげなく視線を感じるぐらいが、メイちゃんのいうヨサゲのアゲアゲよ」
「そっか、でもなんかアクティブなことしてみたいな」
「じゃ……」
 ボ-リングやって、ゲーセンに行き、プリクラを撮りまくった。どこへ行っても注目の的。ほんとリアルヨサゲになってきた。

 ちょっと遅めのお昼をオープンキャフェで食べた。むろんみんなの目線を引くため。それから、スゥイーツ食べに行列の出来るお店を行列せずに入れた。
「ね、もっと積極的なことしてみないこと!?」
「え、あたし的には十分積極的だけど」
「ちょっと付き合って」
 窓の大きな喫茶店に入った。園子はスマホ(持ってたんだ!)を出して、出会い系にメールを送った。
 ものの三分で反応があった。
「あの十七なんですけど、いっしょにお散歩しませんか。とりあえず……」
 相手は、四十ぐらいのオッサンの様子。あせらない口調にあせっている様子がうかがえて面白かった。
「○○通りの交差点です……ええ、そう……サマースーツに新聞……そういう人、五人ほどいますけど」
 なるほど、交差点のところに似たようなオッサンが五人ほどいた。みんなスマホ、を耳に当てている。
「あのう、目印にアクビしてもらえます」
 五人がそろって、アクビをした!
 あと体操をさせたり、クシャミをさせたり。挙げ句の果てにはAKBのヒット曲を歌わせたり。けっこう人の目につき始めたが、オッサンたちは、園子の声にマドワサレて、同じことをしているお仲間が、ほかに四人もいるとは気が付いていない。あたしは、笑うのをこらえて、お腹が痛かった。
「あ、友だちがお漏らししそうなんで、今日のところはこれぐらいで。では、どなたさまも、ご機嫌宜しゅう」
「ヒー、ヒー、ほんとチビりそう」
「もう十分イチビッテるわよ、わたしたち」

 あたしたちは、金魚のように渋谷を泳ぎまくった。そう、わたしは金魚。大きな池のね。それを金魚すくいを持った男たちが次々に紙を破って失敗していくさまを見るのは、ほんと楽しかった。
 夜になって、あたしたちはネットカフェに入った。プアなネット難民が押し寄せる十一時には、コンビニ弁当を食べ、パッケージは臭うので、出口近くのゴミ箱へ。交代でシャワーも浴びていた。
 あたしが、シャワーから、お揃いで買ったパジャマ着て戻ってくると、園子が、パソコンを操作していた。
「なにしてんの?」
「昼のオジサマたちアップロ-ドしてたの。ほら、もうアクセスが三百件もきてるわ」
「ほんとだ、ハハ、あたし、このオッサンがズッコケたところで、チビりそうになったんだよね。で、園子ががイチビリとひっかけちゃって、アハハハ」

 動画のアクセスは、面白いように伸びていった。そして、どうやって撮ったか分からなかったけど、あたしたち二人の姿も、一分ぐらいの細切れにしてアップされていた。顔は微妙なタイミングで見えないようにしてあったけど、明日この姿で街を歩いたら評判になるかなって……バカなこと考えているうちに、あたしは眠ってしまった。

「あら、目が覚めた」

 園子がでんぐりかえった顔で覗き込んできた。もう顔も洗ってワンピに着替え、パソコンをいじっていた。
 よく見ると部屋などというしろものでないブースでよく眠れたもんだと思ったが、なんせ、園子は神さま。なんでもありだろうと納得した。
「悪いけど、寝ている間に、メイちゃんの心覗かせてもらった」
「え……」
「怒ってる?」
「ううん。教えて、この先、自分でもどうしていいか分からない……」
 気持ちは悪くなかったけど、二日酔いから冷めた気持ちってこんなだろうなって、月に数回しか口をきかないオヤジの気持ちが分かったような気がした。
「わたしにも分からなかった。でも、メイちゃんの心の中にあることを、今日はやってみよう。バッグの中見てごらんなさい」
「え……」
 バッグの中には、手触りだけで分かる残金三千円のわたしの通帳が入っていた。
「なに、これ……!?」
 通帳は、二千五百円で株を買ったところから始まり、数分おきに出し入れされ、最後のページでは三百万円になっていた!
「あ、まだ続き。繰り越しの通帳が入ってるから」
 バッグには、もう二冊通帳が入っていた。三冊目の通帳の残高は5の下にゼロが六つも付いていた!
「一晩、株動かしたら、それだけになった」
「あ、あたしの……?」
「そうよ、次ぎ行くから、顔荒って準備して」
 朝食は、喫茶店のモーニングで済ませた。そこでもあたしたちは人の目を引いていた。昨日は、あんなに面白かったのに、今は、なんだか居心地が悪い。

「さあ、ちょっと足伸ばして原宿いくわよ」

 その三十分後、あたしたちは竹下通りにいた。あたしは原宿は初めてだ。ほんの二か月前まで中学生だったあたしの行動半径は、そんなに広くない。渋谷から一駅離れただけで、見知らぬ街なんだ。
 でも、どうしてだろう。なんか懐かしい……。
 知らない街に見とれていたら人とぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
 自分でも、思いがけない優しい声が出た。
「いいや、こちらこそ。怪我しなかった? ごめんね、急いでたもんで……」
 三十過ぎの、オジサンともオニイサンともつかない男の人が、そう言って二三歩で立ち止まって声を掛けてきた。
「きみ、急にごめん……」
 そこで全てが止まった。男の人も、通行人も、電車も鳩も、飛行機さえも止まってしまった。動いているのはあたし……そして、園子だけ。
「どうする。これが、メイちゃんのもう一つの夢」
「え……?」
「この人は、まだ二線級だけどHIKARIプロのプロデューサー。そこらへんの怪しげなスカウトじゃないわよ。夕べ、この人に、あの動画を見てもらったの。で、彼は今から渋谷に行こうとして、偶然わたしたちに出会ったってわけなの」
「ス、スカウトされるのわたし……!?」
「メイちゃんの望みの一つだもん。手を挙げたら、時間は動き出す。アイドルへの可能性が開けるわよ」

 街は、迷っているあたしの心そのものだった。何一つ自分では動かない、全てが危うい思わせぶり。

「これって……あたしの言い訳の世界。学校も家も親もウザイから、あたしが逃げ込んでいた世界」
「わたしがしてあげられるのは、ここまで。時間がないわ。早く決めて、あと十五秒よ」
 決められなかった。それどころか胸になにかしこりのような物が湧いてきて、それを吐きそうになってきた。
「う……う……オエーッ!」
 わたしは、それを吐いてしまった。目の前にスカウトの人の顔。ごめんなさい、朝からヘドまみれにさせちゃって!

 数秒たつと、静かな喧噪が戻ってきた。

 そこは、学校の正門の前だった。狐につままれた……わけではなかった。
 あたしの横には、園子が旧制女学校の制服に戻って立っていた。
「これが、メイちゃんの選択なんだ」
「ううん。そんなしっかりしたもんじゃない。ただ、あのままいくのは、とても気持ちが悪くって、手が挙げられなかっただけ」
「それでいいのよ。ポケットにあるもの出して」
「え……」
 ポケットを探ると退学届けが出てきた。
「その書類振ってご覧なさい」
 それを振ると、書いてあった文字やハンコが、消しゴムのカス……それよりも軽いホコリみたくなって、そよそよと飛んでいき。紙はただのA4の紙になってしまった。
「それから、これ」
「あ、通帳……三千円に戻ってる」
「あんまり残念そうじゃないわね」
「うん、なんだかね」
「じゃ、一足先にわたしは学校に戻るわね」
 園子は、校門をくぐると、その姿はおぼろになって消えてしまった。やっぱ、学校の神さま……。

 わたしも、学校の中に足を踏み入れた、玄関から見える二階の廊下に多田先生の姿が見えた。

 照れくさいので、小さくお辞儀をした。多田先生は走りながら階段を降りている……。


 学校の神さま  完
 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・30『紀香って呼んで』

2019-02-05 07:06:26 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

30『紀香って呼んで』


 臨時休校になってしまった。

 なぜかというと、ポンプ室が爆発……正確には、バルブだか配管だかが破裂して汚水が噴き出し、学校中のトイレが使えなくなったからだ。
 前号を読んでくれた人には分かると思うんだけど、直前までオレと島田がポンプ室に居て、怒鳴り合いの末に取っ組み合いまでした。
 爆発の直前に逃げ出したので、二人とも汚水まみれの破壊者という濡れ衣を着せられることはなかった。

 タイミングがいい……というよりは、親父とお袋の気配りなんだろうけど、親子三人、駅前のイタリアンでランチになった。
 親父は捜査一課長の忙しい身。でも、こうやって月に一回は親子水入らずで食事する機会を作ってくれる。
 ありがたいことなんだろうけど、分かっているだけにいい家族を演じてしまう……。
「ちょっと本屋に寄っていくよ」
 そう言ってイタリアンの前で別れた。で、ちっとも本なんか読みたくもないのに本屋を目指している。

 スマホが鳴った。

―― 国富駅前のスタバに来れる? OKなら返事お願い!  桜子 ――

 ちょうどオレはスタバが入っている駅ビルの真ん前に差しかかっていた。メールする間に着けるので、スタバに直行。
「桃斗!?」「百戸くん!?」の声が重なった。桜子と三好紀香がスタバの前でビックリしている。
「たまたま、駅ビルの前にいたんだ。そこのイタリアンで飯食ってたから、あ、親父とお袋と。だから……」
 オレもうろたえている。
「じゃ、あたしはこれで。紀香、ちゃんと話すんだよ。じゃあ」
「「桜子!」」
 二人の呼びかけに振り返ることも無く、桜子は改札に消えて行った。

 ダブルショートホワイトモカとダブルトールバニララテを、それぞれのトレーに乗っけて、奥のシートに収まる。

 オレがダブルトールバニララテを選んだのは、えーと、と悩んでいたら、これが美味しいと三好が言ったから。こういうことは簡単に人に流される。
「……美味い、こんなのがスタバにあったんだ」
 そう言うと、三好は恥ずかしそうにこっくりした。
「けさ、大輔に呼び出されたの……」
「大輔……あ、島田」
「うん……」
 島田のことだと分かっていたが、下の名前で呼び捨てにしていることが意外で聞き返した。親しみを持ってのことではなく、軽く見ているという響きがあった。
「朝っぱらから、コクられた」
「断ったんだな?」
「うん」
 オレのことをメチャクチャに言いながら、素直にコクった島田が哀れになった。あいつは女の子を好きになることについて、もっと学習しなきゃいけない。
「悪い奴じゃないんだけどな……」
「良いやつだともとも思ってない……でも、やさしく断ったわよ。ありがとうを10回ぐらい付けて」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう」
「アハハ、そんな風には言ってない。いろんな言葉を探しながら……って言うか、持ち込まれた洗濯物をよーく調べて、一番いいクリーニングの方法を見つけるみたいに」
「三好んちはクリーニング屋さんだもんな」
「うん……で、優しく大輔の心をクリーニングしてやっていたら、気づいたの……」
 三好はダブルショートホワイトモカを混ぜながら続けた。
「あたし、やっぱり百戸くんが好きだ」
 カップの中でダブルショートホワイトモカがグルグル回っている。
「オレ120キロのデブだよ」
「うん、でも気にならない」
「それに……みんなからハミられるぜ」
「かまわない、百戸くんが居れば」
 ダブルショートホワイトモカの旋回が停まった。
「あのう……」
「答えてくれなくっていい。気持ちを知ってもらえれば、とりあえずいいの」
 三好は、旋回をやめたダブルショートホワイトモカを一気に飲み干した。
「でも、一つだけお願い。これからは三好じゃなくて紀香って呼んで……それじゃ」

 ポシェットを掴むと、三好は足早に店を出て行った……。
 

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