大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・22 『プリンセス ミナコ・4』

2019-02-27 06:36:05 | 時かける少女

時かける少女・22
『プリンセス ミナコ・4』
       


 

 家に帰ると、感動か動揺か分からない気持ちになった。

 お母さんは真奈美を連れて、買い物にいったようで、留守だった。

 買い物は、お母さんが、なにか素敵なことや不安な気持ちになったときのクセ。いつもミナコか真奈美が付いていく。度はずれた買い物をしないためのお目付役であり、おこぼれに預かるため。ただし条件がある。原稿料か印税が入ってきたときだけ。で、お目付役は、その衝動買いの上限が、収入の1/10を超えないように注意している。

 シャワーを浴びて、スェットに着替えベッドにひっくり返った。ミナコが一番落ち着ける場所だ。
 二段ベッドの上なので天井が近い。天井のクロスは白い微妙なまだら模様。気分次第でいろんなカタチに見える。今日は、その一つがお祖母様の横顔に見えた。

 戦車……いや装甲戦闘車だったっけ、あそこからお祖母様が出てきたときにはびっくりした。オテンバをそのままオバサンにしたような。そう、思ったよりずっと身軽でイケテた。とても孫の居る歳には見えなかった。
 部屋に通されてからのお祖母様は、ハグして、いきなりお尻をもんできたりしたが、受けた印象はとても素直なものだった。女王としても祖母としても。
 王位継承者に成って欲しいことを冷静だけど威厳をもってじゃなくて、手作りケーキの試食を頼むような気楽さで言った。
 武器輸出三原則にひっかけて断ったのは、我ながら上出来だった。だけど、これは、その前の防衛大臣の言葉を借りただけ。ミナコは、人の言ったことやしていることからヒントを得て自分のものにすることは得意だった。志望している役者の大事な条件だとも思っていた。
 お祖母様は、それをさらりと誉めて、次は自然に祖母としての情に訴えかけてきた。目に一杯涙を浮かべながら、でも、次ぎに女王として待っている仕事に支障をきたすような崩れ方はしなかった。ちゃんと許された時間の中で、必要十分な自分と、その気持ちを伝え、ミナコの中に少なからぬ影響を感動とも動揺ともつかぬ気持ちで置いていった。

 ダニエルがくれた本を出してみた。

 部外秘と英語で書かれていたが、中身は日本語になっていた。
『ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王の1975年のミナコ公国における影響』と長ったらしいタイトルが付いていた。

 1975年、ミナコ公国で、クーデターが起こった。社会民衆党が、観光を主要な収入とする国政を「飾り窓の国のようだ」と言って、ソ連の援助などを受けて、貿易国家にしようとして、軍の若手将校たちと議会、警察、放送局を占拠した。要はソ連の傀儡になり、美しいミナコ港を軍港兼ソ連の地中海における中継港にしようとしたのである。
 しかし、彼らの目論見は外れた。アテにしていた民衆が、いっこうに付いてこないのである。国民の多数は、貿易ビジネスなどやろうと思わず、カジノやホテル、土産物や伝統的なワインの製造で満足していた。
 放送も、隣のフランスの放送局を使って、ミナコの放送をやったので、反乱軍が、いくら占拠した放送局から放送しても、見てくれる視聴者はほとんどいなかった。
 海外のセレブたちもミナコのカジノ閉鎖には怒り、自分たちの政府に働きかけ、反乱軍を非難させ、三日目にはソ連の関係者が逃亡。あっけなくクーデターは終わった。

 で……この手を打ったのが全て若き日の女王であった。

 でも、女王は表面に出ることはなく、全て当時のコナミ首相の手柄とし、自分は投降してきた反乱軍を寛容に処遇するように声明を発表した。

 ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王の機転と国民の信頼がなければミナコ公国は、さらに小さな分裂国家になっていたであろう。

 政府部外秘1231号

「へー、あのお祖母ちゃん、こんなことやったんだ……」
 お祖母ちゃんの力を知ると共に、女王の大変さ、そしてやり甲斐を不覚にも感じたミナコであった。
 
「え、でも、どうして、こんな部外秘資料が、日本語に訳されて、挿絵までついて本になってるのよ!?」

 で、奥付を見ると、こう書いてあった。
――2013年、部外秘解除。ミナコ公国、建国800年記念出版――

「なるほどね……」

 そこに、真奈美がドタドタとやってきた。

「オネーチャン、大変だよ!」

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・52『ギョエ!』

2019-02-27 06:27:05 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

52『ギョエ!』


 朝になって、自分たちが出ている映画のタイトルが分かった。

『あすまろ』というらしい。

 らしいというのは、きちんと分かったわけではないからだ。
 朝食の仕出し弁当を入れた段ボール箱に「『あすまろ』撮影隊様」とあったからである。
「これって、映画のタイトルですか?」
 そう聞くと、いっしょに弁当を食べ始めた小出助監督が「え……そうです」と相槌を打った。くったく有り気な反応だったけど、エキストラの身なので、それ以上聞くことははばかられた。

 朝食のあと腹ごなしに大学の構内を散歩してみた。

 ここにはバスでやってきたので、我が街国富市のどのあたりになるのか分からない。そこで6階建ての大学本館のてっぺんに上がってみる。
「意外と内陸なんだな」
 思ったよりも海が遠く、国富市も意外と広いことを実感。モヤっている遠景に確かな春の訪れを知る。
「あれは……」
 眼下の構内に見慣れたジャージ姿を発見。いそいで下りのエレベーターに飛び乗る。

「よお、昨日は張り切ってたなあ」

 少し意地悪な声を掛けたら、ジャージ姿はびっくりして振り返った。
「お、おお……昨日はすまなかったな」
 予想以上の恐縮ぶりに、オレは声のトーンを明るくした。
「八瀬こそ大変だったじゃないか。おまえがフルチンのエキストラだとは思わなかったぜ」
「あ、あれはちゃんと前張り付けてるんだ!」
「ハハ、分かってるって。あれを見て八瀬も犠牲者なんだろうって見当がついた」
 八瀬は正直に安堵のため息をついて、一歩オレに近づいた。
「小出助監督がオレの従兄弟でな。急な撮影の変更に困ってたんで、その……協力してんだ」
「ああ、あの人柄の良さそうな助監督?」
「うん、監督と会社の方針がクルクル変わって、急にラグビー部の設定が相撲部になっちまうし。水泳部は罰ゲームでフルチンランニングすることになっちまうし……朝飯だって、ほんとは部活の雰囲気出すために自炊ってことになってたのが、炊事場が足りないんで弁当になっちまうし、大変なんだ」
「気にすんなよ、困ったときはお互い様だ。オレも貴重な体験ができて喜んでんだから」
「すまん、桃斗……」
 目を合わせない八瀬に――これは、まだ何かあるなあ――と思ったが、これ以上聞くのは躊躇われた。

 で、その何かは、夕方の撮影で起こってしまった。

「これから相撲部のメンバーが入浴中の女子運動部員たちを覗き見するシーンを撮ります。場所は夕べ入った大浴場です。浴場には音声さんがスピーカーを仕掛けていて、リアルな音や声がします。自然に反応してもらえればけっこうです。ぶっつけ本番の一回勝負なので、よろしくお願いします。じゃ、本番3分前!」
 オレたち15人のデブは、旧館の陰から木造の浴場を目指す。覗きの設定なので、演技指導をしてもらわなくても泥棒のような足取りになる。近づくと女子学生たちの声や水しぶきの音などが湯気といっしょにボロ浴場の隙間から漏れてくる。
 映画のスタッフというのは大したもんだと思った。音や声は3Dサラウンドだし、漏れてくる湯気には石鹸やシャンプーの香りまでして、15人のデブは本気になってしまった。
「湯気の出てるところなら覗けるなあ……」
 先頭のデブが上ずった声で呟くと、残りのデブも、それぞれにポイントを探す。
「ん~……湯気ばっかりで、見えそうで……見えない」
 もう、効果用の音声であることも忘れて、オレたちは必死になった。
 そのうちに貼りついていた壁面がユラリと揺れたような気がした。

「「「「「「「「「「「「「ノワー!!!」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「キャー!!!」」」」」」」」」」」」


 叫び声が重なった!

 崩れた壁の向こうには、リアル女の子たちが悲鳴を上げて体のあちこちを隠していた。とっさのことで隠しきれないんだけど。
 風呂側に倒れたオレたちと女の子たちの隔たりは、ほとんどゼロ距離だった。

「ギョエ!」オレの目の前で胸の片方だけ隠して立ちすくんでいたのは予想もしない人物だった。

「さ、桜子……!?」

 オレは生まれて初めて桜子のスッポンポンを観てしまった!

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