マラソン讃歌

ランニング日記を中心に様々な趣味活動を紹介します。

うぶごえ 3

2015年08月30日 | トーストマスターズ
日本から15,000㎞離れたアフリカ大陸の最南端に南アフリカ共和国の行政首都PRETORIAがあります。標高1500m、人口50万のこの都市は、別名「Jacaranda City」とも呼ばれ、毎年10月になると7万本のジャカランダの木が美しい紫色の花を咲かせ、街中を紫一色に染めます。

そこはまた、私達夫婦が30年前結婚して初めて海外生活を送った思い出の地でもあります。
その紫の桜が咲き始める前に、妻が妊娠しました。当初、妻は言葉や習慣のちがう異国での出産に大きな不安を抱き一時帰国することを考えていました。ところが、しばらくして友人から地元の信頼できる産婦人科医を紹介されると安心したのか、海外での出産を決意しました。その医師の名前は、DR. DAVIS―経験豊かで温厚な50代の紳士でした。

 それから8か月後、その日は突然やってきました。予定日より2週間も早かったのです。その朝、妻が突然陣痛を訴え苦しみ始めたので、私はなじみになったDAVIS先生に電話を入れました。

すると、すぐにST. MARY病院に連れてくるようにと言われ、急いで妻を車に乗せて病院へ向かいました。                                                            
そこにはDAVIS先生が待っていました。
「おはようございます、DAVIS先生。よろしくお願いします。」
「やあ、おはよう、TAKKI(これは私の英語名です。)。今すぐ、君の奥さんを分娩室に運ぶから手伝ってくれ!」
「了解しました。でも、先生と私の他には誰もいないのですか、看護婦さんとかは?」
「いや、必ずしもそういうわけではないのだが、この国では出産には夫が全面的に協力することになっているからね。」
「えっ!私は今まで出産に立ち会ったことは一度もないんですが・・・」
「心配するな、TAKKI!夫であればだれでもできることじゃ。」
そういわれて、私はしかたなくDAVIS先生の助手を務めることになりました。そして、生まれて初めて
分娩室に足を踏み入れました。その間も妻は陣痛で苦しんでいます。でも、私にできることはただ妻の手を握って励ましてやることしかありません。
 「酸素マスクをつけてやれ、TAKKI!それから鉗子を取ってくれ。」
 「マ、マスクはどうやってつけるのですか。か、鉗子ってどれですか。」
 「うろたえるな、TAKKI!マスクは口の上にあてておくだけでいい。鉗子はその棚の2段目に置いてある  やつだ。」
 「はい、先生。これでいいですか。」
 「よし、いいぞ!これからは君の奥さんがベッドから落ちないようにしっかりと体を支えてやるんだ。」
 「わかりました。DAVIS先生。」
 こうして冷や汗をかきながら時が過ぎて行きました。やがて、分娩室内に大きなうぶごえが響きわたります。  
 「おぎゃー!」

 それは一生忘れることのない感激の瞬間でした。
このようにして愛する妻と一緒に新しい命の誕生に携わったことは、今も私の心に深く刻まれています。
そして、その時生まれた「Jacaranda Baby」は、私達夫婦の1人娘としてすくすくと育ち、今は妻が残してくれたかけがいのない私の宝となっています。

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1 コメント

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一口書面論評 (聴衆)
2015-08-31 00:03:47
本日の聴衆(一部論評者含む)から暖かいコメントをいただきました。

〇とても素晴らしいスピーチでした。今回私はかなり気軽にスピーチをお願いしてしまいましたが、こんなに感動を覚えるスピーチをしていただけるとは想像もしていませんでした(とういうのは失礼ですね…→いいえ<筆者>)。本当に素敵な情景を数々見せて下さいました。今のお嬢様のイラストとTakkiさんのコメントで、現状を想像もし、あたたかくもすこし切ないそんな気持ちになりました。とにかく余韻がすごかったです。淡々とお話される(もちろんユーモアや驚きやそういうのはありますが)のが、かえってこの余韻を引き出しているように思いました。好みはあるかもしれませんが、私はとても好きでした。本当にありがとうございました。(S)

〇今日はステキなスピーチありがとうございます!
ビジュアルで、ユーモラスで、余人が体験できないエピソードで…とても楽しませていただきました。最後に淡々と締めておられましたが、逆に各人がじぶんなりの解釈やメッセージの受け取りができたようで却って良かったと思います。ありがとうございました。(H)

〇テストスピーカーありがとうございました!!発・海外・出産で予想外のサポートに立ち会うTakkiの臨場感に溢れるスピーチでした。分娩室であわてているTakkiを見ている奥様の感想を聞いてみたかったです。(Y)

〇素敵なジャカランダベビーの思い出を聴かせて下さってありがとうございました!直筆と思われる絵がとてもほほえましく、心温まる思いがしました。奥様、分娩に立ち会っていただけでお幸せですね!(K)

〇ステキなスピーチありがとうございました。似顔絵がやわらかい雰囲気を出していました。とても臨場感あるスピーチでした。(M)

〇うぶ声、落ち着いて楽しいスピーチでした。一生記憶に残る出来事、素晴らしいスピーチでした。私も、息子が生まれた直後に小さな小さな手でにぎってくれたのを記憶しています。

〇異国の地でお子さんが生まれるという不安とうれしさがよく伝わってくるスピーチでした。イラストと写真が良かったです。(H)
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