ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ベートーヴェン:ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」 by ポリーニ(p) 

2012-07-22 | CDの試聴記
今日は一日中、年金の問題集の改訂作業をしていた。
どうすれば実戦的な問題になるか、どうすれば一目で理解できる解説になるかを真剣に考えると、なかなか前に進まない。
でも、この問題集を頼りに学習する人がいると思うと、頑張ってやるしかないよなぁ。
しかし、さすがに疲れた・・・
予想外に涼しかったことが、せめてもの救いだったけど。

先週は、秋に待望の来日が決定したポリーニのチケットを幸いにもゲットすることができた。
今回は何種類もプロがあったのでは迷いに迷ったが、結局ハンマークラヴィーアをメインに据えたプログラムに決めた。
一番安い席だが、P席最前列の真ん中付近だから贅沢は言えない。
ピアノを聴く場合には、どうしても上蓋(反響板)の存在があるので、舞台後方にあたるP席は良くないと言われている。
まさにその通りだと思う。
しかし、真に感動的な演奏の場合は、そのようなハンディキャップはまったく問題にならないはずだ。
ポリーニなら、きっと奇跡を起こしてくれると信じている。

ポリーニの演奏は、いままで生で2回聴いたが、いずれもクラウディオ・アバド率いるルツェルン祝祭管弦楽団の来日公演に合わせたコンサートだった。
1回目はブラッハーやブルネロたちと組んだブラームスのピアノ五重奏曲、2回目はブラームスのピアノ協奏曲第2番。
それぞれ素晴らしい演奏であったことは間違いないが、震えるような感動とまでは至らなかったのも事実。
今回のコンサートは3回目になるので、まさに3度目の正直だと信じたい。
今後彼のピアノをく機会が何回も訪れるとは思えないので、初めて聴くソロコンサートということもあるし、心から楽しみにしている。
今年も体調不良が伝えられていたので、何とか元気な姿を見せてほしいと願っている。

そんなことを思いながら、30年以上前に録音された「ハンマークラヴィーア」を久しぶりに聴いてみた。
改めてポリーニの凄さを実感させられる。
彼が強靭で透徹された音を積み重ねて描いて見せたのは、圧倒的な存在感を誇る白亜の宮殿のようだ。
やわな箇所、曖昧な箇所はどこにも見当たらない。すべての音が、すべてのフレーズが、確信に満ちた表情で語られている。
第一楽章冒頭のファンファーレのようなフレーズも、比類ないくらい輝かしく豪快。
第三楽章を「軽い感じが残っている」とコメントした評論家もいたが、私はまったくそうは思わない。
確かに表面温度は低いので冷たく響くが、その硬質な響きの中から垣間見える敬虔な情感に私は深く感動した。
この楽章の途中で、ブラームスの交響曲第4番の第一楽章冒頭のモティーフに似た箇所が登場するが、ポリーニはひときわ格調高く表現している。
そして、やはりこの演奏の白眉はフィナーレ。
あの巨大なフガートを、料理の名人が目の前で魚をさばくような見事さで、鮮やかに弾ききっている。

私は聴きながら、ふとジョージ・セルのことを思い浮かべていた。
セルは私の敬愛する指揮者のひとりだが、誤解を恐れずに言えば、セルは本来ロマンティックな感覚を持った音楽家だったと思う。
しかし、自分の感情のおもむくままにロマンティックな表現をすることを、他ならぬ彼自身が許さなかった。
そんなセルだが、ときに熱い情感を抑えきれなくなることがあった。
たとえば、1970年の来日公演のライブ盤で聴けるモーツァルトの40番。
あの厳格なセルが、第一楽章から強烈なルバートをかけている。その部分を聴くたびに、私は涙が出そうになる。
これが間違いなくセルの心の叫びであり、パッションの発露だと思うから・・・。
こんな演奏を生で聴けた人を、本当に羨ましいと思う。

話をポリーニに戻す。
30年前に、既にあれだけ完成されたハンマークラヴィーアを聴かせてくれたポリーニは、果たして今回どんな演奏を聴かせてくれるのだろう。
あくまで勝手な予感だが、セルの来日公演の時のようなサプライズが聴けるのではないだろうか。
ほんのワンフレーズでもいいから、ポリーニの心の叫びが聴けたら、私はきっと涙で顔が上げられなくなるだろう。
今からポリーニの演奏を聴く日が待ち遠しい。

☆ベートーヴェン:
・ピアノ・ソナタ第28番イ長調Op.101
・ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調Op.106『ハンマークラヴィーア』
・ピアノ・ソナタ第30番ホ長調Op.109
・ピアノ・ソナタ第31番変イ長調Op.110
・ピアノ・ソナタ第32番ハ短調Op.111
<演奏>マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
<録音>1975-77年
コメント
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