ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ブリュッヘン&新日本フィル モーツァルトプログラム

2007-02-08 | コンサートの感想
フランス・ブリュッヘン。
この名前を聞くと、今でもドキドキしてしまいます。
私が高校生の頃、ギターのジョン・ウィリアムズと並んで最も影響を受けた演奏家なんです。

「リコーダーのパガニーニ」なんて言われたこともありましたが、私は、むしろアルゲリッチに近いイメージを持っていました。
自由奔放に飛び回った軌跡が、自然に音楽の王道になっている。
しかも、それは誰にも真似のできないような斬新な芸術。
まさしく天才!
その後レオンハルトに出会って、彼の音楽はますます深みを増すことになりますが、基本は変わらないと思っています。

そんなブリュッヘンが、「自分でオーケストラを組織して指揮をしているらしい」と噂で聞いたのが25年ほど前のこと。
やがてディスクもリリースされるようになりましたが、その記念すべきファーストアルバムが、確かモーツァルトの40番とベートーヴェンの1番のカップリングだったと思います。
CDを聴いてみて驚きました。
音楽にオーラというか、どこか霊感らしいものが感じられたのです。
オケのメンバーたちが、このマエストロに対してどれだけ大きなレスペクトを持って演奏にのぞんでいるか、すぐに分かりました。
リコーダーを持たなくても、やっぱり天才は天才なんだと思い知らされました。

そして、昨日ようやく彼の指揮姿を実際に見ることができたのです。
場所はサントリーホール、新日本フィルの定期演奏会でした。

<日時>2007年2月7日(水)19:15開演
<会場>サントリーホール
<曲目>
モーツァルト作曲
■歌劇『フィガロの結婚』K.492 序曲
■交響曲第39番変ホ長調K.543
■交響曲第40番ト短調K.550
<演奏>
■フランス・ブリュッヘン指揮
■新日本フィルハーモニー交響楽団

     

指揮台へゆっくりと向かうブリュッヘンの姿を見て、私はいささかショックを受けました。
風貌は若い頃とそんなに変わっていません。しかし、あの颯爽としたイメージはまったくありませんでした。
昨秋みたアーノンクールが、意外なほど若々しく感じたのとまさに対照的。
指揮台のうえに設置された椅子に、ゆっくり座るブリュッヘンの仕草をみながら、まだ一音も聴いていないのに、私はなぜか涙が止まりませんでした。

最初の曲は、フィガロ序曲。
躍動感に溢れたフィガロでした。しかし、アンサンブルはいささか粗い。
フレーズの最後が少しつまり気味なのも気になりました。

前半のメインは39番のシンフォニー。
言い忘れましたが、この日のオケは両翼配置。もちろんピリオド奏法です。
印象はというと、残念ながらフィガロとあまり変わらない・・・。
サントリーホールは、豊かな響きと分離のよさを併せ持つ稀有なホールですが、この曲では、豊かな響きの中に細かな音型が埋没してしまう感じがしました。
美しい瞬間は数多くあったのですが、全体として、もやっとした印象は拭いきれませんでした。
ブリュッヘンは指揮棒を使いません。しかも、胸からお臍くらいの狭い範囲で指揮をするので、慣れるまではアインザッツを揃えるのは難しいでしょうね。
また、第2楽章で感じたのですが、この楽章は途中から8分音符や16分音符の刻みに乗っかってメロディが歌うようになっていますが、この刻みを頼りに演奏する奏者とブリュッヘンの閃きのようなものを感じて演奏する奏者で、微妙にアンサンブルがずれてしまったようにも感じました。

さて、休憩をはさんで後半は40番ト短調のシンフォニー。
前半と同じだったらどうしよう・・・。
私の不安は、杞憂に終わりました。
本当に感動的なト短調。

第1楽章は速い!
これぞモルト・アレグロといいたくなるような、素晴らしいテンポです。
あのメランコリックな第一主題を、2回目に奏するときに1回目より音量を落として演奏されていたのが、まことに印象的。
展開部で、弦を押さえて木管を浮かび上がらせる表現も効果的だったと思います。
第2楽章は、祈りのようなひたすら美しい音楽。
しっとりとした豊かな響きの中に、細かなフレーズが見事に浮かび上がってきます。私は、オケの響きの中に、オルガンとヴィブラフォンが加わっているような錯覚を覚えました。
フィナーレでは、ブリュッヘンがテヌートを要求した直後にアンサンブルが少し乱れることがありましたが、それは些細なこと。
緊張感に溢れた素晴らしい音楽でした。

このシンフォニーを聴きながらずっと感じていたのは、
「ブリュッヘンのト短調は、外に発散しないで常に内側を向いている。しかし、その音楽は、ガラス細工のようなデリケートな美しさに満ちている」ということ。
私としても、こんなト短調は初めての体験でした。

アンコールは、ト短調の第1楽章を再び聴かせてくれました。
そして、鳴り止まない拍手(聴衆だけではなく、オケのメンバーもずっと拍手でマエストロを讃えていました)と、歩行がつらそうなブリュッヘンを気遣いながら、退場のタイミングを計っていたコンマスの西江さんの優しい姿が、とても印象に残りました。






コメント (4)
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