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三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

木造の外殻デザイン

2012年11月12日 06時36分56秒 | Weblog



写真は、北海道上ノ国町に残っている古建築エントランス。
江戸期に旺盛だったニシン漁などの網元の家です。
その後の明治期にはニシン漁はもっと巨大ビジネス化するので
こうした「番屋」建築はもっと巨大化するのですが、
その建築としてのありようは、ほぼ同様のもの。
前浜に隣接して建てられていて、
旦那の居住領域と出稼ぎ人たちの共同生活領域に
土間空間を境にして大きく分離した大型建築です。
こうした「資本家」たちは、松前藩との交渉によって利権を獲得し、
漁業の運営権を得る。
そのプロセスでは、相当の裏金が動いていたことは
想像に難くない。
初期に建てられた建築が徐々に巨大化していくのは、
そのような「初期投資」をやや力尽くで早急に回収したい
というような意志をそこに感じます。

で、建築としては、材料の基本は現地で調達して、
建築工事は、旦那が3~4年という長期間、棟梁の人材を確保して
材料の調達から、大工職人の調達まで一貫して請け負わせていた。
明治期になると、そもそも資本それ自体の初期投資が大きくなって
材料まで日本海側地域から北前船で持ってきていたりする。
この上ノ国の家は、そこまでのものではなく、
比較的こぢんまりとした規模でのものです。
しかし、その外観での木造らしい繊細さを持ったデザインには息をのむ。
屋根はつつましく石置き屋根が採用されている。
日本海側の西風の強さは半端ではないので、
そうした条件に打ち勝つように質実剛健な造作としたのでしょう。
玄関前からこうしてみると、玄関前の庇部分など、
表側に跳ね出しとして露出した梁の先端が
まるで、組み手のようにデザイン加工されている。
寺社建築とは違って、こういう様式については江戸時代には
厳格な「格式差別」が存在したようですが、
その範囲内で最上の表現が施されているように思われます。
玄関横には出窓が配置され、タテ桟の木格子で仕上げられている。
外壁の下見板押縁加工などとあいまって、
木組みのデザイン処理が、美しい。
この写真は別にモノクロで撮影したものではないのですが、
表面劣化した木造の素材色彩はこのように還元されてくる。
日本的陰影感を強調したデザイン、そうした意図が伝わってくる。
まぁ、あきのこない
わたしたちの感受性に深く刷り込まれた空間美を感じます。

コメント
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