三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

【水道敷設以前の台所、水確保の家事労働】

2017年11月30日 06時25分33秒 | Weblog


写真は先日訪れた東京二子玉川の「静嘉堂文庫美術館」となりの
「民家園」に移築されている古民家の台所。
今日の火力装置も一体になったキッチンとは違って「流し」単体ですね。
現代生活では火力もコンパクトに一体提供されていますが、
ほんの100年もさかのぼれば、台所の機能も分離していた。
この「流し」が主要な調理空間であり、ここで食材が準備されて
煮炊きは専用のかまどや囲炉裏で行われていた。
ごく当たり前の光景ですが、非常に保存状態がよくて
いまにも、誰かがこれを使うのではと思えるほど。
まずは右の「水甕〜カメ〜」が大きな要素であることに気付く。
水道以前の暮らしなど現代人からは概念が消えてしまっているけれど、
まず人間の暮らし営みには水確保が最大の要件であることが一目瞭然。
この甕に毎日毎日、水を満たすことから暮らしが始まった。
江戸期には、玉川上水という「水道施設」は整備されたと言われるけれど、
この古民家は農家であり、庄屋を補佐する立場の家だったそうなので、
そうした上水からの配水ではなく井戸からの汲み上げか、多摩河川水を使ったか、
近隣からどのように水を確保していたのか想像が膨らむ。
そしてそこから水を桶に入れて家のこの水甕まで運び入れなければならなかった。
現代人の水道使用量は1日186リットルということですが、
それは大部分がトイレやお風呂で使われ炊事にはおおむね2割程度。
そうすると36リットルになり、あとは家族人数分ということになる。
3世代同居での大家族を考えれば、8人程度が想定され、288リットルになる。
これはいまの家庭のお風呂浴槽1杯分にほぼ相当するということ。
たとえ自家に井戸があったとしても、それだけの量を絶やさず確保し続けているのは
結構な労作業を必要としていたことでしょうね。
浴槽一杯の水量を、井戸から汲み上げ運搬する家事労働総量は
人的エネルギーとしてどれくらいのカロリーを必要とするのか、
う〜〜む、もう考えたくなくなってきた(笑)。
当然、この貴重な水は一度の利用ではもったいないので、
この「流し」から排水された水は戸外の水甕に再度貯えられて、
打ち水などの再利用が計られていたとされます。

現代生活は人間生活コロニーとして、
実に便利になっていることを、こんなポイントだけでも知ることができる。
現代人は水道の蛇口をひねるエネルギーで事足りているけれど、
ほんの百年をさかのぼれば、こうした水確保には巨大な人的エネルギーが
必要だったのですね。ありがたい世をわれわれは生きている。
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【日本=資源少国トラウマは本当か?】

2017年11月29日 07時11分39秒 | Weblog


上の写真はNASAが公開した地球各地の夜の写真。
わたしたちから見れば日常見慣れた日本列島形状だけれど、
それがライトアップされて「右を向いた龍」「アジアに背を向けた龍」というように
WEB上で世界の人たちから人気になっているとされていた。
先日、レバノン杉を使った古代エジプトの外洋交易船製造の話を書いたとき、
中東地域に広大に広がっていたレバノン杉の大森林が、
古代文明発達の資源基盤になった事実と、一方でその絶滅的伐採と環境破壊を
知ることができたのですが、翻って日本列島は多雨の湿潤気候であり
日本全土が生態学的に森林が発達する事実に今更ながら、強い思いを抱いた。
ようするに「生物多様性」ということでは、環境大国ともいえるのではないか。
たしかに戦国期など、国土森林の荒廃が見られたとされるけれど、
現状までの復元力をみれば、この多雨の湿潤気候はすごい資産だろう。

〜北は宗谷岬の北緯46度から南は北緯20度の沖ノ鳥島、
西は東経123度の与那国島から東は東経158度の南鳥島まで
広大な海域を囲み経済水域の総面積は陸地面積の10倍以上の
約450万平方キロで、世界6位にランクされる。
北海道および本州の高山は亜寒帯に、南西諸島と小笠原諸島は亜熱帯に属し、
それが本邦の自然環境をきわめて多様にしている。列島の平均雨量は
1600ミリあって湿潤気候で日本全土が生態学的に森林発達条件を備えている。
そのため国土の3分の2が森林で覆われている。
CIコンサベーション・インターナショナル(地球自然遺産である生物多様性を保全し
自然と調和して生きることをミッションとする国際NGO)は、
世界の「地球上で生物多様性の特に豊かな地域」として日本列島を追加した。
ホットスポットには、東アジア地域ではわが国のほかフィリピン、中国西南部、
インド-ビルマ、ヒマラヤが含まれている。すなわち、日本の豊かな生物多様性を
世界が認めたのであり、わが国土が如何に恵まれているかを証明するものといえる。
戦後教育で自虐的に「日本は無資源国」と定義したことがそのまま修正されずに
今日に至っていて、「自虐的史観」戦後歴史教育がやり玉に挙げられるが、
むしろ「日本の自然の過小評価」の方がそれ以上であろう。〜
以上、豊かな日本の生物多様性より要旨抜粋。

わたしたちの国土では世界的に稀有な「縄文」という定住社会が実現していた。
農耕以前の社会段階であるのに、定住していたというのは、
豊かな生物多様性資産「海の幸・山の幸」が人口を養っていた事実を証明している。
文明は資源としての石油を基盤とした現代世界を作り上げてきたけれど、
こういった気候「資産」や、海洋資源「資産」が生み出しうる資源的可能性は、
非常に大きいのではないかと考えられる。
現代が開発したバイオ技術やIT技術を活用すれば、可能性は広がる。
この気候資産は住宅というテーマにとっても、プラスメリットと考えられる。
普遍的な人間居住環境を可能にする北方的断熱技術を基礎にしながら、
多様な気候に対応した住宅建築技術、文化を創造し世界に発信することができる。
国の持つ資源を最大限に活用し、平和的な社会と産業を創造する、
われわれが面白い地球的な位置にいることを気付く必要があると思わされる。
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【多忙年末進行 カラダから情けない悲鳴(泣)】

2017年11月28日 06時54分26秒 | Weblog
いきなりお見苦しい写真でたいへん恐縮です(笑)。
ここのところ、要件が重なって団子状態が継続中。
出版の進行も、通常号のほかに増刊版企画が集中してきています。
年末に向けてさまざまな仕事進行は山盛り状態が続いていきそう。

ということなのですが、いろいろストレスも積層してきて
カラダ各所からも悲鳴が団子状態で沸き上がってきている(泣)。
2週間まえの東京出張時に口中がやけどか切れたかで傷ついた。
歯医者さんに行って傷口に薬剤を噴射させるヤツを処方していただき、
1週間でなんとか良くなってきたと思ったら、今度は指先が痛くなってきた。
数日前、いや1週間前くらいから気にはなっていたのですが、
土曜日に東京出張から帰ってきてから痛みが増してきて
日曜には写真のように患部が膨満してきた。
ということで、休日明けのきのう午前中に皮膚科に行って治療してもらった。
どうやら深爪かなにかで指先の表面奥で化膿してしまっていた。
やや黒変しているのは皮膚科医さんに針状のものでつついて診断された部分。
左手中指なのですが、お医者さんの見立てでは化膿部は固化しているので、
ヘタにオペしたら大事になるそうで、抗生物質投与で時間を掛けて治すしかない。
しかし、この膨満した患部、どうしてもいろいろなことでつい使ってしまう。
クルマのハンドルを握ったら、ついつい各所に「突き当たる」。
指先のこの程度の患部ですが、酷使する部位なのでどうしても「ぶつかる」。
これが激痛になって返ってくるのであります。うずくまりたくなるほど。
いまのところ、経口服薬は昨日の昼・夜の食事後の2回服用。
今朝目覚めてどうかなと思っていたら、やや痛みは和らいでいたのでひと安心。
幸いパソコン作業の場合には使わなくてもいいので、よかった。

そんなことできのうは、まず皮膚科に行き、ついでにいつもの
内科病院での定期検診、さらに午後4時過ぎには歯科医と、病院のはしごで
集中的カラダケアの特異日でありました。
外科的なものはまだいいけれど、内科的なものには長期的戦いもあります。
われながらなんとも情けない健康状況ではありますが、
年末進行と対話しながら頑張っていくためにも、体力の維持管理は不可欠。
カラダに気をつけるのにポイントが明確なのは、いいこととも考えられる。
山積する難題に立ち向かって行きたいと思います。
本日はごく私的健康情報で申し訳ありません。
明日以降、また住宅ネタをお届けします。みなさん健康にくれぐれもご注意を。
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【デザインリノベーション宮城 2018 先行WEB予約!】

2017年11月27日 06時43分05秒 | Weblog
本日は当社新刊のご案内です。
ただいま、当社は「年末進行」まっ盛りであります。
通常の定期発行Replan北海道、東北の他に、数種類の「別冊」企画進行中。
そのなかから2017年12月8日発売が決定した企画。
先般の「青森版」に続いて「デザインリノベーション宮城 2018」。
東北での地域密着型限定・オリジナル企画であります。

ライフスタイルの希望を叶える
デザインリノベーション宮城 2018

住み慣れた街で自分たちらしい暮らしを手に入れたい。
今、そんな理想を実現する選択肢のひとつとして
「リノベーションする」人が増えています。
リノベーションとひとくちに言っても、その形態はさまざま。
断熱性能や耐震性能、減築・増築、キッチン・洗面などの水まわりといった、
性能・構造・部位・デザインによる優先順位のつけ方でもプランは大きく変わり、
マンションや戸建て、古民家などの建物種別によってもまったく違うカタチに。
選択肢が多い分、リノベーションには暮らしの理想を叶える自由度があります。
そんなリノベーションの好例が豊富な宮城から、地元の住宅実例を厳選。

◆巻頭特集
宮城の建築家リノベーション
01 築60年の古民家をリノベーション
02 匠の技が生きる古民家移築再生
03 好立地な実感のマンションリノベ
◆巻頭特集連動企画/リノベーションを巡る 宮城の街と人 
◆宮城のリノベーション住宅・実例集 <マンション・戸建て・古民家>
◆リノベーションの基礎知識
◆リノベーション お金の基礎知識
◆リノベの間取り集

ニッポンの住宅を変えていく可能性が高まっている「リノベ」ブームですが、
東北では仙台がもっとも都市化が進んでいて、そのニーズが高まっている。
今回の特集では、いま胎動を見せているこのリノベマーケットに注目。
先端的な事例を発掘し、「感性」志向の強いこのマーケットを深掘りしてみました。
いま、ユーザーや作り手はどんな志向をもっているのか、
多くの地域のみなさんにも注目できる内容だと思います。

■webにて先行予約受付中!!11月24日(金)~11月30日(木)※期間中にお申し込みいただいた方へは、一部地域の方を除いて、発売日までにお届けします。
宮城県の書店にて販売!
2017年12月8日発売・A4版
本体価格722円(税込:780円)
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【ある幼女との一期一会 in 東京・二子玉川】

2017年11月26日 06時39分36秒 | Weblog
きのうは土曜日と言うことで、札幌帰還をやや遅らせて、
二子玉川にある「静嘉堂文庫美術館」にて中国絵画展を鑑賞。
どうも中国絵画については、ほとんどまとめてみる機会がなかった。
江戸期まで日本人にとって対外的な影響力がもっともあったのは、
中国からの文化であるに間違いないのに、たぶん明治以降は
脱亜入欧的精神から、ひたすら西洋絵画・文化に傾倒していって、
墨絵的表現の中国絵画は、日本人から忘却されていったに違いない。
そういう自分自身、東京国立博物館・東洋館で中国絵画はみた経験はあるが、
巻物に「文人」の至った「境地」を映像化するその制作目的に辟易していた。
しかしそればかりではないだろう、という興味から見学して来た次第。
だんだんと日本画に惹かれるようになって、中国画を知りたくなってきたのです。
この静嘉堂文庫美術館は、三菱財閥を創始した岩崎家の美術コレクション。
前にも1度訪問していますが、久しぶりの訪問。
世田谷区の多摩川沿いということで、ふだんのビジネスゾーンとは空気も違う。
いつもせわしない地域ばかり歩いていると、やや郊外の住宅街を歩きたくなる。
二子玉川は、そんな気分の休日にいい空気感。

きのうは、東急大井町線を利用して行きました。
ふだん京浜東北線や山手線、地下鉄を利用しているのとは雰囲気が違う。
いわゆる「私鉄沿線」の住宅街の香りが漂ってきて好きなのです。
そんな沿線風景を楽しみながら、二子玉川駅で降りた。
で、ここからも2kmくらいの距離があるのでバスを利用する。
タクシー利用しても美術館では200円のキャッシュバックがあるけれど、
前にもバスに乗って、都心地域では味わえないある豊穣さを感じていた。
まぁ要するに、静嘉堂文庫美術館探訪は、
こういった東京の住宅地の雰囲気総体も味わえるのですね。
ただ久しぶりに行ったので、駅のバスターミナルの位置がわからない。
で、なにげに高齢女性と、2−3才の女の子二人連れに道を尋ねた。
そうしたところ、親切に教えていただけた。
事前にバスの運行情報はスマホで電車車中で確認し時間が迫っていたので
その時間に間に合うように、お礼を言って急ぎ足で向かった。
数分後、背後でなにやら「バス停」がどうのこうのという声が聞こえた。
わたしは急いでいたので気に留めずにバス停に急いだ。
車掌さんのような案内の方がいたので、系統番号を確認して列に加わった。
で、ひと安心していたら、ふとまっすぐにわたしをみつめるカワイイ視線を感じた。
「ほらね、おじさん、ちゃんとバス停がわかっていたでしょ」
と、おばあさんがお孫さんに話して聞かせている。
おお、であります。
この2−3才の女の子は、道を尋ねて去って行った登場人物のことが気になって、
「あの変なおじさんは大丈夫だったの?」と気に掛けてくれていたのです。
それでわたしの去って行った方に祖母を向かわせて、
自分の目で変なおじさんが道に迷っていないか、確認した。
わたしはすっかり目が点になってしまった。
「いやぁ、お嬢ちゃん、いいお嫁さんになれるね(笑)」と声を掛けた。
そのまっすぐな瞳にさざ波が立つことまではなかったけれど、
やや安心したという体動作は見て取れた。
会釈を交わし、わたしは重ねてお礼を申し上げたらふたりは去って行かれた。
そのカワイイ後ろ姿を見送りながら、幸せな気分に包まれていた。

その後の絵画鑑賞から武蔵野の自然との出会い、古民家見学、街歩きが、
とても印象深くこころに染みわたっていくかのように感じた。
どんなに幼いとしても、人間には人間を動かすすごい力がある。
突然訪れた一期一会に、深く感謝しています。

<絵は当社創業初期働いてくれていた画家・たかたのりこ氏作品>
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【日本建築学会・地球の声「環境住宅」シンポ】

2017年11月25日 07時55分32秒 | Weblog


昨日夕、表題のようなシンポジウムが開催されました。
主催者側の川嶋範久・東京工業大学助教からは、以下のような趣旨説明。
〜テーマは、『環境住宅』を「地域性」と「倫理」から再考する。
ゲストスピーカーとして、堀部安嗣氏(堀部安嗣建築設計事務所)、
竹内昌義氏(みかんぐみ)、藤野高志氏(生物建築舎)、末光弘和氏(SUEP.)。
様々な地域(気候風土・文化歴史)において、様々な考え(倫理観)のもと、
「環境」に対する具体的な「実践」をご紹介いただき、それらをベースに
議論する中で、これからの『環境』住宅の多様な可能性を改めて認識し、
これからの建築が向かうべき方向性を炙り出せればと思っております。〜
さらに経緯としては、昨年6月の「新建築住宅特集」で「環境住宅特集」が
特集として組まれたのですが、それに対してわたしも違和感があって、
拙ブログでそれを書いたところ、多くの「反響」があって、
それらをも踏まえて、昨年もシンポジウムが開かれたということだった。
その後、中心メンバーである川島さんは北海道に来られた。
わたしどもが呼びかけて北海道の住宅研究者・設計者などが参集されて
「討論会」を行ったりした。それの「続篇」的なシンポが公開で開かれたのです。
そういった流れもあって、取材としてわたしも参加してみた次第。
本日は速報的概観、感想篇であります。

川島さんからの最初の趣旨説明から昨年のわたしの提起が取り上げられて
一取材者、参加者としては、なかなかアゲンストな状況(笑)。
堀部さんや竹内さんは、いわば断熱原則派的な立ち位置で、
「環境住宅」というコトバについての認識には近縁性が感じられた。
現代が獲得した「断熱技術」を前提にしてそこから目指せる住宅の姿が
その発表を通じて明瞭なイメージとして感覚させられた次第。
北海道的な立場としては、こういった発言者がいるのであれば違和感もないし、
自ら進んで会場内で異を唱える必要性も感じなかった。
ただ、ほかの発表では「環境」というコトバの曖昧さからの
概念の拡散を感じさせられた。どうも概念認識的違いがある。
「自然と繋がる」という「新建築住宅特集・環境住宅特集」の主テーマが
持っている問題点が浮き上がってくるように思われた。
自然と繋がるということは、現代の断熱技術をしっかり使って
そのうえで自然な「理念」として追究されるべきだと思うけれど、
コトバのイメージそのまま、肉体がナマに「自然と繋がる」という志向を感じる。
発表された主張として認識出来た部分には、
夏の暑さ、冬の寒さと「応答する」人間営為を鍛える、
その感覚を研ぎ澄まし感受する無断熱「環境住宅」論すらも語られた。
暑いと感じたら窓を開けるとか、寒い時期には日射を待つ(!)とかの
人間の「環境対応力」を鍛える機縁になるという発言もあった。
印象としては安藤忠雄さんが、冬の寒さは厳しい、生きることは戦いだ、
というように施主さんに言って建てる住宅もまた「環境住宅」になるのか。
言うまでもなく零下20度30度の日本寒冷地の極寒期、いや断熱意識の乏しい
全国の冬期に対して、技術の進化した現代ではあり得ない論議。
シンポジウム終了前にあえて発言させてもらったけれど、
「自然と繋がる」というコトバについて突っ込んだ論議が必要ではないかと。
国の基準として省エネ基準が「義務化」される3年前という直前期。
全国の建築関係者は、この制度条件の中でどのように建築を作っていくか、
方向性を日々必死に模索されていると思うのだけれど、
その今日において、この前提とは違う方向も「環境住宅」論なのだろうか。
「多様性」というコトバにどうも不明なスジを感じた。

という概観でしたが、今後収録した音声データから、
各発表者のコメント内容、進行役の川島氏、全体のコーディネーター的な
塚本由晴氏の発言など、内容をまとめていきたいと思っています。
適時、このブログで情報発信していきたいのですが、
内容的には多岐にわたるので、別に企画する可能性もあります。
さらに来年1月には、北海道の住宅視察と討論会開催などの希望も
企画サイドとしては持たれているようです。
受け入れ側の北海道地域側でも対応を予定しております。
さらにより良い論議が深まっていって欲しいと思います。
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【古代エジプトの富を支えた木造船製造・航海技術】

2017年11月24日 05時28分23秒 | Weblog


たまにテレビをゆっくりと見る「勤労感謝の日」であります(笑)。
とはいっても、本日出張の準備で書類作成をなんとか片付けながら。
一段落して夕方5時過ぎくらいから、なにげにつけたNHK-BS放送。
わが家は大体、103チャンネルを視聴することが多い。
高齢化してきて、このチャンネルの番組作りがいちばんハダに合う。
チャリンコで全国各県を回る火野正平の「こころ旅」など、
「人生下り坂がサイコー」みたいな番組作りに共感を覚える次第(笑)。
で、きのうのこの時間には歴史研究的なテーマで海外歴史・古代エジプト篇。
貿易立国を志向したはじめての女性ファラオのストーリーだった。
女王ハトシェプスト(在位:正妃~女王:前1490頃~前1457頃)。
ということなので、今から3,500年前くらいの歴史探検ストーリーです。
彼女の夫は早世したので、まだ4才の遺児を即位させながらも、
実質は彼女が執政し、やがて女性としてはじめてファラオになったという。
それまでのファラオたちが、海外利権を確保するために戦争政策をとったのに対して
彼女は貿易による富の交換・交易を思い立った。
まずはこの「価値転換」の発想が感動的。
エジプトの南側の現在のスーダンとの交易を望むが、
その時代、外洋船を作り、安定的な航海をするということのためには
さまざまな技術開発が必要であり、一国を傾けるような大冒険だった。
いまでいえば、宇宙開発を行うように困難があったのでしょう。
本当に戦後のアメリカNASAの宇宙開発との相似性を感じる。
この女王の発意に基づく「交易・海洋貿易」事始めを現代の人類史研究者たちが
その「交易船」を再現し、実際に航海しようという企画を番組が追った。

ということで、途中からは「船大工」による古代船復元という側面に、
まったく予想外の方向に展開したので、わたしにも強い興味がわき起こった次第。
木を使って技術開発するという、建築に類縁する人類記憶的興味。
残されていた古代遺跡のレリーフを徹底検証して古代海洋船の
設計情報を丹念に探り、全長20m、船幅5mという大きさも割り出す。
それを現代のCAD情報として合理的にまとめあげて、
さらに現代にまで伝統技術を伝えている「船大工」を探し出し施工を依頼する。
古代においてはレバノン杉が素材とされたが、組成材質が近似する
米松が選定された。それに対して古代遺跡から発掘された船の断片板から、
数十枚の木片ピースで構成された事実を発見し、そのままに設計し施工した。
現代の木造船製造技術とはまったく違って「竜骨」といわれる
骨組みに対して、木片ピースで組み上げていくのだという。
当然、緊結させるのには「かすがい」のような部材が工夫された。
最大の問題である「防水性」については、水に浮かべると木材が膨張して
水の浸入が防げるはずだと当初推定していたが、実際にはそうはならず、
繊維質素材を封入した上から、蜜蝋で塗装仕上げして防水仕様とした。
それでめでたく水に浮かべることはできたけれど、
帆船の操縦については、いろいろな経験知の取得が必要で、失敗を重ねた。
風を受けすぎればマストが折れたりするので、帆を大小で使い分けるなどの
操縦技術「再発見・開発」も必要だったとされていた。
そんな経緯が丹念に番組として紹介された。
無事にこの女王発意の「海洋貿易」活動は成功を収め、その後の
エジプト王朝の繁栄の基盤になったのだとされていた。
それまで富の獲得が、対外戦争での略奪しかないと固定概念となっていたのが
ここから人類的な価値転換がなされたのだと。

人類史という視点が世界的に大きく着目されるようになって来ている。
いまに至る人類の「常識」がどのように獲得されてきたのか、
家族がどうして生まれたか、住居がどうして出現したのか、
そういった根源的な営為の初源への知的探究は、
さまざまな知的感動を呼ぶものだと、深く興味を抱いた次第です。
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【江戸明治の北前船蝦夷地交易の空間記憶】

2017年11月23日 08時31分27秒 | Weblog


写真は北海道の日本海側北部、小平町の「花田家番屋」。
北海道ではいわゆる「歴史的建造物」という建築の数が少ないけれど、
そのなかでは比較的に保存が進んでいる江戸末期ー明治期の
大型漁業施設建築遺構です。
わたしはけっこう大好きで、ときどき訪問することがある建物。
以前は、この大型建築だけが海岸に対峙するように建っていたのですが、
最近は「道の駅」的な観光客収容施設も併設されています。
なんどか、このブログでも紹介してきました。

こういう建物に遭遇すると、わたしなどは、下の写真のような大空間架構に
強く惹かれる自分がいます。
たぶん、歴史的な歳月を力強く支えてきた構造の力強さに、
圧倒的な迫力を感じるのだろうと思いますね。
日本の歴史的木造建築といえば多くは宗教的建築が多いでしょう。
それは無条件で多数の人間が集う場であり、その空間を「良く」作ることこそが
基本的な建築の任務だということを教えてくれる。
そして長い年月を経てきたそういった建築には、そのこと自体で
ひとびとのリスペクトの意識が高まっていくのでしょう。
そういった本州地域で一般的な大型木造建築のありようとは違って、
北海道地域では、この建物のような「産業施設建築」が遺った。
宗教空間とは違って、なにやら物欲的な建築意図、精神。
他の地域では商家とかが相当するのかもしれませんが、
それらとも大きく違いがある。京都商家などが文化的洗練に走るのとは
どうも相当の精神性の違いがあると思わされます。
しかしもちろん、武家の大型木造城郭建築のように権力志向ではない。
どこか、独特な雰囲気が支配しているように思います。
そういった建築の意図を持っていただろう、「親方の空間」の方の
生活感というか、信条のようなものが垣間見えるのが、上のような
座敷を持った親方の私的空間の方であります。
現代の建築で言えば、工場・職住一体型の大型建築というようなことでしょう。
そういったオーナーの意識が、こういう床の間などに表現される。
江戸から明治にかけての「北前船交易」の経済主体というのが、
かれらの本性になるのでしょうが、高田屋嘉兵衛的な時代精神が
類推されるような空間性であります。
その北前船交易は、一攫千金的な大型漁業が基盤になっている。
たぶん、蝦夷地での漁業というやや投機的な気分、
それを「上方」に運んで巨利を得ていたかれらの精神が想像される。
床柱には、見たこともないような奇怪な姿形の銘木が使われていた。
北前船に乗ってビジネス旅行にやってきただろう上方商売人に対して
このような空間性で「もてなして」いたことになる。
少し驚かしてやれ、というような設計意図も感じる。
そうでなくても、大型架構の空間には度肝を抜かれる部分があっただろう。

はるかな後世にあたるわれわれ現代人も、
このような空間には、見たこともない豪放磊落な世界観をみて、
ふーむと、しばし思いを致すところがあります。
こういった世界観というか、生き方が一時期のニッポンには存在していた。
そういう面白みに、強く惹き付けられますね。
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【前真之氏講演より 住宅問題認識の日独比較】

2017年11月22日 06時58分18秒 | Weblog


きのうは東京から前真之東大准教授が来札され、
夕方からTDKショールームで増改築産業の団体であるJERCO主催の講演会。
ちょうど、Replan本誌での連載記事の進行校正もあって、
事前には当社事務所に来ていただいて情報交換もさせていただけました。
前回の記事から、インターネット上での拡散も始めていますが、
今後とも全国的な発信も心がけて行きたいと考えています。
講演の内容は骨格的には断熱改修のススメというものでしたが、
いつものようにさまざまなデータを活用して気付きを与えていただきました。

わたし的には最近、世界のパッシブハウスの状況について
さまざまな動向や変化が見られるようになっているので、
とくに先生が開示された日独の住宅マーケット比較に強い興味を持ちました。
その開示された情報が上の2点の画像。
人口規模は日本が約1.2億人に対しドイツは8267万人。
おおまかに3:2というくらいの経済規模といえるでしょう。
日本の住宅マーケットは総額で52.3兆円の経済規模。
新築37.4兆円・改修14.9兆円。71%:29%という割合。
一方ドイツでは総額で35.2兆円の経済規模。
そのうち新築は10.7兆円。30%。
改修の方は2つのカテゴリーに分けられ、
・省エネ7.4兆円21%。・改修17.2兆円49%とされていた。
住宅建築総体の経済サイズは52:35と、おおむね人口比に比例する。
日本は、新築偏重の住宅政策であると長年指摘されてきましたが、
ドイツでは政策的誘導処置で、既存住宅改修へのシフトが
強力に働きかけられているということだそうです。
そのプロセスでは新築事業者の倒産といった事態すら進行したとされた。
そういった状況がグラフとしても巨視的に把握できた次第。
このような政策誘導は、住宅への社会的認識の差であるのかも知れません。
日本では「景気対策」として住宅投資が繰り返し活用された結果、
既存住宅の「空き家」が急増を招いている。
空き家率比較では、ドイツは4.5%なのに対して日本は13.5%にも上る。
ドイツでは住宅は社会資産という価値感が強く存在しているので、
「空き家」というものに対する危機意識が非常に強いのだという。
こうした「資産意識」は、「賃貸住宅比率」の差となっても見て取れる。
ドイツが5割を超える率なのに、日本は35%にしかすぎない。
空き家を社会的なムダと強く認識する社会であるということですね。
たしかに賃貸住宅が「空き家」になっていれば、社会としても効率はよくない。
一方で日本は基本的に「使い捨て」文化を許容する社会であるかのよう。
また、とくに「省エネ改修」が一般的改修と区分けして統計されていることも
ドイツの住宅政策のありようを明瞭に伝えてくれる。

こういった流れを踏まえて、集合住宅の省エネ化が
大きなテーマとして浮かび上がってきている状況が見えてきますね。
先生の講演でも、北海道でのマンション断熱改修が取り上げられていました。
いろいろと気付かされる点の大きな講演だったと思います。
あ、いつものようにわたしの画像が「悪の象徴」として紹介されてもおりました(泣)。
先生の例の「電気蓄熱暖房器」撲滅キャンペーン。近々対応予定なんですが、
う〜む、であります(笑)。ま、事実だし、しょがないなぁ・・・。
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【建築家の社会的需要 「国立新美術館」by黒川紀章】

2017年11月21日 07時04分11秒 | Weblog


地方にいて、しかも住宅に特化した仕事をしていると、忙しさにかまけて
公共的建築への強い興味を持つことはつい少なくなる。
っていうか、興味はあるし関心もあるけれど、
もうちょっと手ざわりや、それこそ空気の質感といったレベルに興味が向かい、
その余白でしか、公共的建築を認識していない。
そんななかでことし、6月の「日本学術会議」や今月の「安藤忠雄展」で
この「国立新美術館」をはじめは外観だけ、2度目は内観から、
半年ほどの時間スパンの間に体感することができた。
学術会議の時は、それこそ六本木の地下鉄駅から偶然、学術会館までの
通りすがりに「こんなのあったんだ」レベルで見ていた。

しかしこの特徴的な外観はやはり強く印象づけられた。
当然のように「誰が設計したんだろう」という興味は持たされた建築だった。
こういったナショナルな投資が首都にはどうしても集中する。
面白い建築計画は首都になるのはやむを得ない。
で、そしてこうした施設の建設に当たって、才気に満ちた設計者はどうしても必要。
その国に「ふさわしい」建築が求められるのは必然。
建築的な側面から、また文化的歴史的側面から、総体としての
「社会的」判断がそこに加わって、建築計画が固まっていく。
この「新美術館」とは、その最初の遭遇からほぼ半年の経過があって、
ちょうど「安藤忠雄展」が開かれ、その会場ということで、
ちょうどいいなぁと楽しみにしていた再会。
そもそも、この「新美術館」というのはどういった性格の建築なのか?
Wikipediaには以下の記述。
〜国立新美術館(The National Art Center, Tokyo)は、東京・六本木にある
美術館。日本で5館目の国立美術館として2007年(平成19年)1月に開館。
文化庁国立新美術館設立準備室と独立行政法人国立美術館が主体となって
東京大学生産技術研究所跡地(さらに元は旧日本陸軍歩兵第3連隊駐屯地跡地)
に建設された美術館。歴代の館長はすべて文部官僚からの天下り。
国立美術館としては1977年開館した国立国際美術館以来、30年ぶり新設。
延床面積は日本最大で、それまで最大の大塚国際美術館の約1.5倍に及ぶ。
独立行政法人国立美術館に所属している中で唯一コレクションを持たない為、
英語名は収蔵品を持つのが通常のミュージアムではなくアートセンターを用い、
THE NATIONAL ART CENTER-TOKYO」を名乗る。
設立目的を展覧会の開催・情報収集およびその公開・教育普及としている。
日本の芸術文化の育成・国際的な芸術情報発信拠点としての役割が期待された。
黒川紀章設計の美術館としては最後のものとなった。〜

比較的に分野を限定しない幅広い「文化発信」機能を持つようで
今回の「安藤忠雄展」のような催事は、こうした狙いが現実化したもののようです。
そういえば、今回展示は「開館10周年」の周年イベントでもあるとされた。
建築家というひとたちは、「美術館」で展示されることを希求するタイプが多い。
絵画や彫刻とはスケールが違ってプロジェクトが直接社会を巻き込むので、
いわゆる「作家性」は公共性の枠内に閉じ込められざるを得ない。
そのことにある種のコンプレックスに似た心情を持つようなのだ。
またこうした国家プロジェクトをデザイン担当する「納得感」を担保するために
「高名である」ことがどうしても不可欠になることは十分に了解できる。
公共建築が社会的存在である以上、これは無限に続くテーマでしょうね。
日本の場合、こうした建築家としての「社会性認知獲得」のために
住宅もそのひとつの「成り上がり動線」にもなっていることが特徴的であるのかも。
まぁそういったあたりから、住宅のシーンと繋がる興味が存在するのですね。
住宅作家といわれた人が、あるとき巨大プロジェクトを率いたりする。
本日はこういった「公共建築への素描」テーマということで。
少なくともこの新美術館、わたし的には印象的な建物だと思わされました。
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