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映画「雲ながるる果てに」戦没海軍飛行予備学生の手記 前編

2025-04-10 | 映画

本作品は、大学・高専を卒業もしくは在学中の1943年(昭和18年)9月に
第13期海軍飛行専修予備学生として三重または土浦の両海軍航空隊に入隊、
特攻散華した神風特別攻撃隊の青年たちを中心とする遺稿集、

「雲ながるる果てに 戦没飛行予備学生の手記」

を元にして制作された映画です。

主人公の学徒士官に、鶴田浩二(当時29歳)木村功(30歳)
沼田洋一(29歳)金子信雄(30歳)西村晃(30歳)というオールアラサー、
彼らの兵学校卒隊長を原保美(38歳)が演じるという、
全体的に実際より少し上の世代によるキャスティングとなっています。


昭和20年4月、九州南端の特攻基地から故郷の両親に宛てて書いた、
主人公大瀧中尉(鶴田浩二)の手紙の朗読から映画は始まります。

九州南端の特攻基地とは、鹿屋航空基地のことでしょう。
戦争中、特に末期の沖縄戦の頃には第5航空艦隊司令部が置かれ、
数多くの神風特別攻撃隊の出撃基地となりました。

ここから出撃した特攻隊員は828名に上ります。



隊員たちが木陰で眠りを貪っているところに空襲警報の幟が立ちます。
たちまち「回せ〜!」と手を回しながら邀撃班は走り出し、



あっという間に機に飛び乗って出撃していきます。
この秋田中尉は、この後戦死してしまうことになります。



地面に掘られた掩体壕に駆け込む途中で、
深見中尉(木村功)が腕に被弾し負傷しました。


「くそお!」と叫ぶと銃を敵機に向けて撃つ大瀧中尉。



地元の国民学校の校舎が彼ら搭乗員の宿舎です。



校庭では生徒たちが食料を植えるために土を耕しています。
一人が「兵隊さんが帰ってきた」と叫ぶと、皆が
「兵隊さん、おかえりなさい」と合唱するのですが、



教諭の瀬川道子は、はっとして動きを止めます。



深見中尉が腕を負傷していたからでした。
(このシーンの木村功とんでもなくイケメン)



予備士官たちの宿舎の部屋には、同室から戦死した仲間の祭壇がありました。
今日そこにまたひとつ「秋田中尉」と記した位牌が加えられます。


皆が秋田の遺品を整理していると、飛行隊長である村山大尉
(原保美)が明日の出撃搭乗員名簿を持ってやってきました。

村山大尉は予備士官からなるこの第一飛行隊の隊長であり兵学校卒士官です。
かれもまた、いつかは特攻で出撃する運命にありますが、
それまでは航空隊の出撃「宣告」を行う立場です。

この立場だった兵学校卒元士官の方が戦後に書いた手記を読みましたが、
特攻を部下に命じる立場に苦悩していたことが書かれていました。



予備士官は10名のうち4名。
この松井中尉(高原駿雄)と、



北中尉。



そして主人公の大瀧中尉。



沼田曜一演じる笠原中尉の4名で、あと6名は下士官です。
名前を呼ばれた者は、はい、と返事し、身を強張らせます。



その夜は、司令から届けられた酒で宴会が行われました。

「おい、明日の今頃、俺は化けて出るぞ!」



「お前ら予備士官に我々帝国海軍の伝統は汚された!
歯を食いしばれ!」

自分たちが任官後兵学校士官に言われた言葉、
殴られた嫌な思い出を今更のように再現する悪趣味な人。




学徒士官たちは皆そのことに今もトラウマを持っています。
そしてなぜ俺たちばかりが死に追いやられるのか、というやるせない怒り。


酒の席では当然「女」が話題になります。

ここでも芸者の一人と馴染みになり、
「最後まで娑婆気の抜けぬ予備士官」を地でいく松井中尉に、
女というものは美しくて可憐なものだ!と説教するのは大瀧中尉。


しかし、誰いうともなく、思い出したように本日の戦死者、
秋田中尉にお酒を捧げ「同期の桜」を歌うのでした。



宴会に下士官たちが加わった頃、明日出撃の「ダラ松」こと松井中尉は、
馴染みのエス(芸者)富代と今生最後となる逢引きを決行しました。



料亭の一室では、特攻隊の飛行長片田大佐と女将が何やら密談しています。

「飛行長さんの顔で回してくださいよ」
「飛行長さんの命令なら右から左ですよ」
「いっぺん宴会やったことにすればよかでしょう」


などと、盛んに何かを持ちかけています。
「ねえ、飛行長さん、その代わり」
と耳元で何かをヒソヒソ。

「女将も特攻隊に感謝するんだな」

よくわからないけど、飛行長に賄賂?を渡して、
何かずるいことをしようとしていることはわかった。
こいつら結構とんでもないな。



朝方まで一緒に過ごした松井と富代は、ふざけながら航空隊の門まで来ると、
握手をしてパッと反対方向に駆け出し、別れることにしました。



すぐに振り返って男の背中を凝視する富代でした。



ところが、その日雨が降り出し、出撃は中止となってしまいます。



というわけで、飛行隊長による座学が行われることになります。

今更アメリカの機動部隊のフォーメーションを示し、
狙うのは空母だとか、被弾したら躊躇なく目前の艦に突っ込めとか、
今更なことをもっともらしくレクチャーしています。

これ、今朝出撃予定だった搭乗員が初めて聞くとかじゃないよね?



今日一日を命拾いした大瀧中尉は、風呂に入って文字通り命の洗濯中。


彼がまぶたに浮かべるのは、故郷の父母の元にいる自分の姿でした。


同じような句を黒板に書く二人。
まあ、こうとしか感想はないかもしれません。


暇を持て余した彼らは、小学校の教室で、オルガンの発表会。
腕に自慢のある北中尉が「箱根八里」の完奏に挑戦です。


その時教室の後ろから深見中尉が入ってきました。
瀬川道子は、お互いにしかわからない好意を込めて目で挨拶します。

山岡比佐乃という女優について年配の役のイメージしかありませんでしたが、
この映画で当時27歳のキリッとして清楚な彼女を見ることができます。
チートなし加工なしのまぎれもない天然美人です。



ダラ松こと松井中尉が昨夜の寝不足を補っていると、
上島上飛曹(西村晃)が伝達を持ってきました。

起こそうとするとむにゃむにゃと抱きついてくる松井に、

「昨日の続きのつもりでいやがる。これが生き神様の顔かねえ・・」

呆れた上島は偽の空襲警報で叩き起こし、松井に要件を告げます。

「秋田中尉の奥さんが面会に来たんです」



秋田中尉・・・昨日邀撃に出て戦死したばかりです。
上島上飛曹は分隊士である松井に対応をさせようとしてきたのでした。



秋田の妻(町子)役は朝霧鏡子という女優さん。
この映画のすぐ後引退して家庭に入ったため、芸歴は長くありません。

背中に赤子をおぶった可憐な若妻を前に本当のことが言い出せず、

「秋田中尉は一昨日前線に移動しました」

と咄嗟に嘘をついてしまう松井中尉。
しかも、秋田中尉の位牌や遺品を隠す姑息な細工まで・・。



困った松井中尉はみんなを呼び入れますが、彼らもまた本当のことが言えず、
松井のついた嘘に調子を合わせ始めてしまいます。

「あのう、秋田は・・・」

「ああ、秋田は前線で今頃やす子ちゃんの自慢話ですよ!」

「やす子ちゃん、皆で写真撮ってお父ちゃんのところに送りましょうね〜」



「やめてくれ!」


その空気に耐えられなくなったのは、今朝出撃を逃れた笠原中尉でした。

「嘘はやめろ!奥さん、秋田は・・!」



「・・・秋田は死んだんでしょうか?」




誰もそれに答えないことが真実を物語っていました。
わっと泣き伏す町子。

秋田中尉は娘の顔も見ないまま逝ってしまったのでした。


雨の中、娘を背負い、秋田の遺品を持って帰っていく秋田の妻。


その後ろ姿を沈黙して見送る隊員たちでした。


翌日も雨で、またもや出撃は中止となります。


読書、腹筋、工芸品作り、一人トランプ、お酒を飲む・・・と、
隊員たちの過ごし方は様々です。



「明日は雨と出ている」

トランプ占いするのは野口中尉(西田昭市)。

西田昭市は、俳優というより声優として「刑事コロンボ」「サンダーバード」
「キャプテンスカーレット」など、海外作品の吹き替えで活躍しました。


ところが、松井中尉がだらだらと喋るうち、深見中尉の怪我について、

「うまくやったな、怪我が治るまで女と楽しめる」

などと要らんことを口走ってしまいます。



「何っ?・・・もう一度言ってみろ」

構わずヘラヘラと松井が差し出した盃を叩き落とし出ていきます。

「あいつ、内心ほっとしてるんじゃないか」

尻馬に乗る北と松井を嗜める大瀧中尉に、


「散る桜 残る桜も 散る桜」

したり顔の山本中尉(沼崎勲)。
沼崎勲は本作公開の年、過労による心臓麻痺で早逝(37歳)しています。


「死ぬ方が楽なこともあるさ」

そこに笠原中尉が、戦艦大和が撃沈されたニュースをもたらします。


「まさか、あの不沈戦艦が」

「間違いない、今通信室で聞いてきたんだ」


「聯合艦隊全滅じゃねえか」

「俺たちもここらが死に時やな」


降り続く雨。
何をすることもなく沈んだ気分で皆が酒を飲んで過ごしていると、
下士官たちの部屋で騒ぎが起こりました。



彼らの乱闘の原因は実にやるせないものでした。
一人が「明日は雨だ」と言い、もう一人が「明日は晴れる」と言って、
それから取っ組み合いが始まった、というのです。

田中中尉(織本順吉)が、お互い地獄の釜の底まで一緒に行く運命、
せめて生きている間は仲良くしようじゃないか、と二人を諌めます。



翌日はついに晴れました。



「おい、雨あがったぞ!」

「来た・・・!」



今日も富代の部屋で朝を迎えていた松井中尉は、



彼女が眠りから醒めないうちに部屋を飛び出します。
というか、この時点で遅刻しそうになっていたのでした。


宿舎まで全力疾走。



皆、起きるなり飛行服に着替え、そのまま飛行場に向かうようです。
朝ごはんも食べないし、歯を磨いたり顔を洗ったりしないのか。

これは流石に映画上の表現だと思いたいなあ・・・。


ところがその時またしても命令が変更になりました。
出撃の規模が小さくなったため、
予備士官からは松井と笠原中尉だけが出撃となり、
大瀧と北中尉は出撃を逃れたのです。



しかし、その松井中尉はまだ帰ってきていません。
大瀧中尉は、自分が代わりにいかせてください、と頼みますが、
隊舎を見回して松井がいないのに気づいた村山大尉は、

「何、あいつまた抜け出したのか・・・まあ帰ってくるさ」

と楽観的です。


そして、皆がトラックで飛行場に向かおうとしているとき、
なんとか松井中尉は宿舎にたどり着きました。


敬礼をする松井中尉に村山大尉は、

「心残りはないか」

「ありません!」

「よし、かかれ!」



宿舎に窓から飛び込んで超高速で身支度を整える松井中尉を、
隊舎に残っていた深見中尉が黙って手伝います。

そして、彼が装具を身につけ終わると、


「松井、昨日は・・・・」

「いやあ、俺が悪かった。一足先にいくぞ!」


松井中尉は黒板の「雨降ってまたまた一日生き延びる」の句を消し、



「深見、戦争のない国に行って待ってるよ」

とにっこり笑って窓から姿を消しました。


最後に地上で挨拶を交わす笠原中尉と松井中尉。


二人が出撃していった夜、残った予備士官たちはこんな会話をします。

「俺たちは地獄へ行くのか、それとも極楽か」

「そりゃ極楽さ。国家のために死ぬんだから」

「地獄だとすれば特攻隊も考えもんだなあ」

「馬鹿、そういう考えのやつが地獄行きだ」



卵に二人の似顔絵を描いた絵の得意な北中尉。
オルガンも弾いていたし、芸術方面に多才な人のようです。

「おい、笠原、松、お前たち今どこだ。地獄か極楽か」

指で弾くと、松井の卵が床に落ちました。



「松の野郎、2度も玉砕しやがった」

皆一瞬笑いかけて、すぐその笑いを引っ込めます。



続く。