本作は卒業式の行進と表桟橋からの出航なしで、卒業式から
いきなり遠洋練習艦隊の「磐手」艦内のシーンになります。
67期の練習航海は「磐手」と「八雲」で行われ、
以前ここでお話しした潜水艦の越山澄尭候補生は「八雲」、
当ブログ筆者ご贔屓の笹井醇一候補生は「磐手」乗り組みでした。
士官候補生の制服というのを初めて見たのですが、軍帽は士官と同じ、
詰襟にボタン、しかもグレーという微妙なスタイルです。
遠洋航海先から送られて来た真人のハガキに
「末筆ながらエダさんによろしく」
と書いてあるのを見て嬉しさを隠せないエダ。
こちらのバージョンは随分とエダ、素直です。
「なんだ!わっははは!
母さん、ビール持ってきなさい、谷くんに乾杯だ」
うーん、このノリ、とても戦時中に思えないんですが。
どう見ても戦後のホームドラマ。
さて、練習艦隊はハワイに到着しました。
少尉候補生達はダイヤモンドヘッドを心持ち緊張の眼差しで見つめます。
遠洋航海が終わった後、67期生のほとんどは潜水艦であっても航空であっても、
軍艦乗り組みを経験することになっていました。
その後航空は「飛行学生」、潜水艦は「潜講」という訓練を受けます。
最初の軍艦乗り込みは、海軍軍人として船の考え方を基本にするための初級訓練です。
横山少尉は遠洋航海の後「五十鈴」に乗り組んでいました。
その「五十鈴」が故郷鹿児島に寄港したという設定。
親友の隆夫は東京に行ってしまって不在なので、ここぞと真人に密着、
アピールする積極的なエダ。
真昼間から暗くなるまでただ歩き回るだけのデートが終了しました。
「・・じゃ」
「・・・家まで送ってくださいな」
というわけで送っていき、エダの家に到着。
「・・じゃ」
「 ・・・もういっぺん浜へ行って見ましょうか」
あんたら朝からずっと浜にいたんじゃなかったのか。
そしてついにエダ暴発。
「谷さん!あたし決めたの!
あなたのお嫁さんになりたいの!」
「僕はいつ死ぬかわからない軍人だから結婚はできない」
その後母港である横須賀に「五十鈴」が入港し、
真人が上陸で銀座を歩いているとでばったり隆夫に遭遇します。
ここは銀座の資生堂かどこか?
ちなみにお店のBGMはポンキエッリの「時の踊り」です。
隆夫くん、今や髪を伸ばし黒縁メガネをかけております。
しかし、千葉真一って若い時は結構線の細いイケメンだったのね。
隆夫の下宿に行くと、無駄に肌を露出した女が出てきます。
これは枯れ木も山のにぎわいというやつで(ちょっと違うかな)
この女優さんを使うために原作にもなかった隆夫の恋人をキャスト。
彼女は北原しげみという東映のお姫様女優だそうですが、
それにしても昭和16年の格好じゃないでしょこれ・・。
隆夫の下宿で二人は話し合います。
戦争について。生と死について。
「君は戦いでいつ死んでもいいと思ってるのか?」
「死ぬことが目的じゃないが任務の遂行なら命のままに赴くね」
「それは誰のためだ?」
「・・・誰のため?・・・自分のためだ」
場面変わって、呉駅。
当時はまだ普通に走っていた汽車がホームに到着する様子が見られます。
真人と呉で会う約束をした隆夫がやってきたのでした。
二人が真人の下宿に到着すると、隆夫の部下の下畑兵曹が待っていました。
昭和18年版でもえらくおじさんの艇附でしたが、(配役のクレジットすらなし)
こちらも当時34歳の加藤武が演じています。
横山正治の艇附だった上田定兵曹は真珠湾突入時25歳。
確かに22歳の横山よりは年上ですが、どちらも少し年嵩すぎるというか。
下畑兵曹は、彼らにくだった出撃命令を谷中尉に知らせに来たのでした。
真人の下宿からは軍港呉の景色が望めます。
昭和38年の映像なので、ドックには大型船が入っている様子がありますね。
握手で別れる二人。
これが親友同士のこの世で最後の邂逅となります。
「お互いに一生懸命生きよう」
その夜鹿児島に帰った牟田口隆夫は、妹のエダが
真人と結婚する気満々なのに愕然とします。
「谷とは結婚できないかもしれないな・・・」
真人が出撃を控えているらしいことを兄から聞いたエダ、
「わたし、呉に行って谷さんに会う!」
ここは三机港。
真珠湾に出撃する特殊潜航艇の訓練が行われていました。
岩佐大尉をモデルとした秋田大尉を演じるのは若き梅宮辰夫です。
ちなみに岩佐直治大尉は当時26歳。
婚約者がいましたが、破談にして作戦に臨んでいます。
こちらは呉に押しかけて来たエダ。
真人が引き払った下宿に籠城して彼を待つ長期戦の構えです。
いよいよ決死作戦への出撃が迫りました。
部下の下畑二曹に妻を呼び寄せるための電報を打てと命じる真人。
「中尉、その心配には及びません!」
「お前が心配なくても奥さんは会いたいはずだ!打て!」
当時の呉駅はまだ右から左に書かれていたようです。
呉の隣の駅は安芸阿賀と川原石。
下畑兵曹の奥さんに敬礼する真人。
呉駅まえの「BOOKS」という本屋の看板が見えていますが、
昭和16年に英語の看板が果たして呉にあったんでしょうか。
最後の晩、赤ん坊を寝かせて狂おしく抱き合う二人。
戦前の「海軍」でももちろん原作でも全くなかったエピソードです。
ちなみに横山中尉の艇附であった上田定兵曹は独身のまま戦死していますし、
そもそも、実際に攻撃隊の10人の中に妻帯者は一人もいませんでした。
呉での最後の夜、なんとなく身を持て余し下宿に立ち寄った真人がそこで見たものは・・・・
でたあ〜〜〜!
自分を待って二ヶ月間ここに住み着いているエダの姿でした。
「わたしの全部をあげようと思って来たの!全部をとって!」
と激しく迫るエダに、
「理性を失ってはいけない」
と直球で諭す真人。
こりゃー軍神横山少佐の伝記とはとても言えない方向に・・・。
「あなたは僕の胸の中でいつも気高く崇高に生きて来た。
僕は死ぬときにはあなたの美しさを抱いて死にたい。
二人の青春を美しいものにしておこう!」
もしかしたら谷真人、自分に酔ってますかー?
でも、誠実な男性ならおそらく皆こう言ったよね。
辛い一夜が明け、真人は下宿を一人で出てゆくのでした。
移動の汽車の中、二人の男たちはこの世に残していく
愛するそれぞれの女性のことを考えつつ、無言です。
そして昭和16年12月8日。
「下畑、いいか」
「はっ」
「いくぞ」
「はっ」
二人の出撃シーンはこれで終わり。
あとは無限に続く海が映るのみ。
日米開戦の報に世間が沸き立つ狂乱の最中、真珠湾の九軍神の名前が広報されます。
当時捕虜になった酒巻少尉以外の「九軍神」は、全て
撃沈ではなく戦果を上げたあと自沈したと報じられました。
三机港、桜島、そして鹿児島二中の(今も残る)校舎。
軍神横山少佐のゆかりの場所の映像が映し出されます。
軍神たちの合同葬が行われ、葬列がしめやかに通り過ぎます。
海軍旗をたて、儀仗兵、そして神官に続く砲車。
誰の遺骨もなく、そこには軍神の遺髪と遺爪が乗せられています。
人々は歩道に正座し、頭を垂れて葬列を見送ります。
それにしてもエダさんのこのお洋服はどう見ても1963年の流行りの(略)
遺骨(じゃないけど)が自宅に帰って来た夜、葬儀の席では
横山少佐の遺書と同文の真人の遺書が読み上げられます。
フラフラと庭に出て来て井戸端で泣き崩れる母。
昭和38年当時の流行りのシルエットの喪服を着たエダは、
一人で桜島の見える天保山の浜に佇んで一人呟くのでした。
「真人さん、わたしは悲しまない。
あなたのためにわたしは悲しまない」
(糸冬)
戦後の「海軍」のサブタイトルは
「青春の全てを祖国に捧げた日本の恋人たち!」
となっていて、はっきり言って「海軍」とか「戦争」は
恋愛のお膳立てとして扱われているというか、
恋人たちがその恋を成就できず引き裂かれる戦争なんてよくないよね?
というわかりやすい反戦ものになってしまいました。
原作者の岩田豊雄(このころは獅子文六)はこの演出に内心唖然としたでしょうが、
もともと彼はどちらかというとヒューマン路線の作家だったので、
これそのものについてはこれもまたご時世と諦めていたかもしれず、
原作者としてあまり抵抗はなかったのではないでしょうか。
ただ、彼のエッセイ、「海軍随筆」などを読むと、
彼は67期卒の海軍軍人にかなり綿密にインタビューをしていて、
海軍という組織を見る目にも非常な敬意と愛情が感じられ、
それだけに、彼が横山少佐を「谷真人」のモデルとして
特別に愛していたことは間違いないことに思われます。
だから横山少佐本人に対して
「こんなことになってすまん」
と内心思っていたかもしれないことは想像にかたくありません。
シリーズ最終回では、原作となった小説「海軍」を検証してみることにします。
続く。