goo blog サービス終了のお知らせ 

ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「Uボート基地爆破作戦」The Day Will Dawn 後半

2024-05-05 | 映画

映画「Uボート基地爆破作戦」、原題「The Day Will Dawn」後半です。


例によって派手なアメリカ公開時の同作、
アメリカタイトル「アヴェンジャーズ」ポスターがこれ。

「前線の新しい秘密を描いたスリリングなドラマ!」

という煽り文句。
「新しい秘密」って何だろう。




ノルウェーからイギリスに戻ったメトカーフは、本社での仕事を再開しますが、
日に日に飛び込む戦争による損失のニュースに触れるたび、
自分自身が戦線に身を投じて祖国を救いたい思いに駆られていきます。


そんな彼に、先輩記者は、武器を取ることだけが戦いではないといい、
報道記者にしかできない戦い方をするべきだと説きます。

例えばホームフロントで国民一人が心構えを持ち、
勝利のために「経済活動」を行うよう家庭に呼びかけるなど。

ごもっともでありメトカーフもそれに納得するのですが、
ところがどっこい、運命は彼にそれを許してはくれなかったのです。


その頃、イギリス海軍情報局では、ノルウェーのどこかにあるとされる
Uボート基地を探し出すために動き出していました。

「誰かこの辺に詳しい人物はいないか」

「ピットウォーターズ中佐を呼べ」

ピットウォーターズ中佐とは?



メトカーフが空襲下のバーで飲んでいると、彼をドイツ船から助けた
駆逐艦の艦長だったピットウォーターズ中佐が「偶然」現れました。

もちろんこれを偶然と思っているのはメトカーフだけです。

ピットウォーターズ中佐、にこやかに挨拶を済ませると、
いきなり何のスポーツをやっていたか聞いてきました。
メトカーフが学生時代にかじったスポーツを適当に答えると、

「それならもちろん泳げますよね?」

「?」

「あなたモールス信号は打てます?」

「・・・いえ・・何なんです?」

「なに、すぐ覚えますよ」



「グッドラック!」

「・・・あなたも」(?)

この人、目が全然笑ってなくてこわ〜い。

「ああそうそう、乗っていた船が銃撃を受けたっていう件、
あのことで私の友人があなたと話したいと言ってましてね」

「今からですか・・いいですよ。行きましょう」

「あ、ところで結婚してます?」

「いいえ」

「近親者とかは?」

「いませんが」

「それはよかった。家族なんてつまらないですからな」


イギリス海軍、メトカーフに何をさせようとしているのでしょうか。
ドイツ船が彼を攫った理由も謎のままですが。



ピットウォーターズ中佐に海軍司令部に連れて行かれ、
そこでメトカーフは情報部のウェイバリー大佐に紹介されました。

「君はいい記事を書きますね」

「ありがとうございます」

「愚者の後知恵って感じだけどね(Wise after the event)

イギリス人らしい上から目線の嫌味にムッとするメトカーフを尻目に、
なるほど健康そうだね、はい近親者もいないそうですなどと、
何やら勝手に話を進めていく二人。

そしていつのまにか彼は、
「ノルウェーのUボート基地を探し出し、攻撃する」
という海軍の作戦に参加することになっていました。

なるほど、で、日本語タイトルがこうなったわけね。

なぜ彼に白羽の矢が立ったかは、彼がUボートの攻撃を受けたからですが、
だからって、ただ船に乗って攻撃を受けただけの人を、
ろくにその時の状況も聞かずに現場に放り込むかな。



次の瞬間、軍用機に乗せられた彼は、あれよあれよという間に
パラシュートを装着され、目的地上空で降下させられていました。

「三つ数えたらパラシュートの紐を引っ張ってください。
ハッピーランディング!」

ハッピーランディングじゃねえよ。素人になにさせるだ。

案の定、降下するところをドイツ兵に目撃され森の中を逃げ回ることに。
メトカーフ、自分を守る武器すら持たせてもらってません。
必死で身を隠しますが、そのうち一人に見つかってしまい、万事休す。


と思ったら彼はオーストリア人で、メトカーフを見逃すどころか、
イギリス海軍の作戦に通じているらしい?人物で、
しかも、彼の受け入れ先であるパン屋も教えてくれます。

どんな偶然だよと言う気もしますが、映画なのでもうどうでもいいや。


受け入れ先のパン屋の親父から、メトカーフは衝撃的なニュースを聞きます。

一つは、皆の意見を代表したアルスタッド船長が収容所に入れられたこと。
そして、もう一つは、カーリがグンター署長の権力と金になびき、
婚約したため、村人の非難の的になっているという状況でした。


パン屋はメトカーフを、村の学校で校長をしているオラフに紹介しました。
前半の結婚式シーンでカーリの友ゲルダと挙式した新郎で、
彼を目的地のラングダールに連れて行く役目を引き受けたのでした。

オラフを演じるのは、このブログでご紹介するのもなんと三度目、
すっかりお馴染みになったニアール・マクギニス(Niall MacGinnis)

「潜水艦撃沈す」49th Parallel (1941)で、
逃走中仲間に射殺されるドイツ軍水兵の役、
「潜水艦シータイガー」We dive at dawn(1943)で、
結婚したくない男CPOマイク・コリガンを演じていた人です。



オラフと歩いていてドイツ兵に誰何され、隙を見て逃げたメトカーフは、
ドイツ-ノルウェー親睦パーティに紛れ込みますが、
そこでグンターと一緒にいるカーリを見てショックを受けます。



そこに、体重0.1トンデブのドイツ軍司令官がやってきて、
この場にいる全員の身分証を点検すると言い出しました。

メトカーフが逃げたことが報告されたようです。


その時、カーリは会場の一席で目を伏せているメトカーフに気づきました。
彼が身分証を持たずここに忍び込んでいることも察したようです。



事態を混乱させるために彼女が咄嗟に取った行動、
それはコップでテーブルを連打することでした。


それは、内心ドイツ軍のやり方に鬱屈としたものを抱いている
周りのノルウェー人たちに、抵抗の形として伝播していき、
連打の速度はだんだん速くなっていきます。

ドイツ人たちはそれに苦い顔を・・。



司令官に命ぜられたグンターが連打をやめさせ、皆を取りなし、
楽隊に演奏を命じて何とか雰囲気が元に・・、と思ったら、



ノルウェー人の楽隊員がコップ連打のリズムを使ったアドリブを始めました。
残りのメンバーも調子を合わせてアグレッシブに盛り上げます。


騒乱状態の中、律儀に身分証確認の任務を遂行するさすがのドイツ兵士。

ドイツ兵がメトカーフに近づき、あわや、というとき会場は真っ暗に。
カーリが部屋の隅にあるブレーカーを切ったのでした。

暗闇の中カーリは素早くメトカーフに近づき、逃げ込む場所を指示しました。


その後落ち合った二人。

カーリは、グンターと婚約したのは父親の釈放が条件だったから、
と釈明し、メトカーフはこれまでの彼女への想いを打ち明けました。

父親のアルスタッドが逮捕された理由は、
イギリスのラジオが流していたノルウェー国王の言葉、

「私は国民を見捨てない」

という言葉を紙に印刷して人々に配ったからでした。

そして父親を逮捕したのは他ならぬグンターで、彼は
父親の釈放と引き換えにカーリに婚約を強いたのです。


程なくして、イギリス海軍にノルウェーからの暗号が入りました。

「Uボート基地確認 重厚な偽装あり ラングダルより22キロ南方
水曜22時半以降に大西洋攻撃の計画あり」


カーリの父アルスタッドが釈放されて帰宅しました。
「現場監督」(foreman) は船上での娘のあだ名です。

アルスタッドは、潜水艦基地を爆撃する連合軍機に
位置情報を伝えるメトカーフに付いていくことになりました。


ドイツ海軍が艦隊出撃の準備を始めました。
このとき、ドイツ軍人の間でこんな会話があります。

「どうして海軍は総統に敬礼(ナチス式敬礼)しないんだ」

「英国海軍を手本にしたため、伝統を受け継いでいる部分がありましてね。
我々も修正を試みているんですが」


映画はここで悪質な印象操作をぶち込んできます。

「生存者を救出するなどという”騎士道精神”まで受け継いではいませんが、
とにかくドイツ海軍は総統にナチス式敬礼はしないのです」

アメリカとイギリスは、戦後もこの

「ドイツ海軍は生存者を救出しない」

という文言を好み、ドイツの「残虐ぶり」を強調しようとしてきましたが、
実際にはそうではなかったことは、「ラコニア号事件」が証明しています。
ラコニア号の乗員を救出するU-156とU-506

この後、メトカーフが地上から発光信号で航空機を誘導し(!)
偽装が施されたドイツ潜水艦基地は見事爆撃されます。

この一連の爆撃シーンは、実際のストック映像からの流用多数。



役目を終えて帰ってきたメトカーフにカーリは父の安否を訊ねます。

「お父さんはもう帰ってこない」



作戦成功の知らせは海軍情報部にも入りました。

「マーシュのおかげだな!」

「メトカーフです」

「そう言っただろ」

「・・失礼しました」

Mしか一致してねーし。


しかしそれで済むほどドイツ軍は甘くありません。

首謀者がメトカーフであることも当局はすでに掴んでおり、
彼と協力者8名を逮捕し、処刑すると通告してきました。


次々と引き立てられていく人々。
その中には、ゲルダの夫、オラフもいました。

グンターは、メトカーフが見つからなければ、8人を処刑すると脅しています。
ゲルダはカーリに、人質になった人たちの命を救うために
メトカーフの居場所を教えるように懇願しにきたのでした。

その話を陰で聞いていたメトカーフは、警察に自首しました。


カーリの元にグンターが来て、メトカーフの自首を告げました。

彼は、それでもカーリがまだ処罰対象になっているため、
自分と結婚すれば命を助けることができると持ちかけます。

きっぱりとそれを拒否するカーリ。
父の釈放のために婚約はしていましたが、その父も亡くなった今、
こいつと結婚するくらいなら死んだほうがマシということですか。

それを聞くとグンターはいきなり外にいたドイツ兵に彼女を逮捕させました。


警察署で、捕えられた人々と一緒になったメトカーフは、
こんな演説をします。

「あなたはここに製油所と称して潜水艦基地をつくった。
部下はノルウェー語を話す。なぜか。
彼らは子供の頃、戦争でここに逃れてきた人々だからだ。
ノルウェーの人々が空腹だった彼らを助けた。

その彼らが今では侵攻する大隊を構成していて、
『親切な人々』を殺すことができる。

しかしここで我々を殺したとしても、ほんの少しに過ぎない。
他には何百万人だっているんですよ。
漁師、パン屋、商人、教師・・普通の人々がね。

あなた方はその全てを殺すことなんてできない。

『その日』は来ます。あなたが思うよりもはやく。
皆が立ち上がり、自由になる日が。

そのとき、あなたに神のご加護がありますように」




ヴェッタウ司令は鼻白んだ様子になりましたが、
それでも彼の意見には何も言わず、全員を逮捕させました。


同じ房に閉じ込められ、処刑を待つだけの8人。

夜明けと同時にドイツ語の掛け声が房の前で響き、
兵士たちが8人のうち「最初の4人」を処刑のために連れ出します。

そしてすぐそばの処刑場から聞こえる命令と銃声。
こういうとき最後に牧師を立ち合わせたりしないか?



ゲルダの夫、オラフと彼らを含む4人が息を飲んでその時を待っていると、
にわかに外が騒々しくなりました。


このとき、英海軍部隊が潜水艦基地に到達していたのです。



そしてコマンド部隊が基地を強襲。
基地からは彼らの強襲ボートが船着場に乗りこむまで、
ドイツ側から何の反応もなく、全く反撃もなかったようで何よりです。



さっさと基地を後に自分だけ逃げようとする基地司令(私服になってる)。
協力させるだけさせといて逃げる気か!とすがるグンター。

司令は面倒になって、利用価値のない彼をさっさと射殺してしまいました。


このとき、木造の家が爆破されるシーンがありますが、これは
実際にノルウェー海岸をイギリス軍特殊部隊が襲撃した際の映像です。

このときコマンド部隊が攻撃したのはノルウェーの魚油加工工場などで、
この映像は当時のニュースリールに残されたものでした。

この映画に挿入されている実写シーンは、
ニュース映画やその他の現実の映像から抜粋されています。


「・・・イギリス海軍が来たわ」

このデボラ・カーの凄まじい演技を見よ。


捕虜になったドイツ兵たちが船に乗せられるシーンですが、
これ、もしかしたら第一次世界大戦のこの写真を参考にしてる?

WW1 blinds soldiers
WW1 - Weapons and Technology 


写真の人たちが目隠しして前の肩を掴んでいるのは、
彼らが戦闘で視力を失ったからなんですが・・・。

このシーンの人たちは、捕虜として目隠しされているようです。



ゲルダとオラフはイギリスに行って住むことになりました。
この短期間(数時間くらい?)になぜそこまで決まったのかは謎です。
イギリス軍が難民を受け付けてくれたのかな。

「子供はイギリスで生まれることになるが、血はノルウェー人だ」

ところで、いかにこの時代のノルウェーの状況について知らない我々も、
映画はイギリス制作であり、演じているのは全員がイギリス人、
全てがイギリスに都合よく描かれていることも知っておく必要があります。


ノルウェーはイギリス寄りであったとはいえ、中立国で、チャーチルは
ドイツより先にノルウェーを「占領」しようとしていましたよね。

ノルウェーはイギリスに占領された方がラッキーだったはず、というのは
あくまでイギリス人の考えにすぎず、ノルウェー人にすれば、
どちらかに占領されるならドイツよりはまし、程度だったと思うんだけどな。

放っておいたら中国かロシアに取られてしまうという理由で、
国内の偉い人に頼まれるようにして朝鮮を併合した日本が、
そのことをいまだに恨まれ続けているという例もあることですし。
(まあかの国の民族的気質がかなりの粘着質ってのもありますが)

占領される側から見たとき「良い占領」などは存在しない。
防衛上のいかなる正当かつ合理的な理由があったとしても、占領は占領、
国民主権が他国に奪われるという現実には違いないのですから。


そして、ノルウェーを離れる人々は、
村に残る人々に別れを告げ、船は岸を離れて行きました。



メトカーフはもちろんイギリスにカーリを連れて帰ります。
これからノルウェーはドイツに占領されることになるからですね。



最後に流れる字幕には、このようにあります。

「今、ナチスのくびきの下にひれ伏している12の有名な古代国家では、
あらゆる階級と信条の人民大衆が解放の時を待っている。
その時は必ず訪れ、その荘厳な鐘の音は、夜が過ぎ、
夜明けが来たことを告げるだろう。

1941年12月26日、アメリカ合衆国上院で首相チャーチルが行った演説です。

The night is past and that the dawn has come.

映画のタイトルはこの一節から取られました。
実際のノルウェーの「夜明け」は、この時点から4年後のことになります。


終わり。




映画「Uボート基地爆破作戦」The Day Will Dawn 前半

2024-05-02 | 映画

今日は1942年イギリスで製作され、わずか五ヶ月後には
アメリカでも公開された、戦争「系」映画をご紹介します。

まず、この「Uボート基地爆撃作戦」という邦題ですが、
例によって、あまり映画の本質を突いていません。

主人公はイギリス人のジャーナリスト(と言っても競馬記者)。
彼がポーランド侵攻を境に会社からノルウェー特派員を命じられ、
偶然の重なりにより歴史の瞬間を目撃し、自らも命の危険に曝されていく、
という内容なので、まるで戦争もののようなこのタイトルは変ですね。

原題は「その日は夜明けになる」(直訳)。

映画の制作された1942年は、ポーランド侵攻後のヨーロッパ、
並びに世界がどうなっていくか、まだ誰にも何もわかっていません。

The Day Will dawn というタイトルからは、
その頃ヨーロッパに住むすべての人々が陥っていた混沌とした暗闇から、
いつ夜明けになるのかという、そこはかとない願望が読み取れます。

それに比べてよく分からんのが、アメリカで公開された時のタイトル、

「The Avengers」(アベンジャーズ)

アベンジャーズというと現代の我々にはマーベルしかないわけですが、
映画を観た今となっては、こちらの「復讐者」というタイトルも、
なんだかほんのりピントがはずれているような気がしないでもありません。

ただはっきりしたのは、アメリカ人ってこの言葉が相当好きってことかな。

ところで、ここで本題、なぜ映画の舞台がノルウェーだったかですが、
それは当時ノルウェーが中立国だったことが理由でしょう。

ただ、第一次世界大戦時から国際紛争では中立を維持していたノルウェーが、
歴史的にイギリスとは経済的・文化的にも協力関係だったことから、
中立といっても、限りなく連合国寄りだったことを踏まえる必要があります。

第二次世界大戦が開戦するとノルウェーは公的に中立を宣言しますが、
ドイツは、連合国が共闘に引き込む可能性を憂慮し、
盗られる前に盗れ!!とばかりにノルウェーを占領にかかりました。

【ゆっくり歴史解説】ノルウェーの戦い【知られざる激戦10】
海戦の解説が多めなのでぜひ。

連合軍がフランス侵攻後、そちらにかかりきりになったので、
ノルウェー政府と国王ホーコン7世はオスロを放棄して亡命、
海外からレジスタンスを指導しましたが、結局ノルウェーは
ドイツに占領されることになり、終戦まで統治下に置かれることになります。

本作は、ノルウェーの戦い前夜からが舞台として描かれます。


ノルウェー空軍省、戦争省、そして
ノルウェー王国政府に感謝する、とあるのですが、
ここでとんでもない間違い発見!

NORWEIGAN(×
NORWEGIAN(


字幕を書く職人がGとIの前後を間違えただけだけだろうとは思いますが、
よりによって謝意を示すための字幕でスペルミス、これはアウト。


気を取り直して。
1939年9月のことです。



ドイツはポーランドに侵攻しました。


開戦にここぞと浮かれ、いや活気づくイギリス某新聞社のお偉いさんたち。

しかし、新聞各社が腕利きの記者を特派員として各地に送っている中、
この新聞社では、派遣する記者の人数不足に困っていました。

この際、若くて元気で記事が書ければ何が専門でもいい、
と一人が言い出し、政治部の花形記者フランクは、

「心当たりがある」



フランクは、友人の競馬担当記者コリン・メトカーフが、
戦争で競馬が中止となったため、クビになったばかりなのを思い出しました。

「あんなやつ、馬の知識しかないし、そもそも下流(でた階級差別)出身だ」

と社の幹部たちは渋りますが、彼のコミュ力を買っていたフランクは、
反対を押し切り、ノルウェー特派員として彼を推薦したのです。


8ヶ月後、メトカーフはノルウェーにいました。

何やら綺麗なお姉さんとデートなどしています。
ちゃんと特派員の仕事はしているのか。



オスロの街を歩きながら、

「夜のろうそくは燃え尽き、
霧深い山の頂に陽気な日がつま先立ちしている」


などと、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の一説を口ずさみ、
ついつい溢れ出る教養をダダ漏れさせてしまうメトカーフ。


二次会?で入ったバーで、メトカーフはノルウェー海軍の水兵たちと
ノリで「ルール・ブリタニア」を合唱してすっかり大盛り上がり。


このシーンのセーラー服、フランス軍と間違えてない?と思いましたが、
ノルウェー海軍の制服って、フランスと似ていたんですね。
白黒なのでわかりにくいですが、セーラーの襟の色が間違っています。

当時は白黒写真しか資料がなかったせいかな?



その時、同じバーの一角に、ドイツ海軍御一行様がいて、
「英国は決して奴隷にはならず」という「ルール・ブリタニア」に対抗して、
ナチスの党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」をがなり始めました。

しかしながら、わたしに言わせれば、この選曲が良くない。
僭越ながら海軍軍人というものを微塵もわかっておらん。

仮にも海軍たるもの、ここでナチスの歌なんか歌いますかね。
同じ映画の中で、「海軍軍人はヒトラー式敬礼はしない」と言って
微妙な海軍とナチスとの乖離を語っているのに、詰めが甘いというか。

こんな時には、やっぱりこれでしょう。

「我らは今日乗船する」 日本語歌詞付き [ドイツ海軍歌]
Heut geht es an Bord
必見:Uボートの実戦映像集 後半にはデーニッツ閣下も登場

ちなみに「眼下の敵」でUボートのクルト・ユルゲンス艦長のもと、
総員で歌っていた「デッサウアー」も、実は歩兵の歌ですので念のため。

(ところで今、ふと某国の公共放送局制作スタッフの無知のせいで、
陸海軍ごちゃ混ぜにハワイに収監されていた日本軍捕虜が、
全員で仲良く『艦隊勤務』を歌っていた戦争ドラマを思い出してしまった)

今回この映画がこの時わざわざ「ホルスト・ヴェッセル」を歌わせたのは、
単に「ナチス」を強調するための意図からきているのかもしれませんが。


さて、そのうち一人のドイツ水兵が荒ぶってものを投げ、鏡が割れるのを見て
白髪の老いた船長が立ち上がり、いきなりドイツ水兵を殴りつけると、
それがきっかけで場内全員による大乱闘になってしまいます。

メトカーフは迷うことなく乱闘に加わり、件の船長アルスタッドと意気投合。
ドイツ水兵を店から追い出した後、船長は彼を自分の船に招待しました。



メトカーフは乗り込んだ船で船長の娘、カーリと衝撃の出会いをしました。

カーリ・アルスタッドを演じるのは、ご存知デボラ・カー(Kerr)
「王様と私」「地上より永遠に」「旅路」などに出演し、
「イギリスの薔薇」とも称えられた美人女優です。

船の上で無様に転んだコリンを大笑いする彼女。
しかし顔を煤で汚していてもその美貌は隠せず。

(但しその笑い声は妙に甲高くて耳障りで、個人的にはイメージ台無しです)



ところで、さっきまでメトカーフとデートしていた女性は、喧嘩の際、
彼によって店から避難させられた後、最初の店に戻って、
やはり最初からそこにいた二人の男性と何やら密談をしていました。

彼女、どうやらドイツ側のスパイだったようです。
特派員である彼に近づいたのは、情報を得るためだったんですね。

ここで老婆心ながら一言。

政府要員、軍人、報道公務員その他国家機密に関わる、特に男性諸氏は、
(もちろん自衛官を含みます)やたら高めの女(又は男)が近づいてきた時、
冷静に自分について客観的に見直してみることも大事かもしれません。

こんな相手にグイグイ来られるほど、俺って今までモテてたっけ?と。
自分が案外モテると思いたい、その気持ちはわからなくもないですが。

個人的見解ですが、自他ともにモテを認める、実質MMな人材には、
そういう輩は決して近寄ってこないような気がします。


さて、航海二日目、アルステッドの船は、ドイツ海軍のタンカー、
「アルトマルク」Altmarkとすれ違いました。

アルトマルク号事件

「アルトマルク」は、ドイッチュラント級装甲艦
「アドミラル・グラーフ・シュペー」
(DKM Admiral Graf Spee)

の通商破壊活動によって沈められた商船から収容された
イギリスの船員を捕虜として載せていました。

「シュペー」がラプラタ沖海戦で自沈したため、
補給すべき相手を失ってノルウェー領海にいた「アルトマルク」は
ノルウェー官憲による立ち入り調査を受けることになります。

しかし「アルトマルク」は、その際捕虜の存在を隠してやり過ごし、
何も問題とならずに、そのまま通航を許されました。

同じ日、イギリス空軍機が「アルトマルク」を発見し、
イギリス海軍は、駆逐艦「イントレピッド」 (HMS Intrepid, D10) と
「アイヴァンホー 」(HMS Ivanhoe, D16) を派遣して
「アルトマルク」をフィヨルドに追い込んでから、
 駆逐艦「コサック」による強制接舷のち「アルトマルク」に乗り込み、
乗組員7名を殺害の末、捕虜を解放しています。

これが「アルトマルク号事件」です。

このことは国際的にも大問題となりました。



その後、アルステッドの船はUボートに発見されました。
(映像は実写)


その時、カーリとメトカーフは、デッキでジャガイモの皮を剥きながら、

「ジョージ・ベネットって知ってる?」

「読んだことあるわ。ノルウェーのイプセンの作品は?」

「読むよ」

「シェイクスピアやディケンズも読むわ」

とマウントの取り合いをしていたのですが、


そこにUボートが浮上してきました。



一連の映像は本物のUボートの戦闘シーンから流用されています。



Uボートは船に艦砲を撃ち込み、船は全壊し沈没しました。
しかし制作予算の関係で肝心の沈没救出シーン等はいっさい無しです。


沈没から逃れた小舟がアルスタッドの村に帰着すると、ちょうど
カーリの女友達ゲルダの結婚式が行われていました。

船を沈没されたのに、ウキウキと結婚式に駆けつけるカーリ、
そんな彼女を「踊りが好きなんだ」と目を細めて見送る船長。

沈没の後誰一人傷一つ追わず、衣服も濡れずに帰還できたどころか
全員が事故について忘れてしまっているかのように陽気です。


しかし、アルステッド船長はちゃんとするべきことを知っていました。

彼はUボートに攻撃されたことを、パーティの席で
地元の警察署長、オットマン・グンターに報告しますが、この警察署長、
ドイツ寄りの立場であるせいか、船長の報告を軽く受け流します。

しかも貴社のメトカーフにに向かって、あくまでお客として滞在しろ、
ここで余計なことをするな!と釘まで刺してくるのでした。



おまけにこの男、カーリに結婚を申し込んでいることもわかりました。
彼女に好意を持っているメトカーフには何かと面白くない人間です。



さて、ここはドイツ軍が駐留している某所。

司令部にやってきたグンター警部は、この体重0.1トンの司令官、
ウルリッヒ・ヴェッタウにメトカーフとUボートの件を報告しました。

ちなみにこの人、全くと言っていいほどドイツ人に見えません。
演じているのはフランシス・L・サリバンというイギリス人俳優です。

ちなみにこの人の痩せてた頃



グンターはヴェッタウ司令からドイツ軍の侵攻が近いことを知らされると
自分の地位と人気を利用して村人を「説得する」と力一杯約束しました。


その頃メトカーフはUボートの件を報告するためにオスロに向かっていました。


オスロのホテルに到着したメトカーフはそこでフランクに会いますが、
なんと自分がいつのまにかクビになっていたことを知らされます。

理由は、世界が注目する「アルトマルク号事件」が起こっている間、
アルステッドの船に乗っていて連絡が取れなくなっていたからです。

せっかくノルウェーに派遣した記者が、仕事せず行方不明なのですから
上層部の怒りもクビも、ごもっともといったところです。


メトカーフは漁船沈没の件をオスロの英国大使館に報告に行きますが、
大使館の駐在武官も何やら半笑いで微妙に真剣味がありません。
それでも何とか海軍に連絡をとってくれました。

つまり、誰もがこのとき次のドイツの目標が、
中立を標榜するノルウェーだとは思っていなかったってことなんですね。


しかし、メトカーフが、昨夜、在ノルウェードイツ大使館で行われた
ノルウェー政府の関係者を招待したパーティで、「火の洗礼」
(バプティズム・オブ・ファイア)という映画が上映され、
その内容がポーランドでの軍事作戦の記録だった、と報告すると、
新聞社は即座に彼のクビを撤回し、大ニュースだと盛り上がりました。

なんでそうなる。
っていうか簡単にクビにしたり取り消したりするな。


そのときホテルのロビーでは、メトカーフを訪ねてきたカーリに、
よりによってメトカーフの同僚の記者がウザ絡みしていました。

気の強いカーリはセクハラ記者を勢いよく平手打ちします。



彼女はメトカーフに、昨日村の近くの港にドイツ商船が来たこと、
軍艦ではないが巨大な船が3隻であったことを伝えに来たのでした。

「喫水線が深いのに、全く荷卸しをしていないの。
その『貨物』とは人間、つまり兵隊ではないかしら」

さすがは船長の娘で自身も船乗りです。
そして彼のために編んだ変な帽子を渡し、頬にキスして去って行きました。


ところが。

彼女と別れて乗り込んだタクシーは、そのまま彼を拉致し、
意識が戻ったとき、彼は船室に寝かされていたのです。

何のために?誰が彼を?


そしてついにヒトラーは軍をノルウェーに侵攻させました。
デンマークを一日で陥落させ、易々と上陸してきたという形です。

チャーチルは元からノルウェーの占領を目論んでおり、
ドイツのに対抗して英仏軍を上陸させましたが、
ヒトラーに察知されて先を越されていたため、
精強なドイツ軍にフルボッコにされてしまいました。

この時のことを、チャーチルはのちに自伝で、

「我々の最も優れた部隊でさえ、活力と冒険心に溢れ、
優秀な訓練を受けたヒトラーの若い兵士たちにとっては物の数ではなかった」


と回顧しています。



メトカーフが連れ込まれたのは、ドイツの民間船でした。
映画ではいっさい説明されませんが、彼は
ブレーメン港に向かう船に載せられたようです。

別に縛られるわけでも虐待されるわけでもなく、本人も怖がる様子もなく、
ドイツ人船長とチクチク嫌味を言い合う様子は、色々と謎です。

大体、拉致までして一介のイギリス人記者を船に乗せる理由って?


そしていきなり場面は6週間後、どこかのイギリスの海峡に変わりました。
このとき、とんでもない部分がカットされていたことがわかりました。



6週間前、ドイツの船に乗っていたはずのメトカーフが、
このシーンではなんの説明もなくイギリス軍艦に乗っているのです。

そこで改めて映画のストーリーを検索したところ、実はこの6週間の間に、

「英国の軍艦がメトカーフを乗せた船を妨害し、彼を解放するが、
英国に連れ帰る前に、フランス北西部からの英国の撤退作戦、
エアリアル作戦を支援するため、彼を降さずにシェルブールに行く」

という出来事があった(けどカットされている)ことを知りました。
こんな大事な部分のフィルムをカットしてんじゃねー(怒)


まあそれはよろしい。よろしくないけど。
シェルブールではドイツ軍の総攻撃が始まっていました。


そこでメトカーフは、空襲で負傷し、瀕死で路上に寝かされている
新聞社の同僚、フランクを発見します。

「とくダネだ。フランス軍に奇妙な命令が出ていて、橋を爆破しなかった」

と妙なことを言って彼はそのまま息絶えました。
ちなみに、この「伏線」は映画の中では永遠に回収されません。

そこで一生懸命考えたところ、おそらくノルウェーの戦いで、
ドイツ軍がフランス侵攻した際、

「フランス軍に奇妙な命令が出ていて、
なぜか橋を二つも爆破せず残していた」


という意味かと思われます。

・・思われますが、それが本当だったのか、そんなことがあったのか、
そこから先は調査が追いつきませんでした。<(_ _)>


続く。


映画「嵐を突っ切るジェット機」後編

2024-04-05 | 映画

1961年度作品「嵐を突っ切るジェット機」後半です。

ところでこの映画の主人公を演じた小林旭について調べていたところ、
まだご健在だったばかりか、まさかのyoutubeチャンネルまでありました。

マイトガイチャンネルー小林旭YouTube

さて、劉の行方を追っているという刑事花山が去った後、
榊拓次は彼の名刺を破り捨てました。

兄を疑っているということが面白くなかったのでしょうか。


やばい商売で成り上がった麻薬商人、劉に脅かされ、
英雄はスタッフの一人、千石に操縦させて沖縄にブツを運ばせました。

何も知らない千石は、沖縄に着くと商店に立ち寄ります。
当時の沖縄はアメリカ領なので、お店では英語で接客してきます。

「May I help you?」

「ジャ、ジャパニーズマネー、OK?」

千石は子供のお土産を買いに来たのでした。
これは映画的には「フラグ」というやつです。

彼はこの後、劉一味のやばい話を聞いてしまい、コロコロされてしまいました。


こちら兄の英雄の場末のパイロット集団?溜まり場では、
自衛隊休暇中の榊がまたもや全員を相手に乱闘を始めました。

その理由ですが・・何度見てもわかりませんでした。
なんか怒ってるんですが、全員滑舌が悪すぎて何言いあってるかも不明なの。

おそらくきっかけは、チコが吹いていたトランペットを
拓次が取り上げて吹いたことじゃないかと思います。

なぜ拓次がそんなことをしたかは・・・わかりません。
まさか寂しかったからとか?



マキは榊の態度を諌めるついでにどうして自衛隊に入ったか聞くのですが、
その答えがこれ。

「飛びてえからだよジェット機で!それだけだい」

マキはそんな拓次が、要するにスリルに身を晒していれば満足で、
アクロバット飛行ができなくなるとイライラして喧嘩をする、
要するに子供だと激しくなじるのでした。

全体的に意味不明だらけのこの映画の中で、かろうじて
この可憐なマキさんのセリフだけが、いつもまともすぎるくらいまともです。



二人が言い争っていると、折しも暴風雨が吹き荒れ始めました。
全員が外に飛び出し、一丸となって嵐の中飛行機の係留作業を行います。


そして、台風一過の次の朝、榊拓次とはぐれパイロット集団の間には
すっかり同志としての連帯感が生まれていました。


その晩は全員でジャズバーに繰り出し、マキと榊は
モダンジャズの調べに合わせ、謎のフォークダンスで盛り上がります。



榊はチコと仲直りし、彼の指名でロイク(楽隊用語)バンドとセッション。
トランペットとサックスどちらもプロ並みってすごーい(棒)

ジャズ、バイオレンス、スピード、そしてジェット。
当時の若者が夢中になった(シビレた)ものを満載してみました的な?



とりあえずマキのお説教はこの短絡的な男に響いた模様。
しかしアキラ、こういう顔をしたら許されると思うなよ?


その頃英雄の会社「太平洋航空集団」には、ヤバい仕事と引き換えに
ボスの英雄が劉から受け取ったビーチクラフトが届いていました。

何も知らないスタッフは大喜び。


しかし経理担当のマキは、飛行機購入の資金などないことを知っています。
まともすぎるくらいまともな彼女は英雄を問い詰め、
弟の拓次も兄の様子が何か変なことに気づきました。

兄と一緒に沖縄に行った千石がなぜ帰ってこないのかも不思議です。


拓次は郵便物配布の仕事を引き受け、ついでに
千石の実家を訪ねてみることにしました。

ざっと1ダースの子供が生息している千石の家では、彼の妻が
子供を叱りつけながら彼が元気かどうか無邪気に訪ねてきました。

千石の生死について何か隠している。
拓次はこのとき兄の嘘に気づいてしまったのです。



このとき、英雄の会社事務所には劉とその部下が忍び込んでいました。

警察に追われていることを知って、逃げ込んできた劉は、
英雄を脅かしながらまず事務所に身を隠します。


そんなことを何も知らないマキは、劉の件で英雄を糾弾していました。

「誰から聞いた!」

英雄が劉とつるんでいることをマキに教えたのはチコでした。
二人の会話を物陰で聞いていたのです。

それを知った英雄がチコをタコ殴りにしているところに拓次登場。

理由を問い詰める三人に向かって英雄は弁明を始めました。

英雄と彼らの父が戦後窮地に陥っていたところ、
闇屋の劉が麻薬の運搬を手伝わせて恩を売り、弱みを握って
断れない関係をずるずると今日まで続けてきたのだと。

そしてここでまたしても兄弟で殴り合いが始まるのでした。
殴りながら拓次が兄にいいます。

「飛んでみろ!飛ばねえから腐るんだぞ!
くそお、叩き直してやる!飛んでみろ!
死んだ親父が言っただろう!空は一つだってな!
俺と一緒に飛んでみろ!負けねえぞ!

あんた、パイロットなら飛んでみろ!とべ!飛んでみろ!」

(セスナに兄を押し込もうとする)


そして号泣

うーん・・・よくわからない。
要するに犯罪に手を染めた兄を責めてるんだよね?
飛ぶとか飛ばないとか、責めるポイントここじゃなくない?

兄の英雄は、どんな手段を使ってもここを維持し、
はぐれもの集団に飛ぶ場所を与えたかったと叫ぶのですが、
それに対し弟は「違う!違うんだ!」と泣きわめいて、もうカオス。

そして場面が変わったらいきなり全員がシーン・・・となって、
英雄抜きでこれからどうするか話し合っています。

もう理屈で理解しようとしたら負け、そんな映画。



そのとき事務所の倉庫から出火しました。

劉が火をつけ、どさくさに紛れて英雄を拉致して連れ出し、
一挙に治外法権の沖縄まで逃走しようとしています。
そこから海外に高跳びしようというのでしょう。

劉は追ってきたチコに操縦させ、部下はめんどいので射殺して、
スペアの操縦士として英雄を拉致し、ビーチクラフトで飛び立ちました。

榊拓次はセスナでその後を追います。



そしてこの映画最大のツッコミどころ。
一人で劉を追ってきて2回撃たれても死んでいなかった刑事が、電話で

自衛隊の出動を要請するのです。

ちなみに自衛隊が出動要請できるのは、自衛隊法によると、

治安出動
警護出動
海上警備行動
破壊措置命令
災害派遣
地震防災派遣
原子力災害派遣

で、指名手配犯の逃亡を阻止、というのはどれにも当てはまりません。


セスナでは追いつかないと判断した榊は、即座に空自基地に乗り入れ、
嵐が来るっていうのにF-86に乗り換えて後を追おうとします。

皆が止めるところを無理やり強行突破しようとしていたら、
出動要請が間に合って、なんと基地司令のフライト許可が降りました。

ビーチクラフトに万が一追いついたとして、そこからどうするつもりだ。
戦闘機にできるのは撃ち落とすことだけだぞ。


しかしそんな心配をよそに、ビーチクラフトを追って
嵐を突っ切るジェット機

空自は、
「This time lost contact on my weapon」
を通信してきます。

操縦中目が見えなくなった(何の病気だろう。飛蚊症?)チコの代わりに
英雄が操縦して、レーダーにかからないように低空飛行したからです。。

嵐をつっきれなかった榊は、すぐさま空自基地に引き返し、
米軍の協力体制を取り付けたので行くなという命令を振り切って、
今度はT-33に乗り換え、ビーチクラフトを追うために飛び立ちました。

行き先が沖縄なら米軍に任せたほうがよくない?
なんかこれ、ただ本人が飛びたいだけなんじゃ・・・。

っていうか、空自が新型機を見せたかっただけかも。

そして驚くことに、鷹の目を持つパイロット、榊は、
はるか上空から、追っていたビーチクラフトが停まっている島を発見し、
すぐさま戦闘機が着陸できる滑走路を持つ飛行場に着陸し、次の瞬間

ジープかっ飛ばして、ビーチクラフトの場所に辿り着いていました。

この手際の良さ、さすが自衛隊出動要請されていただけのことはあります。


そこに目の見えないチコが、榊に駆け寄ってきました。

「ジェット〜!ジェット〜!」(初めて聞くけど榊のあだ名らしい)

なぜ彼は榊が来たのがわかったのでしょうか。
というかあんた目が見えないんと違うんかい。


榊はここで劉の一味から銃撃されたり、相手を拳で制圧したりして大暴れ。
マイト炸裂ってやつですか(意味不明)

しかしこの騒ぎの間、銃弾を受けた英雄は、すでに死にかけていました。

自らも傷つきながら駆け寄った弟に、彼が最後に言った言葉は・・。

「空は・・・そらは・・・ひとつだ」

がくっ。


♬パンパパーンパンパパーンパンパパンパパン!♫



えーと、多分これは自衛隊記念日かなんか?
榊は無事に空自のパイロットとして復帰しました。



マキさんからはチコの目も手術で治ると聞き安心です。
チコ、国民健康保険には加入していないと思うけど治療費大丈夫かな。



そのとき、フライトチームから声をかけられた榊は、

「マキ、俺のこと見てろよ!」

というやダッシュしてT-33(かしら)に乗り込み、



華麗なアクロバットを披露するのでした。

きっと彼の心には兄の「空は一つ」という言葉が
これからも生き続けることでしょう。知らんけど。



しかしこんな企画、よく空自の協力許可貰えたな。


終わり。


映画「嵐を突っ切るジェット機」前編

2024-04-02 | 映画

相変わらず精力的に自衛隊イベントに参戦しておられるKさんが、
ある航空自衛隊基地訪問イベントの後、現地で見つけたという
空自を扱った映画のポスターの写真を送ってくださいました。

世の中には、自衛隊を素材にした映画が結構あったみたいですね。
名作がなかったせいか、他の理由か、全く世に知られてはおらず、
わたしもそのどれもに見覚えがなかったのですが、
そのうちの一つがアマプラで観られることがわかったので、
ここで紹介させていただくことにしました。

1961年日活作品、マイトガイ(て何?)小林旭が、
アウトローな空自パイロットを演じた「嵐を突っ切るジェット機」です。

あーもう、このタイトルだけで駄作の匂いがプンプンするぜ。
タイトルとしてまず語呂が悪く、収まりが悪い。
名は体を表すという言葉の通り、名作は名作らしいタイトルを持ちますが、
このタイトルからは何のオーラも感じません。

当作品は2024年現在、奇跡的にAmazonプライムで視聴可能なので、
わたしには珍しく、今回はオンラインデータを元にログ作成しました。

挿絵も巷に流布している元画像の粗いポスターを参考に描いたため、
もはや小林旭に見えない誰かになった訳だが、まあ許してくれ。


さて、1961年日活作品、それだけで色々とツッコミどころありすぎですが、
とりあえず鑑賞において押さえておくべき時代背景は次の三つ。

1. ブルー・インパルスが発足したばかりの時期

2.  
 沖縄は返還されていない

3. 解決の手段としての暴力が社会的に容認されていた


まず1について。
「源田サーカス」で名を馳せた海軍パイロット出身の
あの源田實が航空幕僚長に就任したのが昭和34(1959)年。

空自のアクロバット飛行は、当初、アメリカ帰りのパイロットが
浜松基地で訓練の合間にクラブ活動的にというかこっそり行っていました。

就任した源田航空幕僚長は、自分の経験を踏まえ、これが隊員の士気向上と、
一般人を惹きつける宣伝効果に大いに役立つことから、
アクロバット飛行チームを制式化するよう推し進めます。

このことは、危険な曲技飛行訓練中万が一事故が起こった場合、
非公認のままでは補償が行われないということも考慮された結果でした。

2については、本作の「悪人」(第三国人)が、
地外法権の沖縄経由で逃げようとするというのが話の要となっております。


そして、3。
「すぐ殴り合いが始まる」

こいつが主人公の榊1尉(小林旭)。
この時代に1尉ということは、戦後浜松にできた航空学校の
初期の航空学生であったという設定なのだと思うのですが、
とにかくこの男のキャラがいかにも昭和のヒーロー。

最初のシーンでは浜松の航空記念日に空自音楽隊をバックに

 赤い雲 光の渦よ 青い空 成層圏を吹き抜けりゃ 
フライトOK視界でも 嵐を突いて 歌い抜いて
ジェット〜ジェット〜ジェット〜空を切る♬

という恥ずかしい歌を得意げに披露。
(そういえばマイトガイは本業歌手)

この頃は「ジェット」という言葉が時代の最先端で、
(あの名曲『ジェットジェットジェットパイロット〜』もこの時代)
ブルーインパルス隊長を演じる芦田伸介も、

ジェッツの魅惑を君にも味合わせてやりたいよ」

という、共感性羞恥で身悶えしたくなるセリフを言わされております。



そしてこの主人公、自衛官のくせにろくに敬語を使わない。
誰に対しても偉そう。すぐ「ちぇっ」とかいう。
なぜかサックスをプロ並みにこなす(ただし指はぴくりとも動かない)。
そして、何かというと人を殴る。理由より先に手が出る。足がでる。

というわけで、この映画、筋書きが全く頭に入ってこないんです。
何かあると殴り合いが始まって、そのシーンが無駄に長いので、

何のために殴り合っていたのか終わる頃には忘れているという・・。

ちなみにこの時代には「ハラスメント」なんて言葉毛ほども存在してません。

夕焼けの河原で不良同士が殴り合って傷だらけで倒れるも、
顔を見合わせた次の瞬間熱い友情が生まれていた時代です。

軍隊の鉄拳制裁は、敗戦と民主化を経てもまだ根深く残っており、
学校で教師が体罰をしても誰もがそれを当然と思う、それが昭和でした。



本作の数少ない見どころは、空自全面協力による
初代アクロバットチーム、F-86セイバーの飛行シーンです。

おそらく、航空自衛隊としては、この映画によって、
アクロバットチームの魅力が世間に認知され、あわよくば
入隊志願者も増えることを期待して制作に協力したのだと思います。



オープニング早々、セイバーのアクロバット飛行が始まります。
もうすでにこの頃チーム名称は「ブルーインパルス」となっていました。


ところがいきなり隊長機が墜落。
ちなみにこれ芦田伸介(当時53歳)演じる杉江二佐です。



アキラ、びっくり。
わたしもある意味びっくりですよ。
航空自衛隊の広報映画で初っ端にブルーインパルス墜落って。



そして、自衛隊上層部はこの事故を受けてアクロバットチームを解散。
「国民の税金を使うからには無茶できない」が理由です。


物分かりの悪い上層部へのやるせない怒り。
榊1尉は、セイバーのインテイクに向かって思わず咆哮するのでした。

「ばかやろ〜!(×4回)」

しかし、インテイクからは何の答えもありません。
あたりまえだ。

それどころか上に喰ってかかったことで金沢基地に転勤決定。
浜松→金沢は左遷ってことでOK?



ここでも「暴れん坊」榊1尉は無茶苦茶やりまくり。

無断でアクロバット飛行して罰金(って制度自衛隊にある?)、
しかも何度もやりすぎて罰金が払えなくなり、代わりに床掃除。

ヘラヘラした態度がなってないと水をかけてきた同僚(一緒に左遷された人)
と殴りあいをして、ついに基地司令の呼び出しを喰らいました。


司令は彼に10日間の飛行停止と「休暇」を命じました。

どうもこの二人の様子を見るに、これは「温情判決」らしい。
榊はほくそ笑み、司令は彼が出て行ってから部下と苦笑い。


榊は休暇中、彼の兄が経営するセスナを扱う飛行機会社で、
亡くなった杉江二佐の妹、マキの手伝いをすることにしました。

マキを演じているのは浅丘ルリ子?と思ったのですが、当時人気で、

5年間だけ活動し、結婚を機にあっさり芸能界から引退してしまった、
笹森礼子という女優さんです。


飛行場に着くと、榊はどういう経緯かここでパイロットをしている
元米軍の副操縦士、チコが目薬を差しているのを見て、
大丈夫か聞くのですが、その時無神経な榊が、よりによって彼を
「黒ちゃん」呼ばわりして怒らせ、殴り合いが始まります。

黒ちゃん・・アウトー。



しかしマジな話、こんな米軍の黒人パイロット上がりっていたのかな?

タスキーギ・エアメンも1948年には解散していたし、
海軍の黒人パイロットが最初に誕生したのは朝鮮戦争の時、
ジェシー・ブラウンという人だけだったというし・・・。

ジェシー・ブラウン/彼を主人公にした映画が現在制作中

副機長ってしかも士官だったってことでしょ?
だったらなぜ日本なんぞでこんな怪しげな仕事を?・・ないよなあ。

さて、チコは目の調子が悪いのではと疑う榊とマキを振り切って、
ビーチクラフトでビラまき(当時はそんな仕事があったんですよ)
に飛びますが、突如目が見えなくなり(おいおい)着陸に失敗。


さっそく運輸会社社長の榊の兄(戦時中は戦闘機乗り)が飛んできて、
チコの無事を確かめるより先に、馬鹿野郎と罵り、何発も殴打するのでした。

絵に描いたようなパワハラ。
さすがは元海軍戦闘機乗り。鉄拳制裁のDNA健在です。

兄の仲間というか手下として集まってきているのは、チコ以外にも
全てがいわゆる「パイロット崩れ」の半端者ばかりでした。


彼はこの半グレ集団を何とか食わせていくため、必死なのですが・・。



その兄、英雄(葉山良二)は、戦後闇屋上がりで財を成した三国人、
劉昌徳から、昔手伝わされたやばい仕事をネタに恐喝&買収されていました。

映画では「三国人」と何回も言っているのですが、この名前は中国系。
三国人の解釈は色々あるようですが、この映画では単純に
「非日本人」という意味で使われているようです。

劉は警察に睨まれている自分の代わりに、英雄に
何か(多分麻薬)を運ばせようとしているのでした。


そんな劉の動きは当局にもつかまれていました。
この刑事は、英雄と「同期」なんだそうです。

なんの同期だろ。海軍かな?

聞き込みに来た刑事に、榊拓次は太々しく、

「あんたデカさんだね?」

すると刑事も仲間を劉に二人やられていることを打ち明けついでに、

「君は自衛隊員だから(警察である俺とは)兄弟みたいな間柄さ」

それは・・・どうかな。

榊、この刑事の来訪と捜査の目的が気に入らんらしく、激昂して
刑事の胸元を小突き、あわや公務執行妨害になりかける始末。

このキレやすさ、戦後の食糧不足でビタミンが欠乏しているに違いない。

あらためて思う。
この映画の主人公が自衛官である必然性はどこに?

続く。


映画「海兵隊魂とともに」Salute to the Marines 後編

2024-03-09 | 映画

第二次世界大戦中のプロパガンダ反日映画、
「海兵隊魂とともに」=「海兵隊に敬礼」最終日です。

フィリピンで日本軍の攻撃が始まるところからですが、その前に
映画のオリジナルポスターを見つけたので見てください。


ポスター上部の「Rough! Romantic! Rarin' to go!」ですが、
標語風に訳すなら、
「痛快!ロマンチック!やる気満々!」
って感じでしょうか。

raring to goは「やる気と熱意に満ちている」という意味です。
一言でやる気と言っても、元々ハイテンションの馬を表す言葉なので、
今にも駆け出しそうな「やる気」の時に用いられます。


さて、実際は違いますが、この映画による時間軸では、
真珠湾攻撃と全く同時刻、日本軍はフィリピン爆撃を開始しました。

引退したばかりの海兵隊曹長、ウォレス・ベイリーが
日曜日、現地の教会にいるところにも、爆撃は行われたという設定です。

真珠湾攻撃より先にフィリピン攻撃があったことになりますが、
そこは映画だから言いっこなしだ。

航空機から爆弾を落とされ、教会の屋根が崩落します。
このシーン、本当に役者の上から砂埃などが容赦なく降り注いでいます。

どうやって撮影したんでしょうか。


日本軍による容赦ない爆撃が始まりました。

しかし、軍事基地もない村に爆弾を落として一般人を殺害するなんて、
この世界の日本軍はなんと無駄で無益な攻撃をするのでしょうか。

ちなみに、この教会のあるとされるバリガンという地域ですが、
実際に日本軍が到達したのは12月の12日以降であり、

それも陸軍による上陸作戦であり、航空攻撃はありませんでした。

そもそもアメリカ領フィリピンには日本軍の航空基地もありませんでしたし。


ここで映画は驚くべきストーリーをぶち込んできます。

村に日本軍の爆撃が起こった途端、ドイツ人キャスパーの薬屋の倉庫に
日系人のヒラタなど何人かがやってきて、隠してあった鉤十字と
旭日旗の腕章(そこは鉢巻だろう)をいそいそと付け、

「ついにこの日が来た!」

「ハイル・ヒットラー!」

(敬礼してお辞儀しながら)

「ニッポン!ボンザーイ!」

などと内輪で盛り上がり、武器を取って上陸部隊を支援しようとするのです。

ごめん。悪いけどここ笑ったわ。


キャスパーは地元の薬屋店主、ヒラタは放送局会社のオーナー。
どちらも何世かはしりませんが、立派な外国系アメリカ市民です。
そんな彼らが、ハズバンド・キンメル司令ですら知らなかった

日本軍の奇襲攻撃を前もって知っていて、今か今かと待っていたとでも?

アメリカ国民として地元に溶け込み、そこで生活しながら、
いつか日本軍がアメリカ人をやっつけてくれるのを待っていたとでも?

執拗に繰り返される「猿」という言葉、相手を人間以下に貶める表現、
そして、善意のアメリカ人たちを裏切る悪魔として描かれる敵国人。


こういう表現による刷り込みこそが、同じアメリカ国民であるはずの
日系アメリカ人や独系アメリカ人に対する排斥と排除の空気を醸成し、煽り、
それが日系人強制収容所の悲劇を生んだことは間違いありません。


ベイリーらが瓦礫から外に生きている人を運び出していると、
外で誰かの演説が始まりました。


フィリピン人に向かって、アメリカの支配から解き放たれろ!
とヒットラー風(もうこういうのうんざり)アジ演説を行うキャスパー。


一部のフィリピン人は、彼の「我々は友人だ」と言う言葉に
んだんだ、と頷きますが、(多分アメリカの支配をよく思っていない層)



ベイリーは怪我した子供の身体を抱いて見せつけながら、キャスパー、いや、
ハインリッヒ・カスパールをお前は薄汚いネズミだと罵ります。


いやそこは子供の手当が先だろう。




その後、拳銃を取り出した彼を瞬時に制圧。

さすがは腐っても元海兵隊員だ。


泥の中に叩き込み、ここは俺が守る!と今度は自分が演説。


民兵を率いて駆けつけてきたアンダーソン伍長と合流。
ジェームズとはヘレンを取り合って負けた海兵隊上陸部隊の士官です。

はて、引退した元曹長が若いとは言え士官に命令を下せるのか?



そこにルーファス・クリーブランド中尉がヘレンを探しにやってきます。
あんたついさっきまで哨戒任務で飛行機に乗ってたん違うんかい。



案の定、ベイリーに基地に戻ってここのことを伝えろ!と怒鳴られたので、
その辺に駐機していたコルセアに飛び乗って行ってしまいました。

ちょっと待って?
このコルセアの後部座席って、さっき死んだ部下がまだ乗ってるよね?



同時刻、先日入港した日本の民間船からは、士官の命令のもと、
続々と日本兵部隊が上陸していました。


形は似ていないでもないけど、色が全然違ってるんだが。
当時、白黒写真を参考にしたせいかしら。



司令は海軍軍人、兵隊は陸軍、揚げている旗は海軍旗。

もうカオスです。



お辞儀をしながら同時に敬礼をし、理解不明な言語を叫んでおります。



「マスタードイエローのサル」を待ち伏せしていたベイリーのもとに、
子供が海兵隊のブルードレスを持ってきたので、早速着込んでいます。

「贅肉の塊がテントサイズの制服を着ようとするのを見たら、
誰も海兵隊に入ろうとは思わなかっただろう」

と、元海兵隊員に言われていたあのシーンね。



そこに謎の軍旗(白地に黒の山線)を持った並行世界の日本軍が!
彼らはフィリピン人民兵の狙撃の前にほぼ無抵抗に薙ぎ倒されます。



バリガンの橋では、村人の避難が始まっていました。



ベイリーらがジェームズ隊と合流し、橋の袂で待ち構えていると、
日本軍がやってきました。

彼らはしきりに日本語らしい言葉で色々と喋っていますが、
日本人のわたしにもまっっったく理解できませんでした。



彼らはジャングルの中に潜む現地人の「蛮刀」によって、
木の上から襲われ、声もなく惨殺されていきます。

この映画から20年後、今度は自分たちが、ベトナムのジャングルで
ベトコン相手に全く同じ恐怖を味わうことになるとは

映画を観ている誰も想像だにしていなかったことでしょう。



両軍間に銃撃戦が始まりました。


陸軍は航空機に救援を要請、たちまち日本軍のヴィンディケーター()
が駆けつけ、敵味方入り乱れる戦場に無分別な爆撃を開始。



今や全軍を率いるベイリー隊は橋のたもとに到着。
彼はここを死守し、一歩も村に敵を入れさせない覚悟です。



ところがその前線となるべきポイントになんと妻ジェニーがいました。
彼女は怪我人の救護をしていてここにきてしまったそうです。

そこであらためて夫の軍服を素敵だと褒める妻、微笑む夫。



こちら、どちらが突撃するかで即席のくじ引きで決める兵隊二人。
どんなときにも米海兵隊は余裕を忘れません。


日本軍はこの珍妙な戦車を大量に投入してきました。
真珠湾攻撃当日にいったいフィリピンのどこから上陸させたのか。

しかし、目も眩むような急斜面を難なく高速で降り、走行できる、
見かけよりはずっと性能のいい戦車のようです。

そして戦車は逃げもしないで地面に寝そべったままの

無抵抗なフィリピン兵を、つぎつぎと容赦なく押し潰していくのでした。

なんて冷酷非道で残酷な連中なのでしょうか。



その頃ようやく海兵隊本部から大佐が到着していました。
もちろん背後には一個師団の上陸隊を率いています。


海兵隊の砲撃がおもちゃのような日本軍の戦車を撃破。



その間工作部隊は橋を爆破するための準備にかかりました。



しかし、次々と狙撃されてしまいます。
その中にはヘレンのボーイフレンドだったジェームズ中尉もいました。


そこでベイリーは単身狙撃ポイント近くまで近づき、
相手を無事殲滅しました。



ベイリーには橋を渡って撤退するよう本隊から命令が出されましたが、
時すでに遅く、彼らはこのとき四方を囲まれていました。

「ここから動けなくなったな」

すると奥さんは怪我人に包帯を巻きながら、軽ーく

「命令違反よ」

それを聞いて、ベイリー、

「こんなときにもユーモアを忘れないんだな」

肝の座った嫁に賞賛を送るのでした。



大佐はベイリーからの最後の通信を受け取ります。

「撤退不可能 命令には従えない」



やむなく大佐は橋の爆破を命じました。



上空からはコルセアの編隊が援護に駆けつけ、
日本軍は撤退を始めました。


ようやく戦いを終えたフィリピン人たちを前に、ベイリーは、
次の戦いに備えよと訓示をして彼らを解散させました。

そして、呆然としているジェニーの手を取り、見つめあった途端、
またもや飛来したヴィンディケーターが、爆雷を落としていったのです。

二人の上に。

爆弾は周囲を巻き込んで黒い煙で全てを覆い隠しました。


■ エピローグ



その日、海兵隊基地では、基地司令たる大佐によって、
不在のウィリアム・ベイリー元曹長に対する勲章の授与式が行われました。

受け取るのは、娘である合衆国海兵隊軍曹、ヘレン・ベイリー。
なぜ最近まで一般人だった彼女がこんなすぐに軍曹になれたのかが謎ですが。


壇上の彼女の手にキスをして、クリーブランド大尉は、

「またいつか会う日のために、このキスを持っててくれる?」

といい、ジープに乗っていってしまいます。
帰らないかもしれない戦いのために。



彼女はそれを逃すまいとするかのように手を握りました。


彼女の偉大な父の叙勲を讃えるための行進が、
「海兵隊讃歌」の中、進んでいきます。

「モンテズマの部屋からトリポリの岸辺へ
我らの祖国のための戦いに挑む 空で、陸で、海で
正義と自由のため 最初に戦う
我らが誇りとするその名は 合衆国海兵隊」




終わり。


映画「海兵隊魂とともに」Salute to the Marines 中編

2024-03-06 | 映画

第二次世界大戦中の反日プロパガンダ映画、
「海兵隊に敬礼」の二日目です。

30年間戦地に出ず、ただ新兵の訓練任務専門にやってきて、
無事にその現役生活を終えた曹長、ウィリアム・ベイリー。

2度と軍事には関わらないことを妻と約束し、家庭に戻り、
これからは悠々自適のリタイア生活、となるはずでしたが、
どうにもこの男、そんな生活に馴染めそうにありません。


暇な時間、こっそり近所の子供を集めてボクシング教室を開催。
なぜか奥さんに取り上げられた海兵隊のブルードレスを着込んでいます。
この際制服を着て号令をかけられたら相手はなんでもいいって感じ。

どうも彼的には海兵隊の英才教育をしているつもりです。



子供相手にドイツ兵と戦った華々しい戦歴(大嘘)を披露していると、



見張りが合図の口笛を吹くと同時にご近所の奥様方がやってきました。
慌てて上着を脱ぎ、話題を聖書に切り替えて誤魔化しますが、
子供たちが怪我をしていたり泥だらけなのを見れば何をしていたか歴然。

怒った母親たちは子供たちを連れていってしまいました。


ジェニーもそんな夫にほとほと呆れ顔です。
海兵隊を辞めさせて連れ帰ったことを後悔している、とまで・・。

■ 日本船の入港



村の港に日本からの定期船が入港しました。
フィリピンとの通商を行っている会社の民間船です。



日本と聞いて、露骨に「ジャップは嫌いだ」と嫌な顔をするフラッシー、

ジャップスと仲良くなんてできるかと苦虫を噛み潰したようなベイリーに、
この、ドイツ人の薬屋店主キャスパーは、
人類皆兄弟、仲良くせねばとリベラルを解きますが、

「奴らの顔を見るだけで鳥肌が立つ!」

とベイリー節全開。



港では日本人船員たちが本格的な剣道を始めました。
(しかしそう見せているだけで、全くのインチキ剣法)

彼らの様子といい、乗ってきた船が見るからに丈夫そうなことといい、
ベイリーはわずかに不信感を抱きます。



子供たちにせがまれたベイリーは、
「オロセ!オロセ!」と怪しい日本語で号令をかけている船員に
船の中を子供たちに見せてやりたいんだが、と頼むのですが、



「ソー・ソーリー」

と断られます。
ムカついたベイリー、よせばいいのに、

「ここはアメリカの港で俺はアメリカ人だ!
止められるなら止めてみろ!」
(ちなみにここはアメリカの港じゃないよね)

と無茶を言って強行突破しようとし、一突きで転がされて、



船上の日本人船員たちに笑われてしまいました。
ベイリー、日本人船員に、いい攻撃だな、というと、



「日本の得意技だ。奇襲だよ」

これが真珠湾後のアメリカでどういう意味を持つかお分かりですね。



ベイリーは握手するふりをして日本人を海に叩き込みました。
これがアメリカの奇襲だ、と勝ち誇って。

「止められるなら止めてみろ」という言葉を受けて、
日本人船員は強行突破しようとするベイリーを止めた。
それは公平に見て、「奇襲」とはいいません。


逆に握手するふりをして投げ飛ばした彼のやり方こそが
本当の「卑怯な奇襲」だと思うんですが・・・。

さて、港からその後何事もなかったかのように無事に帰ってきたベイリー。


「サルどもに笑われたくない!」

などと悪態をつきながらフラッシーに腰を揉ませていると、
街で噂をすでに聞きつけた妻がおかんむりで帰宅してきました。


しかし相変わらず娘はニヤニヤして父を庇うばかりです。

ここでも相変わらず「サルのジャップス」を連呼し、
自分の行動を正当化するベイリー。


そこに運良く?ヘレンを狙う取り巻き二人が乱入してきて、
家族の前で陸空で相手の貶し合いが始まりました。

相変わらずヘレンはヘラヘラととっても楽しそう。


その夜も、二人の男の腕にぶら下がってデートに出かけました。

それにしてもこの女、いつまで男二人を引っ張るのかと思ったら、
この日、初めて意思表示をしました。

ジェイムズの目の前でルーファスにキスしようとするという最悪の方法で。


流石にそれを黙って見ているわけにはいかないジェイムズ、
すんでのところで二人のファーストキスを阻止しました。

「明らかに劣勢で戦況が悪い時には退却すべし」

この勝負、歩兵の負けです。



プライドをズタズタにされたジェイムズがその場を去ると、
二人はゆっくりと愛を確かめ合います。
あー胸糞悪い。


ウッキウキで帰ってきた娘に、母は本心を打ち明けました。
軍人との結婚はできればしてほしくないと。

しかし、そういいながらももう一度娘の歳に戻ったら、
やはり自分はあの人(ベイリー)と結婚する、ともいうのでした。


そして12月7日がやってきました。

この日はアメリカ人にとって真珠湾攻撃として記憶されていますが、
フィリピンの1941年12月7日は、まだ「その日」ではありません。

映画関係者がうっかり揃いだったのか?
それとも時差も知らないバカ揃いだったのか?

と思いがちですが、まず、一般大衆向けのこの映画では、
正確な日付を示すより、皆が記憶する屈辱の日として
これから起こることを表す方が大事だと判断されたのかもしれません。

そして何より、たとえ事実と符合しない表現になっても、
フィリピンで12月7日が「その日」でなければならなかった理由があります。
それは、その日が暦の上では日曜日であったからでした。

真珠湾攻撃が起こったハワイではアメリカ時間12月7日は日曜日で、
多くのアメリカ人は教会に向かったり、教会にいました。

ちばてつやの戦争漫画「紫電改のタカ」で、
主人公の強敵となった
ウォーホーク乗りジョージとトーマス・モスキトン兄弟も、
一家揃って教会に向かう途中の車を日本軍機に掃射され、
両親と妹、弟、赤ん坊を失ったというストーリーだったと記憶します。

彼らにとっては「教会にいるところを襲われた」という事実が
敵の残虐さをより一層際立たせるファクターだったのだと思わせます。

■ 日本軍の奇襲

さて、12月7日の日曜日、ベイリー家は教会に行こうとしていました。



そこにベイリーが「ワシントンの塔にサルが登ろうとしている」と、
ハル-来栖大使の会談を報じる新聞を振り回しながらやってきます。



野村・来栖大使とハル国務長官の会談が行われたのは
12月7日ではなく11月27日であり、そのときに手交された
「ハルノート」は、実質日本を追い詰める「最後通牒」でした。

これを飲むことすなわち「座して飢え死にを待つ」ことになるほど
一方的なものであったことは後世の検証により明らかになっています。

しかし、映画ではとにかく日本が表向き握手を仕掛けながら
同日一方的に奇襲をかけてきたということにしています。

港でベイリーが日本人船員にやったように。

ただ、この映画が公開された頃、大衆にとって政治的公平性の有無など
全く無意味で必要とされていなかったことも知る必要がありましょう。


同時刻、ヘレンを恋敵から奪うことに成功したクリーブランド中尉は、
機嫌良く鼻歌を歌いながらフィリピン上空の哨戒任務についていました。



そこに真珠湾攻撃を知らせる衝撃の打電が入ります。



同時に日本機の編隊発見!
って、デジャブかしら。このヘンな日本軍機、見覚えがあるんですが。

んーとこれは確か「ファイナルカウントダウン?」

今、過去ログ「ファイナル・カウントダウン」を検索して読んでみたら、
この珍妙な日本機に対してわたしはこんなふうに突っ込んでました。

(映画制作の)1980年当時、零戦の写真を手に入れることくらい、
その気になれば、いやその気にならずともいくらでもできたと思うのですが、
なんなのこのどこの国のものでもない不可思議な模様の飛行機は。
やる気がなかったのかそれとも故意か。


この映画を選んだ、おそらく最大と思われる収穫は、

映画「ファイナルカウントダウン」が、よりによって、
1942年の戦争中に製作されたインチキ映画からフィルムを流用していた、
というとんでもない手抜きが判明したことでした。

この日本機は、当時ですら旧式だったアメリカの急降下爆撃機、

ヴォート・ヴィンディケーター
 Vought SB2U Vindicator

を、きったねえ色に塗装した代物です。


ちなみにこの「ヴィンディケーター(擁護者の意)」
ドーントレスができるまでのつなぎ的存在で、パイロットからは
「バイブレーター」とか「ウィンド・インディケーター」
(風向指示器)とかいわれて馬鹿にされていました。

1943年当時では、日本軍がどんな戦闘機に乗っていたか、
要するに誰も知らなかったと言うことでもあります。

しかし1980年作品の『ファイナル〜』がなぜこれを使ったかは未だ謎。


さて、クリーブランド機は日本機を撃墜しましたが、
後席の射手はやられてしまいました。(ここ覚えておいてね)

仕返しとばかりにもう一機を撃墜したクリーブランド、
ジャングルに落ちていく日本機を見ながら、

「祖先がいる森に帰っていくぞ!」

まあ、当時白人が黒人に対してどんな扱いをしていたのかを知っていれば、
黄色人種に対するこんな表現も至極当然かもしれませんが。




その時、日本軍の編隊は村の上空に差し掛かっていました。



上空から聞こえる爆音に皆不安そうな目を向けます。



何かを察している風のベイリー。

さあ、これから何が起こるか?
もちろん皆さんはご存知ですね。


続く。



映画「海兵隊魂とともに」Salute to The Marines 前編

2024-03-03 | 映画

原題は「Salute to the marines」なので、「海兵隊に敬礼」のはずですが、
なぜか日本でのDVDでのタイトルは「海兵隊魂とともに」になっています。

「海兵隊に敬礼」でなにがいかんかったのか。


当ブログでは連続して白黒の映画ばかり取り上げてきたので、
久しぶりにカラーで絵を描いてみたい気分になり、
「Uボート:235強奪作戦」を取り上げようと観てみたら、
あまりにくだらなくて悪食を自認するわたしですらその気を無くし、
次に見つかったカラー作品なら何でも、と適当に選んでしまいました。

しかし、この作品も観はじめてすぐに、不快感を感じました。

まず、この主役の不細工さです。
デブデブしたしまりのない体型、たるんだ顎、
現役の海兵隊員がこんな酒太りなわけあるか!

■ ウォレス・ビーリーという俳優

映画サイトで、元海兵隊員という人がこんなコメントを残しています。

「ウォレス・ビーリーは海兵隊員ではない。なんてだらしないんだ。
まるで贅肉に贅肉を重ねたような身体、一等軍曹役とはとても信じられない」


「ウィリアム・マンチェスター(『ジョン・F・ケネディ』の伝記作家)は、
映画『トリポリ魂に乾杯』”To the shore of Tolipoli ”の洒落た軍服を見て、
そのあまりのかっこよさに魅せられ、海兵隊に入隊した。
彼が観たのがウォレス・ビーリーがテントサイズの制服を着ようとして
格闘しているこの映画だったら、やめて沿岸警備隊に入隊していただろう」



ウォレス・ビーリー(Wallace Beery)は、1913年のデビュー後、
コメディ映画、歴史映画に出演して悪役、性格俳優として人気を博し、
1930年ごろには世界で最も高給取りといわれるほどでしたが、
おそらくはその人間性のせいでこの映画の頃の人気は低迷していました。

「人間嫌いで周りからも一緒に仕事をしたくないと嫌われており、
彼のことを『Shitty Person』と呼ぶ俳優もいた。
セリフを研究することなく代わりに他の俳優の真似をして、
それを指摘されると逆ギレすることは日常茶飯。

別の俳優がクローズアップになるとき、彼はセリフを間違えて
その俳優の演技を邪魔したりした。
『誰からも嫌われていたが、幸いなことに無視されていた』」


17歳のグロリア・スワンソンと結婚して妊娠中に騙して中絶薬を飲ませ、
3年後に愛想を尽かされて離婚されていますし、
死の間際まで彼の子供だと自称する人との裁判が続いていたそうです。

俳優テッド・ヒーリー(三馬鹿大将の一人)を喧嘩で殴って死なせ、
それをもみ消したという黒い噂もあります、

その他彼をクズ認定する証言は、スタジオセットから小道具を盗む、
子役を執拗につねったり演技の邪魔をして嫌がらせし、怖がらせる、
チップを払わない、サインを求めた子供を罵り、唾を吐きかける・・・。
(それを証言したのはあのSF作家レイ・ブラッドベリ)

彼はその功績から1960年にハリウッドの映画の殿堂入りしましたが、
功労者須く人格者ならずの典型だったようですね。

■ 反日プロパガンダ

そして今回、映画をブログのために何度も観るのはわたしにとって
大変な不快感と苦痛を乗り越えなくてはならなかったことを告白します。

その不細工で観るからに人品骨柄卑しそうなおっさんが、
数分おきに口汚く日本人への人種差別発言を繰り返すのですから。

これが戦時中に制作されたプロパガンダ目的であることを差し置いても、
その表現は下品で何のユーモアもなく、従来の戦争映画ヒーローならば、
脚本家はまず主人公のセリフとして選ぶまいという種類のものです。

どうして海兵隊の宣伝映画にこんな主役を選んだのか、
わたしは海兵隊宣伝部の意図を図りかねますが、
それでも考えてみると、この時期、アメリカはかなり焦っていたんですね。

まず、映画で描かれた日本軍のフィリピン侵攻ですが、ご存知のように
アメリカ軍はダグラス・マッカーサーの失策で負けているわけです。

戦前からアメリカの植民地だったのに、ダバオ、マニラ、
バターン、コレヒドール、ミンダナオとアメリカは次々降伏し、
マッカーサーはアイシャルリターン逃走。

フィリピン戦での兵力の損害は日本側戦死行方不明4,417名に対し、
アメリカ側は約2万5000人が戦死、2万1000人負傷、捕虜8万3631人でした。

というところで、先に説明しておくと、この映画は、真珠湾攻撃に続き、
フィリピンに侵攻してきた日本軍を、この元海兵隊の太ったおじさんが
退役後にもかかわらず、民兵を率いて食い止めて死ぬというストーリーです。

もうおわかりですね。

この映画は、真珠湾、フィリピン陥落に沈む国民を鼓舞するのが目的で、
たとえいっとき負けてもアメリカにはこんな海兵隊魂を持つ人物がいる限り
決してくじけはしない、という強いメッセージが込められているのです。

主人公のベイリーが、劇中なん度も言い放つ「黄色い猿」などの表現に、
この映画は当時ですら米国内から品格の点からの批判があったそうです。

しかし、この種の発言は、おそらく当時のアメリカ人にとって、
閉じた場やその人の「品性」によっては日々聞くものだったでしょうし、
(そして今でさえ、アメリカに住んでいると同種の”声”を見聞きする)
自分は立場上決して口にできない「内心の声」が言い放たれるのは
一定の数の民衆にとってはさぞ快感だったでしょう。

そして、当時の「良識派」が眉を顰めるようなこうした発言も、
クラーク・ゲーブルやケリー・グラントには決して似合いませんが、
このおっさんなら遠慮なく言わせられるし、事実いかにも言いそうです。

ところで数えたわけではありませんが、作品中彼がサルと口にするのは
両手で数えられるほどの回数にのぼります。
しかし、その本人は、彼が唯一頭の上がらなかったおばちゃん喜劇俳優、
マリー・ドレスラーMarie Dressler を調子に乗ってイジり、

「あのヒヒ(baboonからナンセンスな侮辱をされた。
あいつの頭を大皿に乗せて(MGMのトップに)突きつけてやる」

と激怒されたことがあり、この時の彼はこの女優に対し、
イタズラを見つかった小さな子供のように何も言い返さず沈黙したそうです。

人は自分が気にしていることを言ってしまうものだそうですが、
もしかしたら、この耳に余る「猿」も実は・・・?


で、当ブログがなぜ結局そんな映画を取り上げることにしたかですが、
最初に選んだ「Uボート:235」のラストに見られる
「政治的無自覚・無神経」に対する不快さと、この作品の人種差別表現では、
こちらの方が悪意があるだけマシというか、我慢できると判断したからです。

(その詳細については各映画評などでお確かめください)


■ 海兵隊讃歌

それでは始めます。
オープニングから早速流れるのは「海兵隊讃歌」。



地球の隅々に赴き、名誉ある戦いを行ったアメリカ合衆国海兵隊に対し、
文字通り「敬礼」を捧げるところから映画は始まります。


1943年、ここはアメリカサンディエゴの海兵隊基地。



合衆国国旗が掲揚されました。
今日はこれから上陸を模した演習が行われる予定です。



視察をする高官たちがビューポイントに到着するとまず歩兵の上陸。



戦車も舟艇から下ろされます。



水陸両用車が現在のものとほとんど同じ形なのにびっくり。



そして空中からは空挺部隊が落下傘で降下。



成功裡に終わった演習後、司令官が訓示で一人の軍人の紹介を始めました。
それが本作主人公のウィリアム・ベイリー軍曹です。



「諸君と同じ訓練を受け、同じ闘志に燃え、不屈の精神を持った男だった」

そしてここから、彼の物語が始まります。



1940年、フィリピン。
海兵隊勤務29年のベイリー軍曹が新兵訓練を終えて帰隊してきました。


ベイリーは帰ってくると、ボクシングの選手である
フィリピン人部隊のフラッシーと挨拶を交わします。

当時、アメリカ軍は、陸軍の軍事組織としてフィリピン人部隊、
「フィリピン・スカウト」を組織していました。
1901年にはすでに現地で編成された軍として機能を始め、
優秀な人物はウェストポイントに送られて、士官に任官しています。

この駐屯地で曹長はボクシングのマネージャーも兼任していました。



そこに大佐からお呼びがかかり、泥だらけで司令室に飛んでいく曹長。


大佐と共に彼に面会を求めてきたのは、
フィリピン軍の「陸軍長官」でした。

フィリピン師団は全てマッカーサー元帥の指揮下にありましたので、
陸軍長官という役職名が正しいかどうかはわかりません。
アメリカ陸軍隷下の軍組織を総称して「陸軍」と言ったのかもしれません。

長官の用事というのは「フィリピン独立法」によって間近にせまった独立後、
国防を強化するために、市民を軍事訓練してほしいという依頼でした。


映画ですから仕方ありませんが、この依頼がそもそも少し変です。

アメリカは前述の通りフィリピン・スカウトなる軍隊を組織し、
支援してきたわけですから、今更海兵隊に一部の市民を軍事訓練せずとも、
と思いますし、そもそも自警団みたいなのって普通にあったんじゃないの?

フィリピンはただアメリカ軍に守られているだけで
独立後はただ脆弱なもの、という印象を観るものに与えますが、
独立しても映画で言っているように海兵隊がいなくなるなんてことないよね?

現にアメリカは1946年のフィリピン独立後も軍の駐留を継続し、
東南アジア全域での軍事プレゼンスを維持し続けるために
軍事基地協定で99年間の基地提供を約束させています。

フィリピンはその99年が過ぎたとき、協定を破棄し、
アメリカ軍はフィリピンに軍隊を派遣できないとしましたが、
その辺に言及していると話が長くなるので割愛します。



ベイリー軍曹は、これまで新兵の訓練を専門にやってきたそうですが、
今回自分が訓練するのがフィリピンの一般人と聞いて激おこ。

「フィリピン人は小さすぎて(Little fellers)戦闘なんかできませんよ」

いやいや、だからフィリピンスカウトの立場は?
しかもこのメイソン少佐までが、

「神は彼らに良い心を与えたが体には気を配らなかった」

だから当時すでにフィリピンスカウトは米軍の一部として連隊に編成され、
4つの歩兵連隊、2つの野戦砲兵連隊、騎兵連隊、
沿岸砲兵連隊を組織し、支援部隊もすでにあったんですってば。

まあその辺は映画だからどうでもよろしい。

ここでベイリー軍曹は、彼の本音をぶちまけます。
彼はもうすぐ海兵隊を退役するのですが、新兵教育ばかりさせられて、
彼らが戦場に赴くのをただ見送るだけ、ついには全くの勲章もなく、
扁平足と大声になっただけで終わるのが口惜しいのです。

というわけで、

「今訓練している第一大隊を戦地で率いさせてください!」



いや、それは・・・無理だよね。指揮系統的にも。
だいたい、曹長が自分の配属を司令官に願い出るなんてありえなす。
少佐は目を泳がせながら、

「・・それではわたしが任務を命じられたら君も一緒に」


■ 民間兵訓練



命令は命令なので、ベイリー軍曹、スービックで早速訓練開始。

しかしフィリピン人、行進もできなければ命令も聞きゃしねえ。
そもそも軍隊が何かさえも全く理解していないわけです。

そのくせ自己主張だけは皆一人前。



「銃剣なんかより俺たちのナタの方がよっぽどいい」

「何?試してやる・・・おお、確かに悪くないな」



こちら若いアンダーソン伍長が銃の扱い方を説明しています。
どうせ一回言ったくらいではわからず、結局手取り足取り時間をかけて、
と思うとうんざりしているのか、やる気なし。

「左手でラッチ、右手で開いて左手でエキストラクタ、
左で照準を合わせて右手でボルトを閉じ、
左手で引き金を引き弾倉確認!わかったか」


むっちゃ早口。
皆うんうんうんと頷きますが、伍長、ため息をついて

「どうせこいつを扱えるようになるまで長くかかるがな。なが〜〜く」

ふう、とタバコを吸うために銃前を離れた途端、



左右左左右左、と皆で確認するなりマシンガン発射。



というか乱射。

なんか映画「二世部隊」の訓練シーンを思い出してしまいました。
教官がすっかり馬鹿にしていた日系人たちは実は一枚も二枚も上手で、
上手に訓練をサボったり、背負い投げで逆に教官を投げ飛ばしたりっていう。

アメリカ人って、一般的に英語を喋らない&上手ではない人たちを
頭から自分より劣っている、と思い込む傾向にありますよね。

ちなみに2022年度の平均知能指数で言うと、上位6位まで全部アジアの国
(一位から日本、韓国、中国、イラン、シンガポール、モンゴル、
アメリカは17位)であることは世界的に周知の事実。
あくまでも「平均値」ということになるわけですが。



そして何週間かの訓練後、何とかフィリピン人部隊はサマになってきました。



そのとき、訓練してきた第一大隊が中国に移動するという噂を聞きつけ、
ベイリー軍曹、大急ぎで隊舎に駆けつけました。

夜だと言うのに兵隊の解けた靴紐や錆びた刀などの粗探しをして
延々と気持ちよくお説教、自分が隊を率いるつもり満々ですが・・。



そんな軍曹を見かねて?急遽大佐が呼びつけました。
いつになく葉巻を勧められ、喜んで吸っていたら、

「君をスービックに送ったのは家族に会わせるためだったんだ」

そして、



「私は中国行きの船には乗らない。君もだ」

「冗談ですよね?」

「冗談ではない。指揮官はバーンズ中佐だ」

これはもちろん「自分ではなく」と言う意味です。

「バーンズ?まだ青二才じゃないですか」

Lieutenant colonel」って中佐で間違いないよね?
中佐が青二才って・・・まあ退役寸前の軍曹と比べれば若いですが。

「そこを何とか!
勲章をもらえるかもしれない最後のチャンスなんです!」

普通軍曹が司令官にこんな口聞けないと思うのですが厚かましいやつだな。
もちろん大佐はそれを拒否し命令に従うようにと軍曹に厳しく命じます。

■ 収監



第一大隊の出航は夜になりました。
酔客で賑わう繁華街を通って港まで行進が行われ、
市民がそれを手を振って見送ります。



鳴り響く海兵隊讃歌を酒場のテーブルで不貞腐れながら聞くベイリー。

「海兵隊はトリポリにも行ったしあらゆる戦場に行った。
でもこのビル・ベイリーは、海兵隊史上、

一度も戦場に行ったことがない唯一の海兵隊員だああ」



酔っ払いの戯言を同じ酒場にいたセイラーが揶揄ったところ、さあ大変。
キレたベイリーが一人を殴り飛ばし、そこから大乱闘が起こってしまいます。



ボクシングの選手であるフラッシーも加勢して・・・これはダメだよね。
彼らは、帽子からマーチャント・マリーンの水夫であるとわかります。


MPが到着した時にはすでにこの有様。


フラッシーと仲良く収監されることになりました。



そのとき自分を捕まえた憲兵がやってきました。
片目にアザを作った憲兵は陽気に、

「ピーカブー、ハンサム!」

「無理に笑わせなくていいぞ、あんたエリザベス・アーデンの化粧部員か」

この部分、字幕で企業名が省略されていたので、ちゃんと翻訳しておきました。
ピーカブーは「いないいないばあ」のことです。

「俺の罪状は?」

「たいしたことないさ。
器物破損、憲兵への威力業務妨害と13人の船乗りへの暴力行為」

「なあ、大佐にはこの件黙っててくれないか」

「だめだ。そんな目で見るな。飼ってた犬を思い出す」

「ちっ・・・何の用だ」

「面会だ」



美人の奥さんジェニーはこんなところで会うなんてとプンスカ。
全く父に似ていない娘ヘレンは一生懸命父をかばいます。

妻ジェニーは夫が海兵隊にいるのが嫌。
というか、軍隊そのものが嫌いな平和主義者で、彼と結婚して以来、
彼がずっと戦地に行かないように「祈って」いたと公言するほどです。

現在も平和運動に身を投じる根っからのリベラル無抵抗主義なのですが、
それならどうして海兵隊で煮染めたようなこの男と結婚し、
何十年間も一緒にやってこれたのか・・・夫婦ってわからないものです。

「第一大隊のニュースを聞いた時から祈ってたわ。
あなたが一緒に行きませんようにって」

「ひどいぞ・・・でも決めた。退役する。
こんなことをしたらどうせクビだ。
君はもう海兵隊員の妻ではなくなるんだ」



娘のヘレンはその足で大佐の部屋に押しかけました。

「ヘレン!」「ジョンおじさん」

なんと、この二人が叔父姪の関係であるってことは、
ベイリー軍曹の嫁というのはこの大佐の妹ってことなんですね?
(大佐はベイリーと同じ歳なので)
どうりでベイリーが軍曹の分際で大佐に妙になれなれしいわけだ。

しかしいや・・・・これも実際はあり得ませんよ。

アメリカというのは、特にこの頃のアメリカは完全な階級社会で、
経済的背景が異なる人々の間には厳然とした階級差が横たわっていました。

特に軍隊では、ある時期まで将校のほとんどは上流階級や、
裕福な家庭の出身者でなければならず、
(ドイツで士官に貴族が多かったのも同じ理由)
下士官や下士官の子供が将校と個人的関係を持つのもほとんど不可能でした。

つまり、ジェニーの兄がアナポリス出身の海兵隊士官である時点で、
最初から彼女と下士官のベイリーとは接点すらなかったはずだし、
万が一何かのご縁で出会ってお互い好ましく思ったとしても、結婚となると
互いの家庭から反対されて諦めるか駆け落ちするしかなかったでしょう。

なんなら、現在のアメリカ軍でも、士官、下士官、兵の間に、
特に彼らの子供たちの間には軍務以外での接触はまずないはずです。
(在日米軍内の子供のための幼稚園学校のことまでは知りませんが)

ですから、いかにも将校の娘然としたこの美人のヘレンが
実は軍曹(しかも見るからに叩き上げ)の娘で、なぜかその叔父が大佐、
という設定には、当時のアメリカ人も首を傾げていたことでしょう。


それはともかく、ヘレンがここにきた理由は、父親が喧嘩で収監されたので
彼が不名誉除隊にならないようにという叔父へのお願いでした。

美人の姪に大佐も目尻を下げて応対していますが、つまり、
娘が地位のある叔父を利用して父の不始末を揉み消そうとしてるって図よね。

父が父なら娘も娘。
これ、厚かましいどころか、とんでもなくない?


そこにルーファス・クリーブランド、ランドール・ジェイムズという
海兵隊士官二人が「ミス・ベイリー」が来たと聞いて飛び込んできます。

この娘、自分に夢中の二人を手玉に取っていて、
どっちにもいい顔をしてここまで引っ張ってきたようですが、これもまた
従来ではあり得ない士官と下士官の娘との取り合わせ(しかもダブル)。

またこのヘレンという女、天性のやり手とでもいうのか、
二人の士官が飛び込んできて大佐が不機嫌になるや、

「あら、あたし、ジョンおじさんに会いにきたのよ〜」

と叔父の腰に手をまわし身体を押し付けるというあざとさ。
こういうのを清楚系●ッチっていうんでしょうか。


そして「ボーイズ」を両脇に抱き抱えて外を闊歩します。
上陸隊とパイロットの二人は互いを貶しながら牽制し合いますが、
彼女はどちらを選ぶとは決して言明しません。

「どっちか選んで」



と二人に迫られてはぐらかすのもお手のもの。
これは根っからの魔性の女だわ。


■ 軍曹の退役



ベイリー軍曹は無事に退役の日を迎えました。
大佐の力が及んだのかどうか、不名誉除隊などではなく、普通に退役です。

しかし、早口で感謝状を読み上げられて終わりといった形式的な流れに、
ベイリーはわずかに不満の様子を見せます。



ベイリー軍曹のために、軍隊は行進を始めました。

この敬礼シーンでも、俳優が全く軍人らしくないのがわかってしまいますね。
敬礼も下手だし、こんなだらしない立ち姿のベテランがいるかあ!


航空士官のクリーブランドは、恋敵がヘレンのそばにいるのが邪魔で、
ジェイムズになぜ陸なのにあっちで行進しないんだと文句を言いますが、
ジェイムズは涼しい顔で「俺はご家族と親しいから免除さ」



そして彼の30年にわたる海兵隊生活は終わりを迎えた・・・に思えました。


そしてヘレンの運転する車がバリガン川の橋にさしかかったとき、
そこでは彼の鍛えた民兵たちが捧げ銃で退官した彼を迎えました。



本来ならこの見送りに一緒に感激するであろう妻ですが、
何しろこの妻、一刻も早く夫に「足を洗わせたかった」人なので、
まるでまだ現役であるかのようなこの見送りに機嫌を損ねるという有様。


村に着くと、地域の人々(もちろん全員白人)が集まって、
「ハッピーバースデイ」の替え歌で出迎える熱烈歓迎ぶり。


この人々、妻の所属する平和運動サークル?なので、
彼に向かって軍隊不要論をやんわりと説いてくるのでした。
中には軍と軍需産業との癒着を糾弾し始める過激なご婦人もいます。


このサークルにはラジオ局を運営しているという高学歴の日系人もいました。
(ハリントン・ヒラタと紹介されているが字幕には出ない)
コーネル大学で電子工学の学位を取ったという彼に、ベイリーは

「アメリカで賢くなったってわけですか、外国人なのによくやるね」

と精一杯馬鹿にして見せますが、彼から

「多くを学びましたよ。アメリカ人の多くはとても賢いですからね」

と皮肉混じりに返されております。



ともすればそういうリベラルな雰囲気にイライラするベイリーに、夫人は
子供をあやすようにあなたはもう退役したのよと言い聞かせるのでした。


そしてベイリーのリタイア生活が始まりました。
居間のカウチでガウンを着てパイプを燻らせる退役後の夫。
夫人は長年夢見ていたそんな光景に幸せいっぱいで、うっとりと、

「あなた・・・新婚旅行の時のことを覚えてる?」

「忘れようったって忘れられないさ・・・(急に思い出し)
あのときは3ドルの部屋なのに5ドルも取られたんだ!」

「もう、なんて人なの!」

怒って夫人が行ってしまったのをいいことに、
パイプに詰める葉を直接口に放り込んで、ついでに
なんだか窮屈なガウンも脱ぎ捨ててしまいました。

パイプより噛みタバコが性に合ってる根っからの兵隊ってわけですね。
しかし噛みタバコは吐き捨てないといけないわけで。



吐き捨てる場所を探してうろうろしているうちに妻が戻ってきました。
手にはマットレスの下に隠したはずの海兵隊の制服を持っています。
処分しろと言われたのに、捨てずにいたのを見つかってしまったのでした。

ベイリーはあわてて口の中の噛みタバコを飲み込み(えええ〜)、

「は、ハロウィーン用に・・・」

と言い訳を。

「わたしを騙してたのね!」

「いや、せめて死ぬ時には身につけたくて・・・。
だって普通の服を着ていたら天使には俺だとわからないだろ?」

「大丈夫よ。わたしからガブリエル(大天使)に話しておくから」


ジェニーは軍服をどこかに持って行ってしまいました。



「しょせん女には男が軍服に抱くロマンがわからんか」

「わたしにはわかるわ」

しかし、そのとき、飲み込んだタバコの葉のせいで、
ベイリーは急いでトイレに駆け込むはめになりました。

余談ですが、もし葉巻の葉を飲み込んでしまった場合、14%が
急性ニコチン中毒で彼のように吐き気を催し嘔吐するといわれています。

これが原因で死亡にまで至ることはたぶんありませんが、まともな人間なら
どんなことがあってもタバコの葉など飲み込もうとは思わないものです。



続く。



映画「フライングフォートレスの物語」〜メンフィス・ベル 国立アメリカ空軍博物館

2024-02-20 | 映画
The Memphis Belle: A Story of a Flying Fortress

メンフィス・ベルのシリーズを始めてから何度も触れたように、
この爆撃機は「官製の英雄」として、有名になりました。

有名になる前からそのように仕立てようというプロジェクトありきで、
とにかく25回の任務を最初に終えそうな爆撃機に目星をつけ、
その直前から、任務達成に向けた記録作りが始まっていました。

その手段として選ばれたのが、ドキュメンタリー映画の制作です。
映画の制作にあたっては、陸軍所属だった映画監督、
ウィリアム・ワイラーがヨーロッパに派遣されました。

■ ウィリアム・ワイラー中佐


Lt. Col William Wyler軍服

アメリカという国がいかに映画を情報伝達と、
プロパガンダに有用なものと認めていたかは、
この映画監督を映像での宣伝を指揮する「司令官」として
中佐の階級まで与えていたことからもわかります。


イギリスの陸軍航空隊基地にて

ワイラーは1943年末に中佐に昇進した。

1943年末に中佐に昇進したワイラーは、この軍服を着て
イタリアで次のドキュメンタリー映画、 "サンダーボルト!" 制作をした。

このカラー映画は、戦争末期の戦闘爆撃機作戦を描いたものである。

1945年に戦争が終わると、ワイラー中佐は軍役を退いた。

その後もハリウッド映画の監督として、
『わが生涯の最良の年』

『ローマの休日』
『ベン・ハー』
などを監督し、12部門にノミネートされ、
3度のアカデミー監督賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝いた。

陸軍の協力を行ったのは第二次世界大戦のときでしたし、
むしろ、その後に輩出した作品群が凄過ぎて、
陸軍中佐としての経歴を知らない人の方が多いかもしれません。

「嵐が丘」「黄昏」「大いなる西部」
「ファニー・ガール」「おしゃれ泥棒」

これらの有名作品もワイラー監督作品です。


ちなみにワイラーはドキュメンタリー「サンダーボルト」撮影時に
風圧と爆音で聴覚神経を傷めてしまい、右耳の聴力を失っています。

Thunderbolt (1947 film)

1947年にワイラーとジョン・スタージェスが監督した「サンダーボルト」は
第二次世界大戦中、コルシカ島を拠点とした第12空軍の飛行隊による
「ストラングル作戦」を描いたものです。

アンツィオのビーチヘッドへの枢軸国軍の補給線を妨害するという作戦で、
最初にプロローグを読み上げるのはジェームズ・ステュワート

ちなみにジェームズ・ステュワートは志願入隊して
ヨーロッパ戦線に爆撃機パイロット&指揮官として参加しており、
最終的には准将にまで昇進したガチの高位軍人ですが、
俳優として宣伝映画にも出演しており、この作品もその一つです。

ナレーションでは陸軍航空隊司令官のカール・スパッズ将軍の言葉、
「1944年は古代の歴史になってしまった」を引用しています。

この時の撮影では、リパブリックP-47サンダーボルト
パイロットの背後、主翼の下、ランディングギアのホイールウェル、
計器パネル、銃が発射されたときに同期して撮影する銃の中に、
ワイラー監督はカメラを搭載して撮影
しています。

爆撃機と違い、戦闘機に同乗するわけにいきませんからね。

映画の30分すぎから、隊員たちの余暇の様子が描かれますが、
子犬にミルクを与えたり、犬をボートに乗せたり、
カラスをペットにしている人なんかが出てきます。


撮影のためB-17に乗り込むワイラーとクルー。

右:ウィリアム・クローシエ(Clothier)カメラマン
窓の中:ウィリアム・スカール(Skall)カメラマン
左:キャヴォ・チン(Cavo Chin)イギリス戦時特派員

ワイラーとカメラマン二人の名前が全員ウィリアム。

ワイラー、名前でスタッフを選んだのか?

ところでお断りしておきますが、この人たちの全員、
軍事教練など軍組織での訓練を受けたことは一度もありません。

ワイラーが陸軍に関わるようになったきっかけは、彼が戦前に
「ミニヴァー夫人」というプロパガンダ映画を監督してからのことです。

映画の内容は、アメリカの「不干渉主義」への批判であり、
積極的な戦争への参加を推進するものだったので物議を醸しましたが、
この映画はイギリス国民の共感を強く得ることになります。

そんなことから、ワイラーは自ら志願して航空隊に報道枠で参加し、
何の軍事的下地もないまま、少佐の肩書きで映画を撮ることになります。

陸軍がワイラーに少佐の階級を与えたのは、年齢もあったでしょうが、
(当時40歳)実際戦地で危険を犯して映画の撮影をしたことに対する
「功労賞」の意味合いが大きかったと思われます。

「毎日全体の80%の搭乗員が失われていた」


と言われる当時の戦況で、実際にB-17に乗り込んで、
爆撃任務の全行程を撮影するには、死の覚悟が必要でした。

実際にワイラーは、一度爆撃機の中で酸素不足により失神していますし、
彼のチームとして撮影に当たっていた撮影監督の、


ハロルド・J・タンネンバウム中尉

は、「メンフィス・ベル」の撮影中、1944年4月16日、
乗っていたB-17が撃墜されて戦死しています。

このとき、爆撃機クルーの数人はパラシュートで脱出し、
タンネンバウム中尉もベイルアウトしたのですが、不慣れだったため、
パラシュートが外れたのではないかと言われています。

彼はもともとRKOの音響マンでしたが、ワイラーに誘われて
監督としてヨーロッパに一緒に乗り込んできていました。

年齢は47歳とワイラーより上でしたが、
監督になれるチャンスと考えて、ワイラーの誘いに乗り、
危険な職場と知りつつ、転職してきたのだと思われます。



■ 映画「メンフィス・ベル
:フライングフォートレスの物語」


さて、それでは映画「メンフィス・ベル」についてです。

冒頭の映画は、ワイラー監督がドキュメンタリーに徹し、
故郷の家族談とかいらんサイドストーリーを一切省いたシンプルな作りで、
劇場映画でありながら40分という短い尺に収まっています。

~1:05 オープニングタイトル


~4:05 出撃前に整備&武器搭載が行われるB-17
爆薬の上にまたがってハモニカ吹きつつ一緒に移動する整備員たち

~5:28スタンリー・レイ司令によるブリーフィング
本日の爆撃目標はドイツのエムデン


最後にチャプレン(従軍牧師)によるお祈りあり


ジープでクルー到着、乗り込み


乗り込み前に機長からの短い指示あり
士官は全員最後になるかもしれない喫煙をしながら


ボールターレットに乗り込むクィンラン
(まさかとは思っていたけど、離陸時から乗り込んでいる)

7:06 離陸
ボールターレットの中に仕込んだカメラからの映像あり

11:20~クルー紹介
経歴と出身地は必ず

爆撃目標はエムデンのウィルエルムズシャーベン。

ウィルヘルムズシャーベンは戦争中、連合軍の爆撃により
町の建物の3分の2が破壊されましたが、
主要な標的であった海軍造船所は深刻な被害を受けながら操業していました。

 19:53〜ドイツからの迎撃開始、対空砲

21:29〜目的地上空 敵戦闘機と交戦
爆弾投下、帰投

24:20〜敵戦闘機と抗戦

25:30〜僚機が被弾、撃墜されて落ちていく

「カモン、お前ら脱出しろ!」
「テイルガンナーが脱出したようだ。戦闘機に気をつけろよ」

「クィンラン(ボール砲手)どうなったか見ておけ」
「9時方向でパラシュート二つ確認」

と意外と冷静な感じで淡々と言っています。
僚機は機内には8名が取り残された状態で墜落し、まさに
「10人のうち8人が帰らなかった」という統計通りになりました。

26:21ごろ、戦闘機がパラシュートを引っかけたらしく、

「あいつが捕まりました、チーフ(機長)!ベイルアウトしたのに!」

「インターコムで叫ぶな」(冷静)


というやりとりもあります。

27:07〜傷ついて弱ったB-17に群がってくる敵戦闘機

みすみす仲間がやられていくのを見ているしかありません。
フォーメーションを崩すわけにはいかないからです。


27:28〜帰投してくる機を待つ基地の人々

搭乗員たちはゲームをしながら

負傷者がいる機は優先的に着陸できるきまりです。

29:25〜負傷者ファースト

対空砲の破片が身体にめり込んだ人など。


「彼らはパープルハート徽章を授与されるだろう。この男も」

しかし、遺体が帰ってこられただけ良かったとも言えます。
男が受けている輸血について・・・

「彼が体内に入れている血は、デモインの女性高校生のかもしれないし、
ハリウッドの女優のかもしれない。
いずれにしても彼に感謝している人たちのものだ」

30:35〜次々と着陸してくる機体

全くの無傷は1機だけ。
29機目はパイロットが怪我をしているので着陸が粗い、と。


テイルガンナーは死亡したとのこと


爆撃手を失った機(下部の赤はおそらく血の色)

中には、ノーズのエポキシグラスごと破壊され、
ナビゲーターが機外に失われた機もあったようです。

この日出撃したのは36機、帰投したのは32機でした。
メンフィス・ベルは3機で一番最後に帰投してきます。

35:27〜メンフィス・ベル タッチダウン
25回目のミッションを完了


手を振るモーガン機長とハロルド・ロッホ上部砲手


タキシングの時にすでに上にまたがっている人


ノーズから手を振る爆撃士エバンスとナビゲーター


胴部ガンナー二人


地上に降りるなり地面にキスするクルー



映画ではこれを尾部砲手の役をしたハリー・コニックJr.が再現しています。

クルーに持ち上げられて「ベル」のヒップにタッチするモーガン

37:01〜イギリス国王夫妻謁見



エンディングでは、ミッションの後の穴だらけの地面に
the endのタイトルが重なります。
どれだけ落としてるんだよ。


映画の広告はかず多く作られましたが、
このバージョンは犬のスコッティも含め、まるで全員俳優のようです。


おまけ:このシーンは不採用


続く。


年初め映画タイトルギャラリーその3

2024-01-16 | 映画
■ 「FBI vs ナチス」
They Came To Blow Up America
〜実在事件をベースにしたアメリカ防諜啓蒙映画


我が日本における防諜啓蒙映画「間諜未だ死せず」を取り上げた流れで、
アメリカにおける防諜を目的とした国策映画を扱ってみました。



日米の防諜啓蒙映画を並べてみると、
戦争に突入してからだったのでアメリカ人俳優が調達できず、
全てを日本人俳優で賄ってしまったこちらのに対し、
アメリカのこれは、日本人が中国人を演じるようなノリで
ドイツ人を演じているという同じような作りです。

同じ白人でも多民族国家であるアメリカには実に色々いるので、
この映画でもドイツ人らしいアメリカ人を配しているのかと思えば、
主人公のドイツ人スパイ、アメリカ在住のドイツ系移民の息子である
カール・スティールマンを演じているジョージ・サンダースは、
どこからどうみてもドイツ系の要素がありません。

事実サンダースはれっきとしたイギリス人。
(ブライトンスクール→マンチェスター工科大学卒の上流階級)
ライター夫人を演じる女優アナ・スタンはロシア人ですし、
ナチスの親衛隊長ティーガー大佐はイギリスのシェイクスピア俳優ときた。

かろうじて、実はスパイだったホルガー医師は、
シグ・ルーマンというカリフォルニア生まれのドイツ系俳優、
カールのお父さんもドイツ系アメリカ人俳優が演じていますし、
ドイツ美女ヘルガはオーストリア人女優が起用されました。

ホルガー医師を演じた俳優、シグ・ルーマンは、戦前まで
ジークフリート・ルーマンという本名で活動していましたが、
反独感情が高まったこともあり、芸名を変えています。

アメリカがドイツと戦争になるとドイツ系の需要が高まり、
啓蒙映画や悪役で引っ張りだこになったというのは皮肉ですね。

こんな事情を知るまでは、アメリカではドイツ系の俳優など調達し放題だろう、
と思っていましたが、いかにドイツ系が民間にいたとしても、
人前に出る仕事である俳優には、あまり数が足りておらず、
しかも反独感情で表に出にくかったらしいとわかります。

ヘルガ役のオーストリア女優ポルディ・ドゥーア(Poldi Dur)は、
1944年(!)にアメリカで製作された、「ナチスそっくりさん大集合映画」
ドキュメンタリー「The Hitler Gang(ヒットラーギャング)」で、
ヒトラーが最後に結婚したゲリ・ラウバルを演じています。


観てみたすぎる


頭なでなで中

本作品はアメリカで実際に起こった「パストリウス作戦」なる
ナチスの潜水艦による侵入&爆破作戦をベースにしています。

この事件は、アメリカに潜入した工作員のうち二人が
早々にFBIに仲間を裏切って密告したため当局に露見し、
その他の工作員たちは問答無用で処刑されてしまっています。

当初彼らは戦争が終わるまで収監される程度の処罰と言われましたが、
ルーズベルトは強硬に彼らを直ちに処刑することを求めました。

この映画と「パストリウス作戦」について調べるうち、作戦立案者である
ヴィルヘルム・フランツ・カナリス(Wilhelm Franz Canaris)
という情報部の部長が、日本の陸軍参謀から派遣された
大越兼二大佐と組んで、「対ソ戦、英米との戦争は日独を滅ぼす」とし、
三国同盟に反対していたという史実を知ることができました。

■ 「スピットファイア」
The First of The Few(最初の人々)


RAF(ロイヤルエアフォース)の名機、
スピットファイアの設計者、レジナルド・ミッチェルの伝記映画です。

本作の公開年、ドイツ軍機に乗機を撃墜されて死亡した俳優、
レスリー・ハワードがミッチェルを演じ、自らが監督も手がけた作品。


戦時中ということもあってRAFの全面協力のもと、
実際のパイロットたちが出演してセリフもこなしています。

映画は、語り手としてミッチェルの友人であり、
開発のパートナーにもなった架空のテストパイロットが
彼の若い頃から死までの歩みを振り返る形で進行します。

3つのパートに分けましたが、その最初は、
若きミッチェルが当時の飛行機界の登竜門だった国際レース、
シュナイダー・トロフィーレースで優勝するところまでが語られます。


中編では、ミッチェルがスピットファイア開発に至るまでに出会う人々、
そして開発に乗り出すきっかけとなる出来事が描かれます。

この日のイラストは、実在のミッチェルの肖像(真ん中下)の周りに、
映画に出演したその関係者を描いてみました。
左上のレディ・ヒューストンは実在の彼女の写真をもとにしています。


「レディ・ヒューストン」
熱烈な愛国者、国粋主義者の大富豪で、その地位と財産を
気前よく彼女の信じるところの「国のために」寄付した伝説の女性です。
国会が失業対策のために予算を回す動きのあった当時、
彼女は航空界の発展の原動力となるレースの参加費をぽんと出しました。

「ヴィリー・メッサーシュミット」


実際のメッサーシュミットを映画では随分線の細い人が演じています。
これは実際のミッチェルとレスリー・ハワードにも言えることです。
映画ではドイツに招聘されたミッチェルが、ナチスの関係者から
隠すことのない征服欲をちらつかされ、危機感を覚えることで
自国に強い飛行機を作るべきだと決心することになっています。

「サー・ロバート・マクリーン」
エンジニアであり、航空業界の大物、ヴィッカース社の会長。
スーパーマリン社を買収し、ミッチェルらに新型機、
スピットファイアの開発を奨励した人物です。

後編

右上のヘンリー・ロイスは言わずと知れたロールス・ロイス創始者です。
「マーリンエンジン」がスピットファイアに搭載されました。


サー・ヘンリー・ロイス

映画では、ミッチェルは病に冒されて最後の日々を自宅で過ごし、
パイロットのクリスプが家の上空を完成したスピットファイアで飛び、
軍に採用されたという知らせを受けて死んでいくと描かれます。

映画の中で散々説明しましたが、原題の「The Few」は、
当時慣例的にそう呼ばれていたところの、彼の飛行機で戦った
RAFの「一握りの人々」であり、それに「ファースト」をつけることで

祖国全体に恩恵を与えたミッチェルを含む開発者たちが含まれるのでしょう。


■「海の底(The Seas Beneath)」
ジョン・フォード初期の海軍映画

後半

ジョン・フォードは映画監督になってよほど海軍ものが撮りたかったらしく、
サイレントからトーキーへと映画会社が舵を切った途端、
海軍兵学校もの「サルート」潜水艦もの「Men without Women」を撮り、
満を持して?ドイツ潜水艦と海上戦を行うアメリカ海軍映画を製作しました。

偽装船に乗り込んで島に潜入するアメリカ海軍軍人に忍び寄るのは
美しい女性の姿を借りたナチスのスパイ。

現地のスペイン美女スパイにひっかかり、まんまと身分を悟られた若い少尉は、
責任をとって敵のボートに忍び込み、射殺され、
アメリカ軍の偽装船を率いる大尉は、ドイツ潜水艦長の妹に接近され、
こちらもまんまと相手を好きになってしまうという体たらく。

海上戦の末、偽装船は潜水艦を撃沈して打ち勝ちますが、
兄を捕虜に取られた艦長の妹にむかって、

「そこの教会で結婚式を挙げよう」

といきなりプロポーズして玉砕する大尉の間抜けさがなんとも物悲しい。

第一次世界大戦直後、
まだ海上の戦争に人々がロマンを求める余地があったころの
なんとものどかなストーリーです。

若き日のジョン・フォード海軍ものの原点。

■ 海の牙(Les Maudits 呪われしものたち)
ルネ・クレマンの極限心理ドラマ


第二次世界大戦末期、第三帝国の復興拠点を南米に樹立するという
絶望的な野望の下、Uボートに密かに乗り込んだ人々がいた。
その極限の空間で、歪んだ権勢欲と欲望が渦巻き、ぶつかり合い、
ついには悲劇の破局に至る・・・・。

と、映画の宣伝風に説明してみました。
ルネ・クレマン作品ということで評価が高いようですが、
確かにストーリー展開と人物描写、観客を惹きつける要素はあるものの、
決定的に残念なこと、それは、軍事的な考証が甘すぎることです。

特に、ドイツの敗戦を受けた潜水艦の艦長が
即座に自艦を放棄して民間船にスタスタ移乗するなんて噴飯ものです。

そして、たった数人で南米に第三帝国の拠点を作るなんて、
ちょっと考えれば絶対に無理だって誰だって思いますよね。

そういった大きな矛盾を無視した上にいくら作品を構築したところで、
ツッコミどころが多すぎて感興を削ぐというのがわたしの感想です。

というところで、最後の作品を除きご紹介を終わりました。
今年も楽しみながら戦争映画をご紹介できればと思っています。




年初め映画タイトルギャラリー その2(おまけ『ゴジラー1.0』を観た)

2024-01-14 | 映画

「潜水艦映画にハズレなし」

というのは、潜水艦映画ファンなら誰でも聞いたことがある至言ですが、
そのリストにどうしてこのイギリス海軍潜水艦映画である

「潜水艦シータイガー」
We Crushed at Dawn : Sea Tiger


が滅多に上がってこないのか、今となっては不思議でなりません。
たまたま当ブログは、ハリウッドの戦時高揚映画、
「潜航決死隊 Crush Dive」を以前取り扱っていたため、後発のアメリカが
「シータイガー」からプロットから小ネタまでパクっていた証拠を掴みました。

ハリウッドというところは、もちろん映画産業を牽引してきたわけですが、
経済規模が大きく商業主義最優先であることから、玉石混交、
このようなあからさまなパクリが多々存在します。

ついでに、最近はポリコレが映画をどんどんつまらなくしていて、
画面越しにLGBTが説教かましてくるような作品にうんざりする人が多数。

低予算の「ゴジラマイナス1.0」のあるべき映画の面白さが注目され、
人々がハリウッドはもう終わり、とSNSで声を挙げるにまで至っています。

もう本当にね・・・ポリコレに準拠する作品を作りたいなら、
最初からそういう人物が登場する映画をゼロから作ればいいの。
過去の名作を「ポリコレウォッシュ」するのはやめて・・。
お願いですから。

「それぞれの人生」

乗組員たちのキャラクターと状況を表すセリフを抜粋してみました。

左上:
ホブソン「どうして家から出たんだ?」
妻「ジム、あなた一度くらいシラフで家に帰ってこれないの?
前回もそうだったでしょう」

頭がよく数か国語ぺらぺらで仕事ができる聴音員のホブスですが、
人を寄せ付けない雰囲気で艦内でも一人浮いています。
酒飲みで家庭もうまく行っておらず、妻の兄は
二人を離婚させようとしているという設定。

右上:
艦長フレディ・テイラー大尉
「セイモア嬢に明日のランチのアポを電話で取ってもらいたいんだ」
「んで火曜だが、ミス・・・えーと、カーターだ。
いやいや、ちょっと待って待って。
えっと、確かミス・デイビスだったかな」

「シー・タイガー」のテイラー艦長は兵学校卒の士官です。
階級社会であるイギリスでは上流階級しか士官になることはできません。

扉絵の四人の士官たちも、特に予備士官であるブレース大尉、
ボランティアリザーブ(英国海軍士官予備軍)のジョンソン中尉は
おそらく大学を出ていると思われます。

テイラー艦長は独身貴族を大いにエンジョイする女性好きのようですが、
そのアポイントメントを全て電話で執事にやらせています。

左下:
ウィルソン主席砲員「わたしゃただお役に立てればと思ってね」
操舵CPOダブス「この四角頭野郎」


二人は「シータイガー」のCPOと兵で上下関係がありますが、
コリガンの結婚式に出席していた女性をどちらもが好きになり、
それを知っているウィルソンは、親切ごかしでダブスに
女性の名前を教えず、のみならず出鱈目の名前を刺青するという悪行ぶり。

仮にも階級が上の軍人にこんなことをして大丈夫なのか?
と心配になりますが、イギリス海軍ではもしかしたら
士官とそれ以外ほど、下士官兵の階級差は大きくないのかもしれません。

「スクェア・ヘッデッド」(四角頭)には、いくつかの意味があり、
イギリスにおけるドイツ系&オランダ系への差別用語でもありますが、
ウィルソンという名前はどちらでもありませんから、
おそらく単純に「馬鹿者」という意味で使っていると思われます。

右下:
砲手コリガンCPO「あー、ちょっと間違いがあったみたいで」
エセル「いいえ、あなた間違ってないわ。もう少しで間違うところだったけど」
コリガン「どういう意味だ、エセル?」

CPOのコリガンという男はマリッジブルーなのかなんなのか、
これまで何度も同僚のCPOダブスの妹エセルとの結婚を、
任務に乗じて先延ばしを繰り返し、今回に至ります。

今回の結婚式の日、ようやく彼が年貢を納める時になったと思ったら、
幸か不幸か「シータイガー」に緊急出動命令が出てしまいます。

これは決して彼のせいでもなんでもないのですが、
度重なるキャンセルにエセルはキレてしまい、

「もう少しであなたと結婚して間違いを犯すところだった」

と彼に三行半を突きつけているのです。


緊急に「シータイガー」に命じられた任務とは、
ドイツ海軍の新造戦艦「ブランデンブルグ」を撃破することでした。

出航のシーンに始まり、潜水艦の航行や停泊しているシーンは
すべて英国海軍の協力のもとに撮影され、エキストラはもちろん、
当時海軍情報部にいた「007」の作者、
イアン・フレミングが艦隊司令役で出演するという見どころがあります。

イアン・フレミング海軍時代

「シータイガー」は「ブランデンブルグ」を追う途中、
避難ブイにいたルフトバッフェのパイロット3名を揚収し、
彼らの会話からホブソンが戦艦の位置を特定しました。

「バック・フロム・ザ・デッド」死からの生還

「ブランデンブルグ」を攻撃する「シータイガー」は、
駆逐艦に追われ、あの「潜水艦死んだふり作戦」を決行。

捕虜にしたドイツ航空士ハンスが機密を漏らそうとした
同僚を殴って殺してしまったので、その遺体を「利用」します。

のちの潜水艦映画には何度となくでてくるこの作戦ですが、
わたしはこの映画が「最古」であるのではないかと今のところ考えています。

映画はここで潜水艦が無事に帰還して終了、というものではなく、
この後彼らがドイツ軍の港がある基地に潜入し、
燃料と物資を奪うためにドンパチやるところまで描かれます。

そして、イギリス中が戦没したと思っていた「シータイガー」のメンバーが、
生きて母国に辿り着き、次の任務まで幸せに暮らすでしょう、
というところで映画は終了します。

潜水艦映画に興味のある方ならずとも、ぜひ鑑賞をお勧めしたい良作です。

■ 「ゴジラ−1.0」


ハリウッド映画の話が出たので、ついでに。
「ゴジラー1.0」を観てきました。

去年の段階で「いいらしいよ」と映画情報を送ってくれて知ったのですが、
その後実際に公開されて、特にアメリカで評価が高く、

「低予算でこんな面白い作品が作れると証明してハリウッドに恥をかかせた」

とまで言われているのでぜひこの目で確かめようと思ったのです。
しかし正直、日本人のわたしにとって、この映画に語られるテーマの一つ、

「敗戦の屈辱とサバイバーズギルトから、自らの命と引き換えに

愛するものたちを救おうとする気持ち」

「からの、自らの命を捨てずに自分の中の戦争を終わらせようとする」

心境の変化というモチーフは、決して真新しいものではなく、
軍批判も日本という国の体質批判も、何回となく
これまでの創作物で試みられてきたものであり、その意味で
海外の人々が言うほど新鮮な切り口とは思えませんでした。

核批判、反戦のメッセージ、それは戦後の日本戦争映画の基本スキームであり、
表現の方法に差はあれど、それは幾度となく繰り返されてきた
「セイム・クリシェ」と呼んでも差し支えない語法で語られます。

(銀座襲撃の後の元海軍軍人を集めたシーンでは、ここだけの話、
その演劇くさいお約束的やりとりについ気恥ずかしささえ覚えたと白状します)

加えて、その中に流れる出演者たちの各々の「戦争のPTSD」は、
これも日本人であればDNAレベルで理解できるものであり、現に

「あなたの戦争は終わったか」

「自分の戦争はまだ終わっていない」

などという言葉を、わたしは確かに他の作品中に聞いた経験があります。

ただしこれは決して批判の意味ではありません。

そこでこの映画の世界での評価の高さについて考えを致すとき、
日本では「お約束」となっていたこれらの表現は、これまでのところ
本作品ほど大々的に世界に対して発せられたことがなかったため、
日本人以外にはむしろ新しいものとして捉えられたのではないかと思います。

戦後70年間、何度も繰り返されたこれらの物語は、
今回の「ゴジラー1.0」にも揺るぎなく取り入れられ、
その全体的な構造が恐ろしいほどシンプルに人々に伝わるのを助けます。

どこの国の人々が、特にアメリカ人が最も嫌う字幕で観ても、
なんの不都合もないくらいストーリーが感覚にすっと入ってくることは、
たとえ作品に何億のお金(そのうちほとんどが宣伝代)をかけ、
どんな精巧なヴァーチャルを作り上げようと、達成できるものではありません。

さて、何人ものアメリカ人の鑑賞者が「泣いた」というこの映画。
アメリカ人はこの映画の何に泣くのか。

少なくとも、わたしが泣いたのは以下のシーンです。

「高雄」登場シーン

ゴジラ対決のため戦勝国から一旦返還された駆逐艦群、
「雪風」「夕風」「響」などが相模湾に集結し横一列で並んで航行するシーン

「震電」飛行シーン

「雪風」と「響」の作戦シーン

民間船集結シーン

敬礼シーン


こうしてみると、ミリシーンばかりだわ(笑)

それから、一緒に観たTOは気付かなかったようですが、
最後の決戦で駆逐艦が搭載している砲弾の説明で、
「46センチ砲」といっているのに気がつきました。

アメリカから「ソ連との緊張があるからゴジラ退治はそっちでやれ」
と放置されたため、日本はあるものでなんとかしようとしたわけですが、
大和型の砲弾も爆雷としてリサイクルしていたということになります。

「今までのゴジラ映画で一番いい」

のみならず、

「これまで観た映画で一番いい」

とまでアメリカ人たちが絶賛しているのを知ると、
すこし微妙な気持ちにはなりますが、純粋にエンタメとして面白い、
という映画の条件の原点を満たしているハリウッド作品が
昨今ではあまりなかったということでもあるのでしょうか。

続く。


令和5年映画扉絵ギャラリー

2024-01-11 | 映画

年が明けてからあまりに衝撃的な事件が相次ぎ、
ブログのアップが途絶えがちになっていますが、とりあえず
年末年始恒例の映画ログ回顧をイラスト共に振り返ります。

■ 「8/15」
凡庸という名の厭世的ドイツ国防軍映画




2023年に、というより過去当ブログ映画部が取り扱った中で
最も「勝手の違う」戦争映画でした。
まず、ドイツの戦争映画につきもののナチスが出てこない。

ナチス批判が焦点にないというのは、撃墜王マルセイユの映画以来ですし、
そもそも外国人には「ドイツの普通の戦争映画」を見る機会がありません。

(その意味で、最近Netflixで初めてドイツ人スタッフによって
『西部戦線異常なし』が制作されたのには喝采を送りましたね)

当作品は国防軍の砲兵将校が戦後に描いた小説がベースで、
ドイツ国内では小説を含め、テレビシリーズなども有名です。

繰り返しますが、「8/15」は現在のドイツでも使われる
「凡庸」「月並み」を意味する言い回しで、その語源は
陳腐化したドイツ軍の標準装備、MG08重機関銃から取られています。

MG08は第一次世界大戦のときの最新型なので、映画の舞台である
第二次世界大戦時にはすでに30年前の機材となっていました。

この映画はロシア侵攻後、冬将軍によって短期決戦の機会を逃した
ドイツ国防軍の補給部隊の内部をこれでもかと内部告発しており、
そのどうしようもない戦況において、「つまらん規則」
「才能のない上官」「もう終わってる上からの命令」に縛られて疲弊し、

翻弄させられ押しつぶされていく現場をこれでもかと描いています。

現地の娘と恋に落ちるもスパイで裏切られる若い士官、
死ぬほど欲しい鉄十字を持っている部下が憎くて任務の邪魔をする上官、
また、同じく、嫉妬からあえて無理な命令で優秀な者を死に追いやる上官、
こんな状況でも物資の横流しで私腹を肥やすことしか考えない兵曹。

現場の兵たちは明日をも知れぬ命と薄々知りながらも
その運命をあえてみないふりをして今日の享楽に興じる・・・。

のちにあらゆる国の戦争映画に見られる軍隊の姿がここにあります。

砲兵隊隊長であるフォン・プレニエス中佐が、
スパイのロシア女性に裏切られたヴェーデルマン中尉に向かっていう、

「わたしにはこの欺瞞に満ちた戦争で祖国を危機に陥れた責任がある」

という言葉が、誠実なドイツ軍の「中の人」の総意を表しています。



■ 「僕は戦争花嫁I was a Male War Bride
ケーリー・グラント一世一代のキワモノ作品



後半

稀代の二枚目俳優、ケーリー・グラントがフランス軍人に扮し、
アメリカ陸軍の女性軍人と恋に落ちて、普通に結婚し、
彼女の「戦争花嫁」として渡米しようとしたら、
前例のないことなので上を下への大騒ぎとなり、
ついには馬の尻尾でズラを作って女装し海軍の検閲を強行突破しようとする、
という、文字通りキワモノ的怪作。

他国軍同士の連携作戦で戦後のドイツで共にミッションを行うも、
反発しあって相性最悪というところから始まって、
主に男性の方が酷い目に合っているうち、突然愛が芽生えます。

まあ、これは突然好きになったというより、それまでの反発も
好きの裏返し的な相手への強い関心だったってことなんでしょうけど。

そこまでならまあよくある展開なのですが、この映画では
実際にフランス人がアメリカ人女性と結婚したとき、
アメリカ軍にその前例がないがために起こってくるトラブルについて、
決して荒唐無稽に思えない事例?を挙げて解説しています。

煩雑なペーパーワーク、ドイツで結婚するアメリカ人とフランス人、
ということで3回別の教会で式を上げなければならない。
法律は「花嫁法」しかないので男性を「花嫁」にしなければならない。
アメリカ軍の宿泊施設には「花嫁」しか泊まることが許されない。
かといって米陸軍士官宿泊所にはフランス人は泊まれない・・・。

ここまですったもんだしてようやく海軍の輸送船に乗ろうとしたら、
「女性と軍人しか乗せられない」
と門前払い・・・。

そこで最後の手段としてケーリー・グラントは女装を余儀なくされるという、
まあ、こうして書いてみれば非常に明快でわかりやすく、
その割に先が読めない斬新さが観ていて面白い快作でもあります。

身長190センチのケーリー・グラントが女装、というだけでも
当時から否定的な意見が多かったという当作品ですが、
わたしはそのテンポの良さ、古典的で上品なユーモアを高く評価します。

■ 「間諜未だ死せず」
大事(防諜啓蒙)の前には小事(外人俳優がいない)も辞せず


戦時中に憲兵隊の映画指導、防諜協会後援で制作された、
文字通りのバリバリ国策&防諜啓蒙映画。

日中戦争の最中、スパイとして日本に潜入した中国軍人王少尉が、
日本社会で情報撹乱や人心へのプロバガンダを行いながらも、
心の清らかな日本女性に密かに恋心を抱いていきます。

アメリカ人スパイ組織に雇われたフィリピン人スパイ、ラウルが
官警に追い詰められて自決したとき、アメリカスパイ組織は
ラウル密告の疑いを王にかけ、彼を拷問の末抹殺してしまいます。

アメリカスパイ組織を追っていた憲兵隊の武田少佐(佐分利信)が
ノーランを逮捕した日は、昭和16年12月8日。
武田はノーランに日米開戦を誇らしげに告げますが、ノーランは

「ジャック・ノーラン死すとも間諜は未だ死せずですよ」

と嘯き、視聴者に戦時の教訓を垂れるというエンディング。

本作の見どころ?は、中国人役はもちろん、日本在住アメリカ人スパイ、
米陸軍中佐、フィリピン人スパイ、その他アメリカ人たちを
全て日本人俳優がメイクをして演じているというその異様さです。

アメリカ映画でドイツ人同士が英語で会話し、観客は
それを「ドイツ語の会話」であるという前提で理解するように、
この映画では、どう見ても化粧した日本のおじさんである彼らを、
アメリカ人だと解釈しながら観ることを余儀なくされます。

このやっつけ感と、作品最後で高らかに日米開戦を称揚してしまったことから、
本作は映画史と出演者にとって完全に「黒歴史」となりました。

■ 「陸軍の美人トリオ」Keep Your Powder Dry
オシャレなWACリクルート宣伝映画



左上:
リー「『グッドラックソルジャー』ですって?
お父様はとっくにご存知だったのね」
父「もちろんだ。『常に備えを怠るな』だよ」


左下:
隊長「中隊の隊員のうちおよそ半数が、あなたの資質について
士官に相応しくないと考えているのです」
リー「な・・・なんとおっしゃいましたか隊長?」


上中:
ヴァレリー「WAC入隊ですって?
それでなきゃ遺産が受け取れないなら、やるわよ。
もちろんそんなの嫌だけど、遺産のためならね」


下中:
ヴァレリー「なぜって、WACであることはわたしにとって
何よりも大切なことだからよ」
「それは私にとってたいせつな・・プライドよりも大切なものなの」

上右:
夫「ダーリン、心配しないで。僕は大丈夫だから」
アン「ああジョニー、どうか無事でいて」


下右:
アン「今はわたし・・自分のことでいっぱいなの」
「どうか一人にしておいて」



左上:「こうよ!」ピシャっ!

上中:リー「そのキレやすい性格がそのうちあなたを色んな問題に巻き込むわ」

右上:パシッ

右下:
隊長「ダリソン士官候補生
あなたに辛いニュースを伝えなくてはなりません」
アン「夫ですか・・・か・・彼が怪我を?」
隊長「・・・・」
アン「死んだのですか?」
隊長「3週間前だそうです」

左下:
リー「わたしたち卒業よ!」
アン「二人とも嬉しいわ!」
ヴァレリー「やったわね!」

挿絵を描いた時にはアメコミ風にやってみようと、
あえてセリフを英語で細々と書き込んで説明もしなかったので、
小さいスマホなどで見た方は読めなかったのではないかと思います。

ということで、今回は挿絵のセリフを翻訳しておきました。
これをみれば大体映画の内容もわかってしまうという・・。

この映画のイけているところは、なんといってもタイトルです。
ミリタリー用語から発生した、

Keep Your Powder Dry

という言葉の「パウダー」はもともとガンパウダー、火薬のことですが、
これが湿気ていたらいざというとき先制攻撃できないことから、
いつも火薬を乾燥させておくように、という訓戒が生まれ、
これから転じて、「常に備えよ」を表す慣用句になりました。

女性軍人を主人公とした本作のタイトルにこれを使うと、
「パウダー」は「火薬」「白粉」のダブルミーニングとなります。

大富豪の超美人、お遊びでモデルをやっていたヴァレリーが、
遺産を受け取る条件としてWAC入隊したのを、
情報将校の娘であるリーは面白く思わず、二人は最初から対立します。

間を取り持つおとなしいアンは、戦地に行った夫を
自分なりに支援しようと考えて入隊してきたという女性。

このように、三人三様、全くタイプの違う三美人が主人公です。

三人の関係性とキャラクター描写がエンタメとして大変よくできています。
今のハリウッドでは、もうこんなシンプルな面白みを味合わせてくれる
軍隊映画を作ることは(ポリコレで)不可能になってしまったことを考えると、
この映画にはもう無形文化遺産の指定をして欲しいくらいです。


■ 「戦場のなでしこ」
戦場に散った女性たちの内部告発


「陸軍の美人トリオ」(常に備えあり)に続き、
日本の女性が登場する戦争関連映画を探してみたらば、
もうとんでもないダークマターでした。

戦後大陸で起こった女性軍属の悲劇という史実を、当事者というか、
犠牲者を手配していた看護婦長の手記を元に映画化したもので、
従軍看護婦がロシア兵に組織的に慰安婦にさせられていたという事件が、
この映画によって広く世に知られるようになりました。

映画では当事者たちの尊厳に配慮してか、リアリズムはある程度配して、
美しく悲しく看護婦たちが自決したように描かれていますが、
実際の彼女たちの最後はとてもそんなものではありませんでした。

わたしが最も違和感を抱いたのは、肝心の婦長の行動です。

ソ連軍から逃げてきた一人の看護婦が、派遣看護婦が慰安婦にされたことを
必死で訴え、その後絶命までしているというのに、その上で
くじ引きでさらに3名をまだ派遣しようとしていたという異様さ。

婦長という立場で上からの命令を中止できないのはわかりますが、
看護婦たちが集団で自決したのは、派遣がまだ続くこと、
守ってもらえないということに、つまり絶望したからでしょう。

集団自決した者だけではありません。

部隊の帰国が決まったとき、わざわざ駅まで同僚を見送りに来ておきながら、
婦長の目の前で自決してしまった3名の看護婦がいました。

この3名は、最初にソ連軍に送られたメンバーで、隊に戻ることを拒否し、
それどころか、ダンスホールで働いて、もう手遅れとなった性病を
ソ連兵にうつすことで復讐を続けていたという人たちでした。

これが、何を意味するとお思いになりますか。

彼女らが、彼女らを地獄に送り込んだ張本人と祖国を
恨んでいなかったわけがないのです。


映画ギャラリー後半へ続く




国策映画「愛機南へ飛ぶ」後編

2023-12-12 | 映画

松竹映画「愛機南へ飛ぶ」後編です。

船員だった父を亡くした水野武は、母一人子一人の生活から
陸士入学を果たし、見事成績優秀者として卒業式で賞状を受け、
念願だった航空士官任官を果たしました。

■ 開戦


昭和16年12月8日、大東亜戦争の開戦の日がやってきました。



水野武の母久子が働く航空工場の工員たち。
君が代がフルバージョン流れる中、粛として首を垂れます。



久子が舎監を務める女子寮では、女工たちがラジオを聴いていました。



その夜、久子は寮生の中沢から、実家が大変な状態なこと、
手伝いに帰郷しろと言われている、と打ち明けられます。



久子は帰郷を勧めますが、彼女は

「戦地の兵隊さんたちのことを思うと、とてもできません」

そう思っているならなんで打ち明けたんだって話ですが。
個より公に殉じるのは軍人だけにあらず、こういう自己犠牲を賞賛し、
戦時下の国民の在り方を説いてくるのがさすが国策映画です。




開戦二日後の12月10日、ここは台湾の日本陸軍航空隊基地。
隊長が猿をペットにしています。



我らが水野武少尉率いる4名が、この基地に着任してきました。


ここで武は航空士官学校の同期、馬場少尉と再会します。


やはり同期の戦闘機乗り、岩田少尉も同じ基地でした。
再会を喜び合っていると出撃命令がかかり、岩田はこう言い残していきます。

「人生わずか50年、ただし軍人半額じゃ!はっはっは」

おい、フラグ立てるな。


邀撃に向かった戦闘機隊は米軍戦闘機(マスタング?)と撃ち合います。


一対一で敵機の後ろを取った岩田は相手を撃墜しますが、
自分もその直後背後を取られてしまいます。

一連の戦闘シーンはこの頃の特撮にしては上出来で、
どう合成してあるのか実写と見紛うばかりです。


戦闘機が出撃している間、整備員たちは、
自分が整備した飛行機が無事に帰ることをただ待つだけです。



戦闘機隊は帰投しましたが、岩田少尉の機が帰ってきません。

「小幡中尉殿、岩田少尉殿はどうされたんでありますか!」

「編隊を離れたがすぐ戻る。心配するな」

敬礼の仕方(皆手のひらを前に向けている)もそうですが、
いちいち「殿」をつける陸軍式呼称も、
海軍ばかり取り上げてきたわたしには、新鮮に感じてしまいます。



心配そうな整備担当。


そのとき、見てもわかるくらいフラフラとした飛行で
岩田少尉機が基地に戻ってきました。
整備員が真っ先に駆けつけ、救急隊も急行します。



負傷しながらもなんとか帰還した岩田少尉。
あれはフラグではありませんでした。よかったね。

■ 後方支援


ここは水野の母久子が働く航空機工場です。


どこのかはわかりませんが、本物の工場風景。



女子工員が机を並べて作業をしています。



こちら中沢清子さん。
実は彼女の実家は大変どころではなく、父は危篤で、
しかも彼女はその知らせを受け取っていました。

なのに彼女は仕事を離れようとしません。



こちら、別の女子工員牧さん。
熱があるのに隠して作業を続け、昏倒してしまいます。



風邪なら皆に伝染するから素直に休めよ、と今なら思うんですが、
こういうのがともすれば賞賛されがちだったんですね。

そして父の危篤を隠して仕事を続けていた中沢清子さんですが、
それが皆の知るところとなり、久子ら全員に勧められて
やっと帰る決心をしたときには時すでに遅し。

帰る支度をしているところに父訃報の電報が届き、
それをみた彼女は泣き崩れるのでした。

(この部分フィルム欠損で映像なし、字幕の説明による)

中沢さん、戦後、あの時の自分を殴りたい、とか思いそう・・。

■ 索敵行



前線の水野少尉に敵基地爆撃のための偵察命令がくだりました。



水野少尉と同期の馬場少尉が後席に同乗します。
こういうときに組むのはベテラン下士官のような気がするけど違うのかな。



キ51九九式軍偵察機という設定ではないかと思われます。



ちなみに当基地爆撃隊の飛行機は、九九式双発軽爆撃機キ48、
連合軍コードネームLily
と思います。(映像本物)


で、この航空司令なんですが、わたしてっきり藤田進だと思っていました。

でもクレジットを見たらどうも違うみたいなんですよね。
そもそも映画についての詳しい情報が全く残されていないので、
これが誰なのか結局突き止めることはできませんでした。



さて、出撃した水野機は。


敵基地らしきものを発見しました。



さっそく後席の馬場少尉が航空写真を撮ります。
・・って、このカメラのでかさ!

これは、日本工学工業(現ニコン)が開発した、
陸軍の96式航空写真機
で、レンズは180ミリだったということです。
映画では本物のカメラを陸軍から借りて使っています。

両手と顎を使って本体を保持してシャッターを押すのですが、
重量はほとんど10キロあったということなので、
揺れる機上では焦点を合わせるのは大変だったと思われます。



しかし、馬場少尉がよく見ると、基地にはダミー機が置かれているだけ。
その旨基地に打電して、彼らは帰途につくことにしました。

つまり、爆撃隊は今回出番がなかったということになるのでしょうか。


ところがその直後、水野らはボーイング30機の大編隊が、
マラッカ海峡方面に向かうのを遠方から発見しました。

どう考えてもすぐに帰投しないといけないこの状況で、
彼らは残り2時間の燃料を追跡に使うことを瞬時に決めました。

「軍人半額だ、行くぞ!」



100キロ追跡したところで、大編隊は本物の基地に着陸して行きました。
さっそく撮影の上、基地に送るために打電します。

そのとき。



「あっ!来たっ!」


邀撃にきた敵戦闘機でした。



機体に被弾を受けながらも反撃し、ようやく1機撃墜。


そのころ、水野偵察機の報告を受けた基地司令は、
発見された基地への爆撃隊の出動を命じていました。

 

一方航空司令は、水野機との連絡を取ろうとしますが、
通信機に被弾してしまった水野機からの応答はありません。

ところで、このときの通信のシーンで手前にいる通信員は、
「水兵さん」で主人公の海兵団の同級生山鳥くん、
「間諜未だ死せず」で憲兵隊の使い走りをしていた俳優が演じています。
国策映画専門のちょい役専門俳優だったんですね。

今となってはその映像以外に彼のデータは何も残されていません。


こちら水野機、通信機はついに直らず、燃料も尽きました。
ここからは、のちに彼らのことを報じたとされる新聞記事からの解説です。


敵戦闘機を追い払いをしたものの、
致命的な一撃を発動機に受けた水野機の高度はグングンと下がり、
やがて密雲の中に飲まれてしまつた。

これまで巧みに気流を利用して操縦を続けてきた水野少尉も、
密雲の悪気流の中で視野を奪はれては如何ともなす術がない。

今はこれまでと彼は背後に呼びかけた。

「オイ馬場、良いか」




馬場も莞爾としてヨシと答える。
自爆の決意がお互いの胸に通い合つたのだ。



二人は静かに瞑目した。



思へば25年の命、ここに散るも男子の本懐である。

日頃の修養全てこの一瞬に向かつて集中されていたのだといふ。
通報の任務半ばにして果てるを悔いる色の他、
二人の若い軍人の顔には些かの動揺も認められぬ。



機はさうした二人を乗せて下降速度を早めていく。

と、何を思つたか水野少尉はハッと目を開いた。
そして彼はこの時、雲の切れ間に浮かぶ母親の顔をはつきりと見た。

思はず握る操縦桿。
愛機は母の顔目指して急速旋回した。




一刹那、山肌に生ひ茂つたジャングルの梢をサッと入って、
機は危うく激突を免れていた。

馬場少尉も目を開いてみた。

何たる天佑!




山を超へた彼方には南海の一孤島が白砂を光らせて横たわつてゐる。
水野少尉懸命の操縦は功を奏した。
水野機はそこに奇跡的な着陸を遂げることができたのである。



その頃航空基地からは、水野機の捜索隊が出されていました。



無人島に不時着した二人は、それでも自分たちの報告がうまくいったか
そればかりを気にしています。

「せっかく重要な任務を与えられたのに
こんなところで犬死にしちゃ申し訳ないからなあ」



懸命に通信機を修復しようとするのですが・・・。



「だめだ・・処置なしだよ」



しかしその頃、水野機の報告を受けた爆撃隊は
敵の基地を発見し、飛行場の機体に大損害を与える戦果を挙げていました。



一方捜索隊に成果はなく、その夜航空隊長は、
一人月夜の元で部下のことを思い過ごしました。


翌朝早くから再び出された捜索隊の一機が、小さな島を見つけました。



これこそが水野機が不時着した島だったのです。



食料を探しに砂浜に出てきた武は、上空の爆音に気づきました。



飛行機の翼から必死で手を振ります。



そのへんにある葉っぱのついた枝を大きく振る二人。



わかった、という印に捜索機は大きくバンクをし、
非常用の食料と水を落としていきました。

このときの捜索機パイロットと二人のやりとりはなかなか感動的です。

このとき落として行った通信筒には、二人の報告によって
敵飛行場の機体47機を撃滅したという戦果が記されていました。



その晩、二人は差し入れられた非常食で祝宴を開きました。



このときバックに流れるのは、「索敵行」という、
まるで彼らのためにあるかのような軍歌ですが、
調べたら、この映画の主題歌として作られたものでした。

日の丸鉢巻締め直し グッと握った操緃桿
萬里の怒濤何のその 征くぞ倫敦華盛頓
空だ空こそ國賭けた天下分け目の決戦場!

瞼に浮かんだ母の顔 千人力の後楯
翼にこもる一億の 燃える決意は汚さぬぞ
空だ空こそ國賭けた 天下分け目の決戦場!

作曲した万城目正(まんじょうめただし)は映画の音楽も担当しています。
戦後ヒットした「リンゴの唄」「悲しき口笛」「別れのタンゴ」
「東京キッド」などの作品は知っている人も多いでしょう。


■ 「殊勲の荒鷲」



二人の奇跡の生還は新聞に報じられました。
水野久子の実家のある故郷では、新聞記事を手に
祖父と叔父叔母が歓声をあげます。



「殊勲の荒鷲」

母に導かれて奇跡の生還
水野・馬場少尉の敢闘


という見出しと、彼らの敵戦闘機との戦い、敵編隊発見、不時着、
捜索隊に発見されるまでが物語仕立てで?記事にされています。

当時は、このような戦意を高揚させるための記事が
敵味方彼我でマスコミによって取り上げられ、大々的に報じられました。

「百人斬り」事件のように、記者が受けるプロパガンダ記事にしようと
必要以上に盛って書いたところ、戦後にそれを元に戦犯認定され、
最終的に命を失う結果になった例もありましたが、それはともかく。

新聞記事は、映画の小道具と思えないほどちゃんと作られており、
画面に一瞬しか映らないにも関わらず細部が記されているのが確認できます。

馬場中尉は(え?少尉でしょ)キーを握ると基地に無電を打ち始める。
「イバ飛行場にて敵機20を発見せるも戦闘機5機の他は偽飛行機なり」

その時である。
はるか南方に見える多数の黒点。
「ボーイングだ」「うん」
水野機は再び高度を上げた。

そして、同じ誌面に「呉鎮合同葬」を報じる記事も見えます。
 


久子が寮監を務める女子寮で、卓球台に集まった女子工員たち。
うち一人が皆に新聞記事を読んで聞かせていました。
それが先ほどの不時着部分の記事です。

そして、後方支援に携わる国民の皆様の奮闘努力を労うことも忘れません。

「あたし達のことも出てるわよ!
”なお両少尉は生還の原因として機体の優秀性を上げ、
制作関係者の上下一致の熱性によるものとして感謝されている”」




久子は夫の遺影を見上げながらつぶやくのでした。
それはかつて息子の進路を決めることになった、夫の日記中の一文でした。



「子供は父母の子たると同時に国家の子なり・・」


そして程なくして、武が前触れなしで母の元に帰ってきました。
帰るなり母に敬礼する息子。



「武・・・!」

母の目にみるみる涙が浮かんできます。



武は父の墓前に手を合わせました。

親子はこの三日間の休暇中、父の墓参り方々小旅行に出かけました。


どこのお寺かはわかりませんが、本堂に
「大東亜戦敵国降伏祈修」
などという木札が下がっています。
帰郷してくる軍人や、出征兵士の家族が祈祷を依頼したのでしょう。


そして瞬く間に休暇は終わり、久子はまた元の日常に戻りました。

二人でいる間は戦争や戦地の話などなにもしないまま、
武はまた帰っていってしまいました。



そのとき、工場の上空に爆音が響きました。



陸軍の飛行機3機が青い空を南に向かっていきます。


「愛機南へ飛ぶ」

この映画のタイトルはこの最後のシーンを指していました。



母は飛行機の消えた方向に向かって頭を下げ目を閉じました。



予想通りゴリゴリの国策映画で、面白いかというと全く面白くありませんが、
陸軍予備士官学校、航空学校の生きた映像を見ることができます。

そして、我々が思う以上に、当時たくさんの国民がこの映画を観て、
戦地に息子がいる全国の母親たちは紅涙を振り絞り、
少年たちは迫力ある模型の空戦映像に興奮し、そして
ともすればあまり人気がなかった偵察への志願が増えたことでしょう。


終わり。





国策映画「愛機南へ飛ぶ」前編

2023-12-09 | 映画

しばらく海外の古い戦争映画が続いたので、この辺で
戦中の国策映画を取り上げることにします。

「愛機南へ飛ぶ」

この有名なタイトルは耳にしたことのある方も多いでしょう。
わたしは一度、出征した軍人の遺書の中にこの言葉を見た覚えがあります。

海軍国策ものである「水兵さん」と同じく、(制作は1年違い)
こちらは陸軍航空兵のリクルートが目的にもなっています。

正直、日本の戦意高揚国策映画に面白い作品があったためしはないですが、
1943年という戦争真っ最中の作品ということで
我々が思う以上に皆に観覧され、人気もあった作品です。

■ 映画配給会社という名の映画配給会社

「一億の 誠で包め 兵の家」

「映画配給会社」(社名)の配給した作品の最初に現れる標語です。
映画配給会社は第二次世界大戦の間存在した映画配給会社で、
1942年に創立し、1945年8月15日に解散しました。

わかりやすく戦時高揚映画配給を目的とした軍御用達会社だったわけです。

1942年2月、政府は映画統制令を出し、
全ての娯楽映画としての制作は禁止されることになります。

松竹、東宝、大映、日本映画社の4社が合同で出資され、
戦時中の作品とニュース映画を引一括して配給していました。

その配下に書く映画制作会社がいて、実際の制作を行います。
そして、映画配給会社、通称「映配」の作品には、このロゴか、

「撃ちてし止まむ」

のどちらかが必ず最初に登場しました。
(こちらは『乙女のゐる基地』で見た覚えがある)

ロゴに続き「情報局国民映画」の文字が現れ、やっとタイトルです。


■ 子は国の宝



水野家は民間船舶会社の船員を一家の主人とする平凡な家庭です。
昭和2年のこの日、家の居間で、若い夫婦が
8歳になった息子の武の将来について話し合っていました。



父親の水野氏を演じるのは佐分利信。(おそらく客寄せキャスティング)
それが宿命とはいえ、明日からまた何ヶ月も母と子を置いて船に乗る生活。

最後の休暇の夜、夫婦は息子の武の将来について語り合っていました。

「わたしはお医者さんになってほしいわ・・。
船乗りは、ちょっと・・・・」


明日からまた母子二人の生活が始まると思うと、
息子を船には乗せたくないという本音がつい出てしまう妻でした。

夫は思わず苦笑しますが、彼女の意見に賛成も反対もせず、
ただ一つ、丈夫で清らかな子供になってほしいと言い、出港していきました。

■ 父の訃報



そして5月27日。
この日は海軍記念日でした。



東京では海軍の大行進が行われる慣例がありました。
当時の実際の行進と観衆の様子を見ることができます。
これは銀座周辺だと思われます。



有楽町、丸の内・・・東京中を正装した海軍の分列が歩き、
人々はそれを見るために沿道に集まり、大変賑わいました。



川が見えますが、現在上に首都高が走っている場所ではないかと思われます。
都電の線路も見えますね。



この日老男女は海軍行進を沿道で旗を振って声援を送りながら見送ります。
「海軍記念日」は当時初夏の季語にもなっていました。



息子武が友達と海軍行進を見に出かけた後、
鎮痛な面持ちの船舶会社の社員が水野家に悲しい知らせをもたらしました。

航路の途中、水野氏が病気にかかって急死したというのです。



一家の主人を失った母子は、母の故郷にやってきました。

母は、息子を実家に預け、自分一人で東京で働くつもりでした。
会社からの弔慰金などはもらえましたが、それだけでは備えとして不安なので
体の弱い武を田舎で静養させている間、洋裁でなんとか身を立て
将来のたくわえにしようと考えたのです。

母が自分を置いて東京に働きに行く決意を告げると、
武は寂しそうな、不安そうな様子を隠しません。

都会っ子で体の弱い武は、このころ地元の子供たちの遊びの輪からも
得てして遅れをとるような状態でした。



母親の考えを変えたのは、学校で母親向けに行われた講演会でした。
今でいう?「母親教室」みたいなものです。

講師(笠智衆)は、親の愛情が子供の一生にとって大切であることを説きます。

「子供を苗木に喩えるならば、母親は太陽となって照らし、温めることで
水も肥やしも十分に彼らい吸収させることができるのです。

子供は国家の将来を担うお国からの大切な預かりものなのです。」





その言葉にハッと胸を打たれた母は、決心しました。
息子はどんな苦労をしても自分の手元に置いてここで育てようと。



そして、10年の時が流れ、昭和12年7月7日。

盧溝橋でのちの日中戦争の戦端となる事件が起きたのと同じ日、
水野母子の暮らす中学校では軍事教練が行われていました。



その指揮を執る生徒は、すっかり逞しく成長した水野武でした。
演じるのはこの頃の国策映画の常連で主役などを務めたご存知原保美です。



母は実家の郵便局で働きながら息子をここまで育ててきました。
顔見知りの村の医師は、すっかり丈夫になった武に感嘆します。

「来年は進学ですな。どんな道に進むんですか」

「はあ、できれば先生と同じ方面に行ってくれればと・・」

「医者ですか。いや、これからは経済をさせなさい」

先生、なぜだ・・・・。



しかし武が進みたいのは医学でも経済でもありませんでした。
ある日思い詰めたように、母に告げます。

「士官学校に行って飛行機に乗りたい」

母は呆然とします。
今の不安定な世情で軍人になりたいというだけでも心配なのに、
さらに危険な航空に進みたいと言い出すとは。

「お母さんはもっと・・静かな仕事の方があなたに向くと思ってたんだけど」

「お父さんが船に乗ったように、僕は飛行機に乗りたいんです!」





もちろん母の心情としては反対が先に立ちます。
しかしその夜、亡き夫の写真を見ながら夫の遺した日記を見ていた彼女は、

「子供は夫婦の子であると同時に国家の子である。
父は父の道を行く、汝は汝の進む道を選べ」


という言葉を見つけてしまいました。



それを読んだとき、彼女は亡き夫の声を聞いたような気がしたのです。


次の朝、父の遺影の前で、彼女は息子に告げます。

「飛行機でもなんでもあなたの思う通りやってごらんなさい。
その代わり、お父さんの子として恥じないよう、
決して途中で諦めたりしてはいけませんよ」



それを聞いた武は顔を輝かせ、それからそっと涙ぐむのでした。

■ 陸軍予科士官学校



成績優秀だった水野武は、難関の陸軍予科士官学校への入学を果たします。
映画はここから俄然陸士の学校案内として細かく学生生活の描写となります。

陸軍予科士官学校は陸軍士官学校の文字通り予科たる機関です。

明治20年に士官学校官制が制定されると、
士官候補生学校として陸軍幼年学校予科、陸軍幼年学校本科が誕生しますが、
大正9年に、編成が変わり、幼年学校本科は予科士官学校となります。

予科在学中の生徒は「将校生徒」と称し、卒業するときに初めて
士官候補生(上等兵)となって兵科が指定されることになります。

予科士官学校は当初幼年学校本科のあった市谷台にあり、
陸軍幼年学校の卒業生、一般試験合格者(16歳〜19歳)
下士官からの受験合格組、中国、タイ、モンゴル、インド、
フィリピンからの留学生が在学していましたが、
開戦後入校者が激増すると、手狭になった市谷から、1941年、
数ヶ月という突貫工事で竹中工務店が完成させて朝霞に移転しました。


学校案内ですので、日課の概要も申し上げてくれます。
6時起床は全国共通ですね。



現在も陸上自衛隊朝霞駐屯地に残る遥拝所石碑。
(場所は当時と変わっているらしい)





遥拝所は、海軍兵学校の「八方園神社」の方位盤に相当する場所で、
宮城をはじめ日本の各地域の方角が示された方位石が置かれ、
将校生徒たちはこの場でその方角に向かって頭を下げ敬礼を行いました。


方位石の横で軍人勅諭を唱える水野武将校生徒。


そして学科についての説明です。

海軍兵学校と同じく陸士でも理化学系統の学問に重点が置かれました。
いつの時代も戦争は科学の最先端で行われるべきだからです。

対して文化系統の学問としては、国体認識を強化し、
精神的な史談を取り上げて愛国心を養うことが重要視されました。

主にその目的とするところは軍人としての精神訓育です。


あらゆる兵科の将校となるための訓練の一環として
乗馬が行われていた時期もあったということがわかります。

そういえば、第一空挺団のある習志野駐屯地には近衛騎兵連隊、
第一騎兵連隊があり、馬場があったと以前ここでも取り上げましたね。

この映像もおそらく習志野での撮影ではないでしょうか。
映像では数十頭単位の馬が大きな円を描いて駆けているのがわかります。


お次はまるで現代のレンジャー部隊の訓練そのままの障害走。
「集合教育障害走」というそうですが全国共通かどうかは知りません。



拳銃を小脇に抱えながら匍匐前進で低所をくぐり、障害物を乗り越えて。


市谷から移転した広大な朝霞の陸軍予科士官学校は、
戦後米軍に接収され、キャンプ・ドレイクとして運営されていました。

これらの施設もある程度残されたのかもしれませんが、
現在は一部を除き、ほとんどかつての姿をとどめていないと思われます。



武道も勝ち負けよりも精神性が重んじられます。

■ 陸軍航空士官学校



武は陸軍予科士官学校を卒業し、士官候補生として入校を果たしました。

陸軍航空士官学校は昭和12年、埼玉県所沢飛行場内で開校し、
昭和13年に入間に移転した航空士官養成機関です。
昭和16年、昭和天皇により「修武台」の名を賜りました。

ご存知のように、陸軍航空士官学校は戦後米軍に接収され、
ジョンソン基地となっていましたが、航空自衛隊の発足を受け、
現在は航空自衛隊入間基地となっています。


修武台と書かれたこの石碑は、現在でも入間基地内で見ることができます。


座学ではこの日、偵察についての講義が行われていました。
偵察の任務は戦闘をできるだけ避け、情報を持ち帰ることだ、
と基礎的なことから説明です。



飛行機のエンジン始動の実習シーンは、ロケの日に天気が悪かったらしく
画面が真っ暗でほとんど何をしているのかわかりません。


航空機における空中戦と剣道には合い通ずるものがあるということで、
航空学校では剣道が重視されました。

「肉を斬らせて骨を断ち、斃れてなお止混ざるの気魄を遺憾無く発揮せよ」



水泳、というか高所からの飛び込み。



どうも入間川に練習用の飛び込み台が設置されていたようです。

冒頭の見事な飛び込みを見せているのはおそらく最優秀者で、
頭から飛び込めずに足から着水している生徒もいます。

この士官候補生たちは、その後どんな戦場で戦うことになったのでしょうか。



水中騎馬戦。手前の二人、結構楽しそう。


大きなリングの内部につかまり、地面を転がっています。

現在では「ラート」という大きな2本のリングで行う車輪運動ですが、
第二次世界大戦中、「フープ」「操転器」という名称で
航空操縦士養成の訓練専門器具として採用されていました。

大戦後姿を消していましたが、もともと発祥地のドイツでは
子供の遊具として知られており、これが1989年、
大学教授が留学先から持ち帰り、スポーツとして復活しています。


ロープを高所までよじ登り、上にたどり着いたら片足バランス。
平均台の上でも結構大変なのに、この高さで・・・。
これも搭乗員として必要な平衡感覚を鍛える運動です。


予科でも行われた器械体操は、航空学校になるとより進化して。
空中回転などは基本です。



これを画面では「球戦」と称していますが、アメリカンフットボールです。
さすがにこの名前は使えないので・・・。
ただし、外来語全て禁止されていたわけではありません。(ルールとか)



瑣末なルールには拘らず、敢闘精神を発揮して。

■女子搭乗員たち


その頃。
息子が航空学校に行くようになってからすっかり飛行機に目覚めた母は、
地元の子供のグライダーの面倒を見るまでになっていました。



彼女の父親と釣りに行く途中、そんな彼女の姿を見て
結構結構大いにおやんなさいと励ます恩師、笠智衆。


そのとき通りかかった武の同窓生、航空機工場勤務の菅沼に誘われ、
母は週末、霧ヶ峰の滑空場を訪れました。

霧ヶ峰は知る人ぞ知るグライダー発祥の地でした。

昭和8年にグライダー滑空場が始まって以来滑空機のメッカとして
ご覧のように、映画が制作された頃も滑空は行われていましたが、
終戦と同時に使用中の数十機と機材は焼却されました。

戦後7年の昭和27年からまた学生航空連盟などの団体が
ここでの訓練を開始し、現在も競技会が開催されています。

霧ヶ峰グライダー滑空場


どうして動力がないのに宙返りなどの操縦が可能なのか、
少年が尋ねると、航空工場勤務の青年は、
上昇気流を利用するのだ、とわかりやすく説明してやります。

そして華麗に舞っていた一機のグライダーの操縦席を見て母は驚きました。
女性だったからです。

「あれは中級機ですが、さっき宙返りをした高級機に乗る女性も二人います」



この女性は初級機パイロットです。



尾翼の後部にいる係が装置を外すと、グライダーはするすると滑走し、
そのまま斜面を降りながら飛び立つのです。

初級機は最初このように低い安全な場所から始めます。


滑空を終えると、降機し、



監視官に高度を報告し、敬礼して終わります。(ちなみに高度は4m)



滑空を済ませた機体は、皆で掛け声を出しながら元の場所に戻します。



このグライダー女子が、どこの所属で何を目的にここで訓練していたのか、
映画では説明されませんし、資料も見つかりませんでしたが、
陸軍の一部はグライダーを軍利用するための研究をしていたそうですから、
その補助として挺身隊の女子を輸送搭乗員に養成していたのかもしれません。



彼女らの様子からは、とてもグライダーを遊びでやっているとは思えません。



しかし、隊員が全員美人であることから考えても、
映画的な演出と創作であった可能性は大いにあります。



グライダー女子の存在は水野の母久子に強いショックを与えました。
そして彼女自身も何か航空に携わりたいという思いを強め、
菅沼に航空工場での仕事の斡旋をその場で依頼しました。

カーチャン・・・。

■ 卒業式



そんな母の心を知ってか知らずか、息子の武は
順調に航空士官への道を歩んでいました。

今日は初めての単独飛行です。



その日、武は旧友菅沼からの手紙を受け取りました。
それには、彼の母が航空工場の舎監として働くようになったこと、
それは間接的に息子の助けになると信じているからだ、とありました。

このあと、舎監として若い娘たちの面倒を見る久子のもとに、
武が休暇で帰ってきて父の思い出を語り合ったりするわけですが、
それら多くの場面のフィルムが欠損しており、こんな感じで解説されます。





そして次のシーンでは航空士官学校の卒業式です。
水野武は第54期卒業(1941年)という設定です。



「台湾第8068部隊付士官候補生水野武」



武は3名の成績優秀者の一人として卒業式で名前を読み上げられました。



このとき軍楽隊の奏でる儀礼曲の曲名はわかりませんでした。



卒業生は家族を伴ってそれぞれ振武台航空神社に参拝します。



遥拝所にて。

「ここで毎朝宮城と伊勢神宮を遥拝するんです。
それから、お母さんおはようをいうんです」




母は宮城の方向に深く頭を下げるのでした。

映画で武が卒業したとされる航空士官学校第54期は395名、
操縦298(偵察66戦闘82軽爆60重爆90)技術37通信36偵察24名。

そのうち戦没者は254名でした。

続く。



映画「海の牙」Les Maudits(呪われしものたち) 後編

2023-11-07 | 映画

さて、映画「海の牙」ならぬ呪われしものたち、後半と参りましょう。
今日のタイトルは、登場した海軍軍人を描いてみました。

左上から砲雷長、副長、米軍大尉、艦長、輸送船長、
下はUボート出航時の艦長と副長です。

フランス製作の映画のせいか軍事考証が甘く、
ナチスドイツの軍帽のエンブレムの上につける鷲のバッジがなかったので、
こちらで勝手に描いておきました。

■ クチュリエの死


ナチス再興ご一行様が当てにしていた南米の支援者、
ラルガに裏切られ、これを腹立ち紛れに殺害したフォルスター、
実際に手を下したウィリー、Uボートの副長が帰還しました。

つまり、補給先のあてははずれてしまったということになります。



彼らが乗って帰ってきたボートは
舫が解かれ、海に放棄されました。



それを見たジャーナリスト(正体がバレたスパイ)
クチュリエの顔に決心が浮かびました。
上着を脱いで海に飛び込み、ボートに乗り移って逃げようと。



必死で泳ぐクチュリエに、フォルスターは何発も銃弾を撃ち込みます。
この銃の撃ち方で彼の親衛隊での経歴が想像できます。


船端に手をかけたクチュリエの体を銃弾が貫きました。



甲板に脱ぎ捨てられた死者の上着を海に蹴落とし、
この冷酷な男は残った弾をヒルデの目の前で海に撃ち込みます。

■ エリクセン逃亡



艦は出航し、停泊の間閉じ込められていたジルベールはほっと一息。



ウィリーはこれからフォルスターにお仕置きを受ける予定。
(ベルトによる鞭打ち。子供か)

しかし、ここでまたしても事件が起こりました。



ノーマークだったエリクセンがいつの間にか消えていたのです。
彼は甲板下のゴムボートで脱出していました。
ジルベール医師がボートを見つけた時甲板にいたのは彼だったんですね。



娘のイングリッドは、人目を避けるように誰もいない場所に忍び込み、



そこにいた猫を抱いて涙を流しました。
うーん・・・・お父さん、普通娘を置いて自分だけ逃げるか?

■ 通信士の「自殺」


艦長は、工作員は当てにならないので、
付近にいるドイツの補給船に救援要請をしようと提案しました。



救援を打電した通信士は、ジルベールに
補給船に乗り移って逃げるチャンスだと囁きます。



フォン・ハウザーもそろそろ弱気になり始めますが、
フォルスターはいまだに敗北は想定内だった!などと強気です。

「あんたのような腰抜けにはもう任せられないから指揮を執る!」



フォン・ハウザーにはまたしても暇なヒルデが擦り寄ってきますが、
彼は今それどころではないと追い払います。

地位と輝かしい未来あってのトロフィーワイフならぬ愛人など、
そのどちらもが失われそうな今、何の価値がありましょうか。


その直後、通信士が持ち場で死んでいるのが発見されました。
フォルスターは自殺だと言い放ちます。

彼は色々と「知り過ぎてしまった」のです。

■ もたらされた終戦の報



Uボートは補給船と接舷を行いました。


補給船からは船員たちが興味津々で見物中。



敗戦の情報を補給船からシャットアウトするため、フォルスターらは、
たった3人の乗組員を作業に派遣するにあたって、

「補給船の船員とは口を聞くな。何も視るな」

と厳しくお達しをしておいたのですが、口はきかずとも、何も見ずとも、
耳からはいくらでも情報が入ってくるわけで・・・。



艦内に戻った3人は、早速仲間に伝えます。

「終戦だ!」

「本当か?終わったんだな?」


停泊中施錠された部屋に閉じ込められていたジルベールはそれを聞きつけ、
イングリッドにドアを開けてくれるように頼みました。


フォルスター、フォン・ハウザー、潜水艦長の3人は輸送船に移乗し、
輸送船長から終戦の知らせを改めて聞かされました。
デーニッツ直々の指令として送られてきた電文には、

「ドイツ軍全艦隊は最寄りの港に寄港せよ」

フォルスターは、そんな命令が聞けるか!我々には任務がある!
と怒鳴りますが、潜水艦長は上司であるデーニッツの指令に従うと言い切り、
意外やフォン・ハウザーも敗戦を受け入れて輸送船に残る選択をしました。

二人は輸送船長と共に船内に姿を消します。

ここでお気づきの方もいるかもしれませんが、この艦長です。
司令官とあろうものが、いくら敗戦を受け入れたといっても、
ボートを放棄して部下を残し、真っ先に輸送船に移乗するって・・。

こんなのたとえお天道様が許してもカール・デーニッツ閣下が許しますまい。

今更ですが、こういうときに司令官たる艦長は(民間船であっても)、
最低限、艦長命令で命令通り近くの港に入港させる責任を負うものです。


■ ヒルデ惨死



フォン・ハウザーは乗員に命じてヒルデの荷物を運ばせるのですが、



訳のわからない彼女は、持って行かせまいと必死で抵抗。



フォルスターが潜水艦に戻ると、南米でラルガ殺しに加担したあの少尉が、
彼にとんでもない計画を囁きます。

「輸送船を、潜水艦に残っている10名で撃沈しましょう」

この悪魔の所業を提案したのがなぜUボートのNo.2なのか、
ついでになぜ副長クラスなのに彼の階級が少尉なのか、
このあたりが色々と理解できないのですが、何よりわからないのは、
なぜここで輸送船を葬る必要があったか、です。

計画をあきらめて敗戦に従ったフォン・ハウザーと艦長を罰するため?



計画を物陰で耳にしたジルベールとイングリットは蒼ざめます。



そしてヒルデはというと、半狂乱になってフォルスターと揉み合い、
フォン・ハウゼンに知らせるために輸送船に移乗しようとするのですが、



ショックと興奮でわかりやすく錯乱状態に。



フォルスターは一応彼女を止めております。
はて、ヒルデなど邪魔なだけなんじゃなかったっけ。



ひらひらの赤いガウンを翻し、輸送船の梯子に飛びついたヒルデ。
足をかけ損ねてそのままずるずると海中まで滑り落ちていき、
次の瞬間、彼女の体は船体の間に挟まれ、潰されてしまいます。

このシーンですが、本当に女優(スタント?)が水に落ち、沈み、
挟まれるまでが、カメラの切り替えなしで撮影されています。

種明かしをすれば、おそらく船体と見えるのは上から吊った板で、
スタントは水に落ちるとすぐさま板の下を潜って向こうに脱出、
(水中に板の下端らしきものがちょっと見える)脱出が終わると、
輸送船の方の壁をこちらに打ち付けるという仕組みでしょう。

これでも大変危険なスタントだったと思いますが。



いずれにしても超ショッキングなシーンで、誰しも衝撃を受けます。

■ 輸送船撃沈



しかしこいつらはそんな光景にも眉ひとつ動かさず。
補給が完了すると、艦長代行として少尉が命令を下して離艦を行います。



そして、輸送船から遠ざかっていくと見せかけて・・・。



魚雷発射命令。
しかしこの男、少尉にしては老けすぎてないか。



魚雷室、#1と#2が装填を完了。



発射!



魚雷発射シーンは本物です。
が、これは本当に潜水艦?



至近距離から狙われた輸送船はひとたまりもありません。



魚雷爆発&沈没シーンは実際の戦時フィルムから取っています。



救命ボートの映像も実写。
実際こんな状況で沈没したとしたら、誰も避難できなかったと思いますが。



魚雷を発射中の後部魚雷室に、前部魚雷室の魚雷員がやってきて、

「正気か?同胞の船だぞ!」

ちなみにこのメガネの乗組員は士官です。
冒頭のイラストで着ている制服の袖から中尉だとわかります。

はて、もうひとつ謎。
副長が少尉で砲雷長が中尉って、命令系統的におかしくない?



両者の間で揉み合いになります。



輸送船が沈んでいく様子を平然と眺める人たち。
フォルスターがうそぶきます。

「あんな美しい船を連合国に渡すわけにはいかん」


さらにこの老けた少尉、機関銃で救命艇の人々の殺戮を命じます。
生き残って撃沈を証言されたら困るからですね。



煙たいフォン・ハウゼンも、何かと自分に逆らう艦長も、
この世から抹殺できるとご満悦のフォルスター。

■ 反乱



艦内での乱闘は続いていました。




砲雷長が叛逆を甲板に報告しますが、



直後、射殺されました。



悪辣少尉による同胞殺戮は続いていました。



フォルスターは海面を探照灯で照らして殺戮のお手伝い。



そこに艦内での争いに勝ったまともな乗組員たちが駆けつけ、
少尉と銃弾装填を行っていた下士官に襲い掛かりました。



この副長には今までよっぽど嫌な目に遭わされていたんですね。
彼はこの後海にデッキから叩き落とされました。

ザマーミロだわ全く。



フォルスターは隙を見て艦内にコソコソと避難。
武器を持ってきて反逆者を始末するつもりです。


生き残った乗組員たちは食料を積んで、
救命艇で潜水艦から脱出する準備を始めました。

ジルベール医師もイングリッドを連れて彼らのボートに乗ろうとしますが、
丁度艦内に戻ってきたフォルスターに殴られて、気絶してしまいます。



フォルスターは艦内に閉じ込めていたウィリーに、
居丈高にピストルを出せと命じます。
救命艇にむかってまた撃ちまくるつもりでしょう。

フォルスターにピストルを渡したウィリーは、
次の瞬間無言でフォルスターを背後からナイフで刺しました。



DQNの一突きでほぼ即死するフォルスター。
脂肪分厚そうだけど急所だったのかな。

■ 救命艇での脱出



救命艇に乗ることができたのは、結局イングリッドと、



「フォルスターを殺してきた」

と得意げに宣言しながら走ってきたウィリーでした。

いやちょっと待って?

少尉とそのシンパ、諸悪の根源フォルスターをやっつけたら、
もう潜水艦から脱出する必要ないのでは?

Uボートの乗組員なんだし、給油も補給もすませたばかりですよね?
うーん、ここで彼らが潜水艦から逃げる理由がわからん。

■ Uボートでの漂流



ジルベールが気がついた時には、



救命艇はすでに遠ざかっていました。



以来何日間も、無人の潜水艦で一人漂流する毎日。



このまま誰にも知られず死んでいくのかと思うとたまらなくなった彼は、
蝋燭の灯りでノートに回想録を筆記し始めました。



しかし、全くの孤独ではありませんでした。



この猫さんのためにも食べ物が無くなる前に見つかりますように(-人-)



些細なことも全て思い出すままに書き記していきました。
主にここで出会った人々のことを。

「軽率で臆病なクチュリエ、
海に身を投げたガロシ・・・フォルスター。
情緒不安定だった未亡人のヒルデ・・・フォルスター。
不良のウィリー・モールス・・・フォルスター。
彼らが語りかけてくるようだ。
奇妙な作業だ」

フォルスターが何度も出てきます。
彼らの声を、顔を思い出しながら、彼はひたすら書きました。

ところで、艦内にはそのフォルスターのはもちろん、
何人もの人の死体が転がっていたはずなんですが、
それってせまい潜水艦でかなりやばい状態なんでは・・・。

まあ、映画だからその辺は気にすんなってか。

そして。

■ 「呪われしものたち」



その随想録の最初の読者となったのは、
フランス語を喋るアメリカ海軍将校でした。



ヘラヘラと彼にコーヒーを勧めながら彼の肩を叩きます。

「これで最終章が書けるな。
”最後はアメリカ海軍の魚雷艇に救出された”

・・・あとは受けるタイトルだ。どうする?」



「・・Les maudits. 呪われた者たち」

ラストシーンでは、彼の乗っていた潜水艦が魚雷艇に処分されます。











あ、もちろん猫も一緒に助けたよね?

終わり。



映画「海の牙」Les Maudits(呪われしものたち) 中編

2023-11-04 | 映画

ルネ・クレマンの限界心理ドラマ、「海の牙」二日目です。
本日はいつものイラストではなく、各国で上映された時の
ポスターを集めてみました。

まず冒頭画像は、フランスで公開されたときのメインポスター。
このポスターに「呪われしものたち」なんてタイトルなら、
オカルト映画かななんて勘違いする人もいそうです。

頭を抑えているのは、ガロッシ夫人ヒルデです。



その2。
シルエットになっているのはフォルスター、女性はヒルデ(似てない)。
さて、それでは右側の男性は誰でしょう。

実はこの映画のポスターでトップに名前を記され、顔が描かれている
「ダリオ」という俳優は、まだ前半には出てきていません。

左は潜水艦のガンデッキで揉み合っている人影でしょうか。



ハンガリー語でElatkozott Hajoは「呪われた船」という意味です。
このポスターでもダリオの名前が最初になっていますね。



イタリア語は「呪われたものたち」と、原題そのまま。



我が日本公開の時のポスターもどうぞ。
とりあえず映画のポイントを全部盛ってみました感がすごい。

「敗戦前夜密かに逃れるUボート乗組員の反目と憎しみ」

この煽り文句も火曜サスペンス劇場の予告みたい。
細かいことを言うようですが、彼らは「乗組員」じゃないんですけどね。


日本公開ポスターもう一つ。
これもダリオの名前が最初に書かれています。

これらのポスターからは、ヒルデがこのあと、この絵のごとく、
ガウン?を翻して狂乱状態になるのがクライマックスと想像されますね。

さて、それでは「呪われしものたち」二日目です。

陸軍中将と元親衛隊の大物、その愛人「たち」と愛人の夫、
学者父娘、ジャーナリスト、途中でさらってきた医師、という
どう考えてもこいつらに何ができる的なメンバーでUボートに乗り込み、
第三帝国南米支店を創設して世界征服を企む人々。(というか二人)

そんなことできるわけないとこの二人以外は誰しも思っているわけですが、
乗りかかった船ならぬUボートは、大西洋を順調に進んでいきます。

そして南米に到着する前に1944年4月30日がやってきました。

■ ガロシの自殺


ベルリン陥落、ヒトラー総統死去のニュースがもたらされます。


しかしフォルスターとフォン・ハウザーにはそのニュースが信じられず、
戦略に違いない!もし本当なら公表するはずがない!と正常バイアス全開です。



ジャーナリストのクチュリエは現実を見ようよ、と冷静。



ガロシも今やナチスへの不信感を隠しません。

「この状況でまだ勝利を信じてるのか?」


ヒルデはニヤニヤ笑いながら問題を矮小化してみせます。
自分に冷たくされて怒ってるのね、と言わんばかりに。

「あなたが苛立ってるわけはわかってるのよ。
でも、ずっと信念通り行動してきたのにどうしたの」


そんな妻にガロシは静かに、

「もう君の言いなりにはならない。もう終わりにしよう」


いつのまにかベルリン陥落のニュースと全く関係なくなってないか。


夫婦の不仲の元凶がそのとき話に割って入ります。

「ちょっといいかね。
それなら君が約束したイタリア国内の産業を譲るという約束は反故か?」

「もう十分でしょう。
わたしが今までどれほど犠牲を払ったと思います?」


(ヒルデに)

「彼に教えてやれ。数えるんだ。幾晩だった?」

「な、何を言ってるの?」

「随分前から気がつかないふりをしていた。
彼と関係があることをな」

「じゃなぜ乗艦したの?
わたしなんかより自分が好きなくせに!」

「・・・・・君を愛してる。
私に残っているのは君への愛だけだ。
これ以上それを汚さないでくれ
!」



(0゚・∀・) + ワクテカ +


そのままテーブルから立ち上がったガロシは、
「幸運を祈るよ」と皆に告げ、その場を去りました。



そして一人甲板に出ました。
甲板では見張りが数歩歩いては折り返す規則正しい足音が響きます。



構造物の影に降り立った彼は、自分の懐から全財産を海にばらまきました。


そして皆の前から永遠に姿を消したのです。



妻の裏切りを見てみぬふりをしてきた実業家のガロシですが、
第三帝国の終焉を知ると同時に、妻から悪意を浴びせられ、
彼女に自分への愛情がないことを確認するや、自分を消し去りました。



もちろんそんな妻が夫の死に打ちひしがれる様子は微塵もありません。

額の傷を隠すためヘアスタイリングに苦労していたところ、
水兵に届けられた唯一の夫の遺品である財布に
小銭一つも残されていないのを確認し、不機嫌さを募らせます。



そしてわかりやすく次の金蔓、フォン・ハウゼンに媚を売り始めます。

今までは愛人という立場でしたが、これからは全面的に面倒をみてもらわねば。
流石のフォン・ハウゼンも人目がある!とたしなめますが、

「夫はもういないの。気にすることないわ」

「気は確かか?少しはわきまえろ」


亭主に死なれても悲しむふりさえ見せず擦り寄ってくるこの女の厚顔に
げんなりというか辟易としている様子。

しかもこの会話を皆に聞かれているのですからたまりませんよね。

■ 蓄積する不満と悪意


中でもジャーナリストのクチュリエは、弔意どころか、
死人が出たというのに平然としている連中にほとほと嫌気がさしています。

彼は、死んでもう何にも悩まずにすむガロシを羨ましくさえ思い、
忍び持っている毒をいつ飲むかというところまで追い込まれていました。

ただし、彼の焦りにはまだ皆が知らない理由がありました。



こちら、その恥知らず4人組。

フォルスターとフォン・ハウゼンの間のチェスボード越しに、
ヒルデはウィリーに笑いかけ、ウィリーもニヤニヤ笑い返します。

あんたらどっちもこのおっさんたちに囲われてるのと違うんかい。


そのとき、Uボートの水兵たちが皆で歌う
「別れの歌(ムシデン)」が聴こえてきました。

別れ (歌詞つき) 鮫島有美子 ムシデン  Muss i denn

「ムシデン」 Muss i denn は、映画「Das Boot」(Uボート)でも使われた
ドイツ民謡で、日本では「さらばさらば我が友」という歌詞で歌われます。

元々シュバーベン地方の歌詞で、愛する女性を故郷に残し、
出征する兵士が故郷に戻って結婚しようという内容であるため、
陸海空問わずドイツ軍の兵士に愛唱されていました。


たちまちフォルスターが血相変えて怒鳴り込み、やめさせます。
言うに事欠いて

「総統が亡くなったんだぞ!それでもドイツ国民か!」

死者(ガロシ)にもう少し敬意を払え、とクチュリエにいわれて

「碌でもない男を敬っても仕方ない」

と嘯いたその直後に。


その後、フォン・ハウゼンにチェスで負けたフォルスター、
それを軽く指摘したウィリーをいきなり引っ叩いて八つ当たり。

ウィリーの怒りのゲージが溜まっていくのが見える・・。


潜水艦は南米に近づいてきましたが、現地の工作員から連絡がありません。
連絡がないと、上陸もできないという切羽詰まった状態になり、
フォン・ハウザーは計画者のフォルスターをなじり始めます。



そのとき、ジルベール医師にクチュリエが近づいてきました。
君の身が危険だ、フォルスターに殺されるぞと脅しつつ、

「上陸時に逃してやるから、その代わりいざというとき証人になってくれ」

と交換条件を出してきます。
実は潜水艦にはクチュリエがスパイであるという報告が入っていました。


上陸の知らせにヒルデは大喜び。



クチュリエはジルベール医師に証言の約束を取り付けて一安心。

証人として彼がどこで何をどのように証言させようとしているのか、
一切説明がないのでわかりませんが、命の保証を得たと思ったのでしょう。



学者エリクセンは、こっそりお金をポケットに詰め込んでいます。



ジルベールは、これが逃げる千載一遇のチャンスと考えました。


しかし前回確認した場所にボートとオールはありません。
彼はフォルスターの差金だと思っていますが・・。

■ 上陸


フォルスターらは、とにかく誰か上陸させて様子を探ることを決定しました。



ウィリーとUボートの少尉一人が上陸を命じられ、



二人はゴムボートで漕ぎ出していきます。



それを見送るUボート乗組員。



南米の某国に上陸した二人、
現地の連絡&調達係とされる人物の会社を目指しました。



輸入会社の社長、フアン・ラルガという人物です。


車から降りてきた男にラルガの居どころを聞いたらシラバックれ。



本人であることがすぐにバレて、二人に追求されたラルガは、
工作員はもうとっくに逃げ出した、と連絡しなかった言い訳を始めました。

元々ナチスの残党と一旗上げようとして、
物資調達と南米での要人への連絡係を引き受けたこの人物、
戦争が終わった今、こちらに付いても全く旨味がないと踏んだので、
勝った方のアメリカに鞍替えして商売しようとしていました。

何とかしようと口では言いながら、給油も物資調達もする気がなく、
わずかなドル札で彼らをていよく追っ払おうとします。



Uボート士官が上に聞いてくるといって出ていった後、
彼は残ったウィリーを手なづけようとします。

ちなみに、このラルガを演じているのがマルセル・ダリオという俳優です。
彼の名前は知らなくても、「カサブランカ」「キリマンジャロの雪」
「紳士は金髪がお好き」「麗しのサブリナ」「陽はまた昇る」
「おしゃれ泥棒」に出ていたということで、人気と実力をお察しください。

「落ち目の連中とは手を切るんだ。
もはやドイツの時代は終わったよ」

そういって匿ってやるからコーヒー豆の倉庫に隠れていろ、
とバカなウィリーを唆していると、



士官が怒り狂ったフォルスターを連れて帰ってきました。
居丈高に約束を破ったラルガを責める責める。

しかし、ラルガも海千山千、脅しをのらりくらりとかわします。


ふと気づくとウィリーの姿がありません。
ウィリー、どうやらさっきのラルガの甘言を真に受けた模様。

「どこにいった!」

「知らん。ただもうあんたにはうんざりだと」



ウィリーはラルガの言ったとおり、コーヒー豆倉庫に潜んでいました。


ラルガを殴りつけ、ウィリーを探しにくるフォルスター。


しかし、豆のこぼれる音で居所を知られてしまいます。



不思議なことに、この男にひと睨みされただけで、ウィリーは
蛇に睨まれたカエルのように従順になり、前に進み出てしまうのでした。
そして、階段を登る彼の後をうなだれて着いてきます。

・・・共依存かな?



部屋には恐怖で蒼ざめたラルガが直立していました。



フォルスターは顎でテーブルの上のナイフを指し、
ウィリーはナイフを手にとると、ラルガに近づいていきます。


それを見ながらタバコを咥えるフォルスター、
目線を二人にやったままライターで火をつける士官。

誰も一言も発しません。




「Non.....Non!」



ウィリーが外れたカーテンレールを見やって無言の殺人シーンは終了します。


続く。