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二人の「滝」~映画「太平洋の翼」

2012-02-17 | 映画



漫画「紫電改のタカ」をご存知の方は、本日画像の人物を見て、
「源田司令以外全く覚えがないぞ」と思われるかもしれません。
それもそのはず、これは、紫電改のタカから各パーツを抽出して、
映画「太平洋の翼」に登場する人物を創作してみたという、冷や汗企画。

この映画を観たとき、まず思ったのが
「これは・・・・映画版紫電改のタカではないか!」

1963年公開のこの映画は、実在の第343海軍航空隊、通称剣部隊をモデルにし、
史実とはほとんど無関係のストーリーを展開させた、戦争映画の名作。
実在の人物を架空のストーリーに出演させる。
これは、まさに「紫電改のタカ」のパターンですね。

さすがに実名を使うわけにいかないので、それを彷彿とさせる名前がつけられています。
実在の人物、創作上の人物を画像左上から紹介していきましょう。

滝司郎大尉(加山雄三)
三人の隊長のうち「二枚目キャラ」で主人公のような位置づけですが、これは
鴛渕孝大尉をモデルにしています。
画像は、紫電改のタカから、滝城太郎と、白根少佐をミックスしました。
謹厳で冷静、任務遂行のために内心の逡巡を覆い隠し、
非情な命令も出す隊長として描かれています。

矢野哲平大尉(佐藤充)
勿論、菅野直大尉です。
この絵は、マンガの米田次郎二飛曹を少し成長させてみました。
やんちゃな感じがでていますでしょうか。
この映画では、しょっちゅう冗談を言い「わっはっは」と呵々大笑する明るい隊長。
隊長三人の言い合いについて
「我々は鐘と笛と太鼓ですから」
とうそぶきながら、リンゴを投げ空中ですらりと切る、
「実は凄腕」な士官搭乗員として描かれています。


安宅信夫大尉(夏木陽介)
林喜重大尉です。
物静かで、沈思黙考型、この安宅大尉が、なぜか
「戦艦大和の特攻に護衛として着いていき、大和と運命を共にする」
という創作になっています。
監督はじめ特撮監督を含む映画スタッフの「大和愛」が、ダダ漏れ状態の演出です。
航空隊とはあまり関係なさそうな大和に、登場人物も愛を惜しみません。

画像は、マンガで心優しい動物好きに描かれていた米田一飛曹をモデルにしました。


稲葉喜兵衛上飛曹(西村晃)
創作の人物ですが、わたしがこの映画で一番気にいった登場人物が、この
「黄門様」西村晃が演じる「撃墜王」稲葉上飛曹。
中国戦線からの古参搭乗員という設定で、安宅大尉の部下です。

「戦争のやりかたを変えて、あなたを護ることに決めた」

と、まるで息子のような年下の隊長を泣かせます。
西村晃はデビュー以来悪役が多く、例えば「太平洋の奇跡 キスカ」などでも
救出作戦にイチャモンを付ける軍司令部の
なにがしを演じたりして、
なにかとアクの強さを感じさせる俳優ですが、

この映画での西村は、背の低さ(でも動きが敏捷)といい、眼付の鋭さといい、
全く凄腕のベテラン戦闘機乗りそのもので、はまり役です。

特に、大和の護衛につく決心をした安宅大尉に従う稲葉上飛曹が、
滝大尉に向かって、最後に投げつけるような敬礼の、もうかっこいいことといったら・・・。

実際に海軍予備飛行学生で特攻隊員であった西村晃は、
特攻に出撃しましたが、乗り機の不調で引き返し、
そのまま終戦を迎えています。
この画像は、滝城太郎のライバル、黒岩一飛曹をモデルにしました。

丹下太郎一飛曹(渥美清)
やっぱり、渥美清って凄いなあ、と画面に登場するたびに思ってしまいます。
もう、全人格的にセリフが、演技が、とんでもなく巧いんですよねー。
矢野大尉の部下で、明るい矢野大尉と丁々発止のやりあいをするのですが、
これが全編なんとも「愛すべき寅さん」です。

しかし、この丹下一飛曹、戦艦大和を愛するあまり、飛行靴に「戦艦大和バンザイ」
と書いた
紙を入れて落とし、それが伊藤整一司令(藤田進)に当たりそうになります。
この愉快な一飛曹は、熱烈な大和の信奉者で、その愛に殉じるために天一号作戦に
命令にも逆らってついていく、「監督はじめ皆の大和愛の結晶」として描かれます。

大和の護衛に最後まで残ることを選んだのは、安宅大尉、稲葉兵曹、丹下兵曹以下一名。
「名前を聞こう」という司令に答え、四人がそれぞれ名乗りを挙げて艦の前を航過。
丹下一飛曹はあの「寅さん口調で」
「千葉県出水郡長者町出身、海軍一等飛行兵曹、丹下太郎!」

バックに流れる音楽がそれまでの「敷島艦行進曲」から「同期の桜」に・・・(涙)
音楽は、團伊久磨。さすがの重厚感。
流行りだったのか、「ウルトラセブン」のテーマのようなホルンのフレーズが多用されております。

画像の丹下一飛曹ですが、適当なモデルが見つからなかったので、エリス中尉オリジナル。
(でも、並べてみると、モデルの有る無しで絵のレベルの違いがまるわかり・・・orz)

千田中佐(三船敏郎)
勿論のこと、源田司令がモデル。
世界のミフネ起用で、えらく重厚な源田司令になってしまいました。
紫電改のタカで実名登場している源田司令の方が本物に近いので、髭を付けてそのまま流用。

ちなみに、飛行長加藤少佐を演じているのがわたしの好きな平田昭彦ですが、
これは実際の三四三部隊でいうと志賀淑雄飛行長になります。
鴛渕、菅野、林の三隊長をそれぞれ「知将、勇将、仁将」と呼びました。
言い得て妙ですね。


「太平洋の翼」は、戦争ものの中でも非常に脚本が劇画的、漫画的といえる作品だと思います。
まず、千田大佐が「えりすぐりの搭乗員ばかりで航空隊を作る」と、
三人の隊長とその部隊を呼び寄せるのですが、おのおのが
フィリピン(滝大尉)、ラバウル(矢野大尉)、硫黄島(安宅大尉)という激戦地から、
仲間を失いながら内地に集結する様子で映画の約半分が費やされます。

安宅大尉の部隊を揚収するのが、伊号潜水艦で、この艦長が、
「潜水艦長をさせたら歴代日本一の俳優」(エリス中尉独断)、池部良
拾いあげた安宅、稲葉の二人に「君たちは・・」と呼びかけ「熱いお茶でも飲みたまえ」
と勧めるジェントルマン艦長です。

硫黄島付近海域で、しかも暑い潜水艦の中できっちり一種軍装を着こんでいるのが、
現実にはありえないけど、これも「軍服フェチ」松林宗恵監督の作品ならでは。
胸をはだけて汗まみれの汚らしい池部良なんて、リアルでも何でも見たくもないので、
この「間違い」はエリス中尉的には大歓迎。

それはともかく、各自の脱出劇それぞれにドラマがあり、例えば矢野大尉の部隊が
ラバウルから脱出するのにアメリカの魚雷艇を騙して乗っ取り、味方を間違えて雷撃してしまう、
などというのは、「紫電改のタカ」に出てくるエピソードそっくり。

うーむ、これは・・・・。


ちなみに、ちばてつや作、漫画「紫電改のタカ」の連載は、この映画の公開後半年の
1963年に始まっています。
戦記もの、とくに戦闘機パイロットを主人公としたヒーローものが一世を風靡していた頃。
「気乗りしない」状態で連載を始め、最後まで葛藤しながら描き続け、挙句は
「失敗作」とちば氏が自ら言い切るこのマンガですが、
今でこそ当たり前の「戦争そのものに疑問を投げかける作り」こそが、実は当時異色でした。

映画「太平洋の翼」の脚本は、これもいつもの須崎勝彌氏。
相変わらず女性の描き方がなんだかなあの脚本家ではありますが、
今見ても「すべらない」ユーモア満載で、渥美清の起用だけでなく、
例えば菅野大尉、じゃなくて矢野大尉の突っ込みなどもなかなかのものです。


「決して命を粗末にするな。特攻は決してするな。生きて戦え」

千田中佐は隊結成にあたり、このようにまず厳命しました。
しかしながら、結果的に安宅大尉は天一号作戦に殉じ、滝大尉もあの名言
「出て行け!日本の空から出て行け!」
という怒号と共に敵機に突っ込んで自爆します。

「紫電改のタカ」の主人公たちは、望まぬ特攻に否が応でも身を投じねばなりませんでした。
ユーモアや、「実在の人物の巻き起こす虚構の面白み」そのものを、先発の「太平洋の翼」に
手本を求めたに違いない、ちば氏の「紫電改のタカ」ですが、
「日本を守るために自ら命を捨てた」滝大尉ら太平洋の翼の主人公たちよりも、
価値観や死生観が現代の人間により共感を得る設定である作品だったと言えましょう。


「生への執着と死することへの疑問」
がこうした戦争に関する創作物中に、テーマとして謳われ出したのは、
もしかしたらこのマンガのヒットがきっかけの一つになっているのかもしれません。

「太平洋」の滝司郎、「紫電改」の滝城太郎。
二人の同姓の主人公は、同じように自爆戦死しましたが、
両者の死に向かう意識は、方向性を異にするものと言えます。
一方が「公(大義)のため私を自ら放棄した死」なら一方が
「私を公により捨てざるを得なかった死」とでもいいましょうか。

しかし、特攻に散華した多くの英霊は、このいずれかの道を選んだであろうこと、そして、
どちらの「滝」も戦争を強く唾棄し、自分の死が祖国の再生に意味を持つことを願って往った、
そのことは確かだと思います。









 



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