POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 約100万人が餓死したという「エチオピア飢饉 (1983年~1985年)」から数年後の1987年5月3日に亡くなった「ダリダ(Dalida、享年54歳)」は、その人生の終焉近くで、「歌いつづけて(Mourir sur scène、Born to Sing)」という歌をアルバム「Les p'tits mots」に収録します(1983年)。“Mourir sur scène”とは、「舞台の上で死ぬ」という意味になります。

 Moi je veux mourir sur scène
 Devant les projecteurs
 Oui je veux mourir sur scène

    私はね 舞台の上で死にたいの
    スポットライトを浴びて
    ええ 舞台の上で死にたいのよ 

 ダリダは、失恋の痛みに耐えかねて、死神を招き入れたようですが、舞台に立つ人の中には舞台こそが人生であると考えて「舞台の上で死にたい」と考える人も多いようです。2012年11月10日に亡くなった森光子さん(享年92歳)も「自分の人生の全うの仕方は、舞台上で静かに逝きたい」と語っていたようです。
 
 自分の死に様は多くの人にとって選べないもの。飢饉で飢えに苦しみ、そして、死を迎えるという悲惨な人たちもいます。少なくともエチオピア飢饉のときは100万人もいたのです。しかし、人生の輝かしい瞬間に死を迎えた人たちもいます。それを本人が望んでいたかどうかは分かりませんが、イギリスのコメディアン「トミー・クーパー(Tommy Cooper)」もその一人でした。

 “Tommy Cooper”と呼ばれた“Thomas Frederick Cooper”(トーマス・フレデリック・クーパー)は、1984年4月15日、現在「オペラ座の怪人(The Phantom Of The Opera)」が上演されている「ハー・マジェスティーズ・シアター(Her Majesty's theatre)」の舞台上で亡くなります(享年63歳)。日曜日の夜に放映されていたテレビのバラエティショー「ライブ・フロム・ハー・マジェスティーズ(Live from Her Majesty's、 1982~1988年)」に出演中の出来事でした。心臓発作(heart attack)で突然に倒れたのです。数百万のテレビ視聴者も劇場の観客も彼のジョークだと考え、笑いが起こりました。強烈な胸の痛みと薄れいく意識の中で、クーパーは観客の笑いをどのようにとらえたのでしょうか。

 それとも、幕が下ろされたその裏で床にその長身(193cm) を横たえて、蘇生のための応急手当てを受けながら、いままでの人生を走馬灯のように思い出していたのでしょうか。8歳のとき、叔母さんからマジックのセットを貰い、夢中になったこと。学校を卒業して、船大工として生計を立てるようになったこと。17歳のとき、造船会社の音楽会でマジックを演じるつもりで舞台に出たが、極度の緊張のために、やることなすこと全てがうまくいかず、しかし、その失敗が大きな笑いを誘ったこと。第二次世界大戦のとき召集されて、エジプトのカイロで過ごすことになったこと。軍の基地で店舗や娯楽施設を運営しているNAAFIという組織に所属し、マジックで舞台に立つようになったこと。小道具(prop)で使うピスヘルメット(Pith helmet、探険帽)を忘れたので、ウエーターからトルコ帽(fez)を借りて被ったこと。それが大いに受けたので、それからトルコ帽を被り続けているということ。7年の兵役を終えても船大工には戻らず、軍での経験を語りながら、舞台に立ち続けて現在に至っているということ、、、



 トミー・クーパーのジョークを一つ紹介しておきましょう。両親は移動式のアイスクリーム屋で週末には祭りのあるところにバンで移動し販売していました。子どもの頃、クーパーはそれを手伝っていたようです。

 「俺は子どもが5人もいる貧しい家庭に育ったんだ。子どもたちはみな一つのベッドで寝ていたんだぜ。そう、ベッドで一人で寝られるようになったのは結婚してからだよ(I came from a very poor family of five children. We all used to sleep in the same bed. In fact, I never slept alone until I got married.)。」

 イギリスに「コミック・リリーフ(Comic Relief)」という慈善団体があります。コメディの台本や映画の脚本を書いていた「リチャード・カーティス(Richard Curtis)」やコメディアンの「レニー・ヘンリー(Lenny Henry)」らがエチオピア飢饉の惨状を見て、1985年に設立した団体です。コミック・リリーフとは、物語が深刻であるとき、その深刻さを和らげるために現れる滑稽な登場人物をいい、またその登場人物が絡む場面をいいます。

(参考) 「英国の「レッド・ノーズ・デイ(RED NOSE DAY)」と日本テレビの「24時間テレビ」

 エチオピア飢饉の深刻さを、深刻にならずに改善しようとする、コメディに携わる人たちのメッセージが込められた団体名です。コミック・リリーフの設立される前年にトミー・クーパーは亡くなっていますが、生存していたならば、コミック・リリーフの活動に大きく関わっていたことでしょう。コミック・リリーフは、「レッド・ノーズ・デイ(Red Nose Day)」を主導しています。

 レッド・ノーズ・デイは、イギリス全土にわたって行われる募金活動です。イギリス放送協会(BBC)が、夕方から朝方にかけて「テレソン」を放送します。喩えるならば、日本テレビが毎年行っている「24時間テレビ 「愛は地球を救う」」です。ただし、レッド・ノーズ・デイは隔年開催で、今年2013年は3月15日に開催されます。



 レッド・ノーズ・デイのグッズも販売され、その売り上げの50%ほどが慈善団体に渡されます。そのグッズの中にTシャツがあります。元「ビートルズ(Beatles)」のメンバーの一人「ポール・マッカートニー(Paul McCartney)」の次女でデザイナーの「ステラ・マッカートニー(Stella Nina McCartney)」がデザインしたTシャツ類は、Unisex Beatles T-Shirt、Kids Beatles T-Shirt、Unisex Tommy Cooper T-Shirt、Kids Tommy Cooper T-Shirt、Ladies Marilyn T-Shirt、Ladies Kate Vest、Ladies Kate T-Shirt、Kids Giraffe T-Shirt、Baby Giraffe T-Shirtの9種類。およそ6ポンドから15ポンドまでと値段はいろいろです。1枚につき2.5ポンドから8ポンドまでが慈善団体に寄付されます(£5.99 with at least £2.50、£6.99 with at least £2.50、£9.99 with at least £5、£14.99 with at least £8 going to Comic Relief)。

 トミー・クーパーも30年ほどを経て、コミック・リリーフの活動に赤い鼻「レッド・ノーズ」をつけて、Tシャツの中から貢献しようとしています。

(注) “Kate”は、イギリスのファッションモデル「ケイト・モス(Kate Moss)」です。ケイト・モスは、俳優「ジョニー・デップ(Johnny Depp)」との失恋の痛みを癒そうとアルコールに走り、アルコール依存症になったこともあるそうです。シェイクスピアの喜劇「お気に召すまま」で語られる言葉、「この世はすべて舞台、男も女もみな役者に過ぎない(This world is a stage and every man plays his part.)」

               (この項 健人のパパ)

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