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 インフルエンザの流行する冬季に発熱、鼻づまり、咳などの「風邪様症状(感冒様症状)」が現れると「風邪(普通感冒)」なのか「インフルエンザ」なのか判断のつきにくいものです。また、風邪様症状があるから風邪かインフルエンザを発症しているとも限りません。

 例えば、ウイルス感染による「急性心筋炎(acute myocarditis)」であることもあります。小児の急性心筋炎の原因は、コクサッキーウイルスへの感染(Coxsackie viral myocarditis)が最も多いのですが、エコーウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスによるものもみられます。アデノウイルスは普通感冒の原因ウイルスの一つであり、インフルエンザウイルスはインフルエンザの原因ウイルスです。

 重症に至る「ウイルス性心筋炎(viral myocarditis、virus-induced myocarditis)」はかなりまれな病気で、0.0001%以下の確率であるとも言われています。つまり、風邪様症状のある患者の1万人に1人以下だということになります。風邪様症状や消化器症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など)が先行し、その後に「動悸」、「胸痛」、「不整脈」、「息切れ」、「夜間の呼吸困難」などがあれば心筋炎を疑う必要があるようです。風邪様症状があるお子さまに「顔面蒼白」、「チアノーゼ」、「不整脈や失神発作」、「四肢末梢の冷感」などがあれば、心筋炎を疑うことが大事です。

(参考) 「インフルエンザウイルス感染で「ウイルス性心筋炎」になってしまうと

 風邪様症状とインフルエンザ様症状を並べてみましょう。まず大きく、局部症状と全身症状に分けます。局部症状はさらに、気道症状と胃腸症状に分けます。風邪(普通感冒)もインフルエンザも、まず「上気道感染症」となって症状として現れます。



 「上気道(upper respiratory tract、upper airway)」とは、「鼻腔(びこう、びくう、nasal cavity)」、「咽頭(いんとう、pharynx))」、「喉頭(こうとう、larynx)」を言います。鼻から始まって、喉仏(のどぼとけ)の位置までの気道を上気道と言うわけです。

 ウイルスは、外界とつながる鼻腔から主に侵入し、鼻粘膜や咽頭粘膜に感染し、これらの部位で増殖します。生体は防御反応として、炎症を起こします。これによって、鼻水(鼻汁)、くしゃみ、鼻詰まり、喉の痛みなどの症状として現れます。鼻粘膜の炎症で、鼻水、くしゃみ、鼻詰まりを起こし、咽頭粘膜の炎症で、喉の痛みが生じます。

 「炎症(inflammation)」は、ウイルスの感染など何らかの有害な刺激を生体が受けた時に働く「免疫応答」の結果です。炎症の徴候を頭字語(acronym、アクロニム)を用いて表わすと、“PRISH”(プリッシュ)になります。Pain(疼痛、とうつう)、Redness(発赤、ほっせき)、Immobility(機能障害)、Swelling(腫脹、しゅちょう)、Heat(熱感、熱っぽい感じ)の5つです。熱感、発赤、疼痛、腫脹の4つを「炎症の四徴候」とも言います。

 粘膜などの組織はウイルスに侵襲されると、その組織に存在する「肥満細胞(顆粒細胞、マスト細胞)」などから「ヒスタミン(histamine) 」などを放出します。ヒスタミンは、血管内皮細胞を収縮させることから、細胞間隙が開いてしまいます。これを「血管透過性亢進」といいます。血漿成分が血管外に滲出していきます。

 この結果、炎症を起こした粘膜などの組織には多量の滲出液が貯留し、腫脹(腫れ)を呈することになります。これが鼻での呼吸を大きく阻害するほどに腫れると、「鼻詰まり」という症状になって自覚されます。「鼻水」は、鼻粘膜から組織の外に滲出した水分などですから、ヒスタミンは、鼻水の分泌も促すということもできます。ヒスタミンが鼻粘膜における知覚神経である三叉神経終末にある「ヒスタミン受容体(H1受容体)」と結合すると、延髄のくしゃみ中枢へ信号が伝わり、刺激を受けたくしゃみ中枢が「くしゃみ」を起こします。

 鼻粘膜へのウイルスの感染がヒスタミンの放出を起こし、それが鼻水、くしゃみ、鼻詰まりといった症状を生じさせるのです。市販されている総合感冒薬には、この症状を緩和させるために、解熱鎮痛剤、鎮咳去痰薬の他に「抗ヒスタミン剤」などが配合されています。「抗ヒスタミン剤(antihistamine)」は、ヒスタミンがH1受容体と結合することを阻害して、H1受容体の作用を抑制する薬剤です。

 鼻から喉仏にかけての上気道が炎症を起こしても、鼻水、くしゃみ、鼻詰まり、喉の痛みといった症状がすべて出るとは限りません。健康状態や体質により、さまざまな様相を呈します。鼻水は出るがくしゃみはしない、くしゃみは出るが鼻詰まりではない、鼻水は出るが喉の痛みはないということも起こります。

 私たちの身体は、組織を損傷するような刺激があると、その情報を「痛み」として脳に伝えます。身体に異常が発生したことを知らせる警告が電気信号として脳に送られるのです。組織を損傷するような刺激を「侵害刺激(noxious stimulus)」といい、その侵害刺激に反応する場所を「侵害受容器(nociceptor)」といいます。

 ウイルス感染などで傷害された組織で炎症が起こると、痛みをおこす化学物質(「発痛物質」)が出て、それが侵害刺激となります。「発痛物質(pain producing substance)」には、外因性の物質と内因性の物質があります。唐辛子の辛み成分である「カプサイシン (capsaicin) 」は粘膜に接触すると焼けるような感覚を引き起こす外因性発痛物質です。

 血管内皮細胞が損傷を受けると、血液凝固因子の一つである「ハーゲマン因子(Hageman factor)」が活性化されて、血管を守るためのシステム(血液凝固系)が稼動し始めます。活性化されたハーゲマン因子は、血漿中に存在する「プレカリクレイン(prekallikrein)」という物質を「カリクレイン(kallikrein)」にし、カリクレインは、「高分子キニノゲン(high molecular weight kininogen、HMWK)」という物質を分解して、「ブラジキニン (bradykinin)」を放出させるというふうに次々に反応を起こします(カリクレイン・キニン系)。

 ブラジキニンには、血管拡張、血圧降下作用、血管透過性亢進などの作用があるのだそうですが、生体にこの系が存在することの理由は調べたのですが分かりませんでした。しかし、ブラジキニンは、強力な内因性発痛物質でもあります。生体に不都合なことが起こっていることに対して、「痛み」という強い警告を出すシステムでもあります。

 痛みの原因である発痛物質「ブラジキニン」の発生を抑え、喉の痛み、喉の腫れに効果をあらわす物質に止血剤として用いられる「トラネキサム酸(Tranexamic acid)」があります。第一三共の咽頭炎・扁桃炎(喉の腫れ、喉の痛み)、口内炎に効能のある「ペラックT錠」、佐藤製薬の風邪の諸症状(喉の痛み、発熱、咳、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、痰、悪寒)の緩和に効能のある「ストナT」などは、トラネキサム酸を配合した市販薬です。

 血液中では、血液凝固因子によって血液が固まる現象(血餅ができる。凝固系、coagulation system)と、凝固した血液を溶かす物質「プラスミン(plasmin)」によって血液が溶ける現象(血餅が解消する。線溶系、PA-plasmin system)とが絶え間なく均衡して起こっています。この均衡が崩れると、血餅が肥厚したり(「血栓症(トロンボーシス、thrombosis)」の原因になる)、出血が止まらなかったりします。

 何らかの原因で異常に活発になったプラスミンの作用を抑え、出血を起こす、出血が止まりにくくなる、という現象を制御するのが「抗プラスミン剤(antiplasmins )」です。血餅は、「フィブリン(fibrin、線維素)」というネットが血球をくるみこんだものです。プラスミンは繊維状タンパク質でできている、このネット(網)を切断するタンパク質分解酵素です。

(未完)

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