POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 アメリカの北東部、ニューイングランド地方にあるマサチューセッツ州の「ボストン(Boston)」近郊に人口6万8千人ほどの「フラミンガム(Framingham)」という小さな町があります。タイムズ社から発行される「Money」が毎年行う「アメリカに住むならここ(Best Places to Live - Money's list of America's best small cities)」で、数多くある町の中から、TOP100の38番めにランクインされています(2012年)(ちなみに、1位は五大湖周辺地域(Great Lakes region)にあるインディアナ州のインディアナポリスの郊外「カーメル(Carmel)」(人口約8万5千人))。

 “Best Places to Live”に選ばれるということは、学校が充実していて、就職機会に恵まれていて、犯罪率が低く、公衆衛生の質が高く、子育てに対する援助が多くあるなどの住みやすい町だということです。フラミンガムはアメリカの医療従事者の間では、非常に有名な町です。1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関「アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)」はいくつかの研究所からなりますが、その一つ「国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)」は、この町で1948年に長期にわたる疫学的調査を始めます。

 「疫学(epidemiology)」とは、特定の集団を対象として、疾病率、死亡率などの健康に関わる事柄や事象の頻度、時間的変動などを
統計学的に調査する研究です。疫学は、健康に関わる事柄とその要因と考えられるものの間に存在する何らかの関係を解明します。アメリカでは、20世紀初頭には死亡率の20%程度だった心血管系疾患(心筋梗塞、心不全)が1930年代頃からから死因の1位へと躍り出ます。この急激な伸びに対する解明が急がれ、「フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)」が20年間の予定で開始されます。

 当時のフラミンガムの人口は、3万8千人ほどで、その中で志願してきた5,200人ほどを対象に調査が始まります。年齢構成は30歳から62歳でした。心臓疾患の発症は、生活習慣や環境要因によって影響されるであろうと想定して、「危険因子(risk factor、リスクファクター)」が追求されました。

 「多変量解析(multivariate statistics)」の手法の一つに「ロジスティック回帰分析(logistic regression analysis)」があるそうです。疾患の危険因子を分析するためによく用いられる手法なのだそうで、フラミンガム心臓研究のために開発されたといいます。複数ある危険因子(「多重リスクファクター(multiple risk factor)」)が疾患に及ぼす影響を分析することを目的のひとつにしているのだそうです。

 この研究で1960年代に分かったことは、喫煙は心臓疾患のリスクを増加させるということ、コレステロール値の増加や血圧上昇も心臓疾患のリスクを増加させるということ、運動は心臓疾患のリスクを低下させ、肥満は心臓疾患のリスクを増加させるということでした。これは、いまでは常識となっていますが、この当時は医療関係者はうすうす感じてはいたのですが、証明されてはいないことでした。

 20年を過ぎてもこの疫学的調査は続けられ、1971年には「ボストン大学(Boston University)」も調査に加わり、調査対象者も第二世代となります。1980年代には、高レベルのHDLコレステロールは心臓疾患のリスクを減らすことができるという知見が得られます。

 コレステロールを運ぶ球体の入れ物「リポタンパク(lipoprotein))」はその比重でいくつかに分類されますが、そのうち、余分なコレステロールを肝臓に戻すのが「高比重リポタンパク(High Density Lipoprotein、HDL、直径が5~15nmでリポタンパクの中で一番小さい)」で、善玉コレステロールと呼ばれています(正しくは「善玉リポタンパク」とでも呼ぶべきでしょう)。このHDLが減少すると、血管にコレステロールが溜まりやすくなり、動脈硬化を引き起こします。その血液検査での数値は40~69mg/dLが正常で、40mg/dL未満では動脈硬化のリスクが高まります。



 動脈の内壁に粥状の隆起が生じている状態を「アテローム性動脈硬化(atherosclerosis、 アテロスクレローシス)」といいます。「アテローム(atheroma、アテローマ)」とは、皮膚科では「粉瘤(ふんりゅう)」を指し、皮膚の下に袋状の構造物ができ、角質と皮脂が、外に剥げ落ちずに袋の中に溜まってしまってできた腫瘍の総称です。病理学において「アテローム」は、動脈血管内での固まりを指し、コレステロールや中性脂肪、カルシウム、線維性結合組織を含んだ細胞、細胞の死骸からなる蓄積物です。「粥腫(じゅくしゅ、atheromatous plaques、アテローム性プラーク)」とも呼ばれます。

 このプラークは徐々に成長し、血液を流れにくくしてしまったり(心臓の筋肉に酸素を十分に供給できなくなると、胸痛や胸部圧迫感などの症状がでる「狭心症」になる)、破れて血管内で血液を固め(「血栓」)、その血栓が移動して細い動脈を詰まらせる(「塞栓(そくせん)」)ことがあります。これが脳の血管内で起これば、「脳梗塞(cerebral infarction、セリーブラル・インファークション)」であり、心臓の血管内で起これば、「心筋梗塞(myocardial infarction、マイオカーディアル・インファークション)」と呼ばれます。

 アテローム性プラークは、血管内膜下にリポタンパクが蓄積されて起き、血液の流れの遅い部位によく生じますが、その詳しい仕組みについてはまだよくわかっていないといいます。フラミンガム心臓研究などの疫学研究により、「低密度リポタンパク(LDL)」の血中濃度が高い場合に、「高血圧患者、糖尿病患者、喫煙者」などでは動脈硬化が進行しやすいことは証明されているようです。

 一般的には、LDLの血中濃度が高いのが原因で、アテローム性プラークが生じ、動脈硬化が進行しやすくなると考えられています。しかし、「ウッフェ・ラブンスコフ博士(Dr. Uffe Ravnskov)」や金城学院大学薬学部「奥山治美」教授らは、原因と結果が逆だと主張します。LDLの血中濃度が高いから、アテローム性プラークが生じやすいのではなく、アテローム性プラークが生じると、LDLの血中濃度が高くなるのだといいます。でも、この学説の対立の話しは後に回しましょう。

 フラミンガム心臓研究によると、1年に1,000人中7~8人(男性の場合。女性は4~5人)の心筋梗塞の発症者がいたといいます。また、欧米での報告によると、急性心筋梗塞で入院し生存退院した症例での1年死亡率は8~14%,3年死亡率は14~33%,5年死亡率は19~39%だといいます。非常に怖い病気なのです。血中のコレステロール値を下げる薬剤を創薬できれば、この恐怖心から非常に大きな市場となることが予想され、製薬会社はやっきになります。

 ここからコレステロール合成を抑える「スタチン系薬剤」の話に入り、「モノグルコシルへスペリジン」へと話を進めようと考えていたのですが、話が長くなってしまったので、次回に続けることにします。

(参考)「トクホって? チュウセイシボウって? モノグルコシルヘスペリジンって?(1)

(参考)特保って? チュウセイシボウって? モノグルコシルヘスペリジンって?(2)

(参考)特保って? 中性脂肪って? モノグルコシルヘスペリジンって?(3)

(参考)「スタイリースパークリング」という飲み物と「モノグルコシルヘスペリジン」

(参考)禁煙? 運動? モノグルコシルヘスペリジン? そしてフラミンガム心臓研究(2)

(参考)コレステロールには、悪玉も善玉もなく、人体に欠くことができない物質(1)

(参考)コレステロールには、悪玉も善玉もなく、人体に欠くことができない物質(2)

(参考)家族性高コレステロール血症とHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)

              (この項 健人のパパ)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )