POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 来年の「イタリア家族旅行」では、フランスを経由してイタリアに入ることを予定しています。我が子「健人」をパリの「ルーブル美術館(Musée du Louvre)」に連れて行って、西洋画に対するある程度の鑑賞眼を身に付けさせようというのです。ルーブル美術館には、17世紀のオランダで活躍した肖像画の名匠「フランス・ハルス(Frans Hals)」が描く「ジプシーの女(Zigeunermeisje、Gypsy Girl)」があります。1628年から1630年頃の作品だと考えられています。時代はすでに「カラヴァッジオ(Caravaggio、1571年~1610年)」を経験していました。ハルスはカラヴァッジオが得意とした明暗対比の強い陰影法を用いています。




 人は自分や家族の姿を記録に残したいと考えます。いま、私たちにはカメラがあります。19世紀にカメラが実用化し、21世紀、自分や家族の姿は電子的に記録に残すことができます。しかし、ハルスの生きた(1582年~1666年)時代にはカメラはありませんでした。その時代、肖像画家という職業があって、中流から上流階級の人々からの注文を受けて、肖像画を描いて生計を立てていました。その時代の人々は、いま私たちが七五三の記念写真を写真館に撮りに行くような感覚で肖像画を発注していたのです。ハルスは肖像画家です。しかし、必ずしも注文に応じて描くだけではありません。八百屋の女、農夫、浜辺の漁師の子供なども描きます。

 人にカメラを向けると、その人の「今」が写せる瞬間があります。そのときにシャッターを切ると、「ベスト・ショット」という写真が撮れます。それと同じことは長い時間をかけて描く絵画には無理なはずなのですが、ハルスは頭の中にカメラを持っていたかのように「ベスト・ショット」を描きます。



 「ジプシーの女」という作品名は、ハルス自身がそう名づけたわけではなく、この女性の風貌からジプシーの女性が連想され、そう呼ばれています。はだけた胸が強調されていることから、この少女は「娼婦」だったと考えられています。カラヴァッジョは「女占い師(Buona ventura、The Fortune Teller、1595年頃)」でジプシーの女を描きますが、それと比べれば、この少女の着ている物が貧しさ故か貧弱です。しかし、ハルスはこの少女の瞬間的に見せた無邪気な表情を鋭く捉え、彼女の「今の生」を的確に描写しています。

 カラヴァッジョの「女占い師」は、初期における最大の傑作の一つと評価されています。まだ、カラヴァッジョの特徴である強い明暗表現はされていません。身なりのよい服装をした若い男が女占い師に右手を差し出して未来を占ってもらっています。この占い師はジプシーだとされます。ジプシー(ロマ人)は、インドからヨーロッパへと移ってきた人たちだと言われています。その放浪の旅で手相占いが行われていたようです。

 女占い師は、誘惑するように男の目を覗き込みながら、男の指先から指輪を抜き取ろうとしているという解釈もされます。その当時、占いを隠れ蓑にした娼婦もいたということですから、この絵の解釈はいろいろでしょう。この絵もルーブル美術館にあります。 

 NHKはいまから25年ほど前、フランスの民間テレビ局TF1との共同で、13回にわたる「ルーブル美術館」を制作し、1985年4月から1986年4月にかけてNHK総合テレビの「NHK特集」の枠で月1回放送しました。その第9回「光と影の王国~スペイン黄金時代~」は、カラヴァッジョの「女占い師」を取り上げて始まります。その中で次のように述べられます。

 この「女占い師」は、イタリアの画家「カラヴァッジオ」が20代の初めに描いた作品ですが、当時大変な評判を呼びました。面白いことに世間はこれを道徳的な作品と受け取ったのです。つまり、教会や親の導きを仰ぐ代わりに行きずりの女占い師などに相談をする若者は、身ぐるみはがされるような天罰を受けて当然とこの絵は教えていると言うのです。

 「ルーブル美術館」第9回の案内役は、レイモン・ジェローム(Raymond Gerome)とジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau)でした。2人の会話が続きます。

レイモン「ごらん、ジャン。カラヴァッジオの初期の作品だ。落ち着いた色と柔らかな光。とても美しい作品になっている。しかし、この絵のテーマはなかなか刺激的だね。」
ジャンヌ「ええ。女の方はジプシーの占い師ね。若い伊達男の手を取って、彼の運命を占っている。でも、彼女の笑いは作り笑いよ。何か企んでいる笑いだわ。ずっと若者を見つめているけれど、でも、ほら、よく見ると彼女は若者の手から指輪を抜き取ろうとしている。」
レイモン「ははは。挙句の果ては財布まで奪われてしまうかも知れないね。」
ジャンヌ「2人の視線の中にどこか共犯者みたいなものが感じられない?」
レイモン「うん?」
ジャンヌ「若者は自分からすすんで騙されようとしているように見えるわ。恋のなれそめを描いているかも知れない、、、」
レイモン「それは面白い見方だと思うね。」
ジャンヌ「暗黙の了解と期待と好奇心。恋物語の始まりよ。」


 フランスのルーブル美術館は、イギリスの大英博物館、ロシアのエルミタージュ美術館と並ぶ世界三大美術館のひとつで、その所蔵点数は30万を超える(すべてが展示されているわけではない)といいます。ルーブル美術館の廊下の総延長は20kmに及ぶようです。絵も見ずに時速4kmで歩いたとして5時間かかる計算になります。そのように広い美術館で、テーマも待たずに絵画を鑑賞するのでは、たぶん何の印象も持てずに終わってしまうでしょう。

 2度目の「イタリア家族旅行」は来年の3月頃という予定のようですから、半年ほどの余裕があります。ルーブル美術館を訪れるのは、2度目になります。今度はテーマをしっかり持って訪れたいものです。忙しい毎日、暇を見つけては「何を見るか」というルーブル美術館の研究をしています。

                 (この項 健人のパパ)

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