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 毎年、インフルエンザの流行シーズン前であり、ワクチン接種前である7月から9月にかけて、「インフルエンザ感受性調査」が行われます。この調査は、インフルエンザウイルスに対する抗体を各年齢層においてどの程度保有しているかを把握するために行われています。2012年度の調査は、2012/2013年シーズンに先立ち、25都道府県から各200名ほど、合計5,000名ほどを対象として実施されました。

 インフルエンザウイルスに対する抗体の有無および抗体価の測定は、調査対象者から血液(血清)を採取し、各都道府県衛生研究所が「赤血球凝集抑制試験(HI法)」を行います。この測定に用いるインフルエンザウイルスは、2012/2013年シーズンのインフルエンザワクチンに用いられているウイルス3種類とワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルス1種類の合計4種類です。

 赤血球凝集能を持つインフルエンザウイルスのようなウイルスの抗体検査は、「赤血球凝集抑制試験(HI試験、Hemagglutinin Inhibition Test)によって測定します。抗体が存在すれば、抗体はウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにします(凝集抑制)。赤血球の凝集で抗体の保有を判断するわけです。

 具体的には、段階的に希釈した血液(抗血清)をウイルス検体と反応させ、赤血球凝集反応がどれだけの希釈まで抑制されるかを観察します。血液の希釈倍率はHI価と呼ばれます。インフルエンザの感染予防や感染しても症状の軽減に期待できる40倍以上を抗体保有とし、より感染を防御できる十分な抗体価を160倍以上として評価します。

(参考) 「新型インフルエンザウイルスの抗体保有率の報告を読む

 今年のインフルエンザワクチンに用いられたのは、「A(H1N1)pdm09亜型(新型インフルエンザと呼ばれた系統)」から「A/California/7/2009」、「A(H3N2)亜型」から「A/Victoria/361/2011」、「B型(山形系統)」から「B/Wisconsin/1/2010」でしたが、この株について抗体保有率の調査が行われ、そのほかにワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが、抗体保有状況の把握が必要と考えられるウイルスである「B/Brisbane/60/2008」も抗体保有率の調査が行われました。

 ワクチンは、例年、A型から2種類、B型から1種類選択され、大きく分類して山形系統とビクトリア系統と2種類あるB型からは、今年(2012/2013年シーズン)は山形系統が選択されています。国立感染症研究所のページから「平成24年度(2012/13シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」をB型のインフルエンザについて読んでみましょう。

 現状においては、来シーズンにどちらの系統のB型ウイルスが流行するかを予想することは極めて困難である。米国では両系統のB型ワクチンを用いた4価ワクチンの導入も検討されているが、わが国では生物学的製剤規準によって、総タンパク量の上限(240μg)が規定されているので、現状では4価ワクチンの導入は不可能である。

 日本では、インフルエンザワクチンは多くて3価であることが「生物学的製剤規準」で規定されており、4価ワクチンの導入は現在はできません。そこで、山形系統とビクトリア系統あるB型のいずれかが選択されることになります。

 2011/12シーズンの国内におけるB型インフルエンザの流行は、シーズンを通してビクトリア系統と山形系統の混合流行で、その比率は、2:1であった。周辺諸国での状況は、中国北部、韓国はビクトリア系統が主流、香港や台湾、中国南部は山形系統が主流と、国・地域ごとに流行パターンが異なっていた。世界全体では両系統ウイルスの分離比は2:1でビクトリア系統がやや優位ではあったが、山形系統も増える傾向が多くの国でみられた。

 B型のインフルエンザウイルスに対する抗体を生成するはずのワクチンは、効果が低いとも言われており、B型のインフルエンザに感染し発症するリスクをワクチン接種では大きく減少させることはことはできないようです。しかし、2012年度の抗体保有状況調査では、ビクトリア系統の「B/Brisbane/60/2008」に対する抗体は、0~4歳、60~70歳群は除かれるのですが、それ以外の年齢層で高い抗体保有が認められたそうです。



 山形系統のB型インフルエンザウイルスにおける最近の分離株は、2008/09シーズンのワクチン株「B/Florida/4/2006」から抗原性が大きく変化しており、ほとんどの分離株は最近の代表株「B/Wisconsin/1/2010」に類似していたようです。そこで、4シーズンぶりにB型インフルエンザウイルスからは「山形系統」が「ビクトリア系統」に代わって選択されることになります。

 現時点ではビクトリア系統が流行の優位ではあるが、多くの人はビクトリア系統のウイルスに対する基礎免疫を獲得しているので、2012/13シーズンにビクトリア系統が流行した場合にも、それほど大きな健康被害は生じないと予想される。一方、もし2012/13シーズンに山形系統による流行が主流となった場合は、この系統ウイルスに対する抗体保有レベルが低いことから、健康被害が大きくなる可能性がある。これらの状況を考慮して、WHOの推奨どおり山形系統からワクチン株を選定するのが妥当との判断に至った。



 WHOが「世界におけるインフルエンザ流行状況」を報告していますが、2013年1月4日の最新の報告に気になる記述があります。アメリカではインフルエンザが原因と考えられる小児の死亡が2012年52週(12月26日~1月1日)には2例あったが、いずれもB型のインフルエンザに感染していたというのです。“Two influenza-associated pediatric deaths were reported (compared to eight in the previous report); both were associated with influenza B viruses.

 この時期に検出されたインフルエンザウイルスの大半はA(H3N2)であったそうですが、インフルエンザ陽性検体2961のうち、79%はA型のインフルエンザであり、21%がB型インフルエンザだったようです。“In the USA, the majority of influenza viruses detected were A(H3N2), however influenza B accounted for a larger proportion than in Canada. Of the 2961 influenza positive specimens in the last week of 2012, 79% were influenza A and 21% were influenza B. ” 5人に1人はB型のインフルエンザに感染していたということになります。

 B型のインフルエンザウイルスのサブタイプを決定したところ、115検体のうち、3価のインフルエンザワクチンに採用した「山形系統」のB/Wisconsin/1/2010の類似株が69%であり、残りの31%が「ビクトリア系統」であったようです。“Of the 115 influenza B viruses characterized 69% were B/Wisconsin/1/2010-like of the Yamagata lineage, the B virus component of this seasons trivalent influenza vaccine, and 31% were of the Victoria lineage.” B型のインフルエンザに感染すると、その30%ほどがインフルエンザワクチンに採用されなかったビクトリア系統ということになります。ビクトリア系統は、0~4歳、60~70歳群において、抗体保有率が低いことから、この年齢群に属する人はインフルエンザ感染に特に注意する必要がありそうです。



 確率から言うと、インフルエンザに感染して発症すると、B型のビクトリア系統のインフルエンザである場合は、0.21×0.31=0.0651から6.5%です。15人に1人ぐらいの割合で、B型のビクトリア系統のインフルエンザであることがアメリカでは確認されています。



 A型(亜型はH1N1pdm09、H3N2(A香港型))とB型の混合流行だった2010~2011年シーズンのインフルエンザの流行では、インフルエンザ迅速診断キットによる判定での発症の中央日は、A型が1月28日、B型が3月18日だったようです。これと同じような経過を2012~2013年シーズンも辿るとするならば、A型のインフルエンザ発症はそろそろピークを迎えることになり、およそ2か月後にはB型のインフルエンザ発症のピークがやってくることになります。



 体内でインフルエンザウイルスが増殖するには、感染細胞からインフルエンザウイルスが外部に放出されることが必要ですが、それにはウイルスの細胞膜表面にある「ノイラミニダーゼ(Neuraminidase、NA)」という酵素が関係します。そのノイラミニダーゼを抑制することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制できることが知られています。

 ノイラミニダーゼを阻害する抗ウイルス薬を「ノイラミニダーゼ阻害薬(Neuraminidase inhibitors)」といいますが、それには、経口薬のオセルタミビル(商品名「タミフル(Tamiflu)」、吸入薬のザナミビル(商品名「リレンザ(Relenza)」とラニナミビル(商品名「イナビル(Inavir)、2010年10月19日第一三共株式会社が販売開始)、点滴注射薬のペラミビル(商品名「ラピアクタ(Rapiacta)」)の4種類があります。

 この4つのノイラミニダーゼ阻害薬について、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班が調査を行い、解熱時間から有効性を比較ところ、4剤間で大きな差がないことが明らかになったそうです(第25回日本臨床内科医学会で発表された)。

(参考) 「頻繁に変異するウイルスと戦う人間は強力な武器を手にできるか。

 抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬、neuraminidase inhibitors)に対して耐性を持つ(増殖を阻害されない)インフルエンザウイルスが存在します。耐性ウイルスだからといって、「発症を防ぐ、または発症は防げないが症状が軽く済む」などのワクチンの効果には影響はありませんし、また耐性ウイルスだから症状が悪化しやすいわけではないのですが、抗インフルエンザ薬による症状緩和の働きはありせん。

 2012~2013年シーズンのインフルエンザウイルスからは、いまのところ、耐性ウイルスが発見されていないといいます。“Since 1 October, none of the 526 A(H3N2), 39 A(H1N1)pdm09, or 226 B viruses have been resistant to neuraminidase inhibitors.” 発症しても、症状を緩和させるのに有効な薬剤があり、その効き目が現在のところ損なわれていないというのは安心といえます。



             (この項 健人のパパ)

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コメント
 
 
 
はじめまして (てつや)
2013-01-27 22:16:55
はじめまして、こんばんわ。
インフルエンザワクチンを検索していて、先生のブログにたどりつきました。
先生に教えていただきたいのですが・・・インフルエンザワクチンにおける抗原性変異なんですが、2管差というのは、ワクチンの効果が無いということでしょうか?
つまり、ワクチンを打っても予防効果が期待できない、ということでしょうか?
大阪府感染症情報センターに先日までの抗原性変異の解析結果が掲載されていまして・・・今シーズンもワクチン外れたのか?と疑問に思ってたもので。
 
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