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 インフルエンザにかかると、その症状に個人差はありますが、意識が朦朧とするほどの高熱、しつこい咳、食事もままならないほどののどの痛み、頭が割れそうな強い頭痛、四六時中流れる鼻水、からだの震えが止まらないほどの悪寒、歩くのもやっとになるほどの関節痛、などの不快な症状のいくつかが現れます。

 この不快な経験をしたくはないので、インフルエンザへの感染を防ぐために、少なくとも感染をしても軽い症状で済むように、私たちは12月から3月までの本格的な流行期に間に合わせて、10月から11月頃にインフルエンザのワクチン接種を受けます。しかし、流行期にはインフルエンザに罹患した患者を毎日診なければならない内科の医師は、ワクチンの効果があまりでない年と、そうではない年があることを感じていると言います。

 およそ4年前の2008年4月11日に開催された日本臨床内科医会の「第105回日本内科学会」で、「日本臨床内科医会インフルエンザ研究班」が2001/02シーズンから継続的に行っている「インフルエンザワクチンの有効率」に関する研究の結果が発表されました。その結果は、「流行シーズンによって、インフルエンザワクチンの有効率は、20%から80%まで大きな開きがある。」というものでした。

 ワクチン接種者からのインフルエンザ発生率は、2001/02年シーズンから2006/07年シーズンまでの過去6シーズンのいずれにおいても、非接種者に比べてかなり低く、ワクチンの有効性は認められるとするものの、詳細に年齢群別に発生率を見ると、シーズンによっては差がほとんど認められない年齢群もかなりある、と報告されました。

 研究班は、日本臨床内科医会に所属する40施設以上の医療機関で、インフルエンザの予防接種を希望した患者と希望しなかった患者を追跡して、データの収集を行ったといいます。インフルエンザ様の症状が発現した患者について、「迅速診断キット」を用いて診断し、罹患状況を把握します。また、ワクチン接種の前後、インフルエンザ発症時、回復時に、赤血球凝集反応(HI)抗体価を測定します。

(参考) 「息子の発熱と「イムノクロマト法」と「迅速診断キット」の原理と、、、

 インフルエンザウイルスは、鳥類や哺乳類の赤血球を凝集させます(赤血球凝集反応)。しかし、そのインフルエンザウイルスに対して、ヒトが「抗体」が持っていれば、抗体はウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにします(凝集抑制)。この現象を利用して、血液中に抗インフルエンザ抗体がどのくらいできているかを調べることができます。

 「赤血球凝集抑制試験(HI試験、Hemagglutination Inhibition Test)」では、血球吸収処理などの前処理を行った被験者の血清を検体とし、×10、×20、×40、×80、×160、×320というように希釈したものを用意します。そこに、一定の抗原量のウイルスを加えて反応させます。このとき、抗体が存在すれば、ウイルスの赤血球凝集能を奪うことになります。さらに、赤血球浮遊液を加えて、目視で赤血球の凝集を観察します。

 検体に含まれている抗体の数が多いと、希釈に耐えます。そこで、どの希釈倍数まで凝集が抑制されていたかでHI抗体価を測定します。例えば、×10、×20、×40希釈の検体では赤血球が凝集しなかったが、×80希釈の検体では赤血球が凝集したとすると、HI抗体価は40倍ということになります。インフルエンザの感染予防や感染しても症状の軽減に期待できるのが40倍以上で、より感染を防御できる十分な抗体価は160倍以上とされています。

(参考) 「新型インフルエンザウイルスの抗体保有率の報告を読む

 ここで、定義をしないで使っていた「有効率」について述べておきます。「有効率80%」というとき、「ワクチン接種を受けずに発症した人の80%は、ワクチン接種を受けていれば発症を免れた」ということを意味しています。ワクチン接種者からのインフルエンザ発生率とワクチン非接種者からのインフルエンザ発生率を比較することで求められます。ワクチンを接種していれば、ワクチンを接種していない人よりも発症者が少ない、ということが「有効率」であって、インフルエンザの感染力が強い時には、有効率が同じであっても、ワクチン接種者からの発症者は多くなります。

 今年(2011/12年シーズン)は、インフルエンザの患者が各地で多数出ていますが、このことをもって、ワクチンの有効率が低い(「今年のワクチンは外れ」)とは言えません。ワクチン接種者のインフルエンザ発症率とワクチン非接種者のインフルエンザ発症率のデータを収集して初めて、有効率が測定できるのです。そのためには、インフルエンザのワクチン接種を受けたグループと接種を受けないグループを分け、その中でインフルエンザに発症したグループと発症していないグループに分けます。つまり、ワクチン接種を受けてインフルエンザを発症しなかった人、接種を受けたが発症した人、ワクチン接種を受けていなくてもインフルエンザを発症しなかった人、接種を受けていないので発症した人、というデータが必要なのです。

(参考) 「今年(2011/12年シーズン)のインフルエンザワクチンはハズレなのか。

 こうして求めたワクチンの有効率は、A型のインフルエンザウイルスでは、2001/02年シーズンの78.6%から、2002/03年、2005/06年、2003/04年、2004/05年シーズンと低下し、2006/07年シーズンでは20.5%になっていました。2005/06年シーズンを別にすると、2001/02年シーズンから2006/07年シーズンへと減少して行ったのです。



 ワクチン接種前後のHI抗体価の変化をみてみると、A/H3N2型(香港型)では、HI抗体価が40倍以上に達した割合や接種の前と後を比較して4倍以上の抗体価の上昇が見られた割合が2006/07年シーズンでは他のシーズンと比べて低い傾向が見られ、ワクチン株に対する抗体価の上昇の悪さが、2006/07年シーズンの20.5%という低い有効率に影響したようです。

  今年の(2011/12年シーズン)ワクチンの有効率は、いくらくらいの値になるのでしょう。インフルエンザの大流行が始まっています。東京都では、定点医療機関(東京都には419ヵ所)からのインフルエンザの患者報告数は、2012年第5週(1月30日~2月5日)で18,939人で、これを419で割ると定点医療機関当り45.20人になります。1週間で約45人ですから、単純に7日で割ってみると1医療機関で毎日6人強が「インフルエンザです」という宣告を受けていることになります。この45.20人という数字は、現在の調査が始まった1999年以降もっとも多くなっているのだそうです。



 毎年、インフルエンザの本格的な流行が始まる前に、インフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握するために、感染症流行予測調査事業において、「インフルエンザ感受性調査」が実施されています。対象者(2011年度の調査は、25都道府県から各198名、合計4,950名を対象とした)から採取された血液(血清)を用いて、赤血球凝集抑制試験(HI試験)が行なわれ、インフルエンザウイルスに対する抗体の有無と抗体価が測定されています。

 この調査によると、本年度の抗体保有率は「A(H3N2)亜型」に対して、すべての年齢群で前年度(2010年)よりも高かったようです。ここに言う「抗体保有率」は、HI抗体価が40以上の抗体を保有している者の割合を示しています。これでいくと、前年度よりも患者数を低く抑えられるはずでした。しかし、結果は「大流行」になってしまいました。ワクチンの接種が抗体価の上昇にあまり結びつかなかったのでしょうか。



 A型のインフルエンザの罹患者の急激な増加が1月から2月にかけてあり、その後で3月から4月にかけてB型の罹患者の増加があり、ピークが2つ現れるのがインフルエンザの流行の例年の状況(2008/09年シーズンが典型)なのですが、今年(2011/12年シーズン)はA型の流行をすぐに追いかけてB型の流行が始まってしまったので、インフルエンザの大流行になっているのではないかという観測もあります。

 東京都健康安全センターの「インフルエンザ検出数」というグラフを見れば、その観測も頷けるものがあります。WHOの報告によれば、世界的にはカナダ、西ヨーロッパ、北アフリカ、中国などでインフルエンザの流行が拡大しています。検出されたウイルスの大多数はA(H3N2)型ですが、メキシコではA(H1N1)型、中国ではB型が多くなっているといいます(The most commonly detected virus type or subtype throughout the northern hemisphere temperate zone has been influenza A(H3N2) with the exception of China, which is reporting a predominance of influenza type B, and Mexico, where influenza A(H1N1)pdm09 is the predominant subtype circulating.
In addition to Mexico, some southern states of the United States of America and Colombia in northern South America have also reported a predominance of A(H1N1)pdm09 in recent weeks.
)(WHO“Influenza update”03 February 2012)。



 東南アジアでも流行しているB型のインフルエンザは、ワクチン株(ビクトリア系統)に含まれていない種類(山形系統)が流行株に含まれています。ワクチンの効果もなく、インフルエンザの罹患者がこれからも増加を続けるのでしょうか。

                (この項 健人のパパ)

(追記) 2月17日配信の毎日新聞の記事によると、2012年第6週(2月6日~12日)の1施設あたり(全国約5000の定点医療機関から報告)のインフルエンザ患者数は前週より減少したそうです。患者数は昨年10月中旬から増加してきましたが、今回は40.34人で、前週の42.62人から初めて減少に転じました。

 今シーズン(2011/12年シーズン)の患者は、70歳以上の割合が昨シーズンの3倍近くに上っているのが特徴といえるようです。2012年第5週(~2012年2月5日)までの70歳以上の推計患者数は累計約27万人、全体の4.4%で、昨シーズン同期の約10万人、全体の1.6%と比べると大幅に上回っています。さらに、重症患者の3分の1ほど(32.3%)を70歳以上の高齢者が占めているといいます。

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コメント
 
 
 
「インフルエンザ感受性調査」 (ひかる)
2012-02-25 01:00:23
「インフルエンザ感受性調査」で調べている抗体価は、ワクチン株に対する抗体なので、今年のように流行株の抗原性がワクチン株と異なる場合には、解釈に注意が必要です。

一般にワクチンで獲得した抗体は、自然感染で獲得した抗体よりも、ターゲットが狭いのが普通なので、ワクチン株に対する抗体価の強弱だけでは、評価が難しくなります。
 
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