映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
青春ってなーんだ?
◇◇という女性の名前だけのタイトルに
あえて『◇◇の青春』と、青春の二文字を加える。
これってどうなの?と
観終わって、邦題のセンスを疑問に思った。
58歳の女性の恋模様にあえて青春とつけるなんて、
皮肉じゃないかと思った。
はっぴいえんどならいい。
でも、そうでもない。
むしろ、失敗だらけ。
思うままに突き進んで、失敗して、
羽目を外して、さらに傷口をひろげ、
落ち込み、自己嫌悪に浸る。
それでも、ラストは、気を取り直して、
明るくはじけるヒロインの笑顔から
前向きなエネルギーは伝わる。
うだうだのぐちゃぐちゃで、
失敗だらけのヒロインの姿が、
境遇は全然違うけれど、
なんとも自分をみているようで、
やりきれない気持ちになった。
ヒロインは離婚して10年以上たち、定職に就いている。
子どもは独立して、孫までいる。
ひとりぐらしで、気ままな生活の中で、
ある日、
ダンスパーティで、初老の男と知り合い、恋に落ちる。
相手も別居して1年。
娘と元妻に仕送りしているという。
老いらくの恋なんて、家族にあきれられるのは嫌だと
家族に紹介してくれない。
家族と彼女と、どちらが大切なのか、ヒロインは不安になってしまう。
恋ってなんだろうと思う。
老いらくの恋。
こういうのをみてると
「センセイの鞄」という小説を思い出す。
川上弘美の初期の頃の小説で大好きな作品。
38歳のツキコさんが70代のセンセイ、昔の老教師に
一杯飲み屋で出会い、恋をする話。
私も大好きな先生がいた。
高校の世界史の先生。
平一と書いて、本名はたいらはじめなのに、
皆、へいいち、と親しみを込めて、呼び捨てにしていた。
早稲田を出て、バンカラで通していた。
授業にはいつも下駄・・でもなかったか。
白髪頭で、年寄りもずっと老けて見えた。
授業中は、クラスがざわついていても、ひとりでしゃべっていた。
まわりの眼を気にしない、マイペースな姿が
小心者の私にとっては、ひそかなあこがれだった。
卒業して十年以上経ってから、友達の縁で
先生が自主出版された短歌集を送ってもらった。
お礼の手紙を書いた。
それから、年賀状のやりとりが続いた。
映画についてぐだぐだ書いた賀状に
いつも、それとなく励ましの言葉をもらった。
その友達ががんで急逝してしまい
お葬式でせんせいと何十年ぶりかで会った。
全然変わってなかった。
彼女のお棺にお花をそなえにいきたいと思う私に
せんせいは、胸をはって、思ったとおりにしなさいと
背中を押してくれた。
あのときの力強い表情は、今でも忘れない。
そのせんせいもお亡くなりになったのは、数年前の春。
せんせいのお葬式の後、
同級生の子と三人で、五条川の桜で満開の下、
あれこれたわいのないことをしゃべりながら
橋と橋の間を往復した。
話の中身はまるで覚えていないが、
高校の頃は、ほとんどしゃべったことのなかった子でも、
意外に話せたのがうれしかった。
せんせいはずっと青春してたんだろうか。
わたしはどうしたいのか。
どこにもいきつかない文章を宙に向かっていくつも放つ。
誰の心に届くのか。
いくつも打ち上げ花火をあげ続け、
続けることに意味があるのかは問わず、
とりあえず、あると信じてやっている。
どこに行くのか、
どこへも行きつかないのか。
先日観た前田敦子主演、黒沢清監督の『Seventh Code』で
前田敦子が、軽トラの荷台で叫んで朗読した詩を
友達に教えてもらったので、ご紹介したい。
これから、落ち込んだら、この詩を叫ぼうと思う。
「旅に立つ
いざ 天の日は我がために
金の車をきしらせよ
嵐の羽は東より
いざ こころよく我を追え
黄泉の底まで なきながら
頼む男を尋ねたる
その昔にももえや劣る
女の恋のせつなさよ
晶子や物に狂ふらん
燃ゆる我が火を抱きながら
天がけりゆく、西へ行く
巴里の君へ逢ひに行く
与謝野晶子」
「「旅に立つ」は、1912年(明治45年)パリに暮らす夫、与謝野鉄幹を
訪ねる晶子の旅の序章、ウラジオストックから旅立つ晶子の心が
詠われています。
ウラジオストックの極東大学構内には与謝野晶子の記念碑が現存しています」
HP「テイラー・メイドの旅 専門旅行社"こだわりの旅へ」から抜粋
最初にご紹介した『◇◇の青春』。
こうして考えてみると、
自分の信じるままに挑んで、失敗してもひるまない
58歳の女性のバイタリティあふれる姿を称える意味で
『青春』とつけたのだとわかる。
でも、青春はあまりに痛く、あまりに心にしみるのも、また事実。
ひりひりするようなヒロインの痛みが伝わるだけに、
最後の、音楽に引きだされるようにして、
いつしかヒロインが見せる笑顔がすてきなのですが。
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どこへもいきつかないのか。
これはもう詩だとおもいますよ
わたしも「センセイの鞄」だいすきです
川上弘美の文章がほんとうにしっくりくる世界ですよね
“へいいち”のはなし、胸に沁みました
あなたの文章をたのしみにしているひとりより
本当に試行錯誤の繰り返しです。
へいいちセンセイの話、読んでくださってありがとうございます(涙)。当時はそんなには思ってなくても、卒業して何年も経って大切な存在だったんだとじわじわしみてきたりするんですね。
やっぱり、自分がなりたい人間像みたいなのに重なってるからでしょうか。
私もJNKさんの映画紹介、とっても楽しみにしています。