No1135『グォさんの仮装大賞』～老いてなお、こどもの心を失わず～

「悔いのない人生を」というけれど、
後悔のない人生なんて、ないと思う。
年をとればとるほど、後悔だらけで、
リヤカーに山のように、後悔という名の雪だるまをのせている。
でも、だからといって、もし、もう一度人生をやり直したとしても
きっとこの性格は変わらないだろうし、
愚かさも変わらないだろうから、
同じ失敗を繰り返し、同じくらいの後悔の山を積み上げているような気がする。

だけど、大事なことは、後悔の思いにひきずられないこと。
過去は、とりあえず横に置いといて、
今、自分が置かれた地点で、前だけ向いて、
自分にできる精一杯のこと、
自分のしたいと思うことを、懸命にやるしかないのが人生なんだろうなと思う。

この映画に出てくる老人たち、
グォさんも、友達のチャンさんも、老人ホームの仲間たちも、
皆いろんな思いを抱えて生きている。

グォさんは、実の息子とうまくいかず、思い悩んでいる。
映画は、そんな老人たちの今ある姿を、あたたかく包み込むように、
生き生きと描いていく。

老人たちだって、自分たちのしたいことを思い切りやって、笑って過ごしたい。
怪我しないようにとか、何かあっても責任がとれないからと、
決められた日課をおとなしくこなすだけの毎日はつまらない。
自分たちで知恵をしぼり、皆で協力して、
テレビの人気番組「仮装大賞」に出演するという夢を
実現しようとする姿がすてきだ。

最近観た中では、老人たちの生き生きとした姿が魅力的な『アンコール！』が
記憶に新しいが、
本作は、
後半のおんぼろバスでの老人だちだけのロードムービーの爽快さ、
仮装大賞に出ようと練習を重ねる、仮装の寸劇のおもしろさで、群を抜くと私は思う。

なにより、脇役のおじいちゃんたち、おばあちゃんが、すてき。
目立ちたがりで、工作大好き少年みたいな、車いすの老人の憎めない強引さ。
認知症のおばあちゃんの美しく穏やかな笑顔には涙が出た。
それもそのはずで、中国の名優たちがそろっている。
特に後半のロードムービーになってからのバスに乗った面々の顔を、表情を
観ているだけで、嬉しくなる。

おじいちゃんたちが、あちこち痛み、動きにくい身体を抱えて、
こどものように純粋に、自分たちがしたいこと、しようと決めたことに挑戦してる姿は、きらきらして、まぶしい。
海から上がる朝日を見に行こうって、なんてすてきなんだろう。

ただ、説教くさい、べたすぎる、都合よい展開、人情に流れすぎと思われる向きもあるかもしれない。
シネフィルの方には、いまいちかも。
でも、細かいところを言い出せばきりがないし、
人情ものに弱い私は、単純に泣けた。

ラストの仮装舞台の見事さは、
友情のため、ひとつの舞台をつくりあげるために、
客席からはみえないところで汗水たらしているのがみえ、
映画だなあと感じた。

かわいらしいこどもには優しいくせに、
老いた親には冷たくなりがちなわが身を振り返りつつ、
この映画に出てくる老人たちのように、
きらきら輝いた表情の老人になれたらすてきだ。

監督は、あの『こころの湯』のチャン・ヤン。
朱旭が、下町の銭湯の主を演じ、都会に働きに出た息子とのぶつかりあいを人情味豊かに描き、
うしなわれゆくものへの郷愁に満ちた名作。

大切なのは「まごころ」と
「こどものようなきらきらした心」。好奇心と探究心。

先日、牧師さんが「かたわらを通り過ぎようとする人たち」という言葉を書かれているのを読んで、
普段、どこでも、電車でも、駅でも、道でも、実家でも、職場でも、
自分の「かたわら」にいる人たちに、やさしく、おうようであれたら、
「まごころ」を失うことなく、接しられたらいいなあと思った。
これは、何かと、せっかちになりがちな私にとっての、今年の課題です。

本作は、大阪ではシネマート心斎橋での上映です。
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