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No385「O侯爵夫人」~許しの物語~

1週間前に観たばかりで2回目の鑑賞。
前回、ひたすら、室内の光の美しさ、ろうそくの光、
カーテンやドレスの布、
うっすらとブルーがかった壁の色の美しさや
戸外での緑の美しさに圧倒された。

部屋には、絵画が飾られ、絨毯が敷かれ、
椅子、壷があちこちに置かれていて、
映像が、まるで1枚1枚の絵画のように、
整った構図の画面となっており、
なんと美しいこと。

そして、今回。
物語を知っているので、
描き方のおもしろさを存分に楽しめた。

フランス革命直後のイタリア北部。
ロシア軍に攻められ、
逃げる途中、暴漢につかまりかけたO侯爵未亡人ジュリエッタは、
敵方ロシア軍の伯爵に救われる。
その後、妊娠に気付いたジュリエッタは、
身に覚えのない妊娠の相手を探そうとする…

(以下ねたばれです)
相手が誰なのかは、最後に明かされる。
これは、娘の妊娠を許せない両親と、娘ジュリエッタとの関係が
変わる物語であり、
最後に名乗って出る伯爵とジュリエッタの関係が
変わっていく物語でもある。

今回、妊娠の相手が伯爵だと知って観ているので、
伯爵の心中がよくわかり、
妊娠の発覚によってジュリエッタの名誉が傷つけられるのを防ごうと
伯爵が、すぐの結婚を迫ったり、懸命に画策する姿が
滑稽にみえたりもした。

しかし、意を決して、自ら名乗って出たものの、
ジュリエッタに冷たく拒絶され、
罪の意識に言葉も出ず、必死に耐えるばかりの姿に、
思わず目頭が熱くなった。

形だけの結婚はしたものの、
結婚式で同じ方向を向き、
言葉では、夫とすると誓いの言葉を述べながらも、
ジュリエッタの表情は冷たく、上っ面だけに聞こえる。

教会にかかった絵を写すカメラは、パンして、
天使の下で苦しむ人(?)の姿で止まる。
結婚式の後も一人取り残される伯爵。

だから、赤ん坊が生まれ、
両親も伯爵も皆が、
赤ん坊を抱いたジュリエッタを囲うようにして見つめ、
その後すぐ、
伯爵があっさりジュリエッタから許しを受ける場面の唐突さに
思わず喜びを覚えた。

ドラマ的には、「許す」という劇的なシーンなのに、
いとも容易にあっさり許してしまうところが、
ロメールの軽妙さであり、ユーモアであり、魅力なんだろう。

そのうえに、最後の字幕
「その後二人の間には、子供がたくさん生まれ」というハッピーエンド。
一気に“可笑しみ”へと転換してしまうなんてさすが。

感動を遠ざけ、突き放してしまう妙味。

許しの場面といえば、
名乗って出た公爵に対し、
ジュリエッタの母は、十分悔いていると、その勇気をほめ、
父も、公爵と向き合って立ち、ぐっと握り締めたこぶしを開いて
そっと温かく、公爵の肩に置く。

両親の説得もきかず、
ベッドで、絶対許さないと言い張るジュリエッタ。
娘と父母の視線がぶつかりあう。
ジュリエッタの顔がアップになり、
「では、夫としての権利は全て奪い、義務のみを課すこととして、
結婚したらどうか」と父の声がフレームアウトで聞こえ、
ジュリエッタは数秒、じっと考え、「それなら」と答える。
結婚を承諾するという決断を数秒の表情の変化で
描いてしまうおもしろさ。

他に、両親とジュリエッタの間でも許しの場面がある。

両親から勘当され、別荘にこもったジュリエッタは、
母の来訪により誤解が解け、実家に連れ戻される。
母の説得にもかかわらず、父は未だ娘を許さず、
母は、ジュリエッタのいる部屋に入ってきて、あんな頑固な人は許さないと嘆く。
そこに、廊下から泣き声が聞こえてくる。
今まで、父は、ドラマが展開する部屋から、
外に出て行くばかりだったのが、
今度は、自ら戸を開けて入ってくる。
しかも泣きながら、顔をハンカチで覆ったまま。

ジュリエッタも泣き出し、
父と娘の間の仲が戻るだろうと察し、
母はそっとドアを閉めて出て行く。
娘のベッドを湯たんぽのような道具で暖めてから、
真っ暗な廊下にろうそく1本の明かりを手に現われる。
そうして、娘と父のいる部屋を、ドアの外から、
そっと気配をうかがう姿もおもしろい。
ドアを開けると、すっかり和解しあって、打ち解けた二人の姿があって、と
母の暖かい思いが伝わる。

興味深いシーンについて、もう少し書き並べると
映画の冒頭部分。
公爵が、夫人を助ける時、
銃声がとどろき、煙がたちこめ、
煙か雲か、明るくなったり、暗くなったりしている。
最初は何気なく観ていたが、
こういう光の変化も、監督らによってつくりだされたものであり、
上手いなあと思った。
婦人を襲った暴漢らに対して、
「やめろ」とフレームアウトで伯爵の声が入り、
白いマントで現われた伯爵の立ち姿。
後ろから光を受け、透けてみえるマントの美しさ。
私には月光仮面みたいなヒーローにみえたけど、
ジュリエッタには天使に見えたわけだと納得。

その伯爵、自分が警備するからと
ジュリエッタの家族をゆっくり寝かせ、屋敷を見回る。
子供の毛布が乱れていたのを整えてやるという細やかさ。
そんな彼が、
えんじ色のビロードのように美しい布のベッドの上に横たわったジュリエッタを
目の当たりにする。
彼が罪を犯したであろうその場所と
同じえんじ色のソファに座ったジュリエッタに
伯爵は自らの罪を名乗り出て、拒絶される。
そして、最後、同じソファで許しを受け、抱き合うと、
この色づかいもおもしろかった。

伯爵が語る思い出話の
汚れた白鳥が水の中にもぐって、
出てきた時には真っ白になっていたという話。
伯爵も、一生に一度きりの大きな罪を犯してしまったけれど、
真っ白になって、もう一度やり直したい、
という自分の思いを込めていたのかもしれない。
伯爵を演じたブルーノ・ガンツの重苦しい顔が
この映画にはぴったりだった。

とついあまりに饒舌になってしまった本作は、
エリック・ロメール監督の1975年の作品です。
ほかにも、もっとたくさん観たいと思ったところ、
京都のみなみ会館で特集上映があり、
やった!と喜んだら、平日昼ばかりの上映で、
悲しくなってしまいました。
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コメント
 
 
 
ガンツ!? (ゆるり)
2008-12-14 20:30:22
こんばんは、おじゃまします。(=^_^=)

伯爵は、ブルーノ・ガンツだったんですか!
あの、守護天使やヒトラーを演じてた人ですよね。
そう言われてみれば、あの頑固そうな顔は。。。
若いですね。それだけで時代を感じます。
しかし、彼よりもジュリエッタ役の女優さんが
印象的でした。しっとりと気品があって。

>いとも容易にあっさり許してしまうところが、
>ロメールの軽妙さであり、ユーモアであり、
>魅力なんだろう。
ほんとにそうですね。
ロメールの古典物は最近の作品も含めて、
なんか一風変わった味わいというか、
いい意味での軽さを感じさせます。
ロメール映画でドイツ語というのは
不思議な感じでしたが。

 
 
 
ゆるりさんへ (なるたき)
2008-12-18 01:57:36
コメントありがとうございます。
はい、あのガンツさんです。
私も友人に教えられて、えー!!と驚いてしまいました。

私にとって、ロメールは、ゴダールよりはずっとわかりやすく、おもしろいけれど、いまひとつそのおもしろさがわからない作品もあり、不思議でした。

でも、観れば観るほど、いろいろ見えてくるものがあったりで、やっぱりわけわからないのだけど、なんかおもろいなあ、でもちょっと変な監督さんだなあ、と感じる今日この頃です。
 
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