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No1104『モスクワを歩く』~モスクワの街の息遣いが聞こえる~

とってもすてきな映画。ひとめぼれ。1963年のロシア映画。
冒頭、大きな窓ガラスに映った女の子がステップ踏んで、踊りながら歩いていく。
飛行機もガラスに映っていて、飛行場かなとわかる。
カメラがゆっくり前進からパンして、女の子自身が映る。
彼女に声をかける青年。
女の子は「ハズ(主人)を待ってるの」
「結婚して幸せかい?」「最高よ!」「あなたも早く結婚なさい」「さよなら」
みたいな会話が交わされ、青年の乗ったバスの扉が閉じる。
このさわやかな好青年がとってもすてき。

舞台はモスクワにうつり、
街の風景が次々と映し出されてゆく。
ジャック・タチのような音楽、
リズミカルで、明るく、ポップなメロディが奏でられる中、
車、交差点、行きかう人々と、街のいろんな光景が生き生きと映し出されていく。
橋の欄干越しに、河面を滑っていくカヌーのような舟を映したかと思うと、
次のショットで、カメラは、水面と同じくらいの高さで、前進していく舟を映す。
ひとつひとつのショットに発見があって、
その喜びみたいなものが息遣いとして宿っている。

トンネルの夜間工事が映ったり、街の光景にうっとりしているうちに、
気が付くと、満員列車の中。
ここでやっと、私たち観客は、主人公の若者コーリャの姿を見つける。
(実は、夜間工事で働いている中にコーリャも映っていたかもです)

隣に立っている中年の紳士に「押すな」と繰り返し言われ、苦笑い。
ちょうど、先ほどの空港にいた青年がそばにいて
「○○に行くにはどう行ったらいいか教えてほしい」と尋ねると、
中年紳士が、偉そうに、俺はモスクワっ子だからと、得意げな調子で教える。
コーリャは、「違う、もっと早く行く方法がある」と教え、
2人の青年が出会い、物語が始まる。

電車を降りて、二人は川べりを歩く。
子どもが遊び、いろんな人が散歩したり、行き交い、
街の喧噪が聞こえる中、木漏れ陽が美しい。

映画は、コーリャと、シベリアからやってきたワロージャの二人の青年をメインに、
二人がレコードを買いに行って、二人ともぞっこんになる可愛い売り子のアリョーナと、
コーリャの親友のサーシャら
若者の一日を描いた、さわやか青春物語。
4人のすてきさもさることながら、
脇役で、少ししか登場しない、名もなき街の人たちが、皆すてきで、忘れがたい。
街の息遣いがあちこちから感じられ、光と影の明暗もすばらしい。

物語の詳細は、他のサイト
ロシア映画社HP 、←あらすじ、
オラシオ主催万国音楽博覧会ブログ←かなり詳しい筋立て)
に詳しいのがあるので、参照してほしいけれど、
私の大好きな場面を幾つか紹介したい。

青年二人の人物造形がすばらしく、惚れた。
ワロージャは、シベリアからモスクワにやってきて、その日のうちに帰ることになっている。
働きながら小説も書いていて、事故で死んだ仲間の両親の家を休暇の都度訪れるという
誠実でまじめな青年。
コーリャは、おしゃべりでおちゃめ、お調子者のようにみえて、優しく気立てのよい青年。

コーリャの親友サーシャがその日結婚式を挙げることになっていて、
婚姻登録所で、やおら天気雨に会う。
ウエディングドレス姿の花嫁も、みんなに布かで屋根をつくってもらって、
車から建物の入り口まで小走り。
サーシャも新調したばかりのスーツをずぶ濡れにして、走っていく。
と、そのとき、どしゃ降りの雨の中を、
両手に靴を持って、素足で歩いてくる若い女性の姿がロングショットでとらえられる。
続いて、足元がアップでとらえられ、水たまりの中を歩く足、
そこに、自転車の輪っかが並行するように重なる。
この感じがなんともすばらしく涙。
男性が彼女に傘をさしかけながら、傍らを進んでいて、
女性はそれを気にも留めず、むしろ振り払うかのように、
雨の中を濡れて歩くのが楽しそうに歩いている。
このときの天気雨のきらめく陽の光と、女性の笑み、光に反射する雨と
あまりにすばらしいシーン。
この女性が誰だったのかは、結局わからなかったが、
こんな感じで、すてきな街の人たちが、いっぱい出てくる。

 あ、やっと今、この映画のメロディが頭の中に戻ってきました!!!!(涙)
この映画の終わり、
すっかり両想いになってしまった雰囲気のワロージャとアリョーナ。
そしてコーリャの3人。
まず、ワロージャが地下鉄に乗って去って行き、
コーリャも、僕は仕事があるから送れないよと嘘を言って、
アリョーナは「さよなら」とそっけなく駆け足で地下鉄に飛び乗ってしまう。
コーリャは、一人、それまでに何度もバックで流れていた音楽を歌いながら(とってもすてきな歌詞)
地下の通路を歩いていく。
駅員の女性が呼び止め、一度は、歌うのをやめるが、
地上へと上がっていくエスカレータに乗りながら、
「やっぱり歌って」という駅員のリクエストにこたえて歌う。
地上から光が届き、そのシーンで終わる。

「♪ ドド、シシ、シラシドラ」「♪ ドド、シシ、シラシドラ」「同じ節を1音上げて繰り返し」
ってこんな感じです。
(私は音感がずれてる可能性大ですみません 汗)
ラストシーンは、あまりに切なく、さわやかで、こんな映画があること自体に
涙がいっぱいになってしまいました。

長くなりますが、好きなシーンをもう少しだけ。
本当に全部好きなんですが。

ワロージャの書いた小説が、雑誌に掲載され、訪ねるように言われた作家の家に行く。
呼び鈴を押して、案内された部屋で、
コーリャとワロージャは、作家の男から、少し偉そうな感じで
「君の小説はまだまだ足りない」みたいな感じで説教される。
と、別の男が入ってくるなり、自称作家は立ち上がり、実は掃除夫だったとわかる。
でも、この掃除夫がおしゃべりな陽気な男で、作家にも、ワロージャに言った感想を話し、
あとは、別の部屋で、機嫌よくリズミカルに吹き掃除を始める。

アリョーナの家を訪ねようと、近所の広場かで、チェスか何かやっている
おっちゃんたち数人の集まりの中の一人に、
コーリャとワロージャがアリョーナの居場所を尋ねる。
軽口のコーリャが適当なことを言って、聞きだそうとすると、
なんと、その尋ねた相手がアリョーナの父ちゃんで、2人ともびっくり!

音楽演奏会を聴きに行っているアリョーナを、
会場まで行って、演奏の最中、客席の後ろの方からアリョーナの名を呼んで
呼び出してしまうコーリャの強引さ。
でも、出てくるから、やっぱりアリョーナも二人に気を惹かれているというコト。

婚姻届は出したものの、手違いから
離婚を言い渡されたと落ち込むサーシャ。
結婚式もあげられず、机の上には、プレゼントの山と、封されたままのシャンパン。
コーリャは、なんとかしようと、相手の女の子に電話する。
彼女は、同じアパートの広場の向こうに住んでいて、電話に出ない。
コーリャは、窓から、大きい声で叫んで、電話に出なさい、と叫ぶ。
すると、広場でダンスをしていた若者たちも、コーリャの言葉を繰り返し、
ちょっとした誤解から、すれちがってしまった二人の若者の糸をつなぎあわせようと
応援する。
促されて、電話に出た女の子とサーシャとの間に会話が戻り、誤解が解け、結婚式が始まる。

集団のおもしろさでいえば、
夜の移動遊園地のようなところに泥棒がいて、そこに居合わせた人たちが
何十人もどたばたと追いかけていくシーンもすごく楽しかった。

こうして振り返ってみると
やはり、コーリャという青年の、おせっかいで、笑わせ役で、面倒見がよくて、
という性格、立ち居振る舞いが、本当に魅力的ですばらしいのだと気づく。
コーリャを演じるのが、ロシアの名優ニキータ・ミハルコフで弱冠18歳。
カメラのワジム・ユーソフは「僕の村は戦場だった」(1962アンドレイ・タルコフスキー監督)の人。
音楽はアンドレイ・ペトロフ。

おもしろかったのは、コーリャのアパートのそばにあるカフェ。
コーリャとワロージャがアパートの方に帰ってくると、
いきなり、英語の単語が次々と読み上げられていき、
「International」とか、機械的な発音が聞こえてくる。
何かと思うと、カフェで窓拭きをしている青年が、英語の勉強をしているのか、
英単語の読み上げテープのようなものを聞いているのだ。
ふと、濱口竜介監督の『何食わぬ顔』で、辞書を読んでいるのを思い出した。

コーリャが、「うるさいから消して」とか言って、青年はテープを止めるが、
また違う音楽を大音量でかけて、
今度は、アパートの窓からコーリャに「うるさい」と叫ばれて、消すことになる。
そうして聞こえてくるのは、遠くで誰かが練習しているピアノの音だったりして、
本当におもしろくも、すてきな音空間だった。

長くなったので、そろそろ、ワロージャのすてきなせりふで締めくくろう。
アリョーナとダンスをしながらの会話。
「今日はダンスで始まり、ダンスで終わった」と言うと、
「始まりのダンスは何?」とアリョーナが尋ねる。
空港での話をするワロージャ。
「どんな女の子だったの?」気になるアリョーナに
「美人というわけじゃないけれど、感じのよいすてきな子だった」と控えめに言うワロージャ。

そう、ロシア映画に出てくる女性は、みんな美人さんばかりで、
女性からみても、なんて美しいのかしらとうっとりするような人ばかりでした。

まるで、全編、魔法にかけられたかのようなすばらしさで、
神戸映画資料館には珍しい(?)若いきれいなギャル(女性)二人連れが、口をそろえて
よかったねえと言い合っていたのは、すてきな光景でした。

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