映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
No692『冷たい熱帯魚』~映画は痛い?~
2011-02-15 / 映画
園子温監督の最新作。
グロテスクな作品が多いので、そこそこ心づもりしていたとはいえ、
ここまで凄すぎると、
正直なところ、私は相当ひいてしまった。
埼玉愛犬家殺人事件という実際にあった話や
様々な猟奇殺人事件を元にしたそうで、
冒頭いきなり「True Story」と出る。
でんでん演じる村田は、とんでもない殺人者。
おしゃべりで、カリスマ的で、
人を殺すことを何とも思っておらず、むしろ楽しんでいる。
妻と二人、浴室で、
戯言を言いながら、血まみれになって
死体を解体するシーンは、目をそむけそうになった。
燃やしたり川に捨てたりして
遺体をこの世から抹殺することを「透明にする」と言っていた。
彼に利用され、遺体運びとかを手伝わされるのが
気弱で、意気地のない中年男の社本。
娘が村田の店の厄介になっていることもあって
村田の言うがままに、悪に手を染めていく。
前半、ほとんど社本のような気持ちで、
目を覆いたくなりながら映画を見ていた。
しかし、
いつも震え、吐いていた社本が、
最後にとんでもない変貌をする。
内側にエネルギーを溜め込み、爆発する役柄は
吹越満にぴったりで熱演。
社本は、本当は強い父親になりたかったのだろう。
夕飯中に、恋人からの携帯に出て、
そのまま、デートに行ってしまう年頃の娘に何も言えない。
そんな弱い父親であることに辟易し
抜け出したかったのだと思う。
表現できないまま、ずっと溜め込んで我慢していた“自分”が
最後に、凄い形で、過剰なエネルギーで顕れる。
社本のゆがんだ笑顔。
最後は、娘を前に「人生は痛いんだ」と伝えて、息絶えるわけだが、
そんな主人公を前に、娘が泣くわけもなく、
娘は、死にいく父親に
残酷な言葉を吐き捨てて、映画は終わる。
救いようがない。
でも、主人公に、こんな過酷な結末を用意する監督の意図も
わからないではない。
自分の人生を失ってしまった男に救いはないのだから。
絶望だけがあとに残る。
それにしても、目をそむけたくなる場面ばかりで
こういう時に限って、睡眠不足なのに全く眠くならない。
嫌いなもの、いらだたせるものは、
逆に、自分の中の何かを活性化させているのだと
前向きにとらえることにしよう。
監督は、観客を苛立たせたかったのかもしれない。
これでいいのか?
いいわけないと思う。
あとは、観客の物語。観客が何を考え、何を思うか。
実際の事件の主犯格の男も、
でんでんのような男だったらしいが、
みていて、いい気分はしない。
こういう饒舌で調子のよい、腹黒い人物に振り回され
弱気なまま、ずるずると、事件に巻き込まれて
とうとう共犯はおろか、それ以上の犯罪を起こしてしまう。
弱気な男の行く末。
ただ、その暴走の末に、最後に刃を向ける相手が自分、
ということは理解できるが
家族に…というのは、理解不能だった。
特筆は、村田の妻を演じる黒沢あすかの狂いぶり。
嫌な役だけれど、最後、すごい熱演だと思った。
逆に、でんでんの狂いぶりは、最後まで生理的に受け入れられなかった。
バラバラ殺人事件の面で思い出す邦画は
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』
『OUT』ぐらい。もう少し救いようはあった。
私の思いは、残虐性に対するごく普通の反応かもしれない。
この映画から、どんな巻き返しを図ったらいいのか。
人生の勉強をするために、映画館に通っているわけではないけれど
でも、こういう救いようがない映画に
1週間に2回も当たると
ちょっと痛い、としかいいようがない。
見たい新作が数ある中、今日15日は「リーブルの日」ということで、
千円の安さと、監督につられて、行ってしまった。
(園監督の『紀子の食卓』は結構好き)
劇場には、九十人近くのお客さんがつめかけていた。
かたや『ヤコブの手紙』『君を想って海をゆく』といった、いい作品が
来週からはどんどん上映回数が減っていくようで、少し残念な気がする。
蛇足だけれど、
これを見ていて、思い出したいのは、
かつて、歯医者で、不穏な空気を感じたものの、
思ったことをいう勇気もなく、
あっという間に歯を抜かれてしまい、差し歯にされたこと。
差し歯の寿命は短く、
毎月歯医者に通うはめになった。
あのとき、ちゃんと
「抜くかどうか、もうちょっと考えたいので止めてください」と
言えなかった自分が、すごく悲しかった。
勇気を出すのは難しい、
なんてあまりに卑近な例で失礼しました…。
グロテスクな作品が多いので、そこそこ心づもりしていたとはいえ、
ここまで凄すぎると、
正直なところ、私は相当ひいてしまった。
埼玉愛犬家殺人事件という実際にあった話や
様々な猟奇殺人事件を元にしたそうで、
冒頭いきなり「True Story」と出る。
でんでん演じる村田は、とんでもない殺人者。
おしゃべりで、カリスマ的で、
人を殺すことを何とも思っておらず、むしろ楽しんでいる。
妻と二人、浴室で、
戯言を言いながら、血まみれになって
死体を解体するシーンは、目をそむけそうになった。
燃やしたり川に捨てたりして
遺体をこの世から抹殺することを「透明にする」と言っていた。
彼に利用され、遺体運びとかを手伝わされるのが
気弱で、意気地のない中年男の社本。
娘が村田の店の厄介になっていることもあって
村田の言うがままに、悪に手を染めていく。
前半、ほとんど社本のような気持ちで、
目を覆いたくなりながら映画を見ていた。
しかし、
いつも震え、吐いていた社本が、
最後にとんでもない変貌をする。
内側にエネルギーを溜め込み、爆発する役柄は
吹越満にぴったりで熱演。
社本は、本当は強い父親になりたかったのだろう。
夕飯中に、恋人からの携帯に出て、
そのまま、デートに行ってしまう年頃の娘に何も言えない。
そんな弱い父親であることに辟易し
抜け出したかったのだと思う。
表現できないまま、ずっと溜め込んで我慢していた“自分”が
最後に、凄い形で、過剰なエネルギーで顕れる。
社本のゆがんだ笑顔。
最後は、娘を前に「人生は痛いんだ」と伝えて、息絶えるわけだが、
そんな主人公を前に、娘が泣くわけもなく、
娘は、死にいく父親に
残酷な言葉を吐き捨てて、映画は終わる。
救いようがない。
でも、主人公に、こんな過酷な結末を用意する監督の意図も
わからないではない。
自分の人生を失ってしまった男に救いはないのだから。
絶望だけがあとに残る。
それにしても、目をそむけたくなる場面ばかりで
こういう時に限って、睡眠不足なのに全く眠くならない。
嫌いなもの、いらだたせるものは、
逆に、自分の中の何かを活性化させているのだと
前向きにとらえることにしよう。
監督は、観客を苛立たせたかったのかもしれない。
これでいいのか?
いいわけないと思う。
あとは、観客の物語。観客が何を考え、何を思うか。
実際の事件の主犯格の男も、
でんでんのような男だったらしいが、
みていて、いい気分はしない。
こういう饒舌で調子のよい、腹黒い人物に振り回され
弱気なまま、ずるずると、事件に巻き込まれて
とうとう共犯はおろか、それ以上の犯罪を起こしてしまう。
弱気な男の行く末。
ただ、その暴走の末に、最後に刃を向ける相手が自分、
ということは理解できるが
家族に…というのは、理解不能だった。
特筆は、村田の妻を演じる黒沢あすかの狂いぶり。
嫌な役だけれど、最後、すごい熱演だと思った。
逆に、でんでんの狂いぶりは、最後まで生理的に受け入れられなかった。
バラバラ殺人事件の面で思い出す邦画は
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』
『OUT』ぐらい。もう少し救いようはあった。
私の思いは、残虐性に対するごく普通の反応かもしれない。
この映画から、どんな巻き返しを図ったらいいのか。
人生の勉強をするために、映画館に通っているわけではないけれど
でも、こういう救いようがない映画に
1週間に2回も当たると
ちょっと痛い、としかいいようがない。
見たい新作が数ある中、今日15日は「リーブルの日」ということで、
千円の安さと、監督につられて、行ってしまった。
(園監督の『紀子の食卓』は結構好き)
劇場には、九十人近くのお客さんがつめかけていた。
かたや『ヤコブの手紙』『君を想って海をゆく』といった、いい作品が
来週からはどんどん上映回数が減っていくようで、少し残念な気がする。
蛇足だけれど、
これを見ていて、思い出したいのは、
かつて、歯医者で、不穏な空気を感じたものの、
思ったことをいう勇気もなく、
あっという間に歯を抜かれてしまい、差し歯にされたこと。
差し歯の寿命は短く、
毎月歯医者に通うはめになった。
あのとき、ちゃんと
「抜くかどうか、もうちょっと考えたいので止めてください」と
言えなかった自分が、すごく悲しかった。
勇気を出すのは難しい、
なんてあまりに卑近な例で失礼しました…。
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