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No691『E.T. 20周年アニバーサリー特別版』~自転車の爽快なこと~

連休の初日。朝から雪が降りしきる中、
午前10時からの映画祭でTOHOシネマズなんばへと急ぐ。
雪がひどいし、予約していても、来ない人が大勢いるのではと思いきや、
意外にも、予告が終わり、本編スタート時には、満席。
いかに期待が高いか、よくわかった。

実は私は、今回が初見で、
USJのE.T.のアトラクションで
甥っ子と自転車に乗ったことはあるが、
肝心の映画の『E.T.』は見ておらず、
全くストーリーを知らなかったので、
E.T.って、死んじゃったんだっけ?
宇宙に帰るんじゃなかったっけ?と
どきどきしながら、めいっぱい楽しんだ。

冒頭、森の中の暗い茂みから、長い指が出てきて、枝をかきわける。
謎の宇宙船。
出口には、心配そうに外をみて、誰かを待っている宇宙人の姿がみえる。

黒い車が数台止まって、怪しげな男たちが降りてくる。
下半身しかうつさず、いかにも不気味。
後半に至るまで、彼らの上半身をみせず、
スリルを盛り上げるのは、
さすが、『激突!』のスピルバーグ監督ならでは。
ズボンのベルトにつけた鍵束を、
やたらジャラジャラさせて歩くのがいい。

家では、悪ガキたちがゲームに興じていて、
兄と友達とで盛り上がり、弟のエリオットはのけものにされている。
そうして、E.T.との出会い。

思うに、この映画をみて、
「おもしろいよ」と“最初に”言った人が
一番すごいと思う。
この、目が大きくて、顔のつぶれた異星人を
最初に、かわいいと言った人は
勇気がある。

実際、見ていると、
E.T.が段々かわいく見えてくる。
間違えてビールを飲んで酔っ払ったりもするし、
エリオットのやってることを真似したり、
エリオットと並んで背比べをしたら、
小さいくせに、首をすぅっと伸ばしてみたり、
ユーモアもある。

「E.T.、HOME、PHONE」と自分の願いを片言で言う。
これがポイント。
故郷に帰りたい、うちに帰りたいというのは、誰もに共通する思い。
これで、E.T.が一気に身近な存在になる。
片言だからこそ、その思いが観客の心の中で自在に膨らみ
広く共感を呼ぶ。

自転車のシーンが実に爽快。
ポスターでみてはいたが、
何気ないところ、別に飛ばなくてもいいようなところで、
いきなり飛んでしまうので、びっくりした。

そして、最後のクライマックスで、再び飛ぶ。
仲間たちと一緒に皆、全員で飛んでしまうところがいい。

悪ガキたちの乗った自転車が、エリオットを助けるために、
まるで競輪のように、彼を囲うようにして
並んで猛スピードで疾走し、
追っ手をのがれようとする姿のすてきなこと。

このとき、エリオットが着ているのが
赤のパーカーで、思わず
『彼方から』の瀬田なつき監督を思い出した。
確かスピルバーグが好きな監督の一人に入っていたような…。
主人公の少女の赤いパーカーは、エリオット少年から来たのでは?なんてね。

話を戻して、
エリオットのお兄ちゃんがなかなかいい。
弟の大切な秘密を一緒に守ろうと協力する。
最初の方で、車をバックさせることはできても、
前に動かしたことはない、なんて叫びながら
E.T.の救出に大活躍。

エリオットの家族に父親がおらず、母子家庭という設定もいい。
ドリュー・バリモア演じる妹も可愛らしく
家族の連帯感も、テーマの一つ。

E.T. が、いよいよ宇宙に帰る別れ際
宇宙船の前で
兄と妹には、ありがとう、さよなら、だけれど
エリオットには「COME」と言う。
この一言が実にうまい。
E.T.にとって、エリオットは友達どころか、家族なのだ。
だから、ごく自然に「一緒に来て」と言う。
でも、エリオットは「STAY」と返す。
「僕は君とは行けない。ここ、地球にとどまるよ」という気持ちを
一言で伝える。
「I miss you」みたいなことを言って寂しがるエリオットに
E.T.は
「僕はいつも君の心の中にいる」と身振りで伝える。
E.T.の長くて細い指がドラマを盛り上げる。

実は、こういう大ヒットしたのはあえてみないへそまがりで、
今まで、見る機会もないまま、今日に至ったのだが、
みておいてよかった。
スピルバーグはすごい。
しっかり人間ドラマになっていて、感動した。

隣に座っていた中年っぽい男の人も涙腺が刺激されていたようで
万人の心に迫る名作なんだろうなと
あらためて思った。

そういえば、E.T. がテレビをつけて
チャンネルを変えていたら
なんとJ・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の
『静かなる男』がやっていて、モーリン・オハラとウェインが
嵐の中、小屋に駆け込むシーンが映っていた。
なんだかすごく嬉しかった。
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