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No269「檸檬のころ」~初恋の切なさと酸っぱさ~

高校のころ、
休み時間、教室の窓辺で、カーテンをひいた向こうに隠れ、
空を眺めるのが好きだった。
教室とは、薄いカーテン1枚で隔てられ、
自分と空と風だけの空間。
この映画にも、そんなシーンが出てくる。
誰もいない教室、
ロックの大好きな恵が、一人、
机と椅子ごと、カーテンの影に隠れて、
ウォークマンを聞きながら、
自分の世界に浸っている。

高校3年生。
自分に自信がもてなくて、
自己嫌悪ばかりしながら、
あっちへ行ってはぶつかり、こっちにもどってはぶつかり、
でも、どこかまっすぐで一途だった、あの頃。

これは、高校3年生の少女、少年たちの
卒業までの淡いひとときを綴った物語。
音楽ライターを目指す恵は、
クラスのイケメン、軽音部の辻本と音楽の話をしたのをきっかけに、
恋心に揺れ始める。
野球部の佐々木は、学校一の美人、加代子に告白。
ささやかなつきあいが始まる。

恵を演じる谷村美月が、愛らしく、魅力的。
細長い手足と大きな瞳から、
一生懸命、背伸びしようとする思いが、あふれだす。
学祭で、辻本の舞台を見ようと、
全速で駆け抜ける姿のなんとすてきなこと。

成績もよく、何でもこなす加代子に、どこか距離を感じている佐々木。
不器用なりに、誠実に思いを伝えようとする真摯さが、伝わる。
大きな身体に、口に出せない思いをいっぱいため込んでいる、
柄本佑(柄本明の息子さん)の朴訥な感じがいい。

校庭の屋上にはえた草、
青い空、うろこ雲、
運動場にできる人の影、
新人、岩田ユキ監督のつくりだす世界には
どこか気持ちよい風が吹いている。
高校の頃の、複雑な、もやもやした感情を、
柔らかい光に包んで、
そっとさしだしてくれる感じだ。

ラストは、列車から見た、遠ざかる線路の風景。
切なさと優しさと爽やかさに満ちた、心地よい世界。
岩田監督の独自な感性が印象的。
次作も期待したい。

満足度 ★★★★(星5個で満点)
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