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No133「歌行灯」1943年成瀬巳喜男監督(成瀬特集その2)

能のお好きな人にお薦めしたい1本。昭和18年。

能の名流、恩地源三郎と養子の喜多八(花柳章太郎)、鼓打ちの叔父が伊勢を訪れる。
喜多八は、若気の過ちで、ある老人を死に追いやってしまう。
勘当を申し渡され、謡を口にすることも禁じられた喜多八。流しの三味線弾きとなって、流浪の旅を続ける。
老人の娘お袖(山田五十鈴)が、芸者になったものの、芸事ができずに困っているのを不憫に思い、養父との誓いを破って、「松風」の仕舞いを教える。
人里離れた松林の木洩れ日の中で、舞いを習うお袖。

その仕舞いを、桑名を訪れた源三郎と叔父が、偶然、目にすることになる。
行灯に照らされた中で踊る、山田五十鈴のすらりと伸びた背筋。
前にまっすぐ突き出された腕。
凛とした表情の、なんとたおやかで美しいこと。
喜多八の辛苦や償いの気持ち、お袖の不幸とけなげな気持ち、全てが凝縮する名場面。
山田五十鈴の無垢で純粋なお鈴だからこそ、喜多八の思いを体現できた。
冒頭で、長々と能舞台が映し出された意味が、そのときわかるし、
行灯の柔らかい光は、木洩れ日の中で練習を重ねた姿を彷彿とさせ、限りなく美しい。

二人の老人、この舞いを見て、はっとする。
喜多八のほうも、偶然、同じ桑名の居酒屋にいて、
聞き覚えのある鼓が、遠くからぽんと聞こえてきた瞬間、はっと顔を上げる。
あの鼓の音は・・・。
3年の月日を経ての再会。
障子を開け放った窓からは、満月が静かに見守っている。

全編を通じて、照明がすばらしく、居酒屋のとっくりが白く浮かび上がる。
源三郎と叔父と、老人二人のかけあいも、ユーモアがあって楽しい。
成瀬監督ファンでなくとも、見逃せない一本。

満足度 ★★★★★★★★(星10個で満点)
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