映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
No1396『64ロクヨン』(前編/後編)~14年の歳月の重み~
和64年は、昭和天皇崩御により7日間しかなかった。
その間に起きた少女誘拐殺人事件は、皇室報道のため、
マスコミにも大きくとりあげられることもなく、
ロクヨンと呼ばれ、未解決のまま、時効まであと1年を迎えた平成14年の物語。
瀬々敬久監督、佐藤浩一主演の骨太なサスペンス。
犠牲となった少女の父は昭和64年に置き去りにされたまま。
三浦友和演じる捜査課長が
「犯人を昭和に引きずり戻すんだ」と叫ぶ。
14年間という長い歳月の重みが、後編になってさらに重みをもって迫ってくる。
映画の最後には、捜査関係者にとっても、犯人にとっても、
昭和は終わっていなかった。。。とわかる。
県警警務部広報官の三上(佐藤浩一)は、
東京から来た上昇志向のキャリアの警務部長の命令に逆らえない。
記者クラブとの対立、
かつて自分も所属していた刑事部との対立、
組織の中で生きるサラリーマンの宿命みたいに、
幾つもの板挟みになり、苦悩する中、
広報室の部下達からの厚い信頼が救いとなる。
こんなきつい立場になったことはないが、
会社勤めの人間としては、思わず見入ってしまう。
警察組織の中で生きる三上の奮闘ぶりを描きながらも、
映画は、家族の苦悩を掘り下げる。
我が子が見つからない親の苦しみ、悲しみが心をえぐるように伝わり、
三上が必死になるのも、自身の娘への深い思いがあってこそとわかる。
俳優たちの熱演に胸が熱くなる。
土砂降りの雨、
電話ボックス。
被害者雨宮の漬物工場をやっている家。
群馬県の荒涼とした冷たい空気が伝わる。
少し脱線するが、
たまたま、古い新聞記事の切り抜きの中から、
相米慎二監督が書かれた「私の栄養映画」というシリーズに、
「建物の“息”が映画を豊かに」という記事が出てきたので、抜粋して紹介したい。
「私には家がない」という一文から始まり、
中3まで過ごした釧路のおじさんの家が、数年前訪ねたら更地になっていたこと、
家とか家族とかいうものに対して興味がなかったこと、
今まで撮ってきた映画は子供の映画ばかりで、家や家族を、歴史を感じさせるようなものとして写す必要がなかったことが
語られる。
「だが、『お引越し』ぐらいからは、ちょっと様子が違ってきた。
『夏の庭』のジジイの家が、ジジイがそれまで過ごしたある時間を吸収した家であるように、
“家=ある人の住む空間”としての役割が大きくなってきたのだ。
人がそこでほんとに生きて生活をしていると、
人間の関係が崩壊するときに家まで崩壊していくというふうに、
映画の中の家の存在が変化していった。
そして、『あ、春』という映画の撮影中、私は珍しい体験をした。
ここに登場する家は、昭和の初めに建てられ、今も東京・荻窪に現存する瀟洒な一軒家だ。
家族というのは、それぞれ独特の家の形と同時にあるものだと思えているとき、
その家は、家も人だというぐらいの迫力で迫りくるのだ。
すると、不思議と映画がふっくらする。
つまり、建物の息が映っていることは、映画の豊かさであり、命みたいなものでもあったのだ。
そう思ってみると、家自体が息づいているような映画を随分観てないな、という気がした」
『ロクヨン』を観て、印象に残ったのは、被害者宅の雨宮の家だ。
冒頭の、機械が規則的な音をたてて動き、人が働いているのと打って変わって、
娘を殺され、妻も病死した後、
一人残ったがらんとした家に、永瀬正敏演じる雨宮が悄然として
たたずんでいる。
生気を失った家のひっそりした冷たさが伝わる。
雨宮の家もまた、もう一人の登場人物であったかのように存在感があり、
観客を映画の世界に引きずり込むように撮られていたと思う。
もう一軒、心に残った家がある。
加害者の匿名化をめぐって、報道ともめた交通事故の
被害者の老人が一人で住んでいた古い木造の一軒家。
がらんとして、誰も住んでいない家を、佐藤浩一が見に行くシーンがある。
小さなエピソードにすぎないが、なぜか心に残った。
平凡にささやかに生きていた主を失った家の虚ろさ。
実は、私はこの映画の前編は、2016年春に、映画館で観ている。
すぐ後編を観るつもりが、観逃してしまい、
今回、やっとネットテレビで観ることができた。
前編を観たら、後編を観ずにはいられないおもしろさで、
どうして後編を見逃がしてしまったのだろうと不思議でならない。
記者との対立がひっかかったのだろうか。
後編こそ観てほしいと思った。
ラストの小田和正の歌もいい。声は年をとっても変わらない。
最後に相米慎二監督の記事の写真を参考に掲載させていただきます。
(いつのものか、新聞名も不明ですみません💦)
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