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No1137『ゼロ・グラビティ』~無線で交信する声と声~

冒頭から、無線のジジジという音とともに、声が聞こえてくる。
隣の方の人の携帯かと勘違いしそうなくらい小さくて、
画面の左の端の方から…、
続いて、右の方から、応答する声が聞こえる。

青い地球をバックに、漆黒の宇宙空間を舞台に映画は始まる。
無線で会話する声と声。
宇宙飛行士同士も無線で話すし、
地上のヒューストン基地との交信も絶え間ない。
地上の声はエド・ハリスで、いい声。

主演二人のうち、ベテラン飛行士マットを演じるジョージ・クルーニーも、
ずっと宇宙服を着ているので、ヘルメットの下で、表情はわからず声を堪能する。
この人の声は、あたたかくユーモアがあって楽しい。

宇宙空間に人がふわりと浮いているのを、
カメラが360度くるりと回って撮る。
人だけでなく、カメラもずっと無重力で浮いているようで、
この浮遊感のリアルさに驚いた。

宇宙空間だから、「ただよう」映画かと思いきや、
平和なのは、最初だけで、
どこからか、いきなり、
すごいスピードでいろんな物がとんできて、
ぶつかったり、
よけたり、
振り回される。

これでもか、というくらいに、次々とふりかかる難題。
そのたびに、サンドラ・ブロック演じるライアン博士は、
焦ったり、慌てたり。
そんな彼女に落ち着くよう言い聞かせ、
おしゃべりして、不安や恐怖をのぞこうとするマット飛行士の優しさと賢さ。

ライアンも、ひとりごとが多くなる。
自分で自分に落ち着くように言ったり、
パニックになりがちな自分を必死でコントロールする。
宇宙船にもちゃんとマニュアルがあったり、
(最後に頼りになるのは電子データでなく紙の本でした)
いろいろリアルで、おもしろい。

91分とは思えないくらい長く感じた。いい意味で。
ライアンの感覚を追体験しているからか、
いっしょに
長い旅、冒険をしていた感じ。

ただ、思ったほど疲れたり、息苦しくはならなかった。
ライアンの主観ショットも幾度かあったが、
窒息しそうになったりもせず、安心して観れた。

3Dで観たのが、2Dでも案外十分かと思う。
原題は『Gravity』。
邦題であえて「ゼロ」を加えて、無重力としたのは、映画会社のご英断。
公式サイトをみたら、予告編も、衝突篇、漂流篇、絶望篇といくつもあって、
広告にも力が入っている。

昨日、『パリ、ただよう花』という中国のロウ・イエ監督の映画を観た。
英語のタイトルは、『Love and Bruises』(愛と傷)というだけあって、痛い。

主人公の中国人留学生のホアが、
建設工事現場で働く青年と出会い、恋に落ちる。
パリの街の感じとかはいいのだけれど、
自分の身体を賭けの対象にするような男は
別れちゃえばいいのにと思ったり、
それでも別れられないのが男女の愛、というのもわかるけれど、
ホアの感じているものが、いまひとつ、つかみどころがなくて、
身に迫ってくるものがなかった。
女優さんの表情はすてきなのだが、
ひっかかるのは脚本か。
やたら性描写が多すぎて、大人の映画すぎるのか、
ちょっと正直ついていけなかった。

それで、今日は「ただよう」ついでに、
宇宙空間を漂よってみよう、と思って、
この映画を選んだのだけれど、
思い切り、いろんな物にぶんなぐられて、
宇宙空間に放り出された感じでした。

  

~ココからはネタバレしてますので、映画をご覧になった方だけお読み下さい。~

 

終わり方はやっぱりいい。
生きた、生きてたというのを実感できる。
まさに「地面」、「大地」の砂を握りしめるのがいい。
腕に力を入れようとして、入らないことに
苦笑いする表情が、なんともすてき。

映画の途中で、
ジョージ・クルーニー(マット飛行士)がいきなり飛び込んできた時、
私は、
「なんだ、助かったんだ。よかった、よかった」と本気で思った。
ジョージ・クルーニーの白髪まじりの頭がいい感じで、
ほっとして、安心して観ていた


と思いきやである…。

でも、マット飛行士の知恵を借り、
「あきらめるな」「必ず生還しろ」という彼の言葉に力を得て、
ライアンが、
運命を切り開いていく底力が、リアルに伝わった。
マット飛行士の魂もいっしょに地球に帰還できたようで、
あの地上からの無線の声といい、
よくできた脚本でした。
地上に帰ってきて、ああ、生きてるって、
観客も実感できるような映画。

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