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No1053『マルタ』~これって愛?~

『マルタ』のラストショットに、
なんて残酷な終わり方をするんだと怒りながらも、
そのインパクトに、だたもう絶句。
マルタの息苦しさがずっと心にひっかかったまま。
少しでも救出すべく、やっぱり、何か書いておきたい。

ドイツのファスビンダー監督の1975年の作品。
ローマのホテルで、窓から空をとらえたファーストシーン。
カメラは横にパンしつつ、徐々に中にひいてゆき、
空は窓枠の間に狭められていく。

明るい箱入り娘だったマルタが、
運命的な出会い、
二人がすれちがうシーンで、カメラが二人の周りを360度ぐるりと回る。
幸せへの扉と思いきや、
結婚生活が始まるなり、夫は、妻の意向をまるでいとわず、
次々に勝手にひとりで物事を決めていき、小言のひとつも許さない。
ただひたすら寡黙に従うことを強い、
挙句の果てに、
マルタに、家から一歩も出るなと命じる。
愛するあまり、僕のために存在していてほしい、とでもいわんばかり。

マルタは必死で夫にあわせる。なんとけなげなこと。
しかし、張りつめた神経は、どんどん追い詰められて、ぼろぼろになっていく。
せめての救いは、夫の嫌いな煙草だけ。
好きな音楽を聴いていれば、夫は、こんなものは音楽ではないと怒鳴りちらし、
自分がプレゼントに買ってきた讃美歌のレコードをおしつける。
音楽の自由まで奪われては、たまらない。
ただもう痛々しくて観ていられなかった。

マルタは、もともと、結婚前から、神経質で、落ち着きがなく、わがままになりがち。
とはいえ、憎めないタイプで、
図書館で働いていた頃、
新任の青年を案内がてら、早口言葉を教え、笑いあうシーンがある。
屈託のない笑顔がよかった。
彼女の精神の破壊は、笑顔を失っていくことからも決定的。

交通事故で意識を取り戻したマルタが、医者から半身不随と告げられ、
落ちこむのではなく、むしろ、満面の笑みを浮かべて、
「ああ、でも、手は動くのだから、手だけでできる仕事につけばいいわ、なんとかなる」と
一人にこやかに喜んでいると、
医者が
君の夫は献身的な看護をしていて、もうすぐ迎えに来るよと付け加える。
その途端、いきなり崖から突き落とされたように、暗い表情へと変わるマルタ。

自分らしく生きる自由を奪われたマルタが、
最後、車いすに乗って、退院する。
夫が迎えに来て、夫とともにエレベータに乗る。
二人きりで、エレベータの箱に入り、二人が並ぶ正面カット。
沈黙する二人を、エレベータの扉が静かに閉じて
二人は、われわれの視界からみえなくなっていく。
この終わり方がなんともすごいと思った。

まさに閉ざされた空間に、閉じ込められていくマルタの悲劇。
最後のショットまで、がんじがらめになったままで、救いようがない。

かりかりして、ヒステリックなマルタの姿は、
観ている時は、ちょっといらいらした。
金髪の美男子の夫も、人間としては、許しがたい奴。

それでも、この、ぎりぎりと追い詰められていく緊張感、
ホラーとはいわないけれど、
針でつつかれているような、ひりひりする感覚が、肌にまとわりついて離れない。

こんな夫の愛を、愛といえるのだろうか。
答えはもちろん、NO。
なんとも怖い作品でした。
土曜日、やっとのことで、京都みなみ会館での観ることができた。

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