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No975-3『かぞくのくに』ヤン監督と井浦新さんのトーク~おおさかシネマフェス~

3月3日、日曜日の、おおさかシネマフェスティバルで
『かぞくのくに』の上映後、
ヤン・ヨンヒ監督と俳優の井浦新さんとのトークが
浜村淳さんの司会で行われましたので、ご紹介します。

『かぞくのくに』
1970年代の「帰国事業」で十代の時に北朝鮮にわたったままの兄ソンホ(井浦新)。
25年ぶりに、両親や妹のリエ(安藤サクラ)ら家族がいる日本に一時帰ってくる。
病気治療という目的で3か月の滞在予定が、
わずか1週間程で、いきなり、明日帰国するよう命じる国家。
去っていく兄と何も言えず見送る妹。
ヤン・ヨンヒ監督自身、大阪市生野区生まれの在日コリアン2世。
ドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』と
北朝鮮籍の在日朝鮮人の苦難を描いてきた。
本作は初めての劇映画で、監督自身の実体験を基にしたフィクション。

(以下いずれも敬称略)

浜村:井浦さんは、北朝鮮からの一時帰国者ということで、ほとんどしゃべらず、「静」の役柄でやりにくくなかったですか?

井浦:背負うものもすごく大きい役で大変でしたが、もともと「動」の芝居ができる方ではありません。今まで十数年かけていろんな映画現場に行って、「静」と「動」とを行ったり来たりする中で、久しぶりにめぐってきた「静」の役柄でした。自分の原点に回帰するような気持ちでやりました。

ヤン:ソンホは、母からの仕送りをもらい、北朝鮮の現地の人たちよりはまだ恵まれた生活をしていたと思います。それでもひどく過酷な状況の中で、何度も(精神的に)コワれて、でも、コワれるには賢くてコワれることができない。
背が低くてやせているという従来のイメージにしたくありませんでした。というのも、ソンホは、母親の「愛情の結晶」だからです。背も高く、どこから来たのかわからないような不思議な雰囲気を持った人にお願いしたいと、シナリオを書いている時から考えていました。

井浦:監督が僕に会って話したいと最初に聞いてとても嬉しかったです。その前に手紙ももらい、思いをぶつけてもらったのがうれしくて、脚本を読む前から一緒にやりたいと思っていました。脚本を読んでいても、途中からはセリフを読むつもりで読んでいました。

浜村:ヤン同志を演じたヤン・イクチュン(俳優・監督『息もできない』)からは、撮影中も監視されていたのですか(笑)?

井浦:ヤンさんは、(劇中の)ヤン同志の人間性とは真逆です。場を盛り上げるムードメーカーで、真剣なシーンでも笑い声で皆を盛り上げてくれたり、細かい気配りをされる人でした。

ヤン:すごく繊細で、こまやかな気遣いのできる人です。

浜村:妹のリエが、家の前で監視しているヤン同志に向かって
「あの国も、あの人も、大嫌い」と言うと、ヤン同志が「でも、僕もあなたのお兄さんもあの国で生きているのです」と答えるシーンは印象に残りました。

ヤン:そこまでが一つのセットなんです。予告とかでは、最初の「嫌い」というセリフだけがとりあげらていますが、「でも、家族が住んでる」までが一つの流れなんです。そこに家族がいるし、どうしたらいいのか?十年以上、私が考えてきたことです。
役者さんにはシナリオに書かれていないほかの話ばかりしていました。子どもの頃の遊びとか、兄に手紙を書いたこととか、兄との思い出も。
このシーンでも、リエの心の動きだけを説明して、あとは、どう演じるかは、役者さんに任せました。演出はせず、自由にやってもらいました。

井浦:演出してないってことはないです。監督が、現場でぼくたちのことを信頼してくれているのをすごく感じました。
監督から、お兄さんとの思い出や、脚本に描かれていないいろいろな話を聞いて、それらが、経験として、僕の中に(すとんと)おちてきました。僕の頭の中に、家族との物語ができて、役者同士の距離感もみえてきたんです。
リエを演じる安藤サクラさんは、本番になるまで何をしてくるかわからない人です。台本の世界から気持ちがあふれてきて、二人で、その気持ちをとびこえ過ぎず、おさまり過ぎず、どう表していけるのか。何度もテストを重ねて、最後に本番テストをやって、それから一旦、全部取り払って、本番にのぞみました。毎回実験という感じでした。

ヤン:まず最初に台本どおりやってもらって、次に台本を無視してやってもらったりと、皆が意見を出し合って、いろいろ試して手探りでつくっていきました。役者さんは大変だったと思いますが、そういう現場は少ないので、やりがいを感じたとも言ってくださいました。
私自身、演劇ですが役者をやったことがあり、視線の方向とか、いろいろ指図を受けると、その段取りを守ろうとして、感情の動きが切れてしまいます。だから、今回、あまりそういう決め事をつくりたくなくて、自由にやってもらいました。あとは、編集で、残酷ですが、切ってしまえばいいかなと思っていました。監督が決めてくれないとできないという役者もいるでしょうが、この役者さんたちならできますし、制限するのがもったいないと思いました。

浜村:安藤サクラさんは、「動」の役柄で、表情がくるくる変わっていました。演技は細かく指示されたのですか?

ヤン:途中から現場に何かおりてきているような気がしました。
私には兄が3人いて、3人とも帰還事業で北朝鮮に渡りました。長兄は、もう亡くなりましたが、ソンホほど優しくなくて、シニカルな人でした。二番目の兄は、オープンなタイプ。脚本を書いているうちに、ソンホは3人あわせたタイプになっていきました。
リエは、私の分身のような役柄で、そのとき私が隠していた感情が出てしまっています。
私の家族は、お互いに感情をみせあわず、親も本音を言いませんでした。最近でこそ、母があのときはこうやった、でも、そんなこと日本人の前で言ったらあかん、とぼそぼそと言います。
ドキュメンタリー映画を撮っていた時は、そのとき表面に現れた家族の表情しかカメラは撮ることができません。心の奥におし隠している、奥底の表情は撮ることができません。
でも、劇映画の本作では、家族の口にカメラを突っ込んで、「腹の底」を撮っているような気がしました。しかも、私の家族に会ったこともない役者さんたちが演じているというのは、すごいことです。撮影現場で、私の方が圧倒されて、自分の「感情の絵日記」をみせられているようでした。撮影中も、かってに水が流れている感じで涙があふれ、「カット、OK」が言えないことがありました。
役者さんに何も注文していないのに、なんで「あのときの兄と同じ表情」をしているのかと思ったりしました。

井浦:撮影現場で、監督がサクラさんに「さっきのあの表情、感情の出し方は、実際にあったことだけれど、その時、私はそうできなかったことを、今の(役者さんの)お芝居を観て、思い出した」と話されていました。

浜村:今も監督のお兄さんが北朝鮮にいらっしゃいますし、かの国を刺激するのでは、という心配はありませんでしたか?

ヤン:1本の映画にそんなに力があるとは思っていませんでした。
私は、北には入国することができず、禁じられていますし、謝罪文を書くようにも言われました。でも、表現は自由であるべきで、政府や政治団体がとやかく言うのはおかしいと思っています。体制には従いたくない。
兄たちが心配で心配でたまらない一方で、つくりたいというエゴが強くあって、結局、ものづくりをしたいというエゴの方が勝ってしまったんですね。
ドキュメンタリー映画をつくっている10数年の間、ずっと悩んでいて、お酒ばかり飲んでいました。自問自答した挙句、もう悩んでいるひまはないと思いました。この15年余りの月日があったからこそ、つくれた映画だと思います。多くの人に見てもらえる作品になれば、逆に、自分の家族を守れるのではないかと思い、あえて、政府の問題児となってもいい覚悟で、いろんなインタビューも積極的に受け、しゃべったりしています。
実際、この映画を公開してみて、こんなことはいっぱいあると聞きました。今までで北朝鮮からの一時帰国者は数十人いるのですが、監視人が2か月も家に一緒に泊まっていたという話も聞いたり、映画がやりすぎてはいないことを知って、安心しました。
家族が北にいる人こそ本当は一番よく知っている話です。でも、家族が北に住んでいるために、しゃべれないでいる。私たちの世代からは、もう正直に話してもいいのではないかと思っています。

浜村:映画を撮りたいという監督の魂が凝縮したような映画ですね。

トークの内容は以上です。 
お話を聞いて、
ヤン監督の作品にこめた思いと、演じる側の新さんたち俳優の思いとが、みごとに溶け合い、
手を携えて、つくりあげて、生まれたのが、この『かぞくのくに』という映画なのだと実感しました。

トークの後に行われた表彰式では、
26歳の新人女優賞の宮嶋麻衣さんから、
74歳で新人男優賞の五十嵐信次郎(ミッキー・カーチス)『ロボジー』
高橋恵子さん、松原智恵子さんと女優生活何十年のベテラン女優、
30歳代の女性監督、西川美和さん、
32歳位で映画を始め、初長編の『カミハテ商店』で新人監督賞をもらった46歳の山本起也監督が
撮影中の現場からとんできて、Gパンにシャツと一番若々しい姿だったり、
年代もさまざま。
それぞれに生き生きと活躍されている姿をみて、年齢に関係ないんだなあとあらためて感じ、元気をもらった。

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